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第113話 戦火、炸裂

───ERRORの巣があるとされる荒廃した都市へと向かう五つの機体、そしてその後方には自動で穿真の後を追いかけるELAの姿があった。

いつERRORが出現するかわからない状況、羅威達はレーダーを確認しつつも、機体のメインカメラを通し周りの様子を伺っていた。

ERRORが現れるとすれば地中からの奇襲、あるいは都市建物の中、あるいわ建物の影からの奇襲。

不安要素、警戒するべき部分は上空より地面、だが万が一の可能性も考え上空から4人を見守る紫陽花に乗るエリルが口を開く。

「上空から見る限り今の所変化は無いわね。穿真の言った通りこのままなにも出てきてくれなければいいんだけど」

穿真も、そしてエリルも。軽く冗談半分で言ったつもりの言葉だったが、羅威達が都市の入り口に入ってからもERRORが出現する事はなかった。

都市の中に入るものの、無音。何一つ物音が聞こえない不気味な空間。

いつERRORが出現してもおかしくない、羅威達、そしてBNの兵士達にも緊張感が膨れ上がっていく。

……しかしどういう訳か、とうとう羅威達は何事もなく都市の中央へと辿り着くことに成功してしまう。

「絶対おかしい、何であいつら攻めてこねえんだ」

ピリピリと緊張の張り詰めた空気と、始まるはずの戦闘が始まらないこの不気味な時間に落ち着かない穿真。

「どうしてでしょうね……」

雪音もこの耐え難い不安にレーダーばかりをチラチラと横目で確認するものの、全くERRORの反応が見えない。

「落ち着いて、まだわからないじゃない」

そんな雪音の様子を見ていた香澄が冷静な表情で喋り始めると、羅威も続いて喋り始める。

「全くだ。それに、ERRORが動くのは俺達BNの部隊が都市内に侵入してからかもしれない。ELAの取り付け作業を速やかに済ませるぞ」

自動でついてきていたELAを神威がゆっくりと誘導し都市の中央にある公園の広場に止めると、ELAの設置作業に取り掛かる。

そして設置が終わると羅威は紳が乗る艦へ通信を繋げ、ELA終了の報告を行う。

「ELAの設置は怖いほど順調に成功した。後は残りの艦隊が都市に進入するだけだ」

『ERRORの反応は無し、か。わかった、俺達も直ぐに向かう、それまで周りの警戒を怠るな』

「……なあ紳、信じてはいるんだが。本当にERRORの巣はこの地下にあるんだろうか……?」

『不安になる気持ちはわかるがこの情報は間違いない。現にNF・SVが行ったEDP箇所にはERRORの巣があっただろ』

「そうだよな……すまない」

そう言って羅威が紳との通信を終えようとした時瞬間、微かに機体が揺れているのを感じた。

小刻みに振動する揺れ、地鳴りが微かに機体の外から聞こえてくる。この傾向……間違いない。

「ERRORだ」

揺れは次第に大きさを増していく。来るなら来い、覚悟は出来ている……そう思い羅威達5人は操縦桿を強く握り締める。恐らく地面を突き破り地下から這い出てくるであろう、どこから出てくるか予想がつかない為、レーダーに視線を向けERRORの出現位置を確認しようとした。

地面の揺れは更に増していく。老朽化した建物は次々に壁に亀裂を走らせると音を立て崩壊し土煙を上げていく。

次第に地面にも亀裂が走りはじめた、高速道路は瞬く間に崩れ、建物が亀裂に飲み込まれていく。

「全機上昇しろ!倒壊するビルの下敷きになるなよ!」

羅威の声と共に地上の4機が同時に上昇すると、次々に倒れてくるビルの間を潜り抜け危機を乗り越える。

「おい羅威!ELAが……ッ!」

都市の中央に設置したELAだったが、地震の影響で発生した亀裂により傾いてしまうと、そのまま亀裂の中に飲み込まれるように落ちていってしまう。

「心配するな。ELAはまだ艦に二つ予備が残っている、それよりこの揺れの大きさと長さ、今まで俺達が知ってるものじゃない」

地面どころか、都市に漂う空気すら振動するように空間が微かに震え建物についてある窓ガラスが次々に弾け飛びはじめていた。

「ったく。一体どんな化け物が登場するって言うんだよ!」

そう言ってふと穿真がレーダーに視線を向け、また正面のモニターに視線を戻したが。無意識にもレーダーを二度見してしまう。

「……あ?」

先程まで自分達の機体の反応しか無かったレーダーが、何故か真っ赤な色に染まりその色しか見えなくなっていた。

「なんだこりゃ。おい羅威、レーダーが壊れたぞ」

指を指して軽く笑ってみせる穿真。ふと羅威も自分のレーダーを見て確認すると、自分も同様の現象が起きていた。

「……香澄、雪音」

静かに二人の名を呟く羅威、すると二人もレーダーの異変に気づき緊張した表情になっていた。

「私も……同様の現象が起きてる」

「わ、私もです……!」

巨大で、強大な地鳴りが響く。更に大きく、まるで全ての物を砕くような崩壊音に、全てを理解した羅威は目を見開き全力で叫んだ。

「全機退却ッ!!都市から離れろォッ!!」



───その瞬間だった。巨大都市の地面が吹き飛び何百十トンもの地面の欠片、瓦礫の塊が発射されたかのように吹き飛んでいく。

その衝撃音と振動は近くにいた機体をぼろきれのように吹き飛ばすと、凄まじい地響きと共に都市へと接近していたBNの艦隊に襲いかかる。

「全員衝撃に備えろッ!」

紳もまた叫び、通信を繋げていた艦内に紳の声は響く。

都市から向かってきた振動、衝撃は戦艦の装甲を次々に剥がし、窓の強化ガラスに亀裂を走らせ粉砕してしまう程だった。

更に都市から吹き飛ばされてきた戦艦とさほど変わらぬ程の巨大な地面の塊が次々に降り注ぐ。

その塊の一つがBNの戦艦に直撃すると、まるで粘土の玩具のようにぺしゃんこに潰れてしまう。

呆気なく、簡単に潰された戦艦は爆発する時間すら無い程あっという間だった、数千人と人が乗る戦艦が1秒もかからない内に破壊され、10秒もしない内にBNの兵士達の死者数は『万』を超えた。

「何が……起こっ…た……」

未だに信じられないとった表情で紳は立ったまま愕然と前だけを見つめていた。

ここまで驚きを露にした紳を見たものはいないだろうが、今は誰も人の表情を理解できるほど冷静になどなっていない。

衝撃に耐えるように机に伏せていた兵士達が徐に顔を挙げ司令室から見える外の景色に目を向けた。

都市で何が起きたのか、まるでわからない。真っ先に想定できるのは巨大な爆発が都市の地下で発生したことによって起こった出来事だろう。その爆風の威力から察すると核兵器にも匹敵する程だろう。

そう、それなら本来なら都市は跡形も無くかき消されているはずだ。だが都市は瓦礫の山に成り果てたものの、たしかにそこには都市の形跡が残っている。

そしてその都市の中央には、都市の三割を多い隠すかのような巨大な穴が一つだけ空いていた。

……謎の穴の正体?そんなもの考えなくてもいい、人間は優秀だから察するだろう。先程地面を突き破り跳躍して出てきた存在が、重力によって引き戻され再び地上に着地し、降臨する様を見れば。

その姿に見覚えの無い人間など、恐らくこの世にいないだろう。全体的に丸みを帯びた体に、巨大な手足。その巨大な太い足で踏みとどまり膝を少し曲げ綺麗に着地してみせると、ゆっくりと体勢を反らし立ち上がる。

全身に神秘的な模様なんてない、あるのは血肉の装甲に広がる巨大な血管ばかり。

純白の姿などではない、その色は見つめていて飽きないような魅力的な赤色。

神々しいものでもない、人間はそう言うだろう。

そこに、BNの前に立ちはだかる一つの存在は、決して人類の味方でもなければ、崇められる存在、希望の象徴などでは断じてない。

それは、この世の神とは真逆の存在価値に当てはまる『存在』





…………でも、それもまた一つの『神』なのだろう。




「神……だと……?」

広大な都市に現れたのは、外見がやや変わるものの、姿形から見て間違いなく『神』の姿だった。

甲斐斗との戦いの末に敗れ、消え果てたはずの神が、BNの最大の敵であった神が、今BNに立ちはだかっている。

「神だな」

紳の横で立っていたダンはそう言って足元に転がる一本の吸いかけの煙草を拾い上げると、ゆっくりと銜え煙草の味を堪能すると、大きく煙を吐き出した後、ゆっくりと振り向き歩き始める。

「おい紳、なにぼーっとしてやがる、既にEDPは始まってるんだぜ。いつまで見惚れてんだ。……にしても、本来ならBNが倒すはずの存在だった神に、よりによってERRORが化けるとはな」

そう言葉を残した後、ダンは司令室から出て行くと、紳は神に出現に動揺しながらも正気を取り戻し声をあげた。

「全兵士に告ぐ。直ちに戦闘態勢に入れ、これよりEDPを開始。各部隊は全ての機体を出撃、艦隊は被害状況の確認も急げ。レーダーの反応から見て恐らくあの巨大なERROR本体が巣の役割になっているだろう、となれば作戦内容も変更する。詳しい内容はおって話す……俺も今から出撃する、遅れをとるな」

それだけ言い残し紳は部屋から出る、既に艦内のオペレーター達は各艦と交信し、機体に乗っている部隊の兵士達は次々に出撃していく。

予想外の出来事に混乱している暇なんてない。不測の事態に思考錯誤する時間すらない。

その場で感じ取り、決断し、行動するしかない。BNは元々神と戦うための組織、ならば決まっている。

「俺達BNが、神を倒す」



───紅き神の出現は、衛星を通しBNだけでなく騎佐久達の率いるNFの兵士達にも映像で知らされていた。

皆が驚愕し、誰一人神が映し出されるモニターから視線が外せない。その中で一人、胸の奥底から興奮が湧き出す人間、カイト・アステルがいた。

血肉で作られた神が、嘗てNFの本部に降臨した神の姿と重なる。見るもの全てを圧倒する程の強大さを誇る存在。それをあの男、甲斐斗はたった一人で捻じ伏せた。

あの男が出来て、今の、この、男が、出来ないはずがない、最強なのだから、最強の、自信、誰よりも強く、誰よりも上に───。

突如、騎佐久達の乗る空中戦艦の艦内に警報が鳴り響く、その訳は格納庫に待機していたアステルの乗るリバインが無理やりハッチを吹き飛ばし勝手に出撃してしまったからだった。

『何をしているアステルッ!今すぐ艦に戻れ!』

直ぐにアステルとの通信を繋げる騎佐久、呼び止めようと話しかけるが、今のアステルには『神』の姿しか映っていない。

「大丈夫です。見に行くだけですから」

それだけ言い終えると、アステルは通信を切り風を切り裂くのような速さでBNのいる場所へと飛んでいく。

アステルの機体の速さだとEDP開始場所へと到着するのに十分も必要なかった、まるで瞬間移動をしてきたかのようにアステルの乗る機体が空間を歪ませ上空で停止すると、既にBNの軍隊が艦から出撃し都市へと向かっていた。

都市に出現したまま神は直立不動のまま、堂々と向かってくる人間達を見下ろしている。

「小さい、まるで蟻だ」

神に対する人間達のちっぽけさにふと笑いがこみ上げてくる。BNの戦力は既に半減し、どう見てもぼろボロボロの状態。何が『死にに行くわけじゃない』だ、聞いて呆れる所か馬鹿馬鹿しすぎて笑みが零れてしまう。

「だから言ったのに……」

戦う前から死んだ人間達が哀れに思えてくる、人類の為に立ち上がった人間が何もする事が出来ず死に、絶望的な状況の中死ぬとわかっていながらも突き進まなければならない。

「無意味な人生───」

笑い、呆れを通り越し、BNの人間達に哀れみを感じるアステル。何の為に生まれ、何の為に生き、何の為に息絶えてしまうのか……。

「無意味な人生だよ……ほんと……」

まるで自分に言い聞かせるように、再びその言葉を呟く。

努力なんて実らない、夢や希望なんてない。ふと目蓋を閉じ、そこに見えてくる景色は、夢や希望に満ち溢れた自分の姿。

このままずっと目蓋を閉じ続けていたい……あの頃は、良かった……。

が、アステルの夢は不意に真っ赤に染まり、思いを寄せていたルフィスの死、命よりも大切な姉、セレナの死───。

目を見開き、額からじんわりと汗が滲み出す、あの時の衝撃が未だに薄れる事は無い……。

「彼等は……何の為に生きて、何の為に死ぬんだろう……」

地を疾走するBNの機体、戦車、戦艦。上空は紳の乗る『白義』と戦闘機が飛び、その後方は武装ヘリコプターが颯爽と飛んでいく。

対してERROR、『神』は先程から一歩も動かないままだが。神の肉体の表面から無数の穴が空き始めると、次々に見たことの無い血肉と機械で作られたERROR、『Doll態』が次々に出撃していく。

さすがに『天使』などとは呼べない容姿……Doll態は神の体内から出てくると、陣形を作り各機体が連携を取るように配置を整えていく。

そこには既に空戦用DシリーズのDoll態までも存在しており、上空から攻める紳達を前に全てのDoll態が手に持っている重火器を構えていた。

「僕は……何の為に生きて、この先……何の為に死んでしまうんだろう……」

Doll態の出現に対しBNの兵士達は誰一人揺るぐ事無く突き進み、全兵士が操縦桿の引き金に指をかけた。

「この気持ち……そうかっ、結局僕は……中途半端なままなんだね───」



───「全機、攻撃開始ッ!」

紳の命令により一斉にBNの兵士達が引き金を引くと、それと同時にDoll態もまた引き金を引き攻撃を開始する。

夥しい程の銃弾、砲弾が一斉に放たるその光景はまるで一枚の壁が押し寄せる程密集していた。

次々に互いの弾丸がぶつかり合い激しい爆発を起こす、それでもBNの機体は止まることなく飛んでくる砲弾を避けながら突き進んでいく。

その状況下で、先陣を切り雨の如く降り注ぐ弾丸を軽々と交わす一体の機体がいた。

「銃ってのは、狙いを定めてただ引き金を引けばいいものだと思ってるんだろう?」

『MFE-黒利こくり』ダンが搭乗する専用機が2丁のリボルバーを構え次々に『Doll態』の胸部を撃ち抜いていく。

「それじゃあ当たらねえさ」

黒利が真っ先にDoll態の前線を突破。一騎当千の如く襲いかかるDoll態をたった1機で相手をしている。

狙撃してくるDoll態を弾丸一発で仕留め、サーベルを片手に接近してくるDoll態はその機敏な動きと巧妙な足さばきでねじ伏せる。

黒利がその場に止まる事はない、常に移動し、立ちふさがる相手を踏み台代わりに蹴ると、的確な狙いで操縦席のある胸部、または背部の動力源を狙い確実に破壊していく。

止める事の出来ない黒利の存在にその場のDoll態が次々にたった1機の機体に狙いを定め始める。

だが、それこそ黒利の思惑。ERRORの陣形をかき乱す黒利の働きによりDoll態の攻撃がBNの部隊からほんの僅かながら攻撃が緩んだ隙にBNの地上部隊が一斉になだれ込む。

「本物の神と比べりゃ不完全すぎるなぁ。おい紳、敵の数が多いが地上は何とかなりそうだ、上は頼んだぞ」

ダンの通信を黙って聞く紳。既に上空もBNとERRORの部隊同士がぶつかり合い、激しい戦いが繰り広げられていたが、地上より劣勢な状況に追い込まれていた。

上空のDoll態は全て飛行可能な空戦用Dシリーズに対し、BNの空戦用Dシリーズは紫陽花を除けば白義のたった一機。

開幕は互いの放ったミサイルに次々に互いが被弾していくが、時間が進むにつれBNの戦力の減りが激しくなってきていた。互いの火力が五分だとしても、相手はDシリーズ。戦闘機や武装ヘリが攻撃を開始するが機動性を張るかに上回る機体の前に次々にミサイルは撃ち落された後間合いを詰められ破壊されていく。

数百を軽く上回るDoll態の数に対し、白義一機だけでは撃墜に少しばかり時間がかかってしまう。

「物量の力……長引けばこちらが不利……速攻で終わらせるぞ───羅威!」

紳の掛け声と共に、事は動き始める。

突如神の足元にある瓦礫の山が吹き飛び一機の黄金、『神威』の機体が浮上していく。

準備は万全、両腕所か全身に電気を帯び青々しいプラズマを身に纏う神威は神の目の前にまで来ると、両腕を勢い良く突き出し、最大出力の電撃を解き放つ。

『─SRC発動─』

「吹き飛べぇええええええッ!!」

羅威の叫び声と共に神威の全身から電磁波と同時に両腕から電撃が放たれる。

その広大な範囲は一瞬にして神の上半身を飲み込み、神の皮膚が電撃により次々に血肉をぶちまけながら弾け飛んでいく。更に神の側で待機していたDoll態も神威の電磁波により次々に爆発を起こし破壊されていった。

───人類の、反撃が始まる。

突然の神威の出現に神の内部から次々にDoll態が飛び立ち向かっていく、しかし既に神への次の反撃が開始されようとしていた。

「次!頼んだぞ香澄!」

羅威の声が香澄に届く。神の足元、そこには既に地中から掘り起こされた『ELA』を神の右足、ちょうど右脛に固定し終えたハルバード守護式の姿があった。

「ELA起動、吹き飛びなさい」

ELAの起動スイッチを押すハルバード、起動音と共に緑色の光を放ち徐々に回転を始める。

「雪音、次は貴方の番よ!」

香澄はそう言ってハルバードの両手にもった薙刀を神の左足へと向けて投げると、もう1機の雪音の乗るハルバードが跳びながら空中で掴み2本の薙刀を両手に1本ずつ持って神の左膝に向かって飛んでいき2本の薙刀を真っ直ぐ突き刺した。

「はい!ありったけの弾丸をぶつけます!!」

それだけは終わらない、突き刺したと同時に両肩のレールガンを突き刺した傷口に銃口を向けると、雪音は機体を最大出力で前進させながら何度も引き金を引きレールガンを連射し傷口を大きく破壊し広げていく。

全ての弾を撃ちつくした後、ハルバードが薙刀を引き抜き神の左膝から離れると、後退するハルバードとすれ違い様に一機の機体が抜き去っていった。

「穿真君!行っけぇえええ────っ!」

神の左膝からは夥しい血液が噴出しているものの、出血は見る見る止まり傷口も再生を始めようとしていた時、穿真の搭乗するエンドミルがその傷口に回転する両腕のドリルを突き刺した。

「相手が化け物だろうが神だろうがぁ!俺のエンドミルにぃッ!貫けねえものは!存ッ在ッしねえええええええッ!!」

エンドミルの全身に内蔵されている全ての電動鋸が起動、全身凶器と貸したエンドミルが神の血を浴びながらも怯む事なく貫き進んでいく。

そしてエンドミルが神の左膝を貫通すると同時に、高速回転した『ELA』が神の右膝を削りきり貫通する。

「エリル!トドメの一撃、任せたぞ!」

神の巨体を支えていた両足が断たれた。大きく傾いていく神の巨体、前方に向かって大きく倒れようとする格好を見て、神の背部に待機していた紫陽花が姿を露にする。

紫色の花びらが宙を漂わせ紫陽花は紫色に輝く巨大な翼を広げると、その翼を神へと向け今まで圧縮していたエネルギーを開放する。

「任せて。エネルギー圧縮完了……HRBハイドレンジブラスター発射!」

両翼から放たれる巨大な翼、無数の花びらを纏い神にぶつけられた光は神の背中の血肉で出来た装甲を溶かし、蒸発させながら無数の爆発が連鎖していく。

恐らく神の内部にいたDoll態がその熱により起爆したものだろう、穴という穴から黒煙が溢れ出し、神は何の抵抗も出来ないまま前方へとその巨体を倒してしまう。

神の前方で防衛線を張っていたDoll態はその巨体を前に成す術なく潰され破壊されていく、一方BNの部隊は既に紳から作戦内容が指示されており誰一人として被害を出していない。

「ヒュ~、やるねぇ。神を跪かせる所か地に頭を叩きつけやがった」

煙草を銜えながら地面にうつ伏せに倒れる神を眺めるダン、戦場で一服できる状況ではないはずだが、神の体内から現れていたDoll態も神威と紫陽花の攻撃を受けてから1機も出ておらず、ERRORの戦力が酷く激減していた。

この好機を逃してはならない。既に紳の命令により艦内にある『ELA』『ELB』が既に持ち出され、神の元へと輸送している、倒れたまま起き上がらない神の背部にELAを起動させ穴を空けた後、ELBを体内に落とし爆発させる魂胆だ。しかし、実際にERRORがそこまで無抵抗だとは思えない、その為ELAの起動が間に合わない場合神の上でELBを起動させる事が既に決まっていた。


───だが……その計画は失敗へと終わる。

一発の砲弾が機体に命中。

一発の砲弾が戦艦に命中。

一発の砲弾がELBに命中。

命中、撃墜。命中、撃破。命中、命中、命中……。

異様な光景だった、一発の弾丸も外れない。放たれた弾丸は全て目標に命中し、破壊していく。

「おいおいおいおい!?なんなんだよこれはッ!?」

穿真が声を荒げ操縦桿を強く握り締める、次々に自機に目掛け飛んでくる砲弾を両手のドリルで弾くエンドミル。周りに立っていた我雲達は次々に撃墜され姿を消していく。

皆は混乱していた。1秒ごとに消えていく『友』、『仲間』。

『おい!どうなって───』撃墜。

声をかける合間なんてない、避ける余裕などない、人一人が死ぬ瞬間の次は、自分の死ぬ順番だった。

『か、各機!応答ねが───』撃墜。

砲弾がどの方向から来ているのか、破壊されていく機体の数が増す程鮮明になっていく。

両足が吹き飛ばされうつ伏せに倒れたままの神、その胴体からたった一本の砲身が出ていた。

たった一本、でもそれが超高速で次々に弾丸を放ちBNの兵士達を消している。

一発も外れない必中の弾丸。ふざけた光景だ……その光景を止めたのは、ダンの乗る黒利が放った一発の弾丸だ。

砲口から砲弾が出てくる瞬間を狙い、一発の弾丸を当てる事で見事にその兵器を破壊する。

沈黙する兵器、しかしそう長くは続かない。誰もまだ気づいていなかった『神』の動き。

破損した両足が膨張を開始、胴体が急激に伸び、両足はまるでムカデのように伸びていく、姿・形を整えるかのように互いの肉片と足が重なりあい、完璧な化身となる。

早いものだ、1分もかかっていない、それでも人類の目の前に立ちはだかる存在は、『神』から『化物』……『ERROR』へと見事に変化していた。

下半身は馬のような胴体に巨大な六本の足で聳え立ち、丸みを帯びていた胴体は角ばり血肉の色も黒く濁っている。

機械と肉体・神とERRORの融合体……まるでケンタウロスを連想させるその凛々しき姿───。

背部からは無数の触手が次々に伸びはじめ、まるで翼を広げるようにそれぞれの大きさの触手が広がっていく。次に胴体からは一定の間隔を空けながらも無数の砲身が出はじめ、目標に狙いを定めていく。更に巨大な両肩から長い砲身の大砲が突き出てており、異様な形をしていた。

ERROR───黒い神は、顔の中央に付いてある紅く光る目を足元の人間達に向け、その場に立ち止まったまま見下ろしていた。


今から、人間が、戦う存在。

それが、今この、目の前の存在。

神より巨大、神より強大、神より凶悪。

あれだけ快晴だった天気は何処へいってしまったのだろうか、空には黒く巨大な雲が姿を見せ、あと少しの時間で日が暮れてしまう……。

はっきりと目に見えてわかる状況、人間達はただただ目を見開き呆然とERRORを見つめることしかできなかった。

戦いは、今から始まる。

人類対ERROR。BN最後のEDPが、たった『今』開始される。

BN残存戦力、戦艦十隻、戦闘機十五機、武装ヘリ六機、我雲五十五機、ハルバード守護式四機、神威、エンドミル、紫陽花、黒利、白義。

残りELA保有数、ゼロ。残りELB保有数、ゼロ。

予備のELB・ELAを積んでいた戦艦は全て撃墜され、切り札を失ったBN。

神との戦いで戦力も半減した今、目の前の神を倒す方法がみつからない。


『それなら……使うしかないじゃないか……』

強制的に通信を繋がれ、一人の青年の声が今この戦場で戦ってる全ての兵士に聞こえてくる。

『核を』

BNの戦艦、そして機体のモニターに映し出されるアステルの姿。

黒いリバインの存在、神との衝突によりほとんどのBN兵士達は気づいていなかったが、そのアステルの声と上空に浮かぶ黒いリバインを見てようやく気づかされる。

『核』という名の絶対的破壊力を持つ兵器の名、そして甲斐斗と良く似た男の姿に、兵士達は困惑したまま口を開けずにいたが、紳だけは違った。

「ほざくな。BNはまだ───」

『全滅してないみたいですけど。もしかして……通常兵器の火力だけで、あの化物を倒せると本気で思ってます……?』

紳を嘲笑い見下した視線を向けるアステル。

アステルの言葉は極端だが、事実だった。例え全ての火力をERRORにぶつけたとしても、本当に倒せるのかが未知数であり、紳も次の言葉が出てこない。

頭を吹き飛ばせば死ぬのか?体を吹き飛ばせば死ぬのか?ERRORのことだ、その尋常じゃない再生能力と生命力を使えば、その二つが成功したとしても生き延びる確立は高いだろう。

『もう遅い……』

姿形を変えた神……ERRORを見ながらアステルは呟き続ける。

『後悔しろ……』

彼の足元には何十もの錠剤・カプセルが散らばっており、冷静を保っていたアステルの呼吸が徐々に乱れていく。

『核兵器を使わなかった事に、引き下がらなかった事に、NFの力を借りなかった事に、無駄な犠牲を出した事に、この戦場に来た事に、神と戦った事に、ERRORと戦った事に、兵士になった事に、人を守れなかった事に、この時代に生まれてきた事に、この世界に生まれてきた事にぃい!!』

蔑み、惨めで、哀れな。人間。

自暴自棄?全く違う。もう自分以外の人間なんてどうでもいい、他人なんてどうでもいい。

アステルの笑い声だけが戦場に響く、ERRORもまるでアステルの叫びを聞いているかのように動かないまま静かにしている。

『もう核は使わせない!僕の力も貸さない!NFの戦力も全て、全てだ!!死ね、死ね死ね死ね死ね死ねッ!!お前達、お前達。BNは、ここで何も成す事が出来ないまま消えるんだ。力の無い雑魚、雑魚雑魚雑魚ッ!くひゃっ、うひ、ひゃはははは!!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』

黒いリバインは空高く上昇していく、まるでこれから起こるただ一方的な殺戮を見物するかのようにBNを見下していた。

『さようなら、BackNumbers』

アステルはそれだけ言い残し強制的に通信を切る。

戦場は静まり返っている、誰も、どの機体も動き出そうとせず、多くの兵士が黙ったまま俯いてしまう。

そして、そのアステルの言葉がまるで合図だったかのようにERRORの攻撃が開始された。

ERRORの両肩の巨大な大砲からの砲撃。無音だった戦場に突如爆音が鳴り響く、だが肝心の砲弾はこの場にいる兵士達に向けられていなかった。

ERRORは前方を向いたまま砲撃、砲弾は肉眼で確認出来ないほどの速さで放たれたまま地平線を越えていく。

「外した……?」

ERRORの足元、瓦礫の山の上で神威に乗る羅威はその砲弾の行く先を眺めたまま考えていた。

羅威だけじゃない、その場にいる兵士達は皆ERRORの行動の意味が理解できず様子を見るようにERRORの行動をただただ見ており、誰も動き出そうとしない。何故ならERRORの全身から出てきた銃口や砲口からは何も発射されておらず、BNの兵士達には一切危害を加えていなかったからだ。

砲撃は続いていく、少しずつだが砲弾を放つ向きを横にずらしながら上半身だけをゆっくり捻り、最初はゆっくりと撃ち続けていたが徐々に撃つまでの間隔が短縮され次々に砲弾を遥か彼方へと飛ばしていく。

ERRORの砲撃の意味と目的。その理由が頭の中で理解したのは、上空にいる紳と、ERRORの前にいるダンの二人だった。

『全機攻撃を再開ッ!今すぐ……今すぐERRORの砲撃を止めろ!』

声を荒げる紳、その声を聞いて兵士達はようやく今自分達がまだ最悪の戦場に残っている事に気づかされる。

攻撃を再開……その命令に一機の我雲が銃口をERRORに向けようと僅かに腕を動かした直後、一面弾丸の壁が自分に押し寄せてくるこの世で最後の光景を見た。

戦場で側にいた仲間の死に、同じ部隊の兵士達が動揺しすぐさま機体を動かすが、その二秒後には先程死んだ兵士と同じ光景を目にする

敵意ある行動。例えどんな僅かな行動にもERRORは反応し、この場にいる全兵士達に向けられた大砲はいつでも砲撃できる態勢を整えている。気づけるはずもない、しかし新たなERRORが誕生した時点で、全ての『人間』は引き金に指をかけられた拳銃を向けられるかのような絶対絶命を迎えていた。

動くと死、抵抗すると死。二機の動きを見てようやく理解できる自分達の立場、現状。

建物のすぐ近くで待機していた1機の我雲、建物を盾にしようと影に隠れるものの、ERRORから放たれた弾丸は建物ごと攻撃し抵抗する者を全てを破壊していく。

動けない、動かせない。死の恐怖で体が震えてくる、機体の操縦桿から手を放す兵士もいた。

だが、それでも動き出そうとする兵士達。危険なリスクを承知でも、動き出さなければならない理由がある。ERRORの両肩から撃ち続けられる大砲の意味を知った者達。この場でただ何もせずにいれば、確実に……人類は滅亡する。


ERRORの敵は人間、ERRORの攻撃する先には人間しかいない。

それなら今、ERRORの砲撃が誰に向けられているものかなど誰でもわかる。

間違いなく人間。しかし、それはこの場にいる僅かな人間などではない、一つの村、一つの町、一つの都市に固まって生息する───無力な人間にだった。

世界では戦争が起きている。それはこの世界の人達なら誰もが知っているだろう。だが一般市民にとってそれは他人事、自分達とは関係の無いものであり、自分達の生活には何も関わってこない。

当たり前のことだが軍人と民間人は住む環境、世界が違う。ERRORとの戦いで幾度と無く命の危険を晒してきた日常と、平和な町でぬくぬくと育ってきた日常。

だから、平和な町にいる一人の青年が学校で受ける授業が暇だからと窓の外ばかり眺めていたって、まさか自分が今命の危機に瀕しているなどと思うはずもなく、それはある村で一人の少女が摘んだ花で髪飾りを作っている時も同じで、ある都市で電車に揺られ帰宅する男性もそうだ。

一発の巨大な砲弾が町の中央に直撃したのが見えると、青年は少しばかり期待し興奮するだろう。この平凡な日常で刺激的な何かが起こった事に不安と同時に興味を惹かれてしまう、学校どころかその町に住む人達は大騒ぎを起こし、重大なニュースになる。もしかしたら今日は途中で下校になるかもしれない、明日から学校に行かず自宅待機になるかも、なんて暢気な事も考えてしまうが、それが自分の死を知らせるものだとわかった直後、少年はただ『死にたくない』と大声を上げる事も出来ず、全身の筋肉が硬直し声も出せぬまま今まで感じたことのない震えに襲われ涙を流す間もなく、たった一発の砲弾の爆発により町ごと消し飛んでいく。

花飾りを作り終えた少女はその出来栄えを満足げに眺めると、それを自分の頭にではなくすぐ後ろで自分の為に花飾りを作ってくれている母親の頭の上にそっと乗せてあげた。

母親はその花飾りを手に取り眺めた後、花飾りを自分の頭に被せ満面の笑みで少女の頭を優しく撫でる。少女は大好きな母親に褒められ頭を撫でてもらえたことが嬉しくて、照れながら後ろに振り向くとまた母親の為に何かプレゼントしてあげようと近くの花を摘んでいく。

幸せ。

それは、幸せで。

一発の砲弾が村に着弾。空気の振動が大地を震わせ地面ごと抉り飛ばす状況下で、母親は無意識に少女を後ろから抱きしめる。暖かい母親の感触に少女の心は暖かさに満ち溢れる。

そして爆風に飲み込まれた二人は跡形も無くなり消し飛んでしまう、恐怖に飲み込まれる前に、痛みに襲われる前に、自分が死ぬと理解する前に。

幸せ。それが

幸せな、最後だった。

後何十秒だろう。

ある都市で走行する電車に乗っていた男性は、掴んでいた吊革を放すと懐に入れてある携帯電話を取り出した。

走り続ける電車の中から見えた光景、一発の砲弾が地平線を超えていったかと思えば、その後空をも覆い隠す程の黒煙が地平線から迫ってくるのが目に見えた。

建物を飲み込み、ビルは倒壊、逃げ惑う人々が次々に爆風に飲み込まれていく。電車内の人間達に逃げ場など無く、例え逃げ出せたとしても迫り来る黒煙から逃げる事は不可能だった。

だからこそ男性は携帯電話を取り出した、混乱し走り続ける電車の中から無理やり扉を開け身を投げる人間がいれば、助かるはずもないのにしっかりと体を丸め衝撃に耐えようとする人間、悲鳴を上げながら別の車両へと走っていく人間。

『愛してる』

相手と電話が繋がったと同時に男性は口を開く。

何度言った所で気が済むことがなければ、何度聞いたって気の済むものでもなく。

言葉にすればするほど、言葉の意味は薄れていき、理解してもらえないのかもしれない。

それでも男性は、周りの人達の悲鳴が響きまわる状況下でも自分の今一番伝えたい思いを声に出し続けた。

電車は瞬く間に黒煙に飲み込まれる。爆風の勢いで電車はまるで空き缶のように簡単に潰れると、回転しながら吹き飛ばされる。もうそこに生きた人間はいなくなった。

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