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第11話 約束、戦い

「神よ、どうか私達をお救い下さい」

 教会の中で一人、白い祭服に身を包んだ少女が佇んでいる。

 そして神を象った石像の前に跪くと、両手を合わせ祈りを込める。

 毎日欠かさず行う祈りの時、少女が目を瞑り熱心に祈っていたが、一人の青年が教会に入ってくる。

ゆい、どうしてここにいる」

 教会の中に響く青年の冷たい声。

 名を呼ばれた少女、唯がゆっくりと後ろを振り返ると、教会の入り口からは紳が向かって来ていた。

「そ、それは……今、神様にお祈りを……」

「ここには二度と入るなと言ったはずだ」

 紳は表情を変えず、鋭く冷たい目で唯を睨み続ける。

「でも、一日一回は神様にお祈りをしないと」

「祈ってどうなる」

「神に祈る事で、人々は幸福に───」

 小さな風と共に少女の被っていたフードに切り傷が付くと同時に少女の背にあった石像に亀裂が走る。

 その時既に紳は腰に付いている鞘に収められていたサーベルを抜き取っていた。

 そしてサーベルをまた静かに鞘へと戻した時、亀裂の入った石像は見るも無残に砕け散り崩れていく。

 崩れる音を聞き唯が後ろを振り返ると、無残に砕け散った石像の破片が足元に散乱していた。

「あっ、ああ……何てことを……」

 さっきまで祈りを込めていた神を象った石像が粉々にされ動揺を隠せない。

 悲しさで震える手で石像の破片を集めようと手を伸ばし、一つの大きな破片を拾おうとした時、紳の右足がその破片を踏み潰す。

「神が俺達に何をしてくれた」

「か、神は私達に……」

「憎しみと悲しみ。そして怒りと絶望を与えてくれたな」

「そんな事はありません! 神はきっと私達をお救いくださ───」

 唯を黙らせるかのように紳は腕を伸ばすと、唯の首元を掴み少しずつ持ち上げていく。

「何度も言った分かる……? いい加減にしろッ」

 必死にその手を離そうと唯は両手に力を入れるが、紳の腕はビクともしない。

「ひっ、ぐ……ぅ」

 紳の目には憎しみの過去しか映っていなかった。

 もはや唯の姿など眼中に無い。首を握り締める手に段々と力が加わっていく。

「お兄、さ…ま……」

 唯の頬に涙が流れ、紳の右腕に零れ落ちる。

「若様! その手を離してください!」

 聞きなれた女性の声が聞こえてくる、だがそれが誰の声なのか既に紳にはわからない。

 その時、女性の後ろから一人の男性が現れると、勢いよく紳を殴り飛ばした。

 唯の首を掴んでいた手が急に離れ、それと同時に紳じゃ壁に向かって吹き飛ばされる。

「ダン様!? 若様に何を!」

「こうするしか無かっただろ」

「けほっ、けほっ……」

「姫様! お怪我はありませんか!」

 急いで唯に駆け寄るセーシュ、すぐさま唯を抱きかかえる。

「セーシュ、お前は唯を医務室に連れて行け。紳は俺にまかせろ」

「すまない、ここは任せた。が、一つ言っておく、次、もう一度若様に危害を加えたら許さんぞ」

 ダンにそういい残し、セーシュは唯を抱きかかえすぐさま教会を後にした。

「わかってる」

 その場に教会の壁にもたれ掛かるようにして倒れている紳と、一人の男が残された。

 男は胸ポケットの中に入っている煙草の箱を取り出し、その中から一本の煙草を取り出す。

 黒色のライターで煙草に火を点け、一服する。

「紳、お前さんも吸うかい? 少しは気が楽になるぜ」

 紳は何も答えないまま、俯いて壁にもたれ掛かっていた。

 体がぐったりとしている唯を抱きかかえたセーシュ、アリスのいる医務室へと駆け込んでいた。

「アリス! 姫様を頼む!」

 お菓子を食べていたアリスが突然の事に驚き、手に持っていたお菓子が床に落ちる。

 アリスはセーシュの様子を見てただ事ではないとすぐにわかった。

「セーシュさん!早く患者を横に寝かせて!」

 セーシュは苦しそうな唯を白いベットにそっと寝かせる。

 その間にアリスは酸素マスクをすぐに唯の口に付けて固定した。

「姫様、姫様ぁ……」

 ぐったりと横たわっている唯の左手を握り締めるセーシュ。

 その目には涙を浮かべていた。

「セーシュさん、一体何があったんですか?」

「私にもわからない。姫様を探していると若様が姫様を……」

 その時、BNの基地に鳴り響く一つの警報。

 警報と共に女性の声がスピーカーから聞こえてくる。

『全員戦闘配備! ERRORが出現を確認、至急戦闘準備を!』

「こんな時に……すまなお、後は任せた」

「は、はい!」




 その警報を聞いて颯爽と無花果に乗り込むエリル。

 すると、コクピットについてあるモニターにラースの姿が映る。

「ラース! ちゃんと直ったんでしょうね?」

「そんな短時間で治るわけないよ。ステルス機能無しで頑張ってくれ」

「直しといてって言ったじゃない!」

「無茶を言わないで欲しいなぁ……あと、もう壊して戻ってこないでくれよ」

「お前達、お喋りはそこまでにしとけ」

 エリルのモニターにラースと他にコクピット席に座っている羅威と愁の映像が映る。

「羅威、気張りすぎるのも良くは無いよ」

 愁はそう言って羅威に声を掛けるが、羅威は平然と機体の調整を済ませ機体を発進させる準備を進めていく。

「これから戦闘に入るんだぞ? 油断をするな、穿真のようになるぞ」

 穿真の名前を聞くと愁は悲しげな表情で俯いてしまう。

 そして通信を切ると、愁もまた機体の発進準備を進め全機戦闘態勢に入る。

「エリル・ミスレイア。無花果出るよ!」

「守玖珠羅威。我雲で出る」

「魅剣愁。同じく、我雲出ます!』

 三人のモニターに、一人の少女の姿が映し出された。

『皆!頑張ってください!!』

 モニターに映し出された少女、羅威は無視してそのまま我雲を発進させる。

 愁は発進した後、配置につくとその少女に話しかけた。

「彩野さん、オペレートしっかり頼みます」

『任せてください! 早速今から現在の状況のデータを各機に転送します!』

 いつものハキハキとした元気良い声に、羅威は軽く息を吐くと彩野に声をかけた。

「大声でうるさいぞ彩野、もう少し静かに喋れ」

『先輩! 私の仕事は皆にきっちり、はっきり物事を伝える事で───』

 うるさいので羅威はすぐさま彩野の通信を切り、送られたデータがモニターに表示されていく。

 その送られてくる数値に各機体に乗るBNの兵士達が困惑する。

「羅威、これは一体……」

「ERRORがいつもより多いな。だが気にするな、いつも通り俺達は任務を果すだけだ」

 何時もどおり、羅威は慌てずにマイペースで物事を考えている。

 皆、幾度となく厳しい戦場を潜り抜けてきた、やるしかない。

「彩野さん、既に対地ミサイルを撃ちましたか?」

『はい、ERRORの数はミサイル攻撃で若干減りましたけど。速度を落とさずにまっすぐこの基地に向かってきています!』

 既にERRORは市街地を要塞化している基地に向かってきていた。

 数十機の我雲が市街地に隠れて待機しており、ERRORを基地内におびき寄せた後一斉に始末する作戦だ。

 愁も羅威と同じビルの屋上で待機して作戦の準備に取り掛かる。

 その最中、屋上から遠くを見るとERRORの大群がこちらに近寄ってくるのが見て分かる。

 段々と近づいてくるERROR、次第に緊張が高まり、操縦桿を握っている手に汗が滲む。

『ERROR!来ます!』

 彩野の声と共に市街地の周りに張られてあったバリケードが破壊され、次々に市街地にERRORが侵入し始める。

「羅威、行くよっ!」

「遅れるなよ、愁」

 愁と羅威は我雲の出力を上げ、一気にビルの屋上から急降下していく。

 ビルの下には既に何十匹ものPerson態が愁達に向かってきていたが、羅威と愁の乗る我雲は同時に背中に付いてあるグレネードランチャーを取ると、地上にいるPerson態を狙い一気に攻撃をしかける。

 次々に吹き飛ばされていくPerson態。血肉が辺りに飛び散っていく中、機体の着地と同時に右手に持っている撃ち尽くしたグレネードを投げ捨て、機関銃に切り替える。

 残骸の上を這いずり回りながら近づいてくるPerson態、何時見ても気味が悪い。

 Person態はニタニタと、まるで笑っているかのような顔をして近づいてくるからだ。

「この化け物がぁあっ!」

 愁は声を張り上げて次々に現れれるPerson態を撃ち殺していく。

「おい愁、ビルから離れろ!」

 だがその時、羅威の通信が入ったと同時に愁の機体が突然大きく揺れた。動かそうとしても我雲が思い通りに動かない。

 その時メインカメラにPerson態の顔が映る、まるで愁を見て笑っているかのような顔ですぐ目の前にいた。

「うわぁっ!?」

 動かない、レバーをいくら動かそうと我雲が動いてくれない。

 既に愁の機体には何体ものPerson態が取り付いていており、機体の装甲を溶かし、噛み千切られていく。

「羅威!こいつ等をどうにかしてくれ!!」

『奴等はビルに上って態々屋上から降ってきている、待ってくれ。それにしても何時の間に……くそっ!』

 次々にビルの屋上から落ちてくるPerson態、羅威の乗る我雲はそれをただひたすら撃ち抜いていく。

 だが奴等は上からだけではない、右からや左からも波のように押し寄せてくる。

 羅威がERRORと戦っている間に、愁の乗る我雲の右腕がPerson態によって食い千切られる。

 このままでは我雲がバラバラにされるのも時間の問題だった。

「羅威! どうにかならないのか!?」

「俺もこっちで精一杯何だよ……だが安心しろ、間に合ったぞ!」

 一斉に鳴り響く発砲音、次々にPerson態が撃ち殺されていく。

 愁の我雲に取り付いていたPerson態も次々に撃ち抜かれていった。

 我雲のモニターに何人ものBNの兵士達、我雲のパイロット達の映像が映し出される。

「助けにきたぞ、大丈夫か!?」

「た、助かった……」

「こちら羅威、援軍感謝します」

「よし、全員で中央に向かったERRORを掃討しに行くぞ」

 援軍に来てくれた方達と共に、中心部に向かおうとした時。

 一人のパイロットのコクピットの扉が突然開く。

「えっ、うわっあああああああ!!」

 パイロットが何かに怯えた表情で、必死に手足を動かして逃げようとしている。

 だがそのパイロットの姿は何か黒い物が入ってきたと同時に姿を消した。

 スピーカーから断末魔と骨が噛み砕かれる音がかすかに聞こえる。

 兵士の声は最初は大きかったが、段々と弱々しく。唸っていく。

 そしてさっきまでそこにいた我雲の姿が消えていた。

「愁、気をつけろ。何かがいる……」

 その時だった、何か素早い獣のような生き物が次々に現れ愁達の部隊を囲んでいく。

 それはあっという間の出来事であり、愁達は何一つ身動きがとれない。

「なんだこの化け物は!?」

「これが例の新種……Beast態かッ……!」

 援軍が来た事により我雲の数が合計で七機。

 その内の一機は既にやられ現在六機、たった六機の我雲で十匹以上のBeast態と戦う事になる。

 狼のような姿形をしており、その鋭い眼は赤くおぼろげに光っており、何とも不気味に見える。

 人間を軽々と食べれる程口は大きく、鋭い爪と牙がむき出していた。

 その時、各機体に彩野からの通信が入り、モニターに彩野の姿が映る。

「た、大変です!Worm態が中央の基地に向かっています!!」

「そんな!? 俺達以外で中央に向かえる兵士達はいないのですか!?」

『どの部隊も現在Beast態、Person態と交戦中です、少しでも引けば一気に攻め入られます!……信じられません、まさかこれ程の数で攻めてくるなんて……このままではこの基地が落とされるのも時間の問題です……!』

 今にも泣き出しそうな顔をしている彩野さん、だが一人の男の声が彩野さんの不安を吹き飛ばす。

「弱気になるな、彩野」

『先輩……』

「この基地は落とさせはしない、俺の命に変えてもな……行くぞ!愁!」

「ああ!分かったッ!」

 この状況が危機的状況なのは十分に分かっている、もしかすれば死ぬかもしれない。

 当然だ、ここは戦場。羅威達はこの世界を守るため死ぬ覚悟は出来ている。

 しかし、死ぬ覚悟と同じぐらいに、生きる覚悟も二人には出来ていた。


 皆が戦場で戦う中、アリスは甲斐斗が気になり唯がいる医務室とは別の医務室へと向かっていた。

 医務室の鍵を開けようと鍵を持ってきていたが、その必要は無かった。

 ドアはぶち破られ、辺りには砕け散った破片が散乱している。

 部屋を覗き込むとベットの上で横になっていたはずの男の姿が消えていた。

 全身に包帯を巻き、動ける程まだ回復していないはずなのに……。

「そんな、いなくなってる……」

 ふとベットの上を見ると、男が寝ていた場所になにやら一枚の紙が置かれていた。

 その手紙を手に取ると、たった一言『ありがとう』の文字が書かれていた。

「あの人、良い人なのかな……?」


愁と羅威、そしてBNの兵士達の乗る機体はERRORと激しい戦闘を繰り広げていた。

「いい加減にしろよ!」

 数発のマシンガンの弾丸がBeast態の体を撃ち抜いていく。

 だがBeast態は怯むことなく次々に愁達に集団で襲いかかってる。

 既に何人もの仲間が殺されており、今まさに味方の我雲が手足を食い千切られていた。

 パイロットが脱出しようとハッチを開けるが、Beast態がそれを待っていたかのように一気に噛み殺す。

 それだけではない、まだ生き残っているPerson態も更に進んでくる。

 戦っていた兵士達は見る見る減り、戦い続ける兵士達も段々と焦りを感じていた。

「羅威! このラインを維持するにはもう限界がっ!」

「ここを奴等に素通りさせる訳にはいかない、守れ」

「簡単に言ってくれるなぁ、まったく……!」

相変わらず強気で冷静な羅威に愁は軽く笑みを浮かべERRORと戦っていると、別の仲間の兵士から通信が繋がり助けを求めてきていた。

「うあっ! Person態が取り付きやがったっ、魅剣! 助けてくれ……!」

 愁のモニターにもがいている一機の我雲を映し出された。

 我雲を埋め尽くす程、Person態が既に群がっていおり、中にいる兵士は恐怖で体を震わせている。

『こいつ等、俺を見て笑ってる……笑っていやがるっ!!』

 パイロットのモニターには不気味に笑うPerson態の顔しか映っていない。

「待ってろ、今すぐ助けてやるからっ!」

 直ぐに助けようと愁は無数に張り付いているPerson態に機関銃の銃口を向けるが、それに気づいたBeast態が一気に我雲と間合いを縮め左足に噛み付く。

「くそ! 邪魔だ!」

 肩に装備されているLRSを左手に持ち、Beast態の頭部目掛けて突き刺す。

「化け物に構ってる暇は無い、早く助けないと!」

 だが次々に現れるPerson態とBeast態に、気付けば機関銃の弾も尽き、もはやLRS一本で戦うしか無かった。

「愁! 今すぐ下がれ! もう間に合わない!」

「うわあああああああああっ!!」

 羅威からの指示が聞こえてきたと同時に、愁に助けを求めていた兵士の悲鳴が聞こえてきた。

 ボロボロに溶かされた我雲、その中から一人の兵士が現れる。

 ERRORから逃げようと機体を捨てて無我夢中で走りだす。

「まだ生きてる! 助けられる!!」

『行くなッ!!』

 愁が我雲のブーストの出力を上げようしたが、羅威から通信が入り愁を止めようとする。

「なんでだよ!? まだ生きてる! 助けられるかもしれないんだぞ!?」

『あれは……罠だ』

「罠……?」

「魅剣! 俺はここだ! 早く助けてくれえっ!!」

 愁達に向かって走り出す兵士、だがPerson態がその兵士の周りに群がってくる。

 だが殺しはせず。何故か生かしたままだった。

『あの化け物、俺達をこっちに誘ってやがる』

「ERRORが、そんな事を?」

「あいつ等、段々と知能が高くなっているような気がする。これは罠だ、助けに行った所で一斉に襲われて殺されるだけだぞ」

「でも、それじゃあ! 今助けを求めている仲間を見捨てろって言うのか!?」

そう言って愁は再び視線を羅威から助けを求める兵士に迎えると、無我夢中で走り続ける兵士は泣きながら声を荒げていた。

「た、助けてくれよぉッ! 俺達仲間だろッ!? 嫌だ……俺は死にたくない! 食い殺されたくないいっ!」

 無線から聞こえてくる助けを求める声、その声は震えており、恐怖に満ちていた。

「羅威、俺には……仲間を見捨てる事なんて無理だッ!!」

 愁の心には迷いが無かったと言えば嘘になる。

 だが、今一パーセントでも助けられる可能性があるとすれば、愁はその一パーセントに掛けた。

 どんなにピンチでも、どんなに危険でも、絶対に仲間を見捨てはしない。

「おいっ! LRS片手に何が出来るって言うんだ! 今すぐ戻れ!』

「仲間を助けたらすぐに戻るさっ!」

「馬鹿がッ! 死にたくなければ今すぐ戻って来いッ!」

 愁は羅威の言葉に耳を貸さなかった。例え銃が無くても、このLRSがあればまだ何とかいけるはずだと思っていた。

 愁の乗る我雲に襲い掛かってくるERRORの攻撃をギリギリの所で交わし、その隙を狙いながら次々にERRORを斬り捨てていく。

 最初は無理かと思っていた羅威も、愁の機体が流れるような動きながら仲間に近づいているのを見て、僅かだが期待してしまう。

「待ってろよ、絶対に……絶対に助けてやるからなっ!」

 ERRORの返り血を浴び、血みどろになっていく我雲。

 ようやく兵士の元に移動できた我雲は、LRSを背中に戻すと左手を兵士の前に差し出す。

「早く乗れ!」

「あ、ああ!ありがとう魅剣!」

 兵士は涙を流しながら何度も愁にお礼を言ってくれる。

 だが、まだ愁が危険区域にいるのには変わりない。周りにはまだ沢山のERRORが潜んでいるからだ。

 後はこの場から逃げるだけ、そう思い機体を走らせようとしていた。

「本当に助けてきてくれて、ありがとうなっ」

「俺達仲間じゃないか、仲間を見捨てる事なんて絶対にしない」

「魅剣……」


『─ERROR─』


 その時、愁の乗るコクピットにあるモニターが突然赤くなり、『ERROR』の単語が一つ映し出される。

 何が起こったのかわからない、故障なのか。モニターを見れば左手に乗っている兵士の姿も赤く見えてしまう。

「モニターの故障?」

「どうした、何かあったのか?」

「いや、モニターが少し故障したみたい。大丈夫だよ」

「お、おい。魅剣、何してんだよっ!?」

「えっ? 何って……」

 モニターを見ると、そこには兵士を握り締めていく我雲の左手が映っていた。

『お、おいやめろって! 苦しいだろ! おい……!』

 訳がわからなかった。操縦桿を握っているだけで何も動かしていないはず。

 止めさせようと幾ら操縦桿を動かしても、機体の左手は兵士を離そうとしない。

 それ所か、兵士を握り締めていく左手が更に力を込めて握り締めいく。

「ぎッ、がぁっ!!」

 段々と兵士の顔が変形していく。体の骨が鈍い音を鳴らしながら折れ、砕けていく。

「どうして!? なんで離さないんだよ!」

 何度試みても我雲の左手が止まる事はない。。

 目の前では赤いモニターに全身の骨が砕かれていき、口から血を吐き散らす兵士の姿しか映っていない。

「たす、ケて゛ッ……!」

 其の言葉を最後に、握り締められている兵士からは内臓が押し出されて口から次々に吐き出された。

 眼球が吹き飛び、機体の指の隙間から血肉が溢れ出す。

「あ、あぁ……あああ!うああああああああああっ!!!」

 たった今助けたばかりの仲間を握り潰した。

 助け出された兵士の安心した顔が愁の脳裏に映し出される、しかし今目の前に移っているのは変わり果てた仲間の姿だけだった。

「違う……ッ! 俺は、俺は何もしてない! 勝手に機体が !機体がっ!」

『─ERROR─』

『─ERROR─』

『─ERROR─』

 次々にモニターに映し出される『ERROR』という警告画面。

 機体が揺れ始める、愁がモニターに目を向けると何匹ものPerson態が我雲に取り付いていた。

 ニタニタと、まるで愁を笑っているかのように不気味に歯を見せる。

「く、来るなあッ!! 笑うなああっ!! うああああああああああああ!!」

 仲間を死なせてしまった事にもはや理性を失い混乱してしまう。

 様々なスイッチを押し操縦桿を動かすが、我雲は何の動きもしない。

「羅威! 助けてっ! 羅威ッ!!」

 通信を試みるものの、画面はERRORのまま変わらず。モニターからはノイズ音しか聞こえてこなかった

「お、俺は……喰い殺されるのか?」

 コクピットの中に、何かが引きちぎられる音が聞こえてくる。

 鉄が引き裂かれていく音、ERRORはゆっくりと愁に向かって、邪魔な装甲を剥ぎ取りを食い殺しにかかっていた。

「死ぬのか……俺……体を千切られて、喰われて……」

 羅威に言われた事を素直に聞いておけば良かった、等と後悔していも今更遅かった。

 最後の装甲は剥ぎ取られた、コクピットは剥き出し状態となり、輝かしい太陽の光が愁を照らし出す。

「皆……ごめん……」

 それが彼の、最後の言葉になろうとした。

魅剣みつるぎ しゅう

正義感が強く、争いを好まない性格。

人類をERRORから守る為にBNに志願し、世界を守ろうとしている。

人間同士の争いは好まず、例え相手がNFだろうと説得をしだす時も少なくない。


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