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第110話 導火、予兆

───NF・SVが実行したEDPは多大な犠牲を払ったものの任務を達成。

EDPの戦闘時に発生した強力な電磁波によりBNと連絡の取れなかったNF・SVだったが、EDPから三日後、初めてBNとの交信に成功していた。

東部軍事基地の司令室で赤城は一つの席に立てかけられてあるモニターの前に立ち、真剣な面持ちでモニターに映る男、風霧紳を見つめていた。

『なるほど、NFもSVも壊滅状態か……』

赤城の報告を聞いても顔色一つ変えない紳、だが心情は表情とは逆で焦りと迷いが交差していた。

たしかに今回のEDPでNFとSVが甚大な被害を蒙ることは予想できていた、できていたが……まさか全滅に近い状態になるとまでは予想を反していた。

SVの親衛隊の『アストロス・ライダー』、『アストロス・アギト』が存在し、対ERROR用戦闘兵器である『羽衣』の出撃、更には神をたった1機で勝利した『魔神』が戦場に出ていたというのに、このEDPの結果は明らかに酷いものだ。

「ERRORを見縊っていたわけではない、が……まさかここまで叩き潰されるとは想定外だったな。もう我々の残存勢力と言えばアストロス・アギトが1機と、私の乗るリバインが1機、後は甲斐斗が乗る機体ぐらいだ」

赤城の言葉に紳の視線は鋭くなる、NFとSVに残された戦力はたった3機。残る最後のEDPはBNとSV、そしてNFの合同作戦になるはずだったが、これでは余りにも数が少なすぎる。

『全てはBNに掛かっている。とでも言いたそうだな』

もし、ここでBNがNF・SVと同じような結果になれば最後のEDPがどうなるか、そんな事は簡単に予想が出来る。

間違いなく人類は敗北する。数機でEDPを実行しERRORに勝てるはずが無い、相手が圧倒的物量で押してくるのに対し、こちらはたった数機で立ち向かわなければならない。それはもはや戦争と呼べるものではない、ただの悪あがきだ。

「当たり前だ、BNが勝利してもらわないと我々の勝利が無駄になる。例え生き残りが一人だとしても……必ずEDPを成功させろ」

紳の問いに赤城の視線を鋭くなる、両者は睨みあうように視線を合わせると、そのままじっと見つめあい口を開かない。

『当然だ。俺達は必ずEDPを成功させERRORをこの世から排除する。無論、最後のEDPも同じ事だが……結果は目に見えている、『人類の勝利』。これしかない』

「ああ、人類の勝利……それしかないさ」


───「で、お前一人で全部説明してきたのかよ」

神楽の部屋に戻ってきた赤城の話しを聞いた甲斐斗は腕を組みながらソファに座ってくつろいでいた。

「まあな、それに報告など一人で出来る。大勢もいるまい」

キッチンに置かれてあるコーヒーメーカーを使いカップにコーヒーを注ぐ赤城、それを手に取り甲斐斗の座るソファに座ると、背もたれにもたれ掛かるとゆっくりとカップを口にする。

「そりゃそうだが……にしても、次はBNのEDPか……あいつ等本当に勝てんのかよ、まぁ勝ってくれねえとこっちが困るんだが……どうした愁、そんな面して」

甲斐斗の前のソファに座っている愁は先程から俯いたまま深刻な表情をして眉一つ動かさない、なにか考えに没頭してるのはわかるが余りにもリアクションが無いので甲斐斗から声をかけてみた。

「えっ?あ、すみません。今回のEDPを見る限り、恐らくBNにも相当な被害が出ると思いまして……」

「BNにはお前の仲間がいるんだろ?心配するのも無理はねえが……そうだ、BNのEDPが終わるまでは俺達自由なんだ。それなら俺はここで過去に帰る為の準備に取り掛かる、もし良ければだが愁や赤城も手伝ってくれるか……?」

準備と言っても具体的に何をするかまだ決まって無いが、とりあえず人手が多い方が楽が出来ると甲斐斗は思っている。

「すまない甲斐斗、私は一度BNの本部に戻ろうと思う」

「おお、BNの本部にか。なんでだ?」

「由梨音が私の帰りを待っているんだ、NFのEDPは成功した事を自らの口で伝えたい」

そう言うと赤城は由梨音の姿を思い浮かべていた、きっと今ごろ病院のベッドの中で自分の無事を心配しているに違いない、だからこそ早く出会い由梨音に安心してもらいたかった。

「なるほど、わかった。んじゃBNの本部でゆっくりしてこい、俺達もBNのEDPが終わるまではここにいると思うが、どーせまたBNの本部に戻らなきゃならんからな」

「すまんな、力を貸せなくて」

赤城がどれだけ由梨音のことを心配しているのかなど、この場にいる甲斐斗と愁は十分に理解している。むしろ早く由梨音に会って二人でゆっくり過ごして欲しいとも思うくらいだ。

「そこまで気にしなくていいっての。それに赤城の代わりに愁が10倍動いてくれればいいことだし。な!」

「その、すみません甲斐斗さん。実は俺も用事がありまして……」

「えー……」

「ロアに機体の操縦を教えたいんです。彼も俺達と共に戦ってくれると言ってくれましたからね」

「ほぉ、あいつがそんな事を……少しは男になったって訳か、わかった。んでもここに残ってる機体って俺達の機体以外に何かあったか?」

「その機体について何ですが───」

急に黙り込み俯いてしまう愁、そして徐々に顔を上げると赤城の方を向いて口を開いた───。


───一方、現在BNはEDPの開始地点へと向かうべく艦隊は列を作り現地に向かっていた。

EDPの開始地点に到着するまでにはまだ6時間以上掛るものの、既に艦内はEDPへの緊張で張り詰めた空気が立ち込め、兵士一人一人が落ち着かない様子だ。

……ただ一人、穿真を除いて。

「おい羅威!レジェンドクロスの12話が再放送してるぞ!」

羅威の部屋に入ってきた穿真の第一声がこれだ。羅威は一人椅子に座り考え事をしている途中だったが、穿真の言葉を聞いて今まで自分の考えていた事が綺麗に消える程呆れ返ってしまう。

が、これも穿真らしいといえばそうだ。穿真は羅威の部屋にあるテレビの電源をつけると、リモコンを使いチャンネルを回していく。

そして再放送を見つけると部屋に置いてある椅子に座り肘をついて淡々とアニメを見ていく。

穿真に釣られて羅威もふとテレビを見つめると、そこには一度見たことあるテレビアニメが再放送されており、丁度ロボットの合体シーンが映っていた。

「やっぱロボットは合体だよな~」

合体したロボットの姿を見て腕を組み満足そうに頷く穿真、そしてこれからロボットの戦闘シーンが始まろうとした時、突如アニメ番組は終わり臨時ニュースの画面へと切り替わる。

『───により、NewFace・Saviorsの合同で行われたEDPは甚大な被害を蒙りましたが無事作戦を成功を収めました。ERRORの増殖ラインは一つ消え、残るはERRORの巣となる箇所は残り2箇所となっております』

NF・SVの行ったEDPの結果がニュースとして全世界に放送されている、NFとSVの受けた被害は短く伝えられ、勝利という結果を出した事によるNFとSVの兵士としての勇猛さと果敢さを称えていた。

「なあ、お前も聞いたと思うけど。今話してるEDPの生存者が何人か知ってるか?」

問いかけてみるものの羅威は無言でテレビを見つめ続ける、それを見た穿真は構わず言葉を続けた。

「15人。EDPの戦場で生き残った兵士がたったの15人しかいねえんだよ……十数万もいた兵士が、この様だ……その中でSVの生存者は5人、その内一人に愁がいるんだってよ。あいつすげーな」

「ああ、そうだな」

「……もう無理だよな。仲直りなんて」

その穿真の言葉に二人の沈黙が続く。どんな理由があろうと彩野と玲を殺したのは愁の他にいない。

もう今更笑顔で語り合える仲などではない、今更協力などできるはずがない、今更『親友』などと呼ぶことなどできない。

もし次に会う時、どんな顔をして会えばいいのかわからない、なんて言葉を交わせばいいのかわからない。

「まっ、今はあいつの事はいいか!俺達は来たるEDPの為に勇気と情熱を抱いてないとな!」

無邪気に明るく振舞う穿真に、羅威は小さく笑って見せると一言呟いた。

「ありがとな」

「ん?」

突然の礼の言葉に穿真は首を傾げるものの、羅威は構わず言葉を続けた。

「穿真にはいつも助けられてばかりだからな。本当、お前がいてくれると心強いよ」

「おお、まさか羅威が普通に俺を褒めるとは……大丈夫か?」

「何がだよ!……ったく、やれやれ……」

穿真と話している内にまたいつもの雰囲気に戻っていることに羅威は気づいた。

「これから決戦が始まるんだ、元気出しとけよ!俺は元気をチャージする為に飯食べに行ってくる、羅威も行くか?」

「いや、もうすぐアリスが来るんだ。お前は一人でカレーを食べてきてくれ」

「カレー限定かよ!まぁ元気をチャージするにはもってこいの飯だし……んじゃ食べてくるわ、あーばよっ」

そう言うと穿真は椅子から立ち上がり部屋の出口まで向かうと、ひらひらと手を振りながら部屋を後にしようとした時、一人の女性が羅威の部屋に入ってくる。

「噂をすれば何とやら。ようアリス」

「こんにちは。穿真君もいたんだ、二人で何話してたの?」

「なーに、いつもどおり下らない話をしてただけだぜ」

「お前が言うなっ」

穿真の言葉にいち早くツッコミを入れる羅威、いつもと何一つ変わらない雰囲気にアリスもふと笑みが零れた。

「んじゃ、俺はカレーを食べる任務が残ってるから」

穿真はまた軽く手を振るとそのまま部屋から出て行ってしまう、部屋の扉が閉まり部屋には羅威とアリスの二人きりとなった。

「皆緊張してピリピリしてるのに、穿真君は相変わらずだね」

安心したようにアリスが口を開くと、手に持っていた医療鞄をベッドの上に置き自分もまたベッドの上に腰を下ろした。

「それが穿真の良い所であって強さでもある……俺もあいつには何度も助けられたよ」

羅威は着ていたシャツのボタンを一つずつ外し脱いだシャツをソファに掛けると、上半身裸のままアリスに背を向けるようにして横に座った。

そしていつも通りアリスは羅威の背中や肩、そして腕に触れ診察を始める。

「大分動かせるようになったみたいね、感覚も取り戻してるみたいだし」

あれこれマッサージをしつつ今度は羅威の正面にアリスは座ると、羅威の腕がどれほど回復しているのか確かめていく。そんな彼女の姿を羅威はじっと見つめ続けていた。

「ね、腕が完治したら何かしたいな~ってことある?」

そんな羅威の視線も露知らずアリスは熱心に羅威の両腕をマッサージしながら口を開く。

「ある」

一言羅威が呟くと、アリスはマッサージを止め胸元に止めていたボールペンを摘むと、それを羅威の前に出した。

「はい、いくよー」

答えたのに何の反応も見せないアリス、そしてボールペンを見てまた例のあれをするのだと思い、羅威は握り締めた右手を出し、人差し指と中指だけを突き出す。

それを見てアリスはその指の間に目掛け摘んでいたボールペンを落とした。

見事に羅威の指はボールペンを挟み落ちるのを阻止、リハビリを続けてきて初めての成功だった。

「うん、もう大丈夫みたいだね」

「……何か、すごい大雑把な診断だな」

本当にこれだけの事で大丈夫と言い切るアリスに複雑な面持ちの羅威だが、アリスは笑顔で鞄の中から取り出したカルテに内容を書き込んでいく。

「いいのいいの、この前精密検査した時から既に羅威の両腕は大分良くなってきてたもん。今の羅威なら何でもできるよ!」

EDP結構前、既に羅威の体は精密な検査を通し両腕自体は完治している事が明らかになっていた。

だが以前と同様な動きが出来るとは限らない、腕の機能が回復したからと言って今まで不自由な腕を動かしていた後遺症は少しは残っている。

「さーて、腕も完治したってわかったことだし。一番初めにしたい事は何かな~?」

嬉しそうにカルテに書き込むアリス、羅威は指で挟んだペンをくるくると回してみると、今度は左手で華麗にペンを回しはじめる。

一見すれば完全と言えるほど羅威の両腕は回復した。腕は自由に動き、指に力が入る、今まで感じていた違和感はアリスのマッサージが終わった後から綺麗に消えていた。

「私が当ててみようか、羅威のことだから腕が完治したってわかったらすぐ機体に乗って操縦の練習をする!」

今まで神威の能力によって腕を動かしてきた羅威だが、それに頼らずとも自らの意思と力で機体を操縦する為にEDPの前に軽く慣らしておくのも悪くない。

それにアリスは羅威が真面目なことを知っているから、きっと直に機体の所にでも向かうと思っていた。

「あ、それとも以外に穿真君とテレビゲームでもするのかな───」

色々と羅威のやりたそうな事を並べながらカルテを書いているアリス、その途中に羅威の様子を見ようと正面を向いた瞬間、そのか弱い体は力強い腕で軽々と引き寄せられていた。

「これが俺の、一番初めにしたかった事だ……今までありがとう、アリス」

突如ベッドの上で抱き締められ羅威から囁かれた言葉に、アリスは思考がついていけず抱き締められたまま微動だにできず、一言も言葉が出せない。

「お前がいつも側にいてくれたお陰だ。俺が両腕の自由を失う前からそうだ、いつもその明るい笑顔に俺は助けられてきた。親身になって俺の世話をしてくれて、本当にありがとう」

そう告げて抱き締めていたアリスをそっと離し顔を見つめると、放心状態のアリスの目からはポロポロと涙が零れ落ちていた。

「あ、あれ。あはは、どうしよぅ、びっくりしたからかな……涙が、勝手に……」

またいつもの笑顔でアリスは白衣の袖で目元の涙を拭っていく。

「これからも、よろしくな───」

「羅威……んっ」

二人は見つめあい、羅威にそっと両肩を掴まれ優しくベッドの上に押し倒されても、アリスは自分の全てを羅威に委ねるかのように何の抵抗もせずベッドの上に寝かされる。

その頃には羅威の顔も赤く火照り、互いに赤い顔をしたまま見つめあっていた。でも動いてる、二人の顔の距離はゆっくりと近づいているから、そっと目蓋を閉じ、暖かくて優しくて、二人のやわらかいものが触れたら、きっとその後彼女は答えてくれる。だから彼も言うんだ、答えてくれた彼女に負けないぐらい、自分の素直な気持ちを───。


───羅威の部屋を出た後、一人艦内にある食堂に向かう穿真。艦内では慌しくEDPの最終準備に取り掛かる兵士達がいるが、先程見ていたアニメのOPオープニング曲を鼻歌で歌いながら相変わらずの態度で歩いていく。

すると、携帯電話を片手に誰かと喋りながら歩いている香澄を発見。丁度自分と向かう方向が同じなので電話で会話している香澄の後ろをついていくように歩き始めた。

いつも人前で、特に羅威の前では不貞腐れた態度の香澄だが、今は誰かと楽しそうに喋っているのを見て新鮮味を感じる。

「うんうん、私は大丈夫だから。ユニカちゃんも気をつけてね、うん……えっ?……わかった、伝えとくね」

それを最後に香澄は通話を切り携帯電話を軍服のポケットにしまうと、急に立ち止まり後ろに振り返った。

その表情は当然険しく、盗み聞きをしていた穿真をただただ黙って睨んでいる。

「ま、まぁそう睨むなよ。偶々進行方向が同じだっただけじゃねえか」

「ふぅん。それで、後をついてくるってことは私に何か用なの?」

「いんや、別に用という用はねえけど……お前って可愛らしい表情もできんじゃん」

「……は?」

羅威の前では見せたことのない香澄の笑みを見て穿真はそう言うと、突然思いもよらぬ言葉を聞いて香澄は呆気にとられると、穿真は更に言葉を続ける。

「羅威の前でもそうやって楽しく笑ってやれよ。俺達は同じ部隊、仲間なんだからよ。まっ、それはお前もわかってると思うけどなぁ」

「あんたねぇ……!」

「おっと」

殴りかかろうと前に詰め寄ってくる香澄の横を軽々と擦り抜ける穿真、いつものようにへらへらと笑いながら香澄と少し距離をとる。

「羅威のどこが気に食わないんだ?クロノの事を未だに気にしてるのか?今のままだと苦しいだけだろ?……いい加減素直になっとけ。俺ぁ羅威の命令でカレーを食べて来るからよ、それじゃーな!」

言いたい事を言うだけ言うと、穿真は香澄の返答を聞くことなくまた一人通路を歩き去ってしまう。

「ちょっと!穿真!……なんなのよアイツ……!」

電話の最中の笑顔は何処へやら、険しく不機嫌な表情の香澄は去っていく穿真の後ろ姿を睨んでいた。

だが、先程穿真に言われた台詞が深く胸に突き刺さり、穿真が去った後も香澄はその場に立ちつくしたまましばらく動こうとしなかった。

「素直、か……」


───今度はEDエンディング曲を鼻歌で歌いつつ、ようやく食堂に辿り着いた穿真。

まだ朝方で10時を回ったばかりであり食堂に人気は余りないものの、気にせず穿真はカウンターの前に並ぶとおぼんを手にとりカレーを注文する。

熱々のご飯にカレーを装い、どこに座ろうかと辺りを見渡してると、雪音とエリルが一緒にランチを食べているのを見て近づいていく。

丁度雪音は穿真に背を向けた状態で気づかなかったが、エリルは近づいてくる穿真に気づき軽くを手を挙げ挨拶をすると、穿真のおぼんの上に置かれたカレーを見て軽く呆れていた。

「よーう、エリルに雪ちゃんじゃないか。何だ、二人も元気をチャージする為に飯食べてたのか」

「穿真……朝からカレーだなんてどうしたのよ、羅威じゃあるまいし……」

「羅威からの命令だからな!それに元気をチャージするにはもってこいの飯だろ?」

そう言って穿真は雪音の横の席に座る。テーブルを見ると皿の上に2枚ほどサンドイッチが並んでおり、雪音はサンドイッチを食べている途中だった。隣に穿真が座ったことに気づいた雪音は急いで口の中にあるサンドイッチを飲み込むと、隣にいるにも関わらずペコペコと頭を下げて挨拶をしてきた。

「おはようございます!」

「おはよー、ごめんなぁ朝から隣でカレー食べちまって」

既に穿真はスプーン片手にカレーを頬張っていると、雪音は笑みを見せながら首を軽く横に振る。

「いえいえ気にしないですよ!ご飯は一緒に食べたほうがおいしいですもんね」

「雪、無理しなくていいのよ。女の子同士で楽しく喋ってる所に朝からカレーの匂い漂わす穿真が来たらちゃんと嫌ですって言わないと」

雪音の優しい言葉とは裏腹にエリルは言いたい事を言っていく、カレー以前に穿真の名が出ている時点で既に限定されているわけだが、穿真はエリルの言葉を耳にして動揺していた。

「女の子同士……だと……?」

「それどういう意味よッ!」

「ふ、二人とも喧嘩はだめですよ!」

信じられないと言った様子でエリルを見つめる穿真の視線に吼えるエリル、その二人の間に割って入りエリルを宥めようとする雪音。何とも騒がしい様子に食堂で食事をとっている兵士達の視線が集中してしまう。

「飯ぐらい静かに食べないとな」

その視線に耐え切れず三人は黙って俯くと、穿真は黙々とカレーをほおばり始めた。

するとエリルはお皿の上に残っていた最後のサンドイッチを口に入れると、コップを手に取り強引に流し込んだ。

「勝手に一人で食べてるといいわ、行きましょ」

すっかり機嫌を損ねたエリルはそのまま立ち上がり席から離れると、雪音も立ち上がり穿真に小さく頭を下げた後、トコトコとエリルの後についていってしまう。

その場に一人取り残された穿真は話したくても相手はおらず、黙ってカレーを食べる事しかできなかった。


───EDPの作戦決行の時間が迫る中、BN総司令官、風霧紳もまた自室で一人席に座り静かにその時を待っていた。

無音の室内、目を瞑りまるで眠るかのように椅子に座っている紳だが、その意識ははっきりとしていた。

今回行ったNF・SVの共闘で行われたEDPの結果。そして今から始まるBNのEDPについて、紳の脳裏に様々な思考が交差していく。

本来人類と神との戦いのはず、神に勝利することが人類の目的であり人類滅亡の危機を脱する使命だった。

しかし、何時からかERRORという生命体がこの地に現れ、再びこの世界の……人類の危機が迫っている。

「問題無い……勝てばいい、人類が力を合わせ、勝てば……」

まるで自分に言い聞かせるかのようにそう呟くと、薄らと目蓋を開き机の上に立て替えている一枚の写真を見つめる。

自分を中心とし、その周りには大勢の仲間達の姿が映る写真。

唯にダン。今は亡きセーシュと両親の姿もそこに有る、何とも懐かしい写真だ。

ふと、その写真を手に取ろうと紳が手を伸ばそうとした時、突如部屋の扉が開き外から唯が入ってくる。

「唯か。どうした突然、何か用か?」

紳は咄嗟に伸ばしていた手を引き、何事もなかったかのように椅子に座りなおすと、唯は紳の席に横においてある椅子に腰を下ろした。

「少し、お話がしたくて……」

……珍しかった。唯が黙って自分の部屋に入ってくる事など一度も無かったこと。

話をしたくて来たと言ってはいただが、唯は軽く俯いたまま何を言い出そうとせず、ちらちらと紳を見ては黙っている。

「もうすぐだ。もうすぐで争いの無い世界が来る……俺達の目の前には、100年前から望んできた世界がすぐそこまできているんだ」

先に口を開いたのは紳だった、唯の不安な表情を見れば何を言いたいかはすぐに理解できる。

「覚悟は出来ています」

「共に平和な未来を築くぞ。100年前、たった一人で神と戦い、散っていった先祖に代わってな……」

「お兄様……」

共に。という紳の何気なく暖かい言葉に唯の表情が明るくなると、紳の元へ歩み近寄ろうとした時、突如部屋の入り口の扉が開くと、煙草を口に銜えたダンが部屋の中に入ってきた。

咄嗟のことに歩もうとしていた足を急に止め少し体勢を崩す唯。

「兄妹仲良くお喋りしている所邪魔して悪いが、紳。今すぐ司令室に来たほうがいい」

「どうした」

ダンは紳に視線を向けると、腰に手をあて銜えていた煙草を摘み大きく息を吐いた。

「NewFace……奴等が堂々と待ち構えてやがるぜ」

その言葉に紳と唯の表情が強張る。NFに残された最後の戦力、それは赤城や甲斐斗達だけではない。

騎佐久率いるNF最後の大隊が残っている。そして今、その最後の大隊はある一つの目的を成し遂げようと動いていた。

人類の、勝利の為に。

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