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第121話 心地、生死

───「き、今日から赤城さんの下に配属されました!由梨音と言います!よろしくお願いしますう!!」

それが赤城が聞いた由梨音の最初の言葉だった。

いつも通り自室でコーヒーを飲んでいた赤城の前に現れた一人の少女。

緊張しているのか背筋をピンと立ててぎこちない様子の由梨音に赤城はコーヒーを飲みながらじっと睨むように見つめていた。

すると部屋の扉が再び開き武蔵が入ってくると、緊張した様子の由梨音の肩に手を置いて赤城に説明をしはじめる。

「赤城、今日から君の直属の部下になる由梨音軍曹だ。よろしく頼むよ」

「どういうことだ?」

コーヒーカップを片手に首を傾げる赤城に武蔵も首を傾げて困った様子になる。

「え?い、いやー……そのままの意味だけど」

「何故私が子供のお守りをしなければならん。それに直属の部下だと?前から言っているはずだ、私に部下は一切必要ないとな。それに第五機動独立部隊の隊長はお前だろう?それならお前の直属の部下になるはずだが?」

「えーっと、そうなんだけどさ……」

完膚無きまでに言い負かされてしまう武蔵は何と言っていいのか分からず少し戸惑いつつ視線を赤城から反らすと、その視界に入った由梨音はショック受けたような表情で若干涙目になっているのがわかった。

「ほら、昨日赤城は正式に少佐に昇格したよね。さすがに少佐にもなって直属の部下が誰一人もいないっていうのはちょっとね。それに俺は近い内に本部に飛ばされるかもしれないから……」

武蔵からすればこれは良い機会だった、赤城は軍に入隊した後Dシリーズの操作試験に合格し瞬く間に地位を確立してきたものの、赤城自体はNFの軍が余り好きではなく軍内部の人間と深く関わろうとしなかった。

軍内部で親しく関わっている人といえば武蔵と神楽、そして騎佐久のたった三人。

それ以外は友達もいなければ作ろうともせず、回りから多少声をかけられることもあったが赤城は素っ気無い態度をとり自分から離れていた。

「私がいらんと言っているだろ。この部隊に加入するのは構わんがその子の正式な上官になるつもりはない」

そう言って赤城は机の前に立っている由梨音を睨みつけると、由梨音は今にも泣き出しそうな表情でゆっくり口を開いた。

「しょ……」

「「しょ?」」

赤城と武蔵が由梨音の発した言葉に疑問を持った瞬間、由梨音は少し俯いていた顔を上げ赤城の方を向いた。

「しょんなこと言わないでくだしゃいよ~!あかぎさぁあ~んっ!!」

次の瞬間、由梨音の目からぶわっと涙を溢れ若干鼻水も垂らしながら勢い良く赤城に向かって飛びついてしまう。

「ぬおっ!?」

突如自分の元に飛び込んでくる由梨音に驚きカップを机の端に置くと飛びついてきた由梨音を何とか受け止めてみせる。

実は由梨音にも訳が有った。軍に辛うじて入隊出来た由梨音だったが、その年の若さとおっちょこちょいな性格のせいで何処の部署に回されても使い物にならないほど仕事が出来なかった。

それでも由梨音は笑顔を絶やさず自分に任された業務を一生懸命こなそうとしていたが……所詮は子供。

回りからは使えない奴だと馬鹿にされ、そのせいで友達もろくに出来ずたった一人で雑用のようなどうでもいい仕事を回される日々。

楽しくない。

楽しくない……。

段々と由梨音の顔から笑みが消えていくそんな日々の中で、由梨音は元々勤めていた基地をクビになりこの東部軍事基地へと飛ばされた。

そこで知る二人の男女の存在。

神童と呼ばれたNewFaceのエースパイロット、伊達武蔵。

Dシリーズ操縦試験A級合格者にして百戦錬磨の女性兵士、赤城。

とても眩しい存在だった。

自分のような道端に転がってる石ころとは違う、皆を引き付ける魅力ある輝きがあの人達にはある。

だから自分みたいな落ちこぼれが、まさかこの部隊に派遣されるとは思ってもいなかった。

「赤城さぁあん!私一生懸命頑張りますからぁぁぁ……」

これは、自分が変われるチャンスなのかもしれないと由梨音は思った。

今まで楽しくもなく充実もしない日々を過ごしてきた。

でも、この場所なら変われるのかもしれない。いや、変わりたいと本気で願った。


───赤城の胸に泣き顔を埋め中々離れない由梨音に対し、赤城は焦りながら必死に自分から引き離そうとする。

「なななっ!何をする!?離れろっ!」

「いやです!赤城さんの部下にしてもらうまで離しましぇんっ!」

「生意気な……武蔵、お前からも何か言え!」

力ずくで無理やり引き離す事もしたくない赤城は助けを求めて武蔵を呼んだが、武蔵はその場にたったまま笑みを浮かべて言ってあげた。

「赤城、上官命令をすればいいだけじゃないか」

「貴様ッ、それでは私がこの子の上官だと認める事に……」

分かってて言ってるのは百も承知。武蔵はただニコニコと笑みを浮かべ赤城の出方を伺っている。

相変わらず由梨音は抱きついてきたままで一向に離れようとしない。

「っ……はぁ」

諦めるしかない……こうなってしまってはまるで自分が駄々をこねているようにも思えてきてしまい赤城は抱きついている由梨音の頭を軽く叩きながら口を開いた。

「由梨音軍曹、これは命令だ。今すぐ離れろ」

その言葉に由梨音がぴくっと体を震わせ反応すると、赤城の胸から顔を離し笑顔を浮かべながら赤城と目を合わせた。

「い、今命令って!じゃあ私赤城さんの部下になっても……!」

目を瞑りゆっくりと頷く赤城、すると由梨音の顔はいっそう笑みに変わり再び赤城に抱きついてしまう。

「ありがとございます赤城さん!わたし、一生懸命頑張りますぅ!」

「だから離れろと……命令違反で由梨音軍曹を減給にする」

「え!?」

減給という言葉を聞いてまた由梨音がその小さな体を反応させると、更に赤城は言葉を続けた。

「それと、今度から私の名を出す時はちゃんと『少佐』を付けろ。二度とさん付けで呼ぶな、いいな?」

目に涙を浮かべながらも由梨音は笑顔で赤城とまた目を合わせると、敬礼しながらにこやかに言ってみせた。

「はい!赤城少佐!」




─ERROR─



眠ろう。



春風が心地よい、由梨音と二人で町を歩きながら赤城は自身の靡く髪に手を当てそう思っていた。

「赤城少佐ー!早く行きましょー!」

少し先に進んでいた由梨音がそう言って右手を振りながら後ろに振り返る、いつも元気溢れる由梨音の呼ぶ声は相変わらず騒がしいものだった。

「どこに行くんだ?」

「ど、どこって!?今日は映画を見に言った後にお洋服を買って、その後も色々と予定作ったじゃないですか!」

「そうだったな」

私服姿の由梨音は無邪気な笑みを浮かべている。

そして赤城の横にまで来ると、由梨音は上機嫌に腕を振り鼻歌を歌いながら歩き始めた。

今、この時が余程嬉しいのだろう。




─ERROR─

─ERROR─




痛い。

眠ろう。




「赤城少佐!見てくださいあれ!わぁ~!」

浴衣姿の由梨音はそう言って夜空に向けて指を差すと、夜空に2発目の花火が撃ちあがり巨大な模様を描いていた。

両手には綿飴にフランクフルト、チョコバナナ……食べ物ばかりを持っている。

「綺麗ですね、こうやって赤城少佐とお祭りにこれて良かったです」

目を輝かせながら打ち上がる花火を見つめながら由梨音がそう言うと、隣に立っていた赤城は由梨音の頭に手を置き優しく撫でていく。

すると由梨音は照れくさそうに頬を赤らめると赤城の方を向いてにこりと笑みを見せた。


─ERROR─

─ERROR─

─ERROR─



また、か。

眠ろう。



「赤城しょ~さ、次はあれにしましょ~」

地面は紅葉の落ち葉で綺麗に彩られている。由梨音は赤城が着ているコートの袖を掴むと遊園地にあるアトラクションに向かっていた。

「それにしても意外でしたね。赤城少佐がジェットコースター苦手だなんて……メリーゴーランドでも一緒に乗りますか!?えへへっ」

「由梨音、私をからかうとは良い度胸だな。減給にしてやろう」

「じょ、冗談ですよ~!本気にしないでくださぃ~……」



─ERROR─

─ERROR─

─ERROR─

─ERROR─








由梨音の部屋に置いてある一台の炬燵こたつ、卓上にはみかんとテレビのリモコンが置いてあった。

座椅子に座りその炬燵に入っていた赤城はみかんを取ろうと手を伸ばそうとすると、その赤城の膝に座っている由梨音が先にみかんを取り上げてしまう。

「一緒に食べましょ♪私が皮を剥きますね」

そう言って由梨音は笑顔でみかんの皮を剥き始める。

座椅子の背もたれに体重をかけもたれ掛かりながら赤城がふと窓の外を見れば粉雪が舞い降りており、外が今どれだけ冷えているのかが一目で分かった。

久々の休日にこんなにのんびりとまったり寛げる日が来るとは思ってもいなかった赤城にとって、今この時間はとても充実していた。

「由梨音は暖かいなぁ」

炬燵の暖かさと由梨音の温もりについ赤城は座ったまま由梨音を抱きしめると、目を瞑り由梨音の頭に頬を摺り寄せる。

「ひゃぅっ!?」

突然の事に由梨音は顔を赤らめ驚くと、少し俯き照れながらぎこちない手つきでみかんの皮を向いていく。

「あっ、ぁあかぎしょうさ、みかん剥けましたよ!」

どもりながらもそう赤城に伝えると、赤城は由梨音の顔を覗き込むように顔を前に出した。

「ふむ、よくやった」

てっきり卓上に皮の剥かれたみかんがあるかと思えば、みかんは由梨音の左手にあり、右手で既に一つ取り終えた果肉を摘んでいる。

すると由梨音は照れながら右手で摘んでいるみかんの果肉を赤城の口元に近づけた。

「はい、あ~ん」

冗談半分で出してみた由梨音だったが、赤城は出されたみかんをぱくっと食べてしまう。

まさか本当に食べてくれるとは思わず胸の鼓動が高鳴り驚いた表情をしてしまい、ゆっくりとみかんを噛み締める赤城から目が離せなかった。

「ん~、とても美味しいぞ。ほら、由梨音も食べてみろ」

由梨音の左手に持っているみかん、その果肉の一つを今度は赤城が取ると由梨音の口元に近づける。

だが由梨音は一向に食べようとせず、何故か目から涙を流し俯いてしまった。

「どうした由梨音、なぜ泣いて……」

「う、嬉しいんです……」

涙をぽろぽろと零し由梨音はハッキリそう言うと、俯きながら少しずつ話しはじめた。

「私、この基地に来るまでずっと一人ぼっちだったんです……。でもここにきて赤城少佐に出会えたことで、毎日が楽しくて、赤城少佐の側に入られる事が嬉しくて、私ぃっ……」

「私もさ」

「えっ……?」

俯いていた由梨音がふと顔を上げると、そこには目に涙を浮かべ今にも涙を流しそうな表情をした赤城が由梨音を見つめてくれていた。

「私もお前が来るまではずっと一人だった。与えられた任務をただただ遂行し、誰も部下を取らず任務はいつも単独で行えるものばかりを選び私は誰も受け入れようとしなかった。しかし───そんな私を変えてくれたのは……由梨音、お前のおかげだ。由梨音と出会えて、本当に良かった」

互いが互いを支えてきた事は薄々二人も感じていたが、こんなにも自分の純粋な気持ちをぶつけた事はなかった。

嬉しい。

一緒にいて楽しい。一緒にいて嬉しい。一緒に入られる事がどれだけ大切で大事な事なのか。

「赤城少佐……」

涙ぐみながら由梨音は赤城の名を呼ぶ、照れながらも何か言いたそうな表情に赤城は微笑みながら静かに待った。

「ごめんなさい」


抱きしめている由梨音の体はとても暖かいのに、なんでこんなにも空っぽに感じるのだろう。


綺麗な髪、柔らかい肌、今にも動き出しそうなのに、涙を流し空ろな瞳をした由梨音の表情。


終わってしまうの?


頭から血が流れ出てきている、今すぐ手術をすれば?助かる方法は無いのか?どうにかできないのか?


もう一緒に入られないの?もう一緒に笑えないの?もう一緒に遊べないの?もう一緒に話せないの?


もう一生……


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい





───BNの本部の壊滅を聞かされ一人基地に戻ってきた羅威。

その変わり果てた本部が目に入った瞬間、無意識に涙が溢れだしただただ機体を動かし生存者を探し続けていた。

「俺達の……町が……俺、達の……町がッ……」

全身の震えが止まらない。目を見開き地獄の光景を見て回る羅威。

町の半分は消滅し、残りの町は黒く汚れ、赤い炎が全てを飲み込み消していく。

「何でこんな事になってんだよッ!?生きている奴は誰もいないのかッ!?」

声を荒げ壊滅した町で必死に動き回る、しかし視界に生きている人間の姿は誰一人入ってこない。

「平和な世界に行くんだろッ……なんで、なんでだよ……なんでこんなことにッ!!うああああああああああああ!!」

遣り切れない怒りが込み上げてくるが、敵の姿も無い状態で今の羅威にはどうする事も出来ない。

「ぶっ殺してやる……!出て来いERROR!お前達の仕業だろッ!?今すぐ出て来いッ!!」

もしERRORを見かければ一瞬で殺しに掛かるであろう、今の羅威の目は狂気に満ちていた。

だがその視界に入ってきたのは、一人の女性の姿だった。

亀裂が入り今にも崩れ落ちそうな建物の上に立っている赤紫色の長髪を靡かせる一人の女性。

「生存者……?いや、ERRORかッ!?」

人間の姿をしていた所で油断は出来ない。

既に人の姿、形をしたERRORを何度も見てきた羅威にとって人の姿が見えた所で殺気を消す事はなかった。

すると女性はその羅威の殺気に気づいたのか、一人で壊滅した町を眺めていたがふと顔を神威の方に向け口を開く。

「誤解というのを生まなくていい。私はこの町で起きた出来事に何一つ関与などしていない」

「なっ……お前、何者だ」

余りにも不自然すぎる女性の表情と言葉、この地獄のような光景を前にしているにも関わらず平然としており、建物の前に立った神威を前にしても動じていない。

「人間じゃあ……なさそうだなッ!」

神威が拳を振り上げていく、それでも女性は逃げよともせずに神威を見つめていた。

「私が何者かなど今気にしている場合か?この町の生存者は私が把握しているだけでも500人はいる。この人数を『たった500人』と思うのか、それとも『まだ500人』と思うのかはお前次第だが。急いだほうがいい、火の手が回ってきている」

「生存者がいるのかッ!?いや、その前にお前はいったい……」

「安心というのをしていい。私はお前の敵ではない、それに先程も言っただろう私はこの町で起きた出来事に何一つ関与などしていない、と」

この状況下の中で安心出来るはずもなく、町の壊滅に関与してないなどという言葉を信用できるはずもなかった。

だが羅威は女性から聞かされた生存者の存在、に微かな希望をもった。

今から助けに向かえばまだ助けられる命がある……となれば、ここで無駄に時間を過ごす訳にもいかない。

「それなら何故お前はこの町にいる、答えろ」

「確かめにきたのさ、ERRORの可能性を……これで確信した。全である一から生まれてきた『我々』は、人のように脆く儚いと」

「なんだと……?」

女性の表情は複雑なものだった。残念そうに視線を下げつつ、納得のいかない様子で僅かに唇をかみ締めており、今度は呆れた様子で振り返り壊滅した町を遠目で眺めはじめる。

「世界とはこうも簡単に動かせるものなのか……純粋、無知が愚かだということがよくわかる。歯が……痒いな」

その直後、女性が立っていた建物に巨大な亀裂が走り崩壊を起こした。

辺りは煙と炎に呑み込まれ、神威でその場を確認したが女性の姿は何処にも存在しない。

謎だけを残し消えた女性、今の羅威にはその謎を考える暇はなく、この壊滅した町で僅かに生き残る生存者を必死に助ける事しかできなかった。

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