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第118話 毒、骨肉

───BNの本部にある軍事基地、その建物に隣接する病院の一室に来ていた赤城。

由梨音の御見舞いに来たはずだったが、病室に由梨音の姿は無く、突如病院内にサイレン音が鳴り響いていた。

「警報!?まさかERRORかッ……!」

病室に入り一応由梨音を探してみたものの、やはり彼女の姿は何処にも無い。

右腕と右足が無い彼女なら恐らく車椅子などで移動してるに違いない、とすればこの階のどこかにいるはず。

既に病院内では看護婦や銃を持った兵士達が慌しく廊下を走り、病院内にいる患者達を安全な場所に避難させようとしていた。

その内の一人の看護婦を赤城が呼びとめ由梨音が何処にいるかを知っているか聞こうとした時、突如爆発音と共に微かな爆風が通路を伝って赤城の元に向かってくる。

「馬鹿な、既に基地内にまで進入しているのか……?」

幾らなんでも早すぎる、BNは何故もっと早く気づけなかったのか……と、この時、赤城は微かに違和感を感じる。

(まだ民間人の避難が済んでいないというのに爆薬を使用するのはおかしい、それ程追い詰められているのなら真っ先に銃声が聞こえてくるはずだが……)

鳴り響く警報音、敵が侵入したことを知らせるものに間違いないはずだが、敵の姿を肉眼で確認するまではどうも信じられない。

(直接行って確かめるしかないな)

そう思った赤城は銃を構えた兵士達が向かう方に走り始める、そして通路を曲がり爆発があったとされる場所に辿り着いたが、そこにはERRORの姿は見当たらず、負傷した兵士と看護婦が血塗れで横たわっていた。

既に現場に来ていた兵士達によって負傷した人達は担架に乗せられ運ばれている中、何があったのかを一人の兵士が負傷した仲間に聞くと、兵士は黒焦げになった長椅子だったものを指差し答え始める。

「つ、通路を歩いていたら……突然椅子が爆発して───っ!?」

兵士が答えていた最中、突如爆発音と共に衝撃が伝わってくる。

またどこかで爆発が起きた、それもそう遠くない場所で。

通路にいた兵士達は慌てて他の兵士と通信を行いどこで爆発が起きたのかを確認しようとするが、通信機からはノイズしか聞こえてこない。他の兵士も通信を試みるものの、同様に通信が行えずにいた。

「クソッ!どうして使えない!?一体基地で何が起きているんだ……!」

状況が把握できず一人の兵士が苛立つ最中、近くにいた赤城は冷静に状況を整理していた。

(通信機器の異常……それに時限式の爆弾、それとも遠隔か。だとすればこれはERRORではなく人間の仕業……まさか騎佐久達がまた本部を狙ってこんな仕掛けを……?いや、まだわからないな。ERRORが必ずしも兵器を利用出来ない訳じゃない……)

更に深く考えようとしたが、各地で起こる爆発は一度や二度で収まりはしなかった。

次々に別の場所で爆音が聞こえはじめる。やがて人々の悲鳴が数を増し、基地内の兵士が次々に爆発の起きた場所に向かいはじめていた。

「この建物も危険だ!皆早く外に……!」

そう言って男の兵士が銃を持ったまま手を上げると、自分が先頭に立ち建物内にいる人達を避難させようと誘導しながら階段を下り建物から離れていく。

だが赤城は一人その場に残ると、口元に手を当て冷静な面持ちで俯き窓の外から見える光景を見つめていた。

外には既に何名もの兵士が慌しく走っており、病院内の患者達も皆外にある広場に集められていた。

(この爆発……狙いはなんだ?)

BNの基地内で起こる爆発に不自然さを感じる赤城。

冷静に考えてみれば何故このような人気の無い場所に小型の爆弾が設置され、起爆されたのかがまるでわからなかった。

もし人を狙うのであれば人の多く集まる広場のような場所に仕掛けるはず、更に移動手段を断つために為にエレベーターや階段のある場所の付近を破壊してもいいはず。それにここは病院のエリア内、建物の破壊工作が目的で仕掛けるのだとしたら隣接する軍事基地内にだけ仕掛ければいい、何故わざわざ兵士が少なく民間人の多い施設に爆弾を仕掛ける必要があったのだろうか。

(爆発は兵士達の注意を引き付ける為か?だとすれば狙いは───っ!?)

注意を引き付ける───。その言葉に赤城が息を呑み俯いていた顔を上げ、何かに気づいたかのように目を見開いていた。

そして赤城は懐に忍ばせてあった拳銃を取り出すと、急いでこの基地にある司令塔へと向かって走った。

(愚考だったな……最初に聞いた警報音。何故爆発の起こった後ではなく起こる直前に鳴っていたんだ!?)

誘発された混乱。意図的に鳴らされた警報だと気づくべきだった。

どうして何も起きていない基地内で何故警報が鳴らされた?普通、爆音が鳴り響いた後に警報が鳴るはずではないのか。

最初に警報が鳴った時点で基地にいた兵士達はERRORの出現を予想しただろう。

だが次に起こった意図的な爆発による建物内の破壊、これにより警報の原因がERRORではなく人間の仕業。という可能性が生まれるが、これはあくまでもその爆発した現場にいた人間、あるいわ現場に到着した人間にしか分かりえないこと。

その現場を見てない兵士であればERRORとの戦闘での爆発と思われてもおかしくない。

一体誰が、何と、何処で、誰と───通信が出来ないこの状況で、今何が起きているか等本当の事は誰にも分からない。

(だとすれば恐らく……やはりかッ!)

走りながら通路の窓から外の景色を見ると、次々に基地内の機体が発進し飛び立っていく姿が確認できた。

赤城の思惑通り既に機体の出撃許可が出されていた。

対ERROR戦闘用の為に出撃許可が下ろされ発進したのだろうが、それがまた混乱を呼ぶ事になる。

いもしない敵に対し次々に小規模の爆発が起こる軍事基地内、民間人は慌てて逃げ、兵士達は敵を探し、出撃した機体はレーダーの確認をしながらも機体のカメラから撮られた映像を頼りに敵の存在を目視で確認しようとする。

(警報、爆発、出撃。恐らく全て仕組まれている。となれば、これは多数による計画的犯行か……っ)

司令室に向かう途中、通路の真ん中に一人の兵士が倒れているのを確認した赤城は素早く真横にあった部屋の扉を開け身を隠した。

そして拳銃の安全装置を解除した後、もう一度ゆっくりと病室から通路の方に顔を覗かせ状況を把握する。

BNの軍服を着て通路に倒れている男の兵士、頭には穴が空いており血溜まりが出来ていた。

(頭を撃ち抜かれている。やはりここから先にこの騒動を起こした奴がいるみたいだな)

この先からは何処から敵が出てくるかわからない。赤城は部屋から出ると周りに警戒しながら慎重に通路を歩いていく。

ふと天井を見れば監視カメラがこちらを向いており、兵士の死体を映しているにも関わらずこの場に駆けつける兵士の姿は一人もいなかった。

(既に司令室も占領済みという事か……)

本来ならば誰かを呼びに戻るのも手だが、それでは時間がかかり相手に逃げられてしまう可能性が出てきてしまう。

行くか、戻るか。どちらを選択するか一瞬だけ迷いが生まれた時、突如司令室のある方向の通路から拳銃の発砲された銃声が数発聞こえてくる。

(誰かが応戦している!?やはり私以外にも異変に気づいた者はいたか!)

拳銃を強く握り締め赤城は急いで銃声のあった方へと走って行く、その間にも機関銃の銃声や拳銃の発砲音が聞こえてきていたが、赤城が司令室の前に着いた時には既に銃声は止み、辺りは静まり返っていた。

息を呑み司令室の前に立つ、すると自動ドアが赤城に反応し開いていくと、赤城は拳銃を前方に向けいつでも相手を狙えるように身構えた。

扉が開くと同時に漂ってくる血生臭い匂い。

室内の光景は悲惨なものだった、兵士達の無数の死体が辺りに倒れており、数人のオペレーターは椅子に座ったまま頭を撃ち抜かれ死んでいた。

生存者がいない?敵は何処に……銃を構えたまま室内を見渡していくと、一人の女性が机の陰に隠れるように座り込んでいる姿が見えた。

衣服は血で汚れ、左手に拳銃を握り締めたまま苦しそうに俯いている。

「なっ……」

見覚えのある顔、衣服は軍服ではなくここの病院で入院している人が着ている物を着ており、長ズボンの右足首の先からは義足が見え、右肩からは袖が垂れ下がっていた。

「由梨音……?」

見間違えるはずがない。あの体型、髪型、顔つき。そこには紛れもない由梨音本人がその場にいた。

動揺した表情で赤城は由梨音を見つめていると、由梨音は視線を感じたのか顔を上げ、赤城が視界に入った途端目を見開き口を開いた。

「あっ、あかぎ、しょうさ……っ!?うッ……!」

苦痛に顔を歪ませ血で汚れた腹部を拳銃を握り締めている手で押さえ込む。赤城はすぐさま駆けつけると地面に膝をつき体勢を低くして由梨音の前に座った。

「由梨音!?どしてこんな所にッ───!こんな怪我までして……!」

「私は、この義足を用意してくれた人がここにいると聞いて……お礼をいいたくて、ここに……あかぎ少佐こそっ、どうして……」

「EDPが成功した事を直接お前に伝えたくてな……待っていろ、今直ぐ私が敵を……」

「もう、大丈夫ッ……ですよ……。私も、撃たれちゃいました、けど……隙をついて、なんとか倒せました……!」

そう言って由梨音は汗を垂らしながら微かに微笑む。

「倒せた?いったい誰だったんだ、この騒動の犯人は」

「司令室を襲ったのは……BNの、兵士でした……」

「なん、だと……?」

思いもよらぬ由梨音の発言に赤城はすぐさま立ち上がり少し移動して司令室の奥を覗いてみると、そこには機関銃を持った男の兵士が頭を撃ち抜かれ血を流して死んでいた。

「どういうことだ……何故BNの兵士がこんな事を……」

「私もわかりませんっ。で、でも。司令室に入ってきた途端に、回りの人に向けて銃を乱射して……うぅッ、ぁっ」

犯人はBNの兵士?いや、まだ確定した訳ではない。NFのスパイによる可能性もあれば、ERRORがBNの兵士の姿をして襲撃したのかもしれない。

結局は誰が、何の為にここまでの事をしたのかがわからないが、今はその事について考えている場合ではない。

由梨音を助けた後に考えればいい。由梨音の苦む声を聞いた赤城は懐に銃を仕舞い直ぐに由梨音の元に駆け寄ると、目が虚ろになり意識朦朧としている由梨音の肩を掴み声をあげた。

「しっかりしろ!由梨音!」

「か、体が寒くてっ……なんか、へんな……かんじです……」

由梨音は撃たれている。そうと分かれば早く手当てをしてもらわなければならない、幸いにも病院はこの建物の真横にある。

だが由梨音はもう自力で立ち上がることもできず、握っていた拳銃を放すと赤城の軍服を左手で摘み弱々しい力で自分の身に引き寄せようとした。

「せっかく、またあえたのに……もう、離れたくない───」

か細い声で由梨音が呟く。そんな弱々しく、死が迫る由梨音を見た赤城は、無意識に由梨音を強く、そして優しく抱きしめると必死に声をかけつづけた。

「私もだ、私もお前と離れたくない。大丈夫だ、今すぐ私が病院に連れて行く!すぐ近くだ、それまで絶対に死ぬな!由梨音ぇっ!!」

嫌だ、失いたくない。もうこれ以上、仲間を失いたくない───。

由梨音が弱っていく姿を見て赤城の全身は震え、目には涙を浮かべていた。

EDPが終わり由梨音に会いに行けたというのに、きっと由梨音の喜ぶ姿を見られると期待していたのに。

最後の戦いが終わった後、これからどう生きるか、どう過ごすかを二人で決めると約束したのに───!。

「もう、手遅れなら……最後は……赤城しょうさに、抱きしめられながら……っ」

その由梨音の言葉に赤城の目から涙が零れ落ちる。そして抱きしめていた由梨音を体から少し離すと、虚ろな瞳をした由梨音と真正面に向き合い声をあげた。

「馬鹿者がッ───弱音を吐くな!!減給にされたいのかっ!?」

もう、ダメかもしれない───。そんな事考えたくもないのに、血塗れの由梨音を見ていると嫌でもそんな感情が込み上げてきてしまう。

「聞いてください、赤城少佐……わ、私……ずっとまえから……赤城少佐にっ、言いたことが、あったんです……」

向かい合う二人。由梨音の口からは荒い吐息と共に自分の死が近い事を意味するかのような言葉を浴び、赤城は大粒の涙を流しながら由梨音の言葉を待った───。

「赤城少佐───」











「死んでください」




───赤城の胸元に硬い物が当てられる。懐から拳銃が抜き取られており、その拳銃の銃口が赤城の胸に当てられていた。

そして引き金が引かれる。

一発、二発、三発……無音だった司令室に何発もの銃声が響き渡った。

そして全弾撃ちつくした後にニコリと笑みを見せた由梨音の顔は、いつもの可愛らしい表情だったが、向かい会っている赤城は見開いた目から涙を流し、そんな由梨音のあどけない表情、そしてその綺麗な瞳をじっと見つめ続けていた。

声が出せない。

赤城は微かに口を開き、声にならない微かな音のようなものを口から発しながら横に倒れた。


───これで邪魔者は消えた。正直に言えば赤城の登場は予想外だった。

司令室で偶々監視カメラに映った赤城の姿に気づけたから良かったものの、もし駆けつけた兵士が普通の兵士だと思い真正面からまともに戦っていれば自分が殺られていたかもしれない。

だからこそ由梨音は態々殺した兵士の機関銃を拾い自分の持っていた銃も使って交互に引き金を引き、恰も誰かと戦いを繰り広げていたかのような状況を連想させ、更には他人の血液を自分の服に塗りこの演出をする必要があった。

それ程までの手を尽くし警戒しなければらないのは赤城という人間は他の人間と比べて優秀であり、危険な存在の一つであったからだった。

……さて、もうここには用は無い。司令室でやるべき事、そしてこれからの準備は全て終えた。

後は例の場所に行くのみ。

由梨音は近くに倒れている兵士の死体から拳銃を取り上げると、それを左手に持ったまま義足に慣れた足取りで司令室を後にした。

全ては計画通り。由梨音が窓の外を見ればいもしない敵を兵士達が必死に探している。

既に全ての爆弾は起爆済み、ただ建物の所々に爆炎が上がっており、兵士達の消火活動が行われていた。

ちょっと情報操作と少量の爆薬を使っただけでこの有様、実に滑稽な姿だ。

後はこの基地の地下格納庫に行くだけ、通路には誰一人として兵士の姿は無く、由梨音は悠々とした態度で歩いていた。

だがその時、銃を持った兵士が二人通路の角を曲がって由梨音の前に現れる。

───2回引き金を引いてまた銃を下ろす。

由梨音の足は止まらない。現れた二人の兵士の頭を正確に、しかも一瞬で撃ち抜いたのだが、それは撃たれた兵士達本人ですら気づかない程の早業だった。

兵士達は訳も分からずその場で痙攣を起こし、自分は撃たれたという現実をようやく理解しかけた時には既に息絶えていた。

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