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第120話 真心、不可欠

───「幾ら赤城少佐でもそんな時代遅れの機体じゃ私には勝てませんよ!」

相手はBN最高の性能を誇る機体。

エスペランサの回りから放たれる無数の光の刃は次々にリバインに襲い掛かっていく。

その一本の一本の刃を赤城は完全に見切り攻撃を交わしていくが、避けた勢いで光の刃が住宅地を破壊する光景を見て今度は一本も回避する事なく全てLRBで弾き掻き消していく。

更に僅かな隙も逃さず背部に付けられている機関銃を手に取ると機体の両肩を狙い引き金を引いた。

だがそんな攻撃がエスペランサに通用するはずもなく、弾丸は機体から反れる───はずだった。

「愚か者め」

全弾直撃と共にエスペランサが一瞬にして炎に包まれる、その予想外の衝撃に由梨音は驚きつつも機体の状態を確かめる。

「そんなっ!?どうして!」

機体の機能は正常に可動しており、銃弾が機体に当たったものの損傷箇所は少ない。

それなのに機体は炎上し、いつも弾けるはずの弾丸が直撃を……。

「燃えてる……焼夷弾!?」

「前に教えたはずだぞ。機体の性能に頼りすぎると痛い目に遭う、と」

赤城は司令室でエスペランサについての情報は大体知る事が出来た、そして恐らくその機体を利用することも大よそ予想がついた。

恐るべき性能の機体、だが弱点が無いわけではない。

司令室でこの基地にある全ての武器を調べ、そしてあのエスペランサに対抗できる可能性のある武器を選び機体の発進と共に準備は済ませてきていた。

「磁力に反応しない特殊マグネシウム合金を用いた焼夷弾の味はどうだ?その炎と煙ではステルスフレームも使えまい」

「だからどうしたんですかぁっ!?ぜんっぜん効いてないんですよぉ!!」

由梨音の言葉の通り、たしかに機体事態の損傷は少なくエスペランサは両手の光の刃を長く伸ばすとそれをリバインに向け突進してきていた。

瞬時にLRBを構えエスペランサの両手の刃を受け止めるが、突進された勢いでリバインは止まる事が出来ず機体を押されたまま市街地を抜けてしまう。

「ぐぅッ!!」

リバインに伝わってくる衝撃は尋常ではない、何しろ建物を破壊しながら機体を押され続けているのだから。

「あははは♪このまま私と一緒に遥か彼方までいっちゃいます~?」

「断る、由梨音を置いて貴様だけ逝くがいい!」

大地を踏み締めた直後、リバインは一瞬でその場から飛びエスペランサを飛び越え背後へと回る。

だが由梨音はその動きを予想し既に機体の回りに漂うレーザー光が一斉に宙に浮いたリバインへと放たれていた。

最低限の動きLRBを振るいレーザーを3発弾き、ギリギリの距離で全てのレーザーを交わすが、エスペランサは一瞬で後ろに向き直ると両手の刃の先をリバインに向けて突進しはじめていた。

「さよなら!赤城少佐ぁ!!」

迫り来る機体、光の刃がリバインの胸部を貫こうとした瞬間、突如エスペランサの足元の地面が爆発を起こす。

リバインがエスペランサを飛び越えたあの時、機体の腰に付けられていた手榴弾を二つ程作動させ既にその場の地面に捨てていた。

全ては赤城の読み。自分が背後に回れば恐らく機体を振り返らし同じように特攻してくると考えていた。

事実由梨音は赤城の思った通り再び突進。手榴弾の起爆する丁度その瞬間にエスペランサはその上を通っていた。

「きゃぁっ!」

爆発によりエスペランサの両腕の位置が若干傾く、その一瞬を見てリバインはLRBを振るい光の刃は弾き光の刃はリバインの脇と肩を掠めるものの胸部えの直撃は何とか防ぐ事が出来た。

「もらったァッ!!!」

少し身を屈め大地を踏み締めると一瞬でエスペランサの懐に入りこみ、腹部を狙いその巨大な剣を閃きの如く振り下ろした。

「あっ!」

振り下ろされるLRBに気づき瞬く間に浮上するエスペランサだったが、その両脚は膝から下が斬り落とされ宙を舞っていた。

「ぁあああ!そんな───ッ!」

信じられない。こんなはずではなかった、まさかリバイン相手にここまでの傷を負わされるとは由梨音も思っておらず動揺してしまうと、赤城はその隙の見逃す事なく追撃してくる。

赤いリバインがロケット砲を構え引き金を引くと、2発の榴弾を発射させる。

「そんなもの効かないって分かってますよね!?」

当然エスペランサの力で2発の榴弾は軌道を曲げられ弾かれてしまう、だがその直前に2発の榴弾からは赤色の煙が溢れエスペランサの左右に分かれた榴弾から溢れ出る煙が一瞬で機体を囲い視界を遮ってしまう。

「今度は発煙弾っ……もう……もう遊びは終わりですよ!!」

由梨音がそう言うと機体の両腕を構えさせ両肩のレジスタルを発光させると、輝く粒子がエスペラサの回りを高速回転し機体が一瞬でその場から姿を消した。

「なにッ?」

煙の中からLRBを振り下ろしたリバインが現れる。

煙に紛れたしかにエスペランサの背後に近づいていた赤城だったが、瞬く間に姿を消した敵機を把握できずにいた。

「ステルスフレーム?いや、機体からはまだ炎と煙が上がっていたはず───!?」

回りに漂っていた煙を振り払い何かが機体の横を掠める。

只ならぬ気配に気づき瞬時に機体を動かしていたがリバインの右足は吹き飛び火花を散らしながら地面に落ちていく。

(次が来る───ッ!)

赤城の思考に機体の動きが追いつかない。

また何かが機体の真横を通っていくとLRBを握っていた右腕が斬り落とされ、背部に強い衝撃を受ける。

「がッ、ぁ───!」

リバインは地面へと叩き落とされ、ガラクタのように地面を転がり本部の基地へと直撃した後、脱力した状態でその場に項垂れたまま一切動けずにいた。

機体の操縦席は赤城の吐血で汚れ、機体に乗っていた赤城もまた意識が朦朧としたまま頭から流れてくる血を拭うことなく空ろな瞳で目の前に広がる市街地を見つめていた。

「あ……ぅ゛……」

操縦桿を握っていない自分の両手を見て震えながら必死に両腕を挙げ操縦桿に伸ばしていくが、思うように力が入らない。

やっと指先が触れたかと思えば目の前には宙に浮いた状態でエスペランサが見下していた。

「ほんっとに……本当にすごいですよ……赤城少佐……SRC機能も持ってないのにその機体1機でここまでの事を成し遂げちゃうなんて……でも、これで終わりです」

そう言ってエスペランサの右手をリバインに向けようとした時、由梨音の乗る機体のモニターにある一文が表示された。

それを見て由梨音はニヤッと笑いリバインから右手を退けると、今度は右手を高らかに上げてみせた。

「充填が完了しちゃいました、特別に赤城少佐には見せてあげますよ」

壊滅したBN本部軍事基地の地下から浮上してくる一体の兵器……。

それは兵器としては余りにも巨大な姿をしており、エスペランサよりも一回りも大きいそのキャノン砲はゆっくりとエスペランサの右手に向かって下りてくる。

「対ERROR用最終兵器。名前はたしか『十点一掃式全滅砲』とか言います、物騒な名前ですよね♪せっかくエネルギー充填も終わったのでこの兵器の威力を見てみましょうよ!きっとすごいだろうな~」

意気揚々とした態度の由梨音は巨大な兵器の砲口を躊躇う事無く民間人が多く避難している巨大なドーム型の建物に向けた。

「狙いはアレでけってーい!」

簡単に言ってのけたがあの避難所には町に住む殆どの人間が避難をする場所。

そのような場所に対ERROR用の兵器を使用すればどうなるか───。

「ば、かっ……よせ……!」

血と共に声を振り絞り口から漏らす赤城だが、由梨音はそんな赤城を見てニコニコと笑みを浮かべる。

「兵器が上か、シェルターが上か。どっちでしょうね♪」

カチッと軽い音が聞こえてきた。それは兵士なら誰もが理解できる『引き金を引く音』。

「止めろぉおおおおおオオオオオオオオオッ!!」




───兵器の先端から十本の細い緑色のレーザー光が放たれると、十個の光の点がドームを照らし小さな円が作られ、点で作られた円は徐々に開いていき大きさを増していく。

そしてその円の大きさが全開まで開いた瞬間、兵器の砲口から血液のような赤黒い光が放たれた。

光はまるで世界の終わりを告げるような色合いで、巨大だった……恐らく人類が生まれて初めて見る光であるだろう。

光に飲み込まれる『存在』は何もかも崩壊していく、土も水も木も鉄も人も全て、全て……皮肉なものだ、人類を守るために開発した兵器で人間が殺されているのだから。

情けも何もない、ここはもう戦場。子供だろうと女だろうと皆死んでいく、何も出来ず、恐怖に震え、思いを残しながら……。

僅かな希望、防御シェルターの硬度が兵器の火力を上回れば建物の中の人達は救える。

一撃だけ耐えてくれるだけでも全然違うが……防御シェルターは砲撃が直撃した瞬間に崩壊、一秒も攻撃を受け止める事が出来ず中にいた人達は皆光に呑まれ消えていった。



───「貴方達が悪いんですよ……」

目を見開き由梨音は目の前に広がる光景を前にそう呟いた。

「こんな兵器を作らなければ……こんな機体を作らなければ……こんな事が起きる事もなかったのに……」

由梨音が操縦桿から手を離すと、エスペランサの右腕に装備されていた武装もまた離れゆっくりと地面に落ちた。

「滑稽ですよね。こうやってどの世界も人間が生み出した力によって消えていくんですよ!あは!あはははははは!!あははははははははははは」

戦場……だった場所に由梨音の笑い声がただただ響き渡る。

砲撃の射線上に何が残ったか、何も残って等いない。

実際そう言われても何も分からないだろうが見た所で分かりもしない。

由梨音も、赤城も、基地の周辺にいた兵士、避難している民間人も、誰も分からない。

たしかこの場所はBNの本部、そして目の前には町が広がっていたはず、家も学校もビルも公園も様々な物がそこにはたしかに存在していた。

今はどうだ?瓦礫所か地面すら消滅している。エスペランサの前には巨大な断崖が広がり全く底が見えない。

この一撃でBN本部である巨大都市の半分……それも民間人が一番多い住宅地や市街地が消滅し、射線上にあった山や川や森までも綺麗に抉り取られていた。

『なんてことを……』

もう直ぐERRORとの戦いが終わる。平和な世界が目前にまで近づいてきていた、あと少しで迫り来る絶対的な『死』から開放されるはず。

この辛く苦しい世界で今の今まで生き延びてきていた、なのに───。

「さてと」

エスペランサが右手から光の刃を伸ばしその刃先を先程まで使用したばかりの兵器に向けて突き刺すと、もう二度と使えないように細切れにして破壊してしまう。

「これで、私の任務は残り一つで、終了、し……ま……うっ……」

突如由梨音が俯き左手で顔を覆うと何かに耐えるように全身を震わせる。

「さすがに、さっきのは、きつい……限界が近い、ですねっ……はぁー」

それだけ言うと体の震えが止まりまたいつものようにニコニコと笑みを浮かべると、エスペランサは倒れているリバインの方に向かってゆっくりと宙に浮いたまま近づいてくる。

「赤城少佐♪取引しませんか?応じて頂ければこの町で生き残っている人達に危害は加えません」

『取引だと……?』

この期に及んで取引を持ちかける由梨音の考えが理解できない赤城はただじっと黙って由梨音の言葉を聞いていく。

「はい!赤城少佐が自殺してくれるだけでいいです」

『……どういう意味だ?』

「そのままの意味ですよ。ほら、早く死んでくれないと皆死んじゃいますよ♪」

そう言ってエスペランサが右手を基地の広場に避難していた病院の患者達に向けてレーザーを放つと、レーザーは狙い通りに命中し一瞬で40人程の人間が散り、また爆発の影響で辺りに瓦礫が飛び逃げ惑う人々が死んでいく。

すると由梨音は機体の拡声器を使い自分の声を周りにいる民間人、兵士達に向けて発しはじめた。

「全員動かないでくださーい!もし一人でも逃げようとすればみーんなころしまーっす♪」

その無邪気な言い方に対する狂気の言葉。

そして町の半分が消滅した瞬間を見せられ絶望する生き残った人達は皆動きを止め震えながらその場にへたってしまう。

「はーいよく出来ました~♪さー赤城少佐!早くしないと皆が死んじゃいますよ!」

早くしなければ死ぬ……それは由梨音が殺すという意味とは別の理由もあった。

基地や病院の建物は既に炎上しており避難をしている場所にもその炎の矛先が向かおうとしていた、実際に刻々と炎は広がっており、広場や基地の近くにある避難所にも炎が迫ってきている。

『何故だ……何故今になってそんな事を言う……今のお前なら私を殺す事など容易いはずだ……』

「ここで直ぐ殺してもつまらないじゃないですか、赤城少佐が無念にも死んでいく苦しい様が見たいんですよ」

……本当にそうか?既に赤城の中に微かな疑問が生まれていた。

つい先程までは命を狙って攻撃を仕掛けてきたというのに、何故今になってこんな回りくどいやり方で殺す必要があるのかわからない。

本当にそれだけの理由と意味だけで自殺させようと思っているのか定かではないが、明らかに由梨音の言動は不自然だった。

『分かった。だが機体の自爆装置では回りにいる人達も巻き込んでしまう』

そう言うと赤城は操縦席に取り付けてある刀を手に取ると、それを由梨音に見せ付けるように突き出した。

『これでいいか?』

由梨音の注意がリバインではなく刀を持った赤城に向いたその瞬間、赤城はペダルを踏み込み機体を発進させると目の前に浮いているエスペランサへと飛びついた。

『いい加減に目を覚ませッ!由梨音ぇえええええ!!』

瞬時に背部に装備してあったLRSを片手にエスペランサに攻撃を加えようとした。

だが赤城の思いも空しくエスペランサの光の刃によって最後の腕も斬り落とされると、リバインはその衝撃で体勢を崩しその場に跪いてしまう。

そして一瞬の静寂後、由梨音は赤城を見下しながら言葉を吐き捨てた。

「あーあ……残念です」

『ッ!?やめ────』

エスペランサから放たれた光の刃が的確に避難していた人間達に降り注ぐ。

聞こえてくる悲鳴と爆音……自分のせいで死なせてしまった事に対し赤城は遣り切れない思いで操縦桿を握り締める。

機体を動かす事も出来ず赤城はただただ殺されていく人達を見る事しか出来なかった。

「赤城少佐が言う事聞いてくれないからこんな事になっちゃったんですよ?……ん?」

エスペランサが周辺を見渡していると、由梨音の視界にある光景が目に飛び込んできた。

リバインもまたエスペランサの向いている方に顔を向けると、そこには見覚えのある少女の後姿が見えた。

見覚えのある可愛らしい洋服、間違いない。今日一緒にこの基地へと来た時にいたあの黒い帽子を被っていた少女だった。

少女の回りには既に炎が迫ってきているにも関わらず全く逃げる気配が無い、ずっと瓦礫の山に向かって何かを叫んでいた。

「おかあさーん!おねえちゃーん゛!どこにっ、いるのぉ゛……」

涙を流し咽び泣きながら少女は必死に自分の母親と姉を探している、すると瓦礫の間から小さな手が出てくると、ばたばたと動かし自分の居場所を知らせようとしていた。

その小さな手に気づいた少女はぽたぽたと涙を零しながら瓦礫の山を登りその手を掴みその僅かな隙間を覗くと、そこに母親と姉の姿があった。

「たすっ……け、て……!」

弱々しい姉の姿、その横には目を開けて空ろな瞳の母親が横たわっている。

「ううぅ゛、すぐに、すぐにたすけるからぁ゛……っ!」

少女は必死に瓦礫を退けようと血と涙で汚れた手で必死に瓦礫を押してみるものの瓦礫はビクともせず、無力な少女はただただその瓦礫を叩きながら母親と姉を呼び続ける。

その余りにも惨すぎる光景に由梨音は呟いた。

「あれ、赤城少佐のせいですよ」

その言葉が赤城の胸に突き刺さる、すると赤城は由梨音に向かって大きく頭を下げ声をあげた。

『た、頼む由梨音ッ!あの子達だけは助けてくれ!!』

「だめですよ。赤城少佐が約束を破っちゃうのがいけないのに」

由梨音に少女を助ける気など更々無い。

炎は徐々に少女のいる瓦礫に広がっていく、それでも少女は必死に瓦礫を叩いたり押したり自分の出来る事を精一杯してなんとか中にいる二人を助けようとしていた。

少女の非力な腕では瓦礫は動かない、Dシリーズが手を貸せばアレぐらいの瓦礫どうとでもなるというのに……。

少女の小さな手からは血が滴り落ち、少しずつ瓦礫を血で染めていく……今度は少女が無理やり外から引っ張りだそうとするが、中にいる少女は声をあげて痛がり、少女はその悲鳴を聞いて咄嗟に手を離してしまう。

もうどうする事も出来ない。

鳴り響く銃声、少女を見ていた由梨音は咄嗟にモニターを見ると、そこには自分の肩や脚を拳銃で撃ち抜いていく赤城の姿があった。

『ぐぅぅぅッ!これで、どうだ……ッ!?お前の望み通り苦しんで死んでやる!!だから頼む!!由梨音ェッ!!』

「っ……」

一瞬表情を歪ませた由梨音だが、それでも少女達を助けようとはしない。

赤城は更に続けて自分の体に銃を突き付け引き金を引き続ける、傷口からは次々に血が滲みだし黒い軍服を徐々に血で染めていく。

「もうっ……遅いですよ……」

由梨音の目からはぼろぼろと止め処なく涙が溢れ出す。

遂に炎が二人の埋まっている瓦礫にまで広がってしまった。

「あつい゛!あづいよぉ!!ああああア゛!」

瓦礫の隙間から出ている小さな手がバタバタと激しく動きもがき苦しんでいる。

そして外にいる少女の腕を掴むと、爪を立て尋常じゃない力で握り締めてくる。

「足ぃ゛熱ィ゛!あ゛ヅイ゛ィ!!たすけてよォ゛!助けてよォオオオ゛オ゛!!」

少女の助けを求めた最後の言葉。

次の瞬間、瓦礫の隙間から炎が噴出し瓦礫の中にいた少女と母親を火炎が飲み込んだ。

「おねえ゛ぢゃぁあああん!」

炎が噴出す隙間からは少女の手が狂ったよう動いており、外にいる少女が手を伸ばそうとするもその炎の熱さに中々少女の腕を掴む事が出来ない。

もう助からない。それでも少女は気が動転し必死に助けようと手を掴もうとする。

先程まであれ程動いていた手も今ではぐったりと垂れ、炎の熱により炭へと化していく。

「嫌ぁ゛っ!い゛やああぁぁぁ───」

瓦礫の外にいた少女が悲鳴を上げようとした時、瓦礫の山にできた別の隙間から炎が吹き出し少女の顔面に直撃した。

少女は自分の顔に手を伸ばす事も出来ずぐったりと倒れていくと、力無く瓦礫の山から転げ落ちた。


───「もう、限界です……」

涙を流す由梨音はそう言うと苦しそうに左手で胸元を掴み赤城の方を向いた。

「この肉体では、もう……これ以上、心、制御……すごい、赤城さん、貴方は本当に、すごい……結局、ほんとに、殺せな、かった……あは♪あははは、あはあはあはあはあはあははあはあははははは」

由梨音は狂ったように目を見開き涙を流しながら笑い続ける。

「でも、『これで』やっと壊せます───」

そして最後に一言呟いた後、何かのスイッチを押し気を失うようにがくりと俯いてしまった。

『由梨音……?』

気を失ってしまった由梨音に対し赤城が声をかける、その意識は朦朧としており赤城もまた目から涙を流していた。

「ん……」

意識を取り戻し徐々に顔を上げていく由梨音、まるで寝起きのようなぼーっとした表情で前を向きふと赤城と目が合う。

「赤城少佐……?」

『由梨音?本物の由梨音なのか!?』

赤城が声をあげ由梨音に問いかけるものの、由梨音にその声が届く事はなかった。

何度呼びかけても反応の無い由梨音を見て、赤城はようやく通信の音声が切られているのが分かった。

「あれ、この格好……それにどうしてこんな所に……え……?」

目の前に広がる光景を見て由梨音は思考が停止した。

燃え盛り崩壊した軍事基地、辺りを見れば人間の惨い死体が散らばっており、そして……ふと機体が後ろに振り返る、そこに映った光景を見て由梨音は言葉が出なかった。

「っ───……」

町が無い。攻撃?何で?どうやって?何が起きたら町がこんな状況になるのか。

その由梨音の頭に次々に浮かんでくる全ての疑問の答え、そしてここで何がおきていたのか、まるで膨らんだ風船が割れるような音と共に一瞬で浮かんできた。

病院を破壊したのは誰?自分。

基地を破壊したのは誰?自分。

都市を破壊したのは誰?自分。

兵士達を殺したのは誰?自分。

民間人を殺したのは誰?自分。

機体を略奪したのは誰?自分

兵器を使用したのは誰?自分。

少女を見殺したのは誰?自分。

…大好きな赤城少佐を撃ったのは誰?あああ

大好きな赤城少佐を裏切ったのは誰?あああ

大好きな赤城少佐を傷つけたのは誰?あああ

大好きな赤城少佐を殺そうとしたのは誰?あああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

「さ───ぃ───」

涙が止まらない。

「な───さい───」

後ろに振り返れば、そこには傷付き大破した赤いリバインがいる。

そして血塗れの赤城が目を見開き自分に向かって何かを叫んでいる。

「ごめんな、さい……」

怒っている、憎んでいる、こんな事をしてしまった自分を、こんな事を起こしてしまった自分を。

「ごめんなさい……ごめんなさい゛っ……う、ううぅ゛……あああぁ……」

涙を流し泣いている由梨音は涙を拭おうと左手を動かそうとして気づいた、自分の左手に握られている拳銃の存在を。







よせ

やめろ

違う

違うお前じゃない

由梨音じゃないんだ

由梨音、お前は何も悪くない

悪いように利用されていただけなんだ由梨音は

お前が苦しむ事は無い、全部ERRORが悪いんだ、お前は……おい

何を考えている……由梨音……やめろ、やめてくれッ!!由梨音ッ!!!






「赤城少佐───」








「ごめんなさい」





───頭を横に傾け壁に持たれかかるように座っている由梨音は涙で顔を濡らしていた、そしてその涙を浮かべる目はずっと赤城を見つめている。

ずっと、ずーっと。もう二度と動く事はない由梨音の視線。

……涙を流し震える声を振り絞った生涯最後の言葉が『ごめんなさい』。

赤城は、自らの頭を撃ちぬいた由梨音の死体を見つめ続けていた。

すると突然赤城は機体のハッチを開けると、横たわりその場に倒れているエスペランサの胸部へと飛び移った。

高所からの飛び降りに着地を失敗し、足を挫き自分で体を撃った箇所からは血が噴出すが、赤城は無言でエスペランサのハッチを開くと操縦席に入り頭から血を流し続ける由梨音の体を抱き上げた。

機体から出てくる赤城、腕に思うように力が入らず何度も由梨音を抱きしめ直す。

由梨音の頭から垂れる血液が赤城の血と混ざり互いの軍服を汚していく……そんな事赤城は気にも留めず機体の胸部に座ると、この地獄とも言える光景が広がる異様な場所で目蓋を閉じ、眠りについた。

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