第114話 我が儘、身勝手
───たった一発の砲弾で都市を壊滅させるERRORの出現。その砲撃を止めない限りこの世界で暮らす人間達の数が激減していく一方だった。
止めなければならない、そんな事は言われるまでもなく見ただけで理解できる。紳の乗る『白義』は自分に向けられる銃弾をサーベルで弾き・交わしながら徐々にERRORとの距離を縮めていくものの、その他の全ての機体は動けることが出来ない。
唇をかみ締める兵士達。今すぐにでもERRORを止めたい、そうしなければ町で暮らす人々の命が次々に消えてしまう、だからといって咄嗟に操縦桿を動かせば、瞬く間にこの世から消える。
その状況下で羅威もまた腕を震わせ込み上げる怒りを必死に抑えながら、何か隙を見て攻撃できないかチャンスを伺っていた。
「穿真、今どこにいる」
操縦は出来ない、だが仲間との通信は行えた為、羅威はまず自分の部隊メンバー全員と通信を繋げ状況を確認していく。
「ERRORの丁度腹の下だ、あの馬みたいな長げえ胴に風穴を空けてえんだけが最悪な事に四方から狙われちまってる……!」
本来なら完全に懐に入ってる状態のエンドミル、しかし頭上にあるERRORの腹部には無数の砲口が突き出ており、周りにあるERRORの6本の足からも腹部と同じ砲口、銃口が存在し全ての機体に向けられていた。
「さすがにこれ程の数で撃たれたら俺のエンドミルのドリルを使っても弾き返せねえ!せめて少しでも誰かが注意を引いてくれれば……」
穿真がそう言うものの、注意を引く事は死を意味してしまうこの状況で安易に動けることなど出来ない。だが誰かが動かなければこの状況を切り抜けることが出来ないものまた事実。
「私が囮になる……だからその隙に皆はERRORを止めて」
そう言って痺れを切らし操縦桿を握る腕に力が加わっていく香澄。だがその香澄の動きに気づいた羅威が声を上げた。
「止めろッ!勝手な真似をするな!」
羅威の怒号に続いてエリルもまた口を開き香澄を止めにかかる。
「そうよ!早まっちゃだめ!」
「仕方ないじゃない!この状況をどうにかするには誰かが囮になる必要があるのよ!」
「それを決めるのは香澄じゃない。私達皆よ!それに、この状況だと上空にいる私の紫陽花が一番囮に向いてる、だからまだ動かないで!」
兵士達は皆焦っていた、誰かを、それもこの場にいる自分達の仲間を犠牲にしなければならない事に。
時間は無制限ではない、一刻を争う時……その状況で、雪音は一人呟いた。
「あの人……なんであんな事言ったんだろう……」
「雪音?」
「私にはあの人が今一番後悔してるように見えました」
哀しげな表情でその言葉を口にした雪音に、羅威もふとアステルについて話し始める。
「あの男もまた戦争で多くのものを失ってきたんだろう……そしてもう、失って傷つくほどの大切なものがこの世に無いのかもしれない」
人間は一人だと脆く壊れやすい。羅威は誰よりもその事実を理解しているつもりであり、アステルの言動を見ても怒りや憎しみの感情より哀れみの感情が強かった。
香澄はそんな同情した羅威の言葉に納得がいかないのか不満そうな表情を浮かべるとやや俯きながら口を開く。
「迷惑な話よね。戦争で大切な人を失ってきたのは皆も同じだって言うのに……」
『違うよ?全然違うよ?』
香澄がため息混じりにそう言葉を吐いた途端、強制的にアステルと通信が繋がれ声が聞こえてきた。
「……聞いてたのね」
『もうすぐさ。もうすぐ……君達も全てを失う。この中でまず誰が先に消えるんだろね、誰が先に消えるんだろうね、誰が先に消えるんだろうね……』
虚ろな瞳で不気味に言葉を繰り返すアステルに穿真達は嫌悪の眼差しで睨んでいたが、雪音だけは一人心配そうな表情を浮かべて話しかけた。
「どうしてそんなこと言うの……。あなたは、本当に皆に死んでほしいって思ってるんですか……?」
『死んでほしいもなにも。君達はあのERRORに勝てると本気で思ってるの?勝てませんよね、負けますよね、死にますよね。それだけですよ、それだけ』
EDPの結果など既に出ている、決まっている。だとすれば後は答えが出るまでの過程がどうなるか、そこだけがまだわからない。だから今アステルは予想し見届けようとしている。
「負けない為に一緒に戦いましょうよ!皆の力を合わせればきっとERRORにだって勝てます!!」
『僕が強いからそんな事言うんだろ?……やめてよね……僕から見れば力欲しさに雑魚が擦り寄ってきてるようにしか見えない……』
アステルの言葉を聞いてもなお必死に呼びかける雪音だが、彼女の思いが彼に伝わることはなく、どんなに言っても軽くあしらわれる雪音を見ていた穿真は、高ぶる感情を押し殺しながら声をかける。
「雪ちゃん。これ以上こんな奴に構わなくいいぜ、俺達には俺達の役目があるだろ?」
「でもっ……。わかりました……」
穿真の言葉に雪音は残念そうに返事をする。結局自分の訴えはアステルに届かず、助けてくれることはなかった。
「なあエリル、一つ紫陽花に試してもらいことがあるんだけどよ。あの分身の術、やってみてくれ」
唐突に穿真が出した提案、それは前に紫陽花が見せた自分の分身を映し出す技術の使用だった。
咄嗟に分身の術と言われ気が付かなかったエリルだったが、直ぐに穿真があの技の事を言っているのが理解できた。
「あー、分身の術って……。で、でも。あの技がERRORに通用するかしら……」
相手はERROR、Dシリーズのようにカメラを通しモニターを通して姿を見ている訳ではない。
だが、穿真の提案を聞いていた羅威は小さく頷き何かに気づくと、操縦桿を強く握り締め口を開く。
「可能性はある。見た感じ奴らは機械とERRORの融合体、紫陽花の力が通用するかもしれない」
「……そうね、それにこのまま何もしない訳にはいかないもんね。わかった、私の紫陽花を使ってやってみる!それでもしERRORに隙が出来たら頼むわよ……!」
「「任せろ」」
羅威と穿真が同時に返事をしつつ機体をいつでも動かせるように身構える、それに続いて香澄と雪音も操縦桿を握り締めると、エリルは大きく深呼吸をした後SRCを起動させる。
『─SRC起動─』
「咲いて、紫陽花!」
エリルの一言で紫陽花の目が閃いた瞬間、無数の紫陽花が次々に出現すると一斉にERRORを取り囲んでいく。
予想外の機体の出現にERRORの体内から生え出ている砲口と銃口が一斉に動きを見せると、そこに居もしない紫陽花目掛けて全兵装攻撃をし始める。
これもDシリーズや神を元にして作られた肉体だからこそ招いた結果。ERRORには無数の紫陽花が見えていた。
「作戦成功!紫陽花の分身にERRORが惑わされてる!今のうちに体制を立て直して!!」
エリルの声が通信で戦場にいる全ての兵士に伝えられると、全ての機体、戦艦が動き始める。
艦隊は次々に装備されている武装の照準を神に向け、地上に待機している機体が一斉に銃を構える。
誰一人引く者はいない、誰一人としてこの場を逃げる者はいない。
『なんで……?』
アステルがふと呟いてしまう。それ程までその光景が不思議でしかたなかった。
カメラを通して機体を操縦する兵士達の姿を見ていたが、機体の操縦者の半数以上が自分と歳が大差変わらない子供が乗っている事を知り驚愕している。
もしあの場に自分がいたら、自分はどうしていただろう。あんなERRORを、強大な敵を前に、あんな目でERRORを見つめられるだろうか───。
今の自分なら、どうだ?……もし、もしも。まだ自分に守りたい、愛している人達が生きていたら、自分もあの兵士達と同じようになれるだろうか。
いいや、そう考えている時点でアステル、彼はこの場にいる兵士達のようにはなれない。
何故ならこの戦場に、何も失わずに今まで戦ってこれた兵士など一人もいないのだから。
皆何かを失いながらもこの場にいる。
そしてこの場で人類のために、生きるために、勝つために、平和のために、『今』戦っている。
皆が強いわけじゃない。自分だけが弱いだけじゃない、それなのに……。
その時、上空を颯爽と飛んでいた白義の両肩から放たれたLRCがERRORの右肩に付いてある大砲を破壊。更にエリルの乗る紫陽花が紫色に輝く翼を大きく振るいHRBをERRORの左肩に直撃させ先ずはERRORの最大火力兵器を破壊する。
更に紳の指揮する地上部隊の一斉攻撃によりERRORの足に生えていた武装を次々に破壊し確実にBNの被害を減らしていく。
「その調子だ、地上にいる機体は全機ERRORの左足に火力を向けろ。あの巨体で走られたら敵わんからな」
地上部隊は一斉に移動開始、攻撃対象は聳え立つ3本の左足。ERRORもそれに気づき体勢を整えようとする
が、右からは上空部隊からの一斉攻撃により妨害されていた。
「遠慮はいらないよ!こんがり直火で焼いてやるから!」
飛行戦闘機部隊は集束焼夷弾を使用し灼熱の雨を降らせERRORの右半身を焼き焦がし、戦闘ヘリは搭載している全てのミサイルを放つと固定砲台によるガトリング砲を使用しERRORを攻撃していく。
「これだけ大きいと外す心配がないな!おらおらおらァッ!鉛玉なら幾らでもくれてやるぞ!」
焼きただれたERRORの皮膚に強烈な弾丸が突き刺さり命中した箇所を破壊していく、ERRORが撃墜させようと体の銃口を戦闘機に向けるが、瞬く間に移動する白義のLRSによって次々に破壊されていく。
だがその損傷もERROR全体から見ればまだ軽症に過ぎない、巨大なERRORが右腕を一振りするだけでその起動にいたヘリや戦闘機が軽々と破壊されてしまう。
「攻撃の手を緩めるなッ!一発でも多く奴の体に弾丸を撃ち込めッ!」
『『『了解ッ!』』』
今、隣で散っていた仲間の為にも、引き金は引き続ける。
涙を流したっていい。悲しんだっていい。その涙を拭い、その鼓動に答えられるか。
「全ての艦隊に命令します、まずはERRORの左の前足から……砲撃を開始してくださいッ!」
風霧唯の指揮の下、並列に並んでいた全ての戦艦はERRORの左足へと集中砲火を始まる。
次々に放たれる対艦ミサイル、ERRORに抵抗させまいと地上にいる我雲達はERRORの体から次々に出てくる武装目掛け機関銃を撃ち続けていく。
が、それにも限りがある。撃ち続ける弾丸の数が無限じゃない、どれだけ多く撃ち続けても必ず隙が生まれてしまう。
「行くぞ神威。遠慮はいらない、お前の力、思う存分発揮させろッ!」
雷光が走る。聳え立つERRORの足を伝って高速で駆け上っていく神威、その過ぎ去った後は強烈なプラズマにより肉を裂き、黒く焦がしていく。
次々にERRORの肉体から弾丸や砲弾が神威に向けて放たれるが、黄金に光り輝く神威は両手のプラズマを放ちERRORの攻撃を無効化、更にその速さで一発の命中も許す事無く颯爽と駆け抜ける。
「この程度の攻撃で俺を止められると思うな───っ!?」
突如神威に襲い掛かる衝撃と重圧。ERRORの左手が神威を叩き潰そうと振り下ろされていた。
「言った、はずだ……ッ!!」
機体から溢れ出す雷───神威はERRORの一撃を受け止めると、全身を輝かせ高出力のプラズマで全身を覆い、自分に振り下ろされた巨大な手を破裂させ指を吹き飛ばしていく。
「俺は───止まらない」
止まらぬ男は羅威とは別にもう一人いた、両手に付いた巨大なドリルを使いERRORの左足を貫く一機の機体。
「何度再生したって何度でも破壊してやるぜ!てめえらERRORにやられた分、百万倍で返してやんねえと気が済まねえしなッ!!」
既にBN艦隊の総攻撃によりERRORの左足は酷く損傷しており、エンドミルの特攻も加わりあの巨大な足の1本がぶちぶちと肉の引き千切られる音と共に捥げ落ちてしまう。
夥しい血液が足の付け根から吹き出ていくのを見て穿真は笑みを見せると次の左足へと機体を走らせる。
「まずは1本、残る足もこの調子で……っ!」
突如背後で起こる爆発、何事かと穿真が振り向いてみると、そこには薙刀を回転させエンドミルの背後にまで迫っていたミサイルを叩き落とすハルバード守護式の姿があった。
「危ないですよ穿真君!油断大敵です!」
「おお!サンキュー雪ちゃん、ありがとな。油断しねえように気をつけていくぜ!」
穿真にお礼の言葉を言われて少し顔を赤らめる雪音。穿真は直ぐに別の足へと移動しようとした時、ERRORが全ての膝を曲げていることに気づく。
その瞬間、ERRORは一瞬にして姿を消してしまった。
「野郎、跳びやがった」
尋常じゃない脚力により地面には大きく亀裂が走りまだ立っていた建物が次々に崩壊していく。
ERRORが大きく跳躍し、着地をした場所。それはBNの艦隊が並ぶ場所だった。
左足を1本失いつつも何とか着地した場所に踏み止まるERROR、狙いはBNの艦隊。
「しまった───ッ!」
焦る紳、今ここでBNの艦隊を失うことは敗北を意味しているが、その他にも艦隊の中に自分の妹、唯の乗る戦艦があったからだ。
「唯……!」
自分達のいる都市の中央から艦隊との距離は大分離れている、今ここで全力で機体を走らせたとしてもERRORの攻撃を止める事は不可能だった。
だがその時、数十発のミサイルが次々にERRORの全身に命中し爆発を起こす、その隙に乗じてBNの艦隊は一斉に後退しつつ攻撃を再開していた。
「援軍?まさか……」
ミサイルが向かってきた方向へと視線を向ける紳、そこには自分の予想通り騎佐久が率いるNFの部隊、空中要塞アルカンシェルの姿が上空にあった。
思いもよらぬNFの援軍にBNの兵士達も驚きを隠せず、そして機体の通信機からは騎佐久の声が聞こえてくる。
『よく聞けBN!お前達の役目はもう十分だ、引け!これより核兵器を使用しERRORに止めを刺すッ!』
『核兵器を使用する』……その言葉が今、どれだけ頼もしく兵士達に聞こえただろうか。
この強大な化物を抹殺するには最早手段を選んでる場合ではない、一刻も早く息の根を止めこの世から消すしかなかった。
『お前達にも分かったはずだ、あのERRORは攻撃を受ければ受ける程力を増し強くなっている。これ以上化けられては核すら通用するかわからなくなる。そうなってからでは遅いんだ』
静かな口調だからその声は力強く、訴えかけるようにBNの兵士達に今の心情を伝えていく。
騎佐久は焦っていた。BNは切り札を失ったにしても、連携攻撃でERRORを翻弄し押されつつも確実にを与えていた。それなのに、今BNがあの目の前にERRORに勝てる姿が想像できなかった。
都市を一撃で葬る大砲に体からは無数の重火器が現れ、驚異的な再生力で損傷を修復し、幾ら破壊しようが弾丸をぶつけようが、ERRORは一度も怯まず堂々と立ちはだかっている。
ERRORには動揺した様子も戸惑った様子もない。無数の紫陽花が出現した所でERRORに迷いがあった訳ではない、ただ目標が増えただけでありその目標に向かって攻撃をした、それだけのこと。
『俺は……NFは、人類を脅威から守るのが役目。紳、お前の思想は理解しているつもりだ。だが人類が絶滅しては元も子も無いだろ!?……この艦にいる兵士達……俺についてきてくれた者達は皆俺と思いが同じ。だから俺は躊躇わない、人類の為に核兵器を使用する───今すぐ引け』
二言は無い。そう言うかのような騎佐久の強い視線。
その目を見ていた紳はこの場を冷静に分析していく。騎佐久の言う通り、BNの猛攻撃でたしかにERRORに傷を付ける事は出来たが、どれも致命傷には至らず着々とBNの戦力が減ってきている状態。
だからといって簡単に引き下がる決断など出来るはずもない、ここで下がるという事はこの戦場で散っていった兵士達の死が全て無駄になるということ。
自分の判断で何千何万の人間が消えた……それは1度の事ではなく、多くの兵士が紳の指示により命を失っている。
だとすればその死を無駄にさせない方法は一つ。この場に残り戦い続け、勝利を手にすることしかないのではないか?
「お兄様」
額に汗を滲ませ迷い、躊躇う紳に唯が囁いた。
「私たちBNだってお兄様と思いは同じ。皆お兄様の命令には誇りをもって動いています。そして、お兄様の苦しみ、痛みは、私たちBNの苦しみと痛みでもあるんです。だから皆で……背負っていきましょう」
もうこれ以上の戦いは無駄な犠牲を出すだけの愚かな選択なのかもしれない。
いや、かもしれないのではない。間違った選択であり、正さなければならない。
ならばその思いを胸に命令するしかない。彼等は軍人であり、その指揮官は紳なのだから。
「……ありがとう、唯」
「私は、この場にいる皆の代表として言ったまでです」
以前までの気弱な唯はもうそこにはいない。凛々しく逞しくなった彼女は、紳を支えられる程の存在となっていた。これ以上負荷を、責任を紳一人に任せてはならない。それはBNにとって結果的に壊滅をもたらす事になるだろう。
紳は静かに、大きく深呼吸をすると、全機体に向け通信を繋げた。
「全部隊に命令する。NFの核攻撃に巻き込まれる前にこの場から退却しろ。以上だ」
その紳の決断と命令はBNの兵士達全員が納得できるものではないのかもしれない。今更引く事はこの場で戦ってきた兵士達にとって悔しくて、辛くて、苦しい結果になる。
しかし、これ以上戦えば全滅は免れない。勝ち目の無い戦いに誰かが終止符を打たなければ、皆は死ぬまで戦い続けるだろう。
勇気ある撤退……などと奇麗事を言うつもりはない。無様と思うならそれでいいだろう。
紳の命令により全艦隊、全機体がERRORから離れようと都市から退却しはじめるが、それを見ていた一人の青年は小さく呟いた。
『そうですか』
その言葉をきっかけに、突如NFの空中戦艦アルカンシェルが異常な動きをし始める。
操作していないにも関わらず敵であるERRORに攻撃目標がセットされ、核兵器を発射する為の砲門が動く。
『これはっ……馬鹿な、艦が遠隔操作されているだと……』
艦内の兵士達の操作は一切受け付けない、それ所か艦の操作すら不能に陥っていた。
『そうですかそうですか……。結局そうですか、そうですか、そうなるんですね、そういうことなんですよね、僕の言った事覚えてます僕の言った事覚えてます?僕の事は、僕のこと……分かりました』
全ての原因はアステルの意思、そしてアステルが乗るリバインに似た黒い機体。
『MFE-デルタ』の絶対的な力であった。
『止めろアステル!BNの退却がまだ済んでいない!今撃てばあの場にいる人間が全員死ぬぞ!?』
『……僕は今、とてもがっかりしているんですよ』
騎佐久の言葉を無視してアステルは寂しそうに喋り始める、その間にも核ミサイルを放つ砲門は動き、いつでも核を撃てる状況にまで準備が進められてしまう。
『僕達の制止を振り切って愚かな選択をしたBNが、命を懸けてERRORと戦う。それは別に良いですよ、BNの勝手です。だから僕はこの戦いの結末がどうなろうとそれを見届けようと思っていました。それなのに……なんですか、この茶番は』
騎佐久の呼び掛け、そして紳の決断を『茶番』と言い放ち、気だるそうにアステルは言葉を続けた。
『せっかくBNの兵士達が意気揚々と無意味に戦って死んでたのに、結局最後は戦いから逃げて核兵器に頼るんですね……。あああああああああああああああああああああああああもういいですよ。核で終わらせるんですよねはいはい。現在艦に装填してある核ミサイルの数は8発……。全部僕が押してあげます』
アステルの言葉に戦場に張り詰めていた空気が凍りつくかのように静まり、兵士達は皆動揺していた。
BNだけではない、騎佐久が率いるNFの兵士達も愕然とし言葉が出ない。
もし今ここで核兵器を放たれた場合、絶対に核兵器の爆発に巻き込まれ命を落とす。
それを防ぐには戦艦や機体を全力で走らせERRORから遠ざかるしか方法はなかった。
『皆仲良く死んでください』
アステルは誰の意見も聞いていない、誰の言葉も聞こうとしない。
皆に考える時間も逃げる時間も与えないまま一人で勝手に決めてしまう。
もはや彼の心に罪悪感というものは存在しない。薄っすらと笑みを浮かべながら彼は、8発の核ミサイルをERRORに向けて同時に発射させた。
それこそ今までの全てを無意味にする結果であり、最強の力を手にした青年の世界の結末だった。