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第122話 近接、滅裂

───NF東部軍事基地から見える外の景色は、既に日も暮れ夕日が沈もうとしていた。

甲斐斗もまた神楽の部屋で沈む夕日を見つめ、視線を別々のベッドで寝ているアビアとミシェルに戻す。

二人とも朝から気を失ったまま目を覚ます事はなく静かに寝息をたてながら眠っている。

(今日は起きそうにねえな……)

神楽と話しが終わった後、甲斐斗は一人部屋に戻りもう何時間も二人の様子を見守っていた。

その間、自分やこの世界について深く考えていたが中々結論が出ず、結局心はスッキリしていない。

(この世界では魔力が回復しない。アビアはたしかにそう言ったが、アビア自身は平然と魔法を使っている……それだけアビアに魔力が有ると言う事なのか?いや、その前に何故この世界では魔力が回復しないのかがわからねえ。100年前、この世界にいた時はそんな事はなかった……考えられる可能性は今の所一つ、アビアの言っていた神の仕業だが……)

二人の寝ているベッドの間に置いてある椅子に座りまた深く考え始める甲斐斗、すると右隣に寝ていたアビアがふと目蓋を開きゆっくりと体を起こした。

寝起きのせいかぼーっとした緩い表情のアビアに、甲斐斗は顔を向けると挨拶代わりに軽く手をあげた。

「おおっ、目を覚ましたか。突然気を失ったからびっくりしたぞ、体は大丈夫か?」

とりあえずアビアが目を覚まして良かった、これならミシェルが起きるのも時間の問題だろうと思い甲斐斗がほっと安心していると、アビアはゆっくりと甲斐斗の方に顔を向けた。

「ねえ」

アビアがいつもの笑みは見せない、ゆったりとした表情でじっと甲斐斗を見つめており、甲斐斗もまたそんなアビアに少しばかり緊張しながら次の言葉を待った。

「甲斐斗ってどーてー?」

最初、甲斐斗はアビアが何を言ってきたのかがわからなかった。

言葉の意味が分からないというより、何故気絶して目が覚めた第一声がそれなのかが理解できない。

「前にさぁ、キスしたよね……すごい下手だったもーん」

「お前頭大丈夫か?もう少し寝てたほうがいいぞ」

構わず話しを続けようとするアビアに甲斐斗は頭を指差し首を傾げた後、無理やりアビアを寝かせようと椅子から立ち上がり起き上がっていたアビアの肩に手を伸ばすと、アビアは強引に甲斐斗の腕を引っ張り自分のベッドに引き込んだ。

「おいおいおい、突然どうしたんだよ!寝ぼけてるのか!?」

直ぐにアビアを振り払おうとしたがアビアの力は人間の力を軽く超えており、急いでベッドから出ようとするが全く歯がたたずそのまま馬乗りにされベッドに寝かされてしまう。

するとアビアが右手から魔法で作った青白いナイフを作り出すと、甲斐斗の右手と左手に突き刺した。

「ぐっ!?」

突き刺された甲斐斗の両手に痛みが走る、血は出ていないもののナイフは両手を貫通しベッドにまで突き刺されており、幾ら力を入れても動かす事が出来ず両手を開いた状態で固定されてしまう。

(こいつ、本気じゃねえか───ッ!)

魔法を使われ動きを拘束された。甲斐斗は急いで剣を出そうとしたが、両手にはナイフが突き刺さっており剣を出す事さえ出来ない。

幾ら足掻いても無駄……甲斐斗はふと冷静になり暴れるのを止めると、自分の下腹部に馬乗りになっているアビアに視線を向けた。

「で、なんだ。これから俺を嬲り殺すつもりか?お前の目的が全くわからん」

心配して側にいたにも関わらずまさか起きるや否や両手をナイフで突き刺され動きを封じられるなど思ってもいなかった甲斐斗に対し、アビアは相変わらず毎ペースで話し始める。

「甲斐斗はアビアの事どーおもう?」

「……こんな事しておいてどう思うって聞かれて良い返事が返ってくると思うか?」

自分よりもアホな奴は久々見た気がする。そう思い呆れた様子で甲斐斗がアビアを見つめていると、アビアは自分の着ている洋服を脱ぎ始めた。

「なんで脱ぎ始めるんだよ!お前……俺の記憶を見てからちょっとおかしいんじゃねえか……?」

明らかにアビアの様子がおかしい。いつも変だが今のアビアは以前とは何かが違う。

「アビアって、魅力ない?」

アビアは上半身に下着を一枚だけ残しそう問いかける。

両手で掴んでも収まらないだろう胸の膨らみ、傷一つ無い綺麗な素肌、腰の括れもはっきりと分かるアビアの体は先程の甲斐斗に振るった力とは裏腹にとても細く綺麗な形をしていた。

その姿はとても女の子らしく、甲斐斗はアビアから視線を逸らすとその問いに答え始める。

「お前は可愛くて美人だと思うよ、魅力が無いわけないだろ」

言葉に嘘はない。普通に見ていればアビアはどこにでもいる可愛らしい女の子。

だからこそ甲斐斗も下着姿のアビアから視線を逸らし極力体を見ないようにしている。

しかしその行為は、逆にアビアの感情を逆なでする結果となった。

「じゃあどうしてアビアに冷たいの?」

「冷たい?俺がか?」

アビアの魅力の有無で何故そんな事を聞くのかわからないが、甲斐斗はふとアビアとの関わりを思い出していく。

「別に冷たく接した事なんて……」

「甲斐斗はアビアが嫌いなの?」

甲斐斗の言葉を最後まで聞かずにまた問いかけてくる。

「別に嫌いじゃないって、ミシェルを守ってくれたり俺の知らない情報をくれたりして……」

「どーしてそうなの?」

少し苛立っているかのようなアビアの言い方、平然としていた甲斐斗も少し不満そうな表情をすると強い口調で答えた。

「何がだ?」

「どーして、甲斐斗はアビアを一人の女性として見てくれないの?アビアは、こんなにも甲斐斗の事が好きなのに……」

そう言って上半身に着ていた最後の一枚を脱ぐと、ゆっくりと前のめりに倒れ甲斐斗と顔を近づけてくる

「あ、あのなぁ……お前は俺の力に興味があるだけだろーが。いきなりそんな事言われてもな……」

直ぐに胸に柔らかい弾力が伝わってくる、動揺してしまう甲斐斗はとにかくアビアを見ないように顔を横に向けたままそう言うと、アビアは吐息を甲斐斗の耳に吹きかけ囁いた。

「ね、しようよ」

甘い香りを漂わせアビアはそう囁くと、そっと甲斐斗の首筋を舌先でなぞりはじめる。

ゾクゾクと全身に痺れが走るような感覚、擽るように舌先を動かし首筋を舐めてくるアビアの柔らかい舌の感触に、甲斐斗はとにかく止めさせようと頭を動かし前を向いて口を開いた。

「お、おいアビアっ!?お前何してっ、いいから落ちつ───」

黙らせるようにアビアは甲斐斗の唇に自分の唇を重ねてくる、柔らかく心地良かった舌が今度は強引に甲斐斗の口に入ってきていた。

これ以上は洒落にならない。そう思い甲斐斗は全力で抵抗しようと両手に力を入れるが、両手のナイフはビクともせず、自分の舌と絡めてくるアビアの舌に混乱と動揺で頭の中が真っ白になっていた。

するとアビアはふと甲斐斗から口を離していくと、舌先から透明な粘膜が甲斐斗の舌と糸を引いており、自分とキスをしてくれた甲斐斗を見つめながら嬉しそうに囁いた。

「やっぱりぃ、甲斐斗ってキスの経験無いんだね。でも良かった……甲斐斗、アビアのこと嫌いじゃないんだぁ」

安心したかのようにアビアは微笑む、もし本当に甲斐斗がアビアを嫌っているのなら舌を入れた所で噛まれていてもおかしくない。

しかし甲斐斗は両手に力を入れ抵抗を試みたが、直接アビアとのキスには口を閉じる等の抵抗はしなかった。

「いーっぱい……気持ち良くなろうね」

甲斐斗とのキスに満足感に浸るアビア、目尻が下がり頬を微かに赤らめるとゆっくりと右手を伸ばし甲斐斗の履いているズボンに触れた。

その瞬間、隣のベッドで寝ていたミシェルがふと起き上がった。

眠たそうに目元を擦りながらミシェルはふらふらと辺りを見渡した後、隣のベッドで寝ている甲斐斗と、その甲斐斗の上に乗っているアビアの方を向き固まってしまう。

「かいと……?」

「ミ、ミシェル。気がついたか……」

戸惑いが隠せないミシェルに甲斐斗もまた動揺したまま名を呼ぶ。するとアビアは横目でミシェルを見た後左手から青白いナイフを生み出しその刃先をミシェルに向けた。

「邪魔したら殺すからねー」

「止めろアビア!ミシェルには手を出すなッ……!いいかミシェル、お前も何もするな……」

今のアビアなら殺しかねない。助けを求めたいのは山々だがミシェルに危険な目に遭わせる訳にもいかない。

しかし甲斐斗を見ていたミシェルは少し怯えながらも首を横に振ると、アビアを見つめながら話しかけた。

「だ、だめだよアビアちゃんっ……かいと、いやがってる……」

その言葉に甲斐斗はふと気がついた。ミシェルがアビアの名前を『ちゃん』を付けて呼んでいる、ふと思い返せば気を失う寸前もミシェルはたしかにアビアの事を『ちゃん』付けで呼んでいた。

あの時見せられた記憶、過去を思い返せば理解できる、もしかすればミシェルとアビアは元々友達同士だたのではないのか、と。

(あの時過去の記憶を見ていたのは俺だけじゃなく、もしかすればミシェルも俺の記憶や過去の映像を見て何かを思い出したのかもしれねえ……)

「嫌がってる?……甲斐斗が、アビアとするのを……?」

ミシェルの言葉に反応したのは甲斐斗だけではない、アビアはミシェルが言った言葉がまるで自分が甲斐斗に嫌われ拒否されているかのように聞こえ、ナイフを強く握り締めながらミシェルを睨みつけていく。

「ばーか、そんなことないもんね。甲斐斗はアビアのこと大好きだもん。ね、甲斐斗」

そう言って左手のナイフを甲斐斗に向け首を傾げるアビアに、甲斐斗はこれ以上刺激を与えないように黙って頷こうとした時、ミシェルはベッドから下りると突然ナイフを持ったアビアの左手を掴んだ。

「かいとを、いじめないでっ……!」

その時、ミシェルの額に光り輝く陣が浮かびあがると、アビアの左手に持っていたナイフは掻き消され、甲斐斗の両手を固定していた青白いナイフも同時に消えていく。

「っ!?」

自分の魔法が掻き消され一瞬動揺してしまうアビアの隙を、甲斐斗は見逃さない。

直ぐに自分に乗っていたアビアを押し倒すと、右手を強引に捻り抵抗できないように力強く押さえ込む。

アビアに先程までの力は無く、それこそまるで一人の女性程のか弱い力でしか抵抗が出来ず、甲斐斗はミシェルに持ってこさせた自分が元々付けられていた手錠でアビアの両手と両脚を封じた。

アビアは必死にもがくが手錠が外れる事も無く、どんなに念じても自分が作り出せるはずのナイフは出てこない。

「へ~、これが……」

手足を拘束されベッドに寝かされるアビアはふとミシェルを見ると、ミシェルはゆっくりと頷き何かを悟ったような表情を浮かべていた。

「『絶対名:制約』の力……」

アビアがふと零した言葉、『絶対名』そしてその『制約』という言葉に甲斐斗もまたミシェルに顔を向けた。

「うん、だからアビアちゃんの『ふめつ』でも、わたしにはかてない……」

互いに見つめ続けるミシェルとアビア。

少しばかり逞しいミシェルの表情、しかしその横に立っていた甲斐斗は頭を掻きながらミシェルとアビアを交互に見た後、大きく溜め息を吐いてベッドに腰を下ろした。

「ミシェル、アビア。すまんが俺を置いてけぼりにしないでくれ、何の話をしているのか全くわからないんだが」

事の状況が把握出来ない。ミシェルとアビアが普通に会話していたが、会話の内容がさっぱり頭に入ってこない。

「ご、ごめんなさい。アビアちゃんも、ごめんね」

ミシェルは頭を下げ甲斐斗に謝ると、今度はアビアの方を向いて頭を下げた。

そしてベッドの横に落ちてあるアビアの衣服を手に取ると、それをアビアの曝け出した胸元に優しく置き、いつもの弱々しい表情をしたままミシェルは甲斐斗を見つめた。

「かいと、ゆるしてあげて……アビアちゃん、わるいひとじゃないの……」

そんなミシェルの言葉を聞いて甲斐斗は手錠の鍵の一つを手に取ると、アビアの両手に付けてある手錠を取り外した。

「分かってるよ、だが両脚は拘束させてもらったままにしておく。アビアも取り合えず服を着てくれ、そんな格好じゃお前を見て話せないからな」

そう言って甲斐斗はミシェルが寝ていたベッドに腰を下ろすとアビアから視線を逸らした。

少しばかり落ち着きを取り戻したアビアも、両手の手錠が外されても特に暴れたりもせず甲斐斗に言われた通り脱いだばかりの衣服を次々に着ていく。

「さてと、それじゃあそろそろいいか。アビア、そしてミシェル。二人はあの時何を見て、何を思い出したのか教えてくれ。分かる事は全て教えてくれ。俺も俺が見たものを全部話す、あとアビア」

アビアはすっかり元気を無くし俯いたままじーっと下ばかり見つめており、甲斐斗に呼ばれてやっと甲斐斗に視線を向けてくれた。

「んー?」

「お前にも話してもらいたいんだ、だからそんな不貞腐れないでくれ」

「やだー」

「おいおい……」

すっかり機嫌を損ねてしまい、アビアはまた視線を甲斐斗から逸らすとミシェルに構わず話し続ける。

「ねえ。『ユイ』って人、甲斐斗にとってどんな人だったの?」

突如出てきた一人の女性の名前、それは今この世界存在する『風霧唯』ではなく、過去に実在していた女性の事を差していた。

「いきなりなんだよ。それに何でお前がその名前を……やっぱりアビアもミシェルも色々と見たらしいな。まぁ今はそれより『絶対名』とその『制約』について……」

明らかに甲斐斗は話しをはぐらかそうとするが、アビアは更に質問を続けていく。

「甲斐斗とユイって、どんな関係なの?」

「……お前には関係無いだろ。それよりなぁ」

「いいじゃん話してもー、もう死んでるんでしょその人」

アビアが気だるそうに放った言葉は、一瞬でその場を凍らせる程に重たい空気へと変えた。

甲斐斗の……いや、この室内全体の雰囲気が明らかに変化した事にアビアやミシェルは気づいてしまう。

だが甲斐斗は落ち着いた表情のまま座っており、ゆっくり俯くと僅かに呟いた。

「お前に話す事は、何一つ無い」

「……ケチ、じゃーアビアも何も言わなーい」

そう言って甲斐斗を横目で見ていたアビアは大げさに顔を逸らすと、腕を組みながら目を瞑ってしまう。

「それで構わねえよ」

一瞬甲斐斗に殺されるのではないかとも思えたが、甲斐斗は特に怒る様子も見せず声のトーンが少し下がっただけで特に力を振るおうともしなかった。

「ねえ甲斐斗。どーしてアビアがこんなこと言ったか分かる?」

そんな事を言われても甲斐斗には全く検討がつかず、どうせまた悪ふざけで言っているのだろうと思っていた。

だからこそアビアの言ってきた言葉にムキにならず冷静に反応して次の話しに進もうとしたが、アビアは引き下がらずにまだこの話題について話し続けようとする。

「甲斐斗の記憶を少しだけ見たけど、その女性の事を好きだった思いがアビアには伝わってきたの、でもそれと同じくらい甲斐斗から不安と恐怖を感じた……もっと言えば、甲斐斗は出会ってきた異性全員にそれと似たような感情が生まれてるよね?さっきアビアがキスした時もそう。甲斐斗は嫌がってはないけど、何かを怖がってる。甲斐斗は何を恐れてるの?もしかして自分を否定してるの?甲斐斗は……」

「アビア、黙ってろ」

さすがにこれ以上黙って聞くことが出来ず、未だに冷静を装って止めようとした甲斐斗の言葉にアビアは首を傾げながら言葉を返した。

「だめだよ甲斐斗、逃げちゃだめだよ?」

逃げる。その一言で今の甲斐斗をキレさせるには十分な言葉だった。

「逃げてねえよッ!!っつーか、何だよ逃げるって……クソが、いい加減にしろよお前……」

アビアを睨みながら声を荒げた甲斐斗だったが、直ぐにまたアビアから視線を逸らすと片手で顔を覆い俯いてしまう。

甲斐斗は考えていた。アビアがどれだけ自分の中にある記憶、感情を見てしまったのかを。

明らかに甲斐斗の心を見透かした言い方に甲斐斗は苛立ちを抑えきれらず、恐らく次のアビアの一言で剣を抜き出す勢いだった。

しかし次に聞こえてきたアビアの言葉で、そんな苛立つ甲斐斗の気持ちは揺るぐものとなる。

「アビアは消えたりしないよ」

先程までとは違い暖かく優しい言い方に甲斐斗がふと顔を上げアビアの方を見ると、アビアは甲斐斗の方を向いて薄っすらと笑みを浮かべながら静かに語りはじめた。

「『絶対名』その名を持つ存在は、その名の通りの力を扱う事が出来る……どうやって得るのか、そもそも誰が持っているのか、どうしてそんなものが存在するのか……それはアビアにも分からないけどね」

『絶対名』それは以前、甲斐斗も耳にした事があった言葉だった。

この100年後の未来に来る前の話、甲斐斗が戦った相手に『絶対名』を持つ者がいたのだから。

「でもこれは覚えてる、アビアの絶対名は『不滅』。その名の通りアビアは絶対に消滅しない。魔力も減らないし体力も減らない、甲斐斗の事が好きっていう気持ちも絶対に消えない。だからずっと、ずーっと甲斐斗の側にいられる」

いつもは惚けて自分の事を話さないアビアが真面目に淡々と話しを進めていく、そして今度はミシェルの方に指を差すとミシェルの絶対名について説明を始めた。

「第1MGの絶対名は『制約』。あらゆる存在の魔法とか色々な力を制約できちゃう力、アビアが攻撃魔法を使えなくなったのはさっき直接触れられて制約されたからかなー」

アビアがそう言うとミシェルも小さく頷き話し始める。

「うん……むかしのきおくをみて、おもいだしたの。あと、わたしむかしはどこかおおきなおしろにいて、そこで……」

「アビア達と一緒に暮らしてたよね」

「うん」

暮らしていた。その言葉で甲斐斗もようやく確信できた。

やはりアビアとミシェルは遠い昔に既に出会っていたということ、そして二人は似たようの存在なのだと。

「という事はアビア、お前もMGなのか?」

「ううん、アビアはMGじゃないよ。そもそもMGはアビア達を守る為の存在だもん」

「お前達を?それなら、どうしてミシェルはMGなんだ?」

「そーれーはー」

もったいぶるように言葉を伸ばし甲斐斗を見つめながらアビアはビシッと腕を前に出し甲斐斗を指差した。

「分かんな~い!アビアの記憶も本来なら不滅だから残ってるはずなのに、なーんにも思い出せない!」

そこには、またいつもの可愛らしい笑みを浮かべるアビアが戻ってきていた。

結局の所アビアも完全に思い出した訳でもなく以前自分が何者で、どうやってこの力を得たのかが分からずじまいだった。

「でーも、アビア達がどうして絶対名を持っているか、その『目的』は思い出したよ~」

そう言ってアビアはミシェルに視線を向けるとニヤニヤと笑みを浮かべながら隣のベッドに座っている甲斐斗を手招きする。

甲斐斗は手招きされるままにアビアに近づくと、アビアは甲斐斗の耳元でその目的を囁いた。

「『絶対名:最強』を、永久に封じる為だよ」

「なっ───」

アビアの囁いた言葉はミシェルには聞こえておらず、驚いた様子の甲斐斗を見ていたミシェルは不安そうに二人を見つめていた。

そしてアビアが全てを伝え終わると、甲斐斗は驚きを隠せないまま元の位置に座り口元に手を当てた。

少しずつ繋がってきた話の流れ。謎に包まれていたMG、そのMGは『絶対名』を持つ存在を守る為の者、そしてその『絶対名』を持つ者の役目は、『絶対名:最強』を封じる事。

(俺は第6MGを知っている、ってことはミシェルとアビアを含めて6人の『絶対名』を持つ奴がいるってことになるじゃねえか。しかもそいつ等は『絶対名:最強』を持っている者の力を封じる存在だと……つまり……)

ミシェルが甲斐斗の力を封じていると言うのであれば、甲斐斗は今初めて気がつくことになる。

(俺が絶対名、最強の持ち主なのか……?)

「アビアの話しはこれでおーわり。次は甲斐斗の番ね~」

「えっ?ああ、そうだよな……」

アビアの話してくれた内容はとても重要かつこの世界について、そして甲斐斗やミシェル、アビアについての謎を少しだけ解き明かす事が出来た。

この事を見れば甲斐斗はアビアに感謝せざるを得ない、記憶を引き出すのに多少強引な方法ではあったが……。

「俺が見た夢の話なんだが……アビアとミシェルが遊んでる場面しか覚えてない」

正直この夢の話はアビアのくれた情報と比べれば酷いものだった。だいたい、アビアとミシェルの会話で二人が知り合いということは既に知っているのである。

「ああ、そういやアビアが子供の姿してたな。それと、ミシェルは俺と同じで歳をとらないのか……」

なので必死にその場面だけを鮮明に思い出し細かい情報を伝えると、アビアは甲斐斗のある言葉に反応した。

「子供の姿ー?もしかして───」

そう言ってアビアは自分の胸に手を当てると、柔らかい光がアビアを包んだかと思えば一瞬にしてミシェルと同じ子供の姿に変わってしまった。

「この姿?」

ベッドの上にちょこんと寝そべる可愛らしい少女。

着衣は全て子供姿のアビアの大きさに合わされており、一瞬にして姿を変えたアビアを見て甲斐斗とミシェルは二人して目を見開いていた。

「おまっ!?姿を変えられるのか!それも絶対名の力なのか!?」

「んーん、絶対名なんて必要ないよ?アビア達なら誰でも変われるよ~だから第1MGも変わろうとすれば変われると思うけど?」

そう言うと今度はミシェルに二人の視線が集まるが、ミシェルは首を大きく横に振ってそれを否定した。

「多分変わり方を忘れてるだけだと思うよー。それで、甲斐斗は他に言う事あるよね?」

例の女性の件について、というか甲斐斗の複雑な心境を知りたいのだろう、アビアがそう尋ねると、甲斐斗は小さく溜め息を吐いてアビアと目を合わせた。

「分かった……お前には後でゆっくり、ちゃんと話す、約束だ。だから今はミシェルの話しを聞こう」

「は~い」

子供の姿をしたままのアビアは幼い声で返事をすると、ミシェルは一歩前に踏み出し自分の思い出した話を語ってくれた。

と言っても、話しの内容を聞いていけば、ほとんどアビアや甲斐斗と同じものだった。

昔、アビアと遊んでいた話と、自分が『絶対名:制約』を持つ者という事……。

たまたま今、アビアの腕を掴み攻撃魔法が使えないように念じたら、アビアの力を制約できたと言う。

アビアの魔力は不滅、だが魔法の使用を制約されていたために使用が出来なかったとすれば、ミシェルが念じればまたアビアの力を戻せるのではないか……。

そう思い試しにミシェルにアビアの力を戻すようにお願いしてみると、案の定アビアはまたいつもの魔法で作ったナイフを出して見せた。

これは明らかにミシェル本人の意思、という事はもしミシェルが甲斐斗の触れて魔法の制約を解けば……。

「俺の力が元に戻る!?いや、正確に言えば前のように使えるようになるかもしれないのか!?ミシェル!!」

希望が生まれてきた。甲斐斗はその場に立ち上がりミシェルの方を向くと、ミシェルは力強く頷き甲斐斗に手を伸ばす。後はミシェルが甲斐斗の力の制約を解除すればいいだけ、甲斐斗も手を伸ばしミシェルの手を握り締めた。

胸の鼓動が高鳴っていく、ミシェルは目を瞑るとゆっくりと頷き甲斐斗の手を握り締める。

そしてパチリと目を開け笑顔で頷く、制約が解かれた……そう思い甲斐斗はミシェルの手を放し自信満々に右手を誰もいない壁の方に向けて突き出した。

「……なぁミシェル、制約は解いてくれたのか?」

「う、うん。アビアちゃんにしたようにねんじてみたけど……」

甲斐斗は自信満々に右手を壁の方に向けて突き出した。

本来ならその右手から魔法が放たれるはずなのだが、やはり魔法が発動される事はない。

「ま、まぁ。体から力が込み上げてこねえから、出せないとは思ったけど……なんで出せないんだ……」

ミシェルが甲斐斗の力を封じている……はず。それなのにミシェルが念じても甲斐斗の制約が解けない理由が分からなかった。

考えられる可能性は二つ、ミシェルの意思で解けない制約なのかもしれない。

そしてもう一つがミシェルが制約を解除するフリをしているだけの可能性もあったが、甲斐斗は微塵もミシェルを疑っていなかった。

「ミシェルが悪いわけじゃないんだ、そんなに落ち込まなくていいからな」

申し訳なさそうに俯いていたミシェルの頭を甲斐斗は優しく撫でると、今度は先程までミシェルが寝ていたベッドの上で横になり寝そべりはじめた。

「さて、寝るか」

冗談で言ったつもりの甲斐斗だったが、隣のベッドで横になっていたアビアがナイフを握り締めると勢い良く甲斐斗の頭部擦れ擦れにナイフを振り下ろし枕の端に突き刺した。

「嘘に決まってるだろ冗談だよ……ミシェル、悪いがアビアと二人きりにしてくれ。あと、くれぐれも神楽の部屋の外に出ないように、部屋に誰か入ってきたらすぐ俺に知らせてくれ」

「う、うん。わかった!」

ミシェルはそう言って寝室から出ると、甲斐斗は体を起こして椅子代わりに座ると、アビアもまた甲斐斗と向かい会うようにベッドに座った。

「それじゃ、話すか……」

ミシェルがいない今、アビアに聞きたいことも今なら聞けるが。

まずはアビアが聞きたい事を話した方が良いだろう、それに約束もしたのだから言うのは当然。

自分をじっと見つめたまま視線を逸らさないアビアを見た後、甲斐斗は僅かに俯き視線を逸らしながら語り始める。

『ユイ』という女性の、100年前の関係について。

そして甲斐斗が決して他人には言わないであろう、胸の内に秘めている事を。

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