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第112話 拘る、係わり

───「BNが騎佐久達の部隊と接触したみたいね」

パソコンを前に神楽がそう言うと、甲斐斗の書類を捲る手が止まった。

過去に帰る為の準備、それにはまず巨大な魔方陣を描かなければならない。

その為にまず描く場所を確保し、後はどのように陣を描いていくかが問題となる。

まずは場所……ということで、とりあえず甲斐斗は神楽を格納庫に呼び出していたが、一人椅子に座りながらシャイラから頂いた過去に帰る為の方法が詳しく書かれた書類に目を通していたのだ。

「誰そいつ」

当然のように人の名を口にした神楽に甲斐斗は首をかしげながら神楽を見つめる。

するとその表情を見て神楽も驚いた様子で言葉を返した。

「あら?前に見たじゃない、アステルに命令を下していた男よ」

「知らん……まぁそれで、アステルとBNが接触したってどういうことだ。まさか戦ったのか?」

「そうみたいね。騎佐久はBNを止めようと説得した後、例のアステルの乗る機体が止めにかかったみたいよ」

アステルの乗る機体……今にも鮮明に思い出せる。あの黒色のリバイン、実力は絶対的であり甲斐斗達ですら束になって戦っても簡単に負けてしまうほどの機体……。

「ってことは……BNは負けたか」

当然そう考える。幾らBNだろうが何だろうが、あの機体を前に勝てるわけがない。というか、自分が負けた機体にBNが勝つのは少し屈辱的な感じもするので皮肉を込めて喋ってみたが、神楽はそんな甲斐斗を横目で見ると、小さな笑みをみせた。

「BNが勝ってNFが負けたみたいね」

「ほらやっぱり負けた……ん?何?もう一度言ってくれ」

「だから、BNがあの機体に勝ったみたいよ。今BNは無事に目的地へと艦隊を進めているわ」

目を丸くして『信じられん』と言わんばかりの甲斐斗の表情、もしかして神楽が嘘を言ってるんじゃないのかと疑いの視線を送るが、神楽は自信満々に腕を組みジト目で甲斐斗を見つめ返していた。

「……マジかよ。BNにはデルタに勝てる奴がいたのかよ……俺達でさえあの有様だって言うのに、誰が倒したんだ。紳か?」

「ハズレ。アステルの機体を止めたのはBNの兵士エリル・ミスレイアって女の子よ」

「エリル?女が倒したって言うのか?それはすげえな、そいつはどんな機体に乗ってたんだ」

「どんな機体?……そうね、紫陽花のような機体かしら」

紫陽花のような機体と言われても甲斐斗は実際にエリルの乗る機体を見たこともなく当然花である紫陽花を思い浮かべる、とりあえず紫陽花に手足を生やしてみるものの見るに耐えない機体を想像してしまう。

「何だそりゃ。実際に自分の目で見て確かめたほうが良さそうだな。……にしても、あいつ女に負けるなんて。だっせぇ野郎だ良い気味だ、最強を名乗る資格はねえな~」

そう言ってアステルの無様な姿を思い浮かべる甲斐斗、小さく鼻で笑うとまた手に持っていた書類に目を通し始めた。

そんな甲斐斗の態度を見て神楽は書類を見つめる甲斐斗の前にまで歩いていくと、書類を取り上げ顔を覗き込んだ。

「あら、やけに女を強調するのね。男って女に負けると悔しいものなの?」

「当たり前だろ。もし俺が女と戦って負けでもしたら……いや、負けないから考えなくてもいいか」

「なーんか女性を下に見るような言い方ね……」

神楽が納得のいかない様子、甲斐斗はその隙を狙って神楽が持っていた書類を取り返すと再び広げて続きを読み始める。

「ま、そんな話より今は過去に帰る為の作業だ、どうやって魔法陣をこの格納庫に描くか考えないとな。複雑で巨大な陣を正確に描かなきゃならねえなんて面倒だけどな」

本来魔方陣というものは魔法を発動させる為に魔力を使い描かれる事が一般的であり、大多数がこの方法を使用しているが、今から描こうとする魔法陣は実際に線を描き作らなければならない。

その為に精巧な陣を描くには正確な計算をしながら地道に作っていくしか方法はない───

「その事なんだけど。私に良い考えがあるわよ」

と。神楽が言うまで甲斐斗は思っていた。

「さすが神楽。それで、その考えとはどういうもんだ」

「陣を見てもらえばわかるけど。私と甲斐斗の二人でこの魔法陣を描く事は不可能に近いと思うの。そこで、疲れ知らずの優秀な子を使うことにしたわ。これよ」

神楽の言葉を聞いて甲斐斗は自分の持っている書類を下げると、目の前に立っている神楽の手にはサッカーボール程の大きさをした銀色の球体を持っていた。

最初神楽が何を持っているのかよくわからず、じっと銀色の球体を凝視する甲斐斗だが、突如銀色の球体が揺れると外側の装甲がスライドしていきカメラレンズのような物が現れる。

「うお!?ロボットかよ!」

「そ、しかもこの子はSRC対応の小型ロボよ。原動力はDシリーズと同じで、羽衣の力を借りれば自由に浮遊する事も可能。簡単に言うとフェアリーは戦闘型で、こっちは作業型かしら」

そう言って神楽が甲斐斗にそのロボットを手渡すと、甲斐斗も興味深々で色々と触りながら調べていく。

「レンズはカメラの役割にもなってるし、そこからレーザーを放つ事も可能よ。この子を使う事によって正確なデータさえ入力すればレーザーを使い確実に完璧な陣を描いてくれるわ」

「ってことは俺達が何もしなくても勝手にこいつが陣を描いてくれるってのか!?すげえ!こりゃ楽だな!科学の力は偉大だなぁおい!ははは!」

苦労しなくて済むとわかった途端甲斐斗のテンションが半端なく上がる。

そんな甲斐斗の子供みたいな態度を見ていた神楽は落ち着いて甲斐斗の手からロボットを取り上げる。

「あのね。陣は描けるけど肝心の物がまだ揃ってないんでしょう?」

「ん?魔法を発動させる事の出来る魔力の持ち主の事か?」

「そうよ、陣を描ける用意が出来て、神の残骸から拾ってきたレジスタルがあって。一番肝心の魔法を発動させる人がいないじゃない」

「俺がいるじゃん」

余裕の表情で軽々と答えてみせる甲斐斗に、神楽は手に持っていたロボットを勢い良く投げつけた。

投げられたロボットは甲斐斗の額にぶつかるとボールのように撥ね跳び、甲斐斗は驚きの表情のまま額に手で押さえ蹲る。

「貴方魔法が使えないのよね?……ねぇ?ちょっとは自覚してるの?」

上から見下ろすような視線を甲斐斗に向け苛立つ神楽。無理もない、神楽の言う通り魔法を発動させる為の魔法陣を描き、魔法を発動させる為に集めてきたレジスタルを使い、一体誰がこの強大な魔法を発動させると言うのだろうか。

「冗談だって!痛い程自覚してるっつーの!たしかに今の俺は魔法が使えねえ、一応試してはみるけど、もし無理だったら変わりに他の奴に魔法を発動してもらおうと思ってる」

「この世界で魔法が使える人って言ったらあのアビアって言う人しかいないと思うんだけど……」

「ああ、だからアビアに魔法を発動してもらおうと思ってる。大丈夫だ、俺の脳内では既に過去に帰る為の方法は出来上がってる」

甲斐斗が悩んでいた魔法陣を描く方法が解決されたことで、既に甲斐斗の計画は纏まっていた。

蹲っていた甲斐斗がその場で胡坐をかきいつもの黒い大剣を呼び出すと、自分の横に突き刺し過去に帰る為の方法を説明しはじめる。

「魔法陣は完成したも同然。ってことで後は無限の魔力を蓄える物と、その魔法の発動者が必要になるけど。まず無限に魔力を蓄える物はこの剣を使い今まで集めてきた全てのレジスタルのエネルギーをこの剣に移してもらう。後は剣の魔力を使ってアビアに魔法を発動してもらい無事過去に帰る。どや」

「不安だらけの説明ありがと。でもこの時を超える魔法ってとても難しいんでしょう?あのアビアって子で大丈夫なの?」

「多分大丈夫、アビアはああ見えても魔力と魔法の扱いは上手いし。後は俺の剣にどれだけの魔力が貯まるかだな。今まで集めてきたレジスタルは全部あの機体の中に入ってるのか?」

「いいえ、一度回収したレジスタルは全てこの基地の地下に貯めてあるのよ。神から出てきたレジスタルもあるし、きっと一つに纏めたらすごい量のエネルギーが出せるわね。……そうだ、実際に今から甲斐斗の剣にレジスタルのエネルギーを移せるかテストしてみない?貴方の剣が本当にレジスタルなら基地の設備を使えばすぐできるわよ」

「まじか!ならさっそく試して……みたい所だが。今日はもういいだろう、それは明日にして、今はアビアとミシェルの側にいとくわ」

「……あら、やっぱり二人の事が気になってたのね。今日はずっと二人の側にいるのかと思ったのに、BNの本土に出発した赤ちゃんを見送った後格納庫に行っちゃうんだもの」

「頭の中に色々な問題が貯まっててな……何でも良いから一つ一つ問題を解決してスッキリしたかったんだよ。んじゃ俺は行ってくるわ」

「そう、私はやる事があるからここに残るけど。何かあったらすぐに連絡してね」

「わかった。お前こそ何かあれば連絡してこいよ」

そう言って甲斐斗は神楽に背を向け一人格納庫から出ると、アビアとミシェルが眠っている神楽の部屋に向かった。


───BNが行うEDP開始まで残り1時間を切っていた。

既にERRORの巣があるとされる場所が地平線から薄っすらと見え始めており、BNの艦隊はより慎重に接近していく。

もう使われていない100年前の巨大な都市であり、この世界にある都市の中で最大を誇る。

都市のすぐ隣には広大な海が広がっており、その海辺には建設途中のリゾート施設が完成されることのないまま放置されている。

「海か~泳ぎてえな~」

そう言葉を漏らすのは既に愛機エンドミルに搭乗している穿真だった。

甲板の上に立ち海の方向を眺める機体はコクピットのハッチを開けその中から直接海を眺めている。

「これが海……綺麗ね」

その横に立つ紫陽花、そしてエリルもまたハッチを開け自分の目で海を眺めていた。

「おいおい、エリルは海を見たことなかったのか?」

「テレビで見るだけで実際に生で見たことが無かったのよ、やっぱり自分の目で見る方が海の……その、なんていうか……広大さ?みたいなものが伝わってくるわね」

「おう、海は広いな大きなっつうだろ。そうだ、EDPが終わったら皆で泳ぎに行かね?」

その提案に真っ先に賛成したのはその紫陽花の横に立つハルバード守護式に乗る雪音であった。

「良いですねそれ!私海で泳いだことないんで是非行きたいです!」

「ほうほう、それじゃあ海に行ったら俺がしっかり海での泳ぎ方を手取り足取り教えてあげるぜ!」

親指を立て力強く雪に向かってウィンクを決める穿真、それを見てエリルは呆れた表情で顔を横に振ると手で頭を押さえ俯いた。

「雪ちゃん、絶対にコイツだけには教わらない方がいいわよ」

『全く。もうすぐEDPが始まると言うのにお前さん達は豪い和んでるな』

突如三人の通信にダンが加わる、相変わらず煙草を銜えているその姿は既に見慣れたものだった。

「別に良いじゃねえか!うじうじと変に緊張しちまうのは俺に合わないからな、スカっとビシっと決めねえとな!」

『最近の若え奴等は勇ましいこった……所でお嬢ちゃん。どうだハルバード守護式は。使えそうか?』

「あ、はい!ちょっと癖の強い機体ですけど大丈夫です。それと……ちょっと気になった所があるんですけど……煙草の匂いがしますね」

『すまねえ。俺の使っていた機体だからな。一応紳に言われて消臭剤をふんだんに撒いたんだが……』

「煙草の匂いは嫌いじゃないので大丈夫ですよ!ただちょっと匂いのするコクピットがすごいなーって思っただけです」

その雪音の言葉を聞いた途端、穿真が何かを閃いたかのように目を見開くと手を叩き頷いた。

「次世代機は匂いつきのコクピットが主流になるな!」

そんな穿真の発言を聞いて真っ先に視線を逸らすエリル。ダンも穿真を無視して雪との会話を進める。

『そうかい、それだといいんだが。所で羅威と香澄はまだか?そろそろ作戦の最終確認を始めるって言うのにどこをほっつき歩いてるんだ……』

「そういえば遅いですね。あの二人のことだし何か問題でも起きてなければ良いんだけど」


───「それで、俺に用があって来たんだろ」

羅威の部屋の前で少し動揺した表情の香澄と、少し顔を赤らめている羅威が互いに向き合い立っていた。

何故二人がこのようなぎこちない雰囲気の中にいるのかと言うと、羅威の部屋に行こうとした部屋の前まで来ていた香澄が、偶々部屋の中から手を繋いで出てきた羅威とアリスにばったり会ってしまったからである。

アリスは部屋を出た後すぐに羅威と別れ自室へと戻り、互いに無言の二人がこうして場に残ってしまったが、ようやく羅威が一言切り出した。

「ええ、そうよ。ユニカちゃんから伝言を頼まれてね」

「クロノの妹が俺に?」

「そ、『必ず帰ってきてください。美味しいアップルパイを作ってシロと待ってます』。以上よ、私は伝えたからね」

「そうか……わかった、ありがとう香澄。この戦いが終わったら一緒に会いに行くか」

「は?なんで私も?」

羅威の言葉に驚きを隠せない香澄に、羅威は首をかしげながら言葉を続けた。

「なんでって、香澄は会いに行かないのか?」

「い、行くけど。なんであんたと一緒に行かないと……あーもう、やめやめ!」

突然香澄が首を大きく横に振り髪を荒々しく靡かせると、羅威に詰め寄り一指し指を立てて羅威の胸元を突いた。

「わかったわよ一緒に行ってあげるわよ!それと、あんたさっきの人とどういう関係なのよ!?」

「え?ど、どういう関係って。アリスとは、その……」

荒々しく怒りながら喋る口ぶり、そして突然話の話題がアリスのことに変えられ戸惑いが隠せない羅威は、しどろもどろで答えようとするもののお構いなしに香澄の言葉を続ける。

「いい?もうこれ以上誰かを悲しませるんじゃないわよ!?あんたは散々周りを泣かしてきたんだから!ユニカちゃんにも必ず会いに行きなさい!そしてあのアリスって女性も責任もって幸せにしてあげなさいよ!」

香澄の只ならぬ剣幕に後ずさりしてしまう羅威だが、香澄は言いたいことを罵倒も混ぜながらぶちまけていく。

そんな香澄の言葉を、動揺しながらも羅威は一つ一つ真剣に聞き入れていた、今まで香澄が溜め込んでいた思いを聞き逃さない為に。

「はー少しはスッキリした。ユニカちゃんの言う通りたまには素直になるのも良いわね」

素直な発言、というかかなりの割合で羅威に対しての愚痴や不満だったが、それでも羅威にとっては嬉しいことだった。

「私はクロノを死なせたあんたを許す気は無い……でも、それでもあんたはもう立ち止まらないのよね。全部背負って、進み続けるんでしょ?」

香澄の問いかけに羅威は黙ったまま深くゆっくりと頷くと、香澄はやや視線を下げた。

「それで良いのよ……EDPを無事に終わらせてユニカちゃんのパイ食べに行きなさいよ。それじゃあね」

「待ってくれ香澄!」

言いたいことだけ言ってその場を去ろうと羅威に背を向ける香澄だったが、ふと羅威に手首を掴まれ一歩踏み出した所で足を止めた。

「手、もう問題なさそうね」

力強く握られる手首、その感触から羅威の手が前よりも大分回復しているのがすぐにわかる。

「ああ、アリスと……香澄のおかげだ」

「……どうして私も?」

「あの時香澄がクロノの妹に合わせてくれなければ、今の俺はいなかったからな……本当にありがとう」

その言葉に偽りは無い、あの時ユニカと出会っていなければ今頃羅威はここにはいなかった。

じっと香澄の目を見つめながら羅威はそう言うと、香澄は羅威から視線を逸らし呟く。

「そのお礼の言葉は私じゃなくてアリスに言うべきよ」

「言ったさ、でも香澄にはまだ言ってなかったからな」

「あっそ……わかったわよ。ほら、行きましょ、皆機体に乗って私達を待ってるはずだから」


───大都市に向かう一隻の艦の上には、神威を先頭に4体の機体が立っていた。

穿真の乗るエンドミル、エリルの乗る紫陽花、そして新しく香澄、雪に支給されたハルバード守護式。

『もう一度確認しておくぞ。今からお前達は大都市へと向かいERRORの反応を探ると共に、円盤型採掘機ELAを都市中央にある広場に設置。その後第二、第三と各部隊が大都市を囲むように接近。全部隊配置についた後ELAを起動、その後に地下に降りてELBを起動させる。紳からの情報によれば現在都市内にERRORの反応は無い。恐らくお前達か、あるいわ俺達全員が都市内に侵入した時点で地下からの奇襲があると考えていいだろう。以上だ、何かあるか?』

「そのまま何も出てこなかったら面白ぇんだけどな」

ダンの説明を聞いた後、腕を組みながら笑みを浮かべ自信満々の穿真。

『正直お前達だけを先に都市に向かわせるのは危険なのはわかっている。もしお前達が都市に侵入した直後にERRORが出現すればお前達が危うくなるからな……だが、それでも紳がこの作戦を選んだのは。それだけお前達を信じているということだ、頼んだぞ』

「ああ、任せてくれ。必ず任務を遂行してみせる」

『良い返事だ。期待してるぞ』

そう言ってダンは通信を切ると、今度は羅威が具体的な内容の説明と確認を部隊メンバーとしていく。

「俺の神威を先頭に都市に侵入する。後方は穿真、いつでも飛び出せるように気を引き締めておけよ」

穿真の写るモニターに目を向け返事を待つが、穿間は両手で腕を組み少し俯くと黙ったまま目を瞑っている。

「穿真?」

「……りょーかいだぜ羅威。お前の背中、しっかり俺が預かってやる」

そう言って右手の親指だけを立て軽くポーズをとると、羅威は微かに笑みを見せると頷いた。

「穿真の左方を香澄、右方は雪音で援護を頼む。それと、第一優先は自分達の安全な場所の確保だ、もし大多数の敵に俺達が囲まれても前に出ずに一時的に後方に下がってくれ」

「前に出ないのは神威の攻撃に巻き込まれない為よね、了解したわ」

「了解です!穿真さんと羅威さんが思う存分戦えるように私達は動きます!」

モニターから見てとれる二人の表情、香澄の落ち着いた表情に、雪音の無邪気な笑み、いつもと変わらない景色がそこにはあった。

「ありがとう二人とも。ちなみに穿真、例えお前が前に飛び出してきても俺は手加減しないからな。自力で避けろよ」

「へっ、当てれるもんなら当ててみろっつーの」

「その意気だ。最後はエリル、俺達の上空は任せたぞ」

両腕を組み自信満々のエリルは瞑っていた目を開けると余裕の表情で言葉を返す。

「ええ、空は任せてちょうだい!あ、それと一つ、私の紫陽花に見惚れないように気をつけてね~」

余程自分の乗る紫陽花に自信があるのだろう、少し前にアステルと戦った時発揮された紫陽花の能力のおかげで今のエリルはやる気で満ち溢れていた。

「エリルが乗ってるからそりゃねえわ!」

エリルの言葉を聞いて咄嗟にでた穿真の一言。

いつものように自分の思った事をそのまま口にしただけであって、決して故意ではない。

「穿真、上から流れ弾が落ちてくるかもしれないから警戒は怠らないようにね」

「流れ弾って!お前それ絶対俺を撃つ気だろ!」

その穿真の言葉に会話を聞いていた一同が笑いはじめる。

いつもと変わりなんてしない、仲間同士の他愛も無い冗談話。

心の奥底にはこれから始まるEDPに対して緊張・恐怖・焦りが無いわけではない。そこに、たしかに『本心』がある。ただ、この場にいる仲間達はそんな奥底の恐怖より、もっと身近に感じ合える暖かな『本心』がある。

信頼しあえる仲間、友情、分かち合い、約束、共用し……今から始まるEDP、恐れた所でどうなる?

この世界の子供達……少なくとも彼等はもう決して弱くなどない、世界、人類の為に戦う勇敢かつ強き戦士。

「よし、それじゃあ行くか」

羅威の落ち着いた声と言葉を聞いて、今から人類の存亡をかけた戦場に行く人間の台詞には到底思えなかった。

相変わらずEDP決行の日は天に恵まれたかのように雲一つない晴天が広がっている。

そんな天気でも、いつもどおり戦闘が始まってしまう。

「こちら守玖珠羅威、神威。出撃するッ……!」

黄金の装甲を煌かせ颯爽と出撃する神威───。

「もっとも熱き男ぉ!野入穿真!エンドミル出撃すっぞッ!!」

両手に逞しきドリルを装備させた機体、出撃と同時に軽く浮上すると勢いよく地面に着地した後神威の後方につくエンドミル───。

「全くもって暑苦しいわね……葉野香澄、ハルバード守護式。出るわよ」

「わ、私は元気があって良いと思いますよ!水綺雪音!ハルバード行きます!」

出撃と同時に左右に別れ万全の態勢でエンドミルの横に並ぶハルバード守護式───。

「ふー……よし!私も気合入れていかないとね、エリル・ミスレイア。紫陽花、行くよ!」

紫色に輝く花びらが宙を舞い、漂う。その燐とした姿で大空へと羽ばたく紫陽花───。

陣形を組み都市へと向かう五つの機体……その様子を一人、都市の中央に聳えるビルの屋上から見つめる女性がいた。

「来たか、人間」

赤髪を靡かせながら、鋭い目つきでこの世界の行く末を見届ける存在……エラ。

彼女は考えていた。数日前NF・SVが協力して行ったEDPは全滅に近い程の犠牲を払ったものの、人類が勝利を収めた。

……が、その勝利のきっかけとなったものは何か。対ERROR兵器羽衣でもなければ、甲斐斗の力でもない、兵士達の戦略でも、近代兵器でも無かった。

『魔法』という名の人間が持つもう一つの『力』。その秘められた力を使用して初めてERRORに勝てた。

だから、もしこの戦場に魔法が扱える者がいなければ───。

「人間の力はそれだけではないはず……簡単に終わりはしない。そうだろ?……ふふ……はあぁ、楽しみだぁ……」

エラは薄っすらと笑みを浮かべ喜びを露にしていた。もうすぐ見られる、人間の力、人間の可能性、人間の価値。

見て聞いて感じて学ぶ、理解に固執し今を焦りはしない、自分で考え試行錯誤するのもまた一つの楽しみだ。

他のERROR達にはそんなものは無い、自分だけの特徴。そこに疑問は生じない、自分だけが何故?などとは考えない。

運命というものを感じる時は近い。そしてその運命というものは、誰にも予想がつかないもので、彼女と共に降りかかる事で、この世界の未来の行く末が微かに変化を起こす。

二つに一つ、絶対的な答えを選択する時、しなければならない時、出てしまう時。

そこにもう一つの答えが出てしまった時、この世界の歪みは更に加速するだろう。

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