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第117話 幸せ、平等

───BNのEDPが開始される1時間前。赤城が乗るリバインは長い道のりを終えBNの本部に到着していた。

黒い軍服を身に纏い、赤城は一人機体収納庫から出るとそのまま由梨音のいるBN本部最大の軍事基地にある病院に徒歩で向かっていた。

理由は二つ。一つは単純に距離が近いから、二つ目はBN本部の町並みをこの目で見て回りたかったからだ。

「綺麗だ」

ふと言葉が漏れてしまう程、赤城の想像していたBNの本部は緑豊かな場所だった。

前にNFの襲撃が有り、修復はまだ完全には済んでいないもののこの町ではBNの機体だけでなくNF・SVの機体が修復作業を行っている。

不思議なものだった、この町ではどの軍人がどの軍服を着ていても町に住む人々はごく当たり前に生活している。NFの町では起こりえない光景が簡単に現実となっていた。

(一ヶ月前までは敵同士だったと言うのが信じられん、NFはもっと早くBNと協力をしていればより良い未来に出来たはず……)

そもそもNFとBNが敵対していた理由は『神』の存在だった、その神が消えようやく人類が団結した時には、既にERRORの勢力は人類以上のものとなっているが、人類はもっと早く気づくべきだった……等と今更悔いても仕方ない。

早く平和な世界になってほしい、その世界ではもう人類同士で殺しあうような事が二度と起こらない世界にしたい。

自分と同じ境遇に合わさせない為に、人々が幸せに暮らせる楽しい世界に───。

「おねーちゃんかっこいー!」

横断歩道を渡るため信号待ちをしていた赤城だったが、幼い子供の声を聞き何気なく声のする方に顔を向けると、そこには二人組みの少女が立っており、一人の少女は黒い帽子を被っており、瞳を輝かせながら赤城を見つめ、もう一人の少女は右手に小さな花束を持ったまま恥ずかしそうに自分の顔を隠していた。

「だ、だめだよ。しらない人にそんなこと言っちゃ……」

「だってだって!とーっても黒くてすーっごいにあってるんだもん!わぁ~!」

余程赤城の黒い軍服に黒い軍帽が珍しいのだろうか、少女はぐるぐると赤城の周りを動き回っている。

たしかに赤城の着ている黒い軍服はNFの少佐以上の地位を獲得し、更にDシリーズの戦術・技術審査をA級で合格、更には実戦での戦績を評価され初めて着用を許される代物。

赤城程の地位と戦果を上げている者であれば軍服の色や形を自分の好きに変更して自分オリジナルの物を特注で作ってもらう事が可能になるが、赤城はそれを拒否して今の軍服を着用している。

「ありがとう、すまないが道を開けてくれ。渡りたいんだが」

既に歩道の信号は青に変わっており、周りにいた人達は皆渡っているのに対し、赤城だけが周りをうろちょろする少女によって動きを止められていた。

「ほぉーら~!じゃまになってるでしょー!」

花束を持った少女が恥ずかしそうに赤城の周りを回っている少女の腕を掴むと弱々しく引っ張っていく。

赤城はそんな二人を見て少し笑みを零すと、二人の少女に軽く手を振った後道路を横断しはじめる。

横断した後は一直線に伸びる道を進むだけ、顔を上げれば既に本部最大の基地が姿を現していた。

「おねーちゃーん!」

先程の少女の声が後ろから聞こえてくる、もしかしてまた自分が呼ばれたのだろうかと後ろに振り返ろうとしたが、先程の少女が赤城の左隣にまで走ってくると、勢い良く赤城の手を握って一緒に歩き始めた。

「いっしょに行こーよ!おねーちゃんもあの建物に行くんだよね!?」

そう言って少女が元気良く赤城の向かっている基地に指を差すと、今度は赤城の右隣に花束を握り締めた少女が息を切らしながらついてくる。

「し、しらない人についっていっちゃ、けほっ、だめって、おかあさんが、けほっ……!」

「だいじょーぶだよー!おねーちゃんも兵隊さんだもんね!」

「あ、ああ。私はNFの軍人だが……二人はあの基地に何の用があるんだ?」

その赤城の言葉に花束をもった少女がようやく呼吸を整え口を開き始める。

NFの軍人と聞いても驚かないのを見ると、やはりこの町では他国の軍人について差別は無いらしい。

「わたしたち、おかあさんのお見舞いにきました」

するとそこに元気良い少女が言葉を付け足す。

「ドッキリなの!おかあさんはしらないからすごいびっくりするよね!」

「……つまり無断で許可無く秘密で来たわけか」

だとすれば門前払いをされて終わるだけだろう。当たり前だ、子供だけで軍事基地に入れる訳がない。

医療機関が有るとしても基地には変わりないし、身分を証明する物も何ももっていないだろう。

察するに、二人が母親には秘密でお見舞いに来ているのは違いないだろう、赤城の右隣にいる少女が握り締めている小さな花束がそれを物語っている、花束はお世辞にも綺麗に束ねてあるとは言えない、恐らく二人で花を摘みそれを束にしたものだろう。

「仕方ない、お前達二人だけでは基地に入る事はできん。私が母君の所まで連れていってやろう」

「ほんとに!?わーい!」

子供だけでは基地には入れない、帰れ。などと言っても大人しく帰りそうにない。それに個人的にこの子達と母親を会わせて上げたい気持ちもあった。

こうして赤城は二人の少女と一緒に本部にある基地へと向かう事になった、黒い帽子を被った少女は赤城の左手を握りながら嬉しそうに歩き、右側には花束を持った少女が赤城にお礼を言い赤城の簡単な質問にしどろもどろ答えていた。

その答えを聞く限り二人の少女の母親は元々BNの基地にある病院、今から赤城達が向かう所で働いている人らしいが、体調を崩し今はその病院で休養中らしい。

事情を聞き終えてからそれから何気ない会話を二人の少女と交わしながら基地に向かう。

二人の少女との何気ない日常会話……知らず知らず赤城も笑みを零し二人と楽しく会話をしていた。

久しぶりだった。ERRORとの戦いで常に危険な場所に立ち、ERRORとの最後の戦いを目前とする状況、会話に笑みなど無く、常に緊張感で表情が強張ってしまう。

最近笑ったのはいつだっただろう、思い出せない。そもそも話しの内容はいつも戦いの事ばかりで笑い所など一つも無い。

ほんの一時、楽しい時間を過ごした赤城。気づけば既に赤城達は病院がある基地の直ぐ前にまで来ており、赤城は軍服の懐から身分を証明するものを取り出そうとすると、門の前に立っていた兵士達が赤城に気づき突如敬礼を行う。

「お待ちしておりました赤城少佐」

「ん、私を知っているのか……?」

たしかに基地に向かう前に連絡はしておいたが、まさか門番の兵士にまで名が知られているとは思っておらず、少し戸惑ってしまう。

「はい、兵士達の間で貴方を知らない人はいませんよ。何せEDPを終え無事生還した英雄の一人ですからね」

「ほぉ、なるほどな」

今まで知らなかったがNF、SVで行ったEDPの成功の結果は既に兵士達全員に伝えられ、恐らく誰が生き残ったのか等の情報を公開したのだろう。

「ここに来る事も本部の方から連絡が来ています。どうぞ中にお入りください」

どうやら身分証明書を出す必要も無いらしい、赤城が言われるままに基地に入ろうとしたが、ピタリと足を止めBNの兵士に二人の少女を指を差し口を開く。

「この二人も入れて良いか?母君の見舞いに来たらしくてな」

そう言われて兵士達があどけない二人の少女を見ると、少女は兵士に向かってビシッと敬礼して動きを止め、兵士達もまた笑顔で敬礼をした後手を下ろし赤城の方に向き直る。

「構いませんよ。ただ、子供を連れて行けるのは病院内のエリアだけですのでくれぐれもご注意を」

「分かった。この子達は私が責任もって連れて行く、迷子にはさせんさ。行くぞ、二人とも」

敬礼したまま動こうとしない二人を赤城は横目で見た後一人病院に向かって歩いていく、すると二人はようやく敬礼を止め足早に赤城の元に向かった。

「まってよおねーちゃーん!」

帽子の少女が元気よく赤城の左に。

「う~、手が疲れたよぉ~」

花束を持った少女は敬礼をしていた手を軽く振りながら赤城の右に並び。三人はまた仲良く歩き始めるのであった。


───病院に入り受付に向かった赤城、どうやら二人の母親がいる階の一つ上の階に由梨音の病室がある事も分かり、先ずは二人の母親がいる病室に向かった。

さっきまではしゃいでいた黒い帽子を被った少女はニヤニヤと笑みを見せながら母親に会える期待に興奮を抑えながら歩き、もう一人の少女は急に緊張した表情で自分の胸のドキドキを抑えようとしていた。

「ほら、着いたぞ。後はお前達の───」

赤城の言葉を最後まで聞く事なく帽子を被った少女が勢い良く扉を開けると、駆け足で一人病室に突撃していく。

「おかあさーん!!」

それを見て花束を持った少女も遅れを取るまいと駆け足で病室に入り、赤城はその二人を見送った後ゆっくりと病室に入る。案の定、帽子を被っていた少女が一人母親と思われる女性に抱きつき、女性は驚いた表情で部屋に入ってきた少女達を見たあと抱きついている少女の帽子をゆっくりと外しその帽子をベッドで寝ている自分の膝元に置いた。

「二人とも!?どうしてここに───」

「ねえねえ!びっくりした!?」

母親の声を遮るほどに少女は興奮しながら笑顔でそう聞くと、母親も少女に目を合わせこくこくと何度も頷く。

「うんうん!お母さんと~ってもびっくりしたよ!」

「わーい!さくせん成功ー!」

その浮かれている少女の後ろでは花束を持った少女が照れながら花束を母親に出し母親を見つめながら大きな声を出していく。

「お、おかあさん!二人でおみまいにきたの!はっ、早く良くなってね!」

「あら!二人が作ってくれたのかしら。素敵なお花を沢山ありがとうね」

抱きしめられたまま母親が少女から花束を受け取ると、その少女も気持ちを抑えきれず母親の元に飛びつき抱きついてしまう。二人とも余程寂しかったのだろう、少女達は抱きついたまま中々離れようとせず、母親もまた両手で二人の頭を優しく撫でていくと、部屋に入り口に立っている赤城に気づき深く頭を下げた。

それを見て赤城も軽く頭を下げると、赤城は少女達と出会った経緯と事情を軽く説明した。

「ありがとうございます、それでこの子達をここまで連れて来てくださったんですね。ほら、二人ともお姉さんにちゃんとお礼を言いなさい」

二人を撫でていた手で軽く頭をぽんぽん、と優しくたたくと。二人の少女は母親に抱きついたまま離れようとしないものの、体と顔を僅かに赤城の方に向けて笑顔でお礼を言ってくれた。

「おねーちゃんありがとー!」

「ありがとうございました……!」

二人とも僅かに目に涙を浮かべながらお礼の言葉を言われた赤城もまた僅かに目に涙を浮かべていた。

娘と母親の幸せそうな光景───ああ、早く由梨音に会いたい。きっと由梨音もとびっきりの笑顔で喜んでくれるはず。

「さて、私も友人のお見舞いに行ってきます。またここに戻って二人を責任もって家まで帰しますので。それでは」

そう母親に伝えた後、赤城は軍帽を深く被り一礼した後女性の病室を後にした。

病室を出てからも母親と少女達の楽しそうな声が聞こえてくる、赤城は急ぐ気持ちを抑えつつも、足早に由梨音の病室がある階へと行く為に階段を上り、ついに由梨音のいる部屋の前に到着した。

(ふふっ、私がここに来る事は由梨音も知らない。どんな表情で驚くか楽しみだな)

きっとあの少女達のように笑顔で喜んでくれるに違いない、そう思い赤城はノックもせずに病室の扉を開けた。

「由梨音!会いに来たぞ!」

真っ先に視界に入る病室の奥にある白いベッド、そこに由梨音の姿は無く。

「由梨音……?」

その直後、病院内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

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