第102話 脅威、圧迫
───愁達の率いる部隊が次々に地下へと降下していく状況の中、甲斐斗達はERRORに周りを囲まれながらも応戦し何とかERRORを近寄せずにいた。
「これだけ必死になって攻撃をしかけてくるとは……それだけこの場所が大事という訳か」
大分新種のERRORとの戦闘に慣れてきた赤城、巨大な二本の鎌を振り回すERRORと距離を縮めると確実に頭を斬り飛ばしていく。
「甲斐斗、愁はお前に地下には行くなと言っていたが万が一の事もある。いつでも行けるようにしておいてくれ」
地上が幾ら応戦し時間を稼ごうとも、地下での作戦が成功しなければ意味が無い。
だが作戦が成功した所で地上の戦力が全滅していても意味が無い……いや、あるのかもしれないが、それは余りにも失う物が多すぎる。
「任せな、地下の奴等に何かあれば俺が行ってやる。まぁその前にこの地上に広がるERRORをどうにかしないとなぁ」
圧倒的物量で攻めてくるERRORには幾ら甲斐斗達であろうとも徐々に焦りはじめる、レーダーを見れば赤一色が広がっており、遠くの方からも次々にERRORが近づいてきているのが見てわかる。
「俺は大丈夫だがお前等の体力がいつまでもつか……その前にさっさと巣を破壊してくれたら世話ねえんだが───おっと」
話していた隙を狙われBeast態が大口を開けて魔神を飲み込もうとするが、魔神は避ける事なく握り締める黒剣を突き出し体を貫通させる。
Beast態は血を噴き出し体を痙攣させながら地に倒れる、これでもう何百匹目だろうか、周りの土は血で染まり、無残なERRORの死体が幾つも転がっている。
「やれやれ、ERRORの死体が増えてきたな、こりゃ帰り道を確保する為にも処理しとかねえと……」
「それなら私に任せなさい」
神楽の一声で魔神の目の前にあった死体達は羽衣に放たれた光に飲み込まれると、一瞬にして掻き消される。
目の前擦れ擦れの攻撃に唖然とする甲斐斗だったが、すぐに神楽に向かって怒り始める。
「おまっ!さっきの攻撃少しでも照準ズレてたら俺にも当たってたぞ!?」
「あら、貴方ならこれぐらい避けられるでしょ?」
「えっ……ま、まぁな。余裕だぜ?俺は当たらないと分かっていたから動かなかっただけだしな」
そんな甲斐斗に冷たい視線を送る神楽だが、その視線を送る相手は甲斐斗にだけではなかった。
「SVの……葵さんと言ったかしら。聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
青緑色の長髪を靡かせ颯爽と戦場を駆け抜けERRORを切り裂いていくアストロス・ライダー、神楽の言葉を聞いて葵が機体を止めた瞬間、周りに立っていたERRORが次々に倒れていく。
「あん?俺に何か用か?」
「ええ、貴方の乗る機体なんだけど。それは……何なの?」
素直で単純な質問だった、神楽にはわからない、今二人が、『何』に乗って戦っているのか。
「見たらわかるだろ、俺達の機体だよ。まぁ、ちょっとばかり外見は変わったけどな」
たしかに先程までのライダーとは全く別の機体の用にも見えるが、僅かに面影は残っている。
「機体?それならどうして、羽衣の力が効かなかったのかしら」
神楽の視線は真っ直ぐ葵に向けられていた、その緊迫とした雰囲気に赤城や甲斐斗も聞き耳を立てていた。
「ああ……それならこの戦いが終わった後にちゃんと話してやるよ」
「あらそう、それじゃ今から私に説明する言葉でも考えておくべきね」
今この状況で説明している暇などないのだろうか、葵はこの場でその訳を言い出そうとはしなかった。
すると今度は黙っていた赤城が葵の後の座席に座るエコに声をかける。
「エコ、体調の方はもう大丈夫なのか?」
「うん、戦える……」
「……そうか」
その言葉を聞き赤城と神楽はまた先程と同じように戦場でERRORを蹴散らしていくが、話の続きが聞きたかった甲斐斗は少し残念そうな表情を浮かべている。
そして甲斐斗とは別に、深刻な面持ちで葵達を見つめるシャイラがいたのを見た甲斐斗はふと声をかけた。
「どうしたシャイラ、そんな顔してよう」
「すみません、二人の体調が心配で……」
「まぁエコもこの戦いがどれだけ大事で大切なのか知ってるから出てきたんだろ。二人に無理はさせたくねえ、だったらあいつ等に負けないぐらい俺達も戦うぞ」
「はい、畏まりました!」
甲斐斗の言葉は人に勇気を与え、そしてその力は、人に希望をも与えていた。
こんな地獄のような場所で、醜い化物がひしめき合う中でも、兵士達は果敢に戦う。
兵士一人一人が自分の感情に露にしていた、一人の兵士は声を上げながら次々にERRORを撃ち殺し、仲間達と共に戦艦を守り抜いていく。
また別の一人の兵士は、首から提げたペンダントを握り締めた後、帰りを待つ者の為にERRORに向けて引き金を引く。
必ず作戦を、EDPを成功させる───人間達は100年前に思い知らされた、真の、本当の『平和』とは何か、『戦争』とは、何か。
『命』の価値観はどうやっていつ決まる?命が削られてる時でしか分からないだろうか。
抗い、戦い、勝つ。そして今度こそ、本当の平和な世界で、その平和に浸りながら、ゆっくり生きていく。
例えそれが全ての人類での意味にならなくとも、人々は皆必要としているはずだ、平和な世界で、溢れんばかりの『愛』を───。
『─ERROR─』
ああ……。
レーダーに反応有り、巨大な地響きが起こり始めると、兵士達の乗る機体は大きく揺れ始める。
艦内にいた兵士達も突然の出来事に声を上げその揺れを必死に耐えていた。
降下する為の穴とは遠い場所から地盤が避けて地割れが起きはじめると、砂塵を巻き上げながら次々にERRORが隙間に落ちていく。
何かが始まり、何かが来る───風に吹かれるように強大なプレッシャーが甲斐斗を覆うと、瞬時に手を伸ばしスイッチを押し全機体との通信を繋げた。
「お前等全員下がれッ!来るぞ───ッ!!」
甲斐斗の慌てぶりとその焦り声に兵士達が一瞬動揺した瞬間、巻き上げられた砂塵の中から赤く長い棘が無数に上空へと放たれた。
兵士達が上空を見上げる、そこには先ほどまで広がっていた青空などなく、赤く、そして黒い空が自分達に落ちてきていた。
その棘の落ちてくる範囲は今広がる光景全てに目掛けられていた、今から下がった所で、逃げた所で、既に手遅れ。
「クソが───ッ!!」
赤く鋭い雨は降り注がれた、全機体が空目掛けて銃を構え、全艦隊が一斉に砲門を上空に向け攻撃を始めるものの、今落ちてくる赤い棘を全て取り除く事は不可能だった。
葵とエコの乗るアストロス・ライダーは腰の左右に付いてあるレールガンで降り注ぐ赤い雨を吹き飛ばし、また羽衣も必死に抵抗を試みるものの、その機体の大きさが仇となり次々に赤い棘が羽衣に突き刺さっていく。
甲斐斗は大剣を振り上げると、瞬時に赤城の乗るリバインの前に立ち目の前にまで接近してきた赤い棘をその大剣を振り下ろし吹き飛ばす。
……だが、それ以外の機体は、どうすることもできなかった。
目の前にまで赤い棘が近づいてくる、一人の女性兵士が乗るギフツは必死にマシンガンで一掃しようとするが、その余りの多さに恐怖で震え照準が定まらない。
「きゃああああああああッ!!」
次々に突き刺さる赤い棘、機体の頭部、肩、足に突き刺さり、そして一本の赤い棘が簡単に胸部を貫いた。
また一人の兵士が乗るリバインは、盾を構えその攻撃に耐え抜こうと試みるものの、その棘の貫通力は簡単に盾に穴を開け、そのまま胸部を突き刺した。
盾を構えたまま無力に力尽きるリバイン、機体に乗る全ての兵士が各自で必死に赤い雨を防ごうと僅かな時間で考え抵抗したものの、一斉に降り注がれた赤い雨に次々に機体が傷付き、破壊されていく。
そしてそれは機体だけの被害では留まらない、待機していた全ての戦艦にも赤い雨を降り注ぎ、その鋭い棘が次々に甲板を貫いていく。
「あっ……ああ───」
口を開いたまま身動き一つ取れないアリスがそこにいた、目の前からは無数の赤い棘が迫ってきており、逃げる事すらできない。
跪き頭を抱え蹲る兵士、一人逃げようと席から立ち上がる兵士、その場にいる誰もがそこで『死』の恐怖に震えた。
ただ一人、エラを除いて。
咄嗟に眼を瞑り俯くアリス、死の恐怖に全身が震え自分の死ぬ姿は脳裏に浮かんだ。
死ぬ、死ぬ、死ぬ……痛いのだろうか、苦しいのだろうか、悲しいのだろうか……嫌だ、嫌だ、死にたくない!
……どれ程目を瞑っただろうか……一向に何も起こらない、ゆっくりと閉じていた目蓋を開けていくと、そこには1機の機体が身を挺して赤い棘からアリス達を守っていた。
背部から突き抜ける赤い棘の数々、火花を散らしながら機体はその場に跪くと、アリスの目の前にあるモニターに頭から血を流すシャイラの映像が映し出された。
「アリスお嬢様……お怪我は、ありませんか……?」
ノイズが入りながらもシャイラの声が聞こえてくる、アリスは何度も頷き自分が無事だという事を伝えると、安心したかのようにシャイラは笑みを浮かべた。
「良かった……」
跪いたままアストロス・ガンナーの体勢が傾いていく、そして甲板から落ちた瞬間、一瞬の閃光と共に機体が爆発を起こした。
爆発の振動が艦に伝うとともにアリスの頭の中は真っ白に染まろうとした、だが先程映っていたモニターに葵の姿が映ると、葵が慌てて声をかける。
「安心しろアリス!シャイラは死んじゃいねえ!脱出装置は作動してる!」
「───えっ?ほ、本当に……?」
「ああ、だから早く救助するんだ。あと被害状況の確認も忘れるなよ!」
「う、うん!わかった……!」
葵の呼びかけにアリスはすぐに指示を出しシャイラの乗る脱出装置を艦内に収容させ、現在のNF、SVの被害状況を調べさせる。
そんな人間達の姿を、エラは一歩も動く事無く眼だけを向けて見つめていた、
戦艦に突き刺さる赤い棘の本数は十数本程だが、動力源は奇跡的に無事の為爆発の危険は無かった。
艦内では兵士達が慌しく動いている、だが戦場では先程まで戦闘があったかどうかもわからない程静寂に包まれていた。
赤い棘の餌食になったのは人間だけではない、地上にいたERRORにも全て突き刺さり、殺していた。
ERRORも止まり、機体も止まるものの、静寂した戦場はすぐに機体の爆発音に飲み込まれた。
赤い棘が動力源に突き刺さった機体は次々に爆発を起こし四散していく、例え動力源が無事でも、機体の胸部に突き刺さった赤い棘は兵士の死を意味する。
葵とエコの乗るアストロス・ライダーは必死に戦場を駆け回り負傷した機体に乗る仲間を助けに向かおうとしたが、目の前に広がるその余りも悲惨な光景に何からしていいのか迷っていた。
機体を捨てて脱出しようとする兵士、炎を上げる戦艦の数々、通信を繋げば兵士達の苦しむ声が聞こえてくる。
「ちくしょうッ!一体どうなってんだよ!何で……何で一瞬で、こんなっ……!」
その時、丁度アリス達の乗る艦の隣に待機していた戦艦が巨大な炎を上げた後爆発を起こし周りの機体達を吹き飛ばしていく。
戦力が減っていく……いや、既に無に等しいかもしれない。
今この戦場に残っている最後の戦力は……神楽の乗る負傷した羽衣、赤城の乗るリバイン、甲斐斗の乗る魔神、そして葵とエコの乗るアストロス・ライダーのたった4機。
もう守りきる事など出来やしない、湧き出るERRORの数は止まらず、死んでいったERRORの屍を超えてやってくる。
負傷し身動きの出来ない機体に乗る兵士に何が出来る?何の為に今まで生き抜き、戦ってきた。
無残に散っていく、希望が、戦友が、未来が。その涙と叫びと共に散っていく。
───だが、それでも決して抗う事を忘れない兵士達もいた。
負傷して動けない機体が次々に『LIMD』を発動させ機体に取り付くERRORを吹き飛ばしていく、近くの兵士を、戦艦を、守るために、自ら起動させ死に行く兵士達。
「お願いします……この世界を、人類を……救ってください」
一人の女性兵士はそう告げた後、静かに指を伸ばしてLIMDを起動させる。
「化物どもからこの世界を守ってくれ……頼んだぞッ!」
一人の男性兵士はそう告げた後、勢い良く拳を振り下ろしLIMDを起動させる。
もう勝つしかない、勝つしかなかった。どんなに犠牲を払っても、勝利しなければ意味が無い。
勇敢な兵士達が次々に死んでいく、そんな光景を前にして、今の葵達に何が出来るだろうか……。
「神楽、お前の機体まだ動くか?」
剣を握り締めたまま動かない魔神、甲斐斗は呟くように神楽に聞くと、少し焦った様子の神楽が口を開いた。
「ええ、何とか……でも、さすがにちょっとキツイわね……」
羽衣に突き刺さる赤い棘を羽衣の力を使い次々に機体から引き抜いていくが、破損した右肩と腕は痛々しく、上げようとしても上がろうとしない。
それでもまだ戦える、次々に湧き出るERRORに対抗しなければ……そう思いフェアリーを機体から放とうとした時、甲斐斗は冷静な面持ちで口を開いた。
「わかった、お前と赤城は今から艦内にいる生き残った兵士を羽衣に乗せてこの場から離れろ」
甲斐斗の言葉は神楽、赤城、そして葵とエコの思考を一瞬停止させた。
「……は?」
考えもしなかった、そして一番言わないであろう甲斐斗が、この場から去る選択肢を選んだのだ。
「今すぐにだ、負傷した兵士は見捨ててもいい、今生きてる奴だけ助けてこの場から離れろ」
「ま、待て甲斐斗!貴様、自分が何を言ってるのかわかっているのか!?」
赤城が声を上げ、甲斐斗の言葉が信じられないような表情をしていた。
それは羽衣に乗る神楽と、ライダーに乗る葵とエコも同じだった、ここまで来て、逃げなければならないのか……?
「ああ、一番わかっているつもりだ。いいかよく聞け、俺達がここに来た理由は何だ、ERRORの巣を潰すことだろ?そして今、愁達は地下へと向かったんだ、後はあいつ等次第なんだよ、この戦いの行く末は」
「俺達がこれ以上この場で戦って何になる?後はどれだけ犠牲を出さないようにするか戦うはずだったんだろ?でも地上はこの有様だ、危険を冒してまでここに居座り戦う意味が無い」
聞こえは悪いかもしれない、だが甲斐斗の言う通りだった、この戦場ではもう、戦う意味が無い、戦う意味が一瞬にして消えてしまった。
「地下から帰って来た兵士達はどうするつもりだ!?見捨てて逃げろと言うのか……!」
「ああそうだ」
「なっ……正気か!?」
「地下に行った奴等の大半はどの道戻ってこれねえだろ。地上がこの有様だ、地下だって大体何が起きてるか想像できる。地上で生き残ったのは数十人、地下も同じぐらいか、地上よりもっと少ないはず───っておい!」
その時、飛び掛ってきた一体の機体の攻撃を間一髪で避ける魔神、剣を構え振り返ると、そこには鋭い鍵爪の刃先を光らせるアストロス・ライダーが立っていた。
「見損なったぞ甲斐斗ッ!てめぇ……何が俺を頼れだ、何が最強だ……何もできてねえじゃねえかッ!」
僅かに涙を零しながら葵が声を荒げる、その悔しさと切なさに遣り切れない気持ちを甲斐斗にぶつけていた。
「お前最強なんだろ!?頼っていいんだろ!?……なぁ、皆を救ってくれよ……見捨てるとか、そんな事言うなよ……!」
もうどうすることも出来ない、次々に機体はERRORにより破壊され、兵士達は死んでいく。
艦隊もほぼ全てが赤い棘の餌食となり、艦を発進させる事すら出来ない状況の中、もう生き残る方法は羽衣に人を乗せこの場を去る事しかなかった。
葵の言葉に返事が出来ない甲斐斗、悔しさで感情を爆発させたくもなった……だが甲斐斗は必死に堪え、噛み締め……耐えていた。
幾ら力が有ろうと消えた命を取り戻す事は出来ず、この圧倒的に不利な状況の中では足掻く事しかできない。
「……お前等を死なせる訳にはいかねえんだよ。たしかに勝つ事は大事だが、死んだら意味ないだろ。……俺の話が聞こえたかアリス、俺の言った通り今すぐ艦内にいる生きている奴等を全員───」
通信を繋げていたアリスから返事が来ない、それ所かスピーカーからは叫び声と共に銃声が響いてくる。
「アリス……?おい、どうした!何があった!?アリス!」
必死に呼びかけるが空しくも通信は切れ、何が起きたのかわからない。
アリス達の乗る戦艦に近づいていく羽衣、その中から艦の状況を見た神楽はすかさず声をあげた。
「甲斐斗!この赤い棘、ただの棘じゃないわよ……!」
その神楽の言葉に甲斐斗達は赤い棘の方に視線を向けると、戦艦や機体に突き刺さっている赤い棘に次々に亀裂が入り砕け散り始めると、その中から夥しい数の赤い蛭のような生物が溢れ出てくる。
「何よアレ……かっ、艦内に侵入してる……!」
赤い棘によって穴の開けられた甲板の隙間から次々に赤い蛭が入っていく、その光景を甲斐斗が見た途端、眼の色変えて自分の機体を走らせた。
「あああッ!あの中にまだミシェルが───」
だが甲斐斗の機体は突如立ち止まると、後ろに振り向き剣を構えだした。
消えないプレッシャー、甲斐斗には感じる、あの砂塵の煙の中にいる『何か』の気配を。
「っく、ああ!……っちくしょおおおおッ!!」
「ど、どうした甲斐斗!あの子を助けに行かないのか!?」
声を荒げながら一人特攻していく甲斐斗、それを見ていた赤城が呼びかけてみるものの、甲斐斗は機体を止める事無く突き進み続ける。
「くっ、仕方ない。神楽、私は一度艦内に戻りミシェルを助けに行く。この場を頼んだぞ!」
「ええ、一匹たりともERRORは近づかせないわ……赤ちゃん、無事帰ってきなさいよ」
「ああ……すぐ戻る」
甲板の上に機体を待機させる赤城、操縦席にある刀を腰に付け、拳銃を手に取ると一人艦内へと乗り込む。
その間、葵は負傷した機体から次々に生き残った兵士達は助けていると、各機体に突き刺さった赤い棘からも赤い蛭が無数に湧き出はじめる。
蛭は次々に機体の隙間の中に入っていくと、やがて操縦席へと辿り着く。
驚いた兵士が赤い蛭の存在に気づいた時、それは既に手遅れな状態を意味していた。
自分の体に次々に赤い蛭が張り付いていくと、体の皮膚を食いちぎり、肉を食い破ると、次々に生きた人間の体内に入っていく。
おぞましい光景だった、兵士達は仲間の醜く死ぬ姿を見て声を上げ、思考が混乱していく。
そして、それは仲間だけではない。ふと足元を見てみれば、すぐそこに奴等はいた。
……もうここは、戦場と呼べる場所ではない。
地獄という呼び名が相応しいだろう、急速な勢いで部隊は壊滅、機体は破壊され、兵士は殺されていく。
誰もこの死の連鎖を止める事は出来なかった、葵とエコが幾ら機体を走らせ仲間達を救おうとしても……。