第1話 争い、再び
この小説は状況や場面によって視点が様々に変わり読みにくいと思われます。
なので、これは一つの「物語」として読んでいただければ幸いです。
※現在Deltaプロファイルが完結し、過去話を随時修正中の為、より読みやすくする為に文章構成を大きく変更している途中です、まだ完成していませんので途中まで読んでいる方には違和感を感じるかもしれません。
「最強の魔法使いと言われたこの俺が、まさかこんな所で死ぬとは……」
男が一人、崩壊していく世界の中で立ち尽くしていた。
周りは宇宙のような幻想的な光景が広がり、立っている大地には次々に亀裂が走っていく。
「あいつ等、無事元の世界に帰れたかな……にしても、『自分の身を犠牲にして世界を救う』、ねぇ。悪くはないけど、何か在り来たりな最後だったな……」
もうすぐ死ぬというのに男は緊張感の欠片も見せず一人で喋り続けていたが、ついに男の立っている地面にも亀裂が走りだすと足場が崩壊し何も無い空間、無の世界に男の体は吸い込まれていく。
男には生きたいという感情も確かにあったが、死んだら死んだでそれでもいいと思っている。
何故なら、死ぬ事であの世に居る姉に会えるのだから───。
───荒れ果てた荒野、そこでは今まさに戦争が起きていた。
NF(New Face)軍がBN(Back Numbers)軍と激しい衝突を見せるが、NFはBNの策略に嵌り危機が迫り、本来圧倒的な戦力を持っているはずのNFは撤退を余儀なくされている。
この世界の戦争はデルタマシンナーズ。通称『Dシリーズ』という人型機動兵器を使って戦争を行なうのが主流とされる。
素早い動きが可能、戦車や戦闘機より遥かに高機動、高性能を誇る機体である。
そして今、その機体を駆使して戦場で戦う一人の青年がいた。
全ては予想外の事だった、相手の機体は僅か一機。
十機以上いたはずの仲間の機体は殆ど破壊され、今ではたった四機程になっている。
「アステル少尉、今すぐ後退をしてください! このままでは全滅してしまいます!」
額に汗を滲ませながら操縦席に座る一人の青年、名はカイト・アステル。
通信でオペレーターのルフィスという少女の声が聞こえてくるが、ノイズが激しくモニターに映し出される彼女の姿もぶれてしまいよく見えない。
「仲間がまだ戦っているのに、僕だけ逃げる訳にはいかないよ」
「駄目です、少尉の乗っている機体は破損が酷すぎます!直ちに後退してください!」
少女の言葉の後、青年の乗り込んでいる機体の各部データが目の前にモニターに映し出された。
胸部の装甲を損傷、機体の左腕も吹き飛ばされているのが見てわかるが、青年は軽く笑み浮かべ額の汗を拭った。
「大丈夫、まだ戦えるよ。それより、味方の機体が戦線離脱するまで戦闘を継続するから、オペレート頼みます」
「りょ、了解! あ、じゃありません! 今すぐ───ッ!?」
その時、ルフィスが何かに気づいた素振りを見せる。
「B3の位置に味方機三機確認! SOS信号を出しています!」
「こちらカイト・アステル。了解しました、直ちに現地に向かいます」
SOS信号となると、敵と交戦中だと予測できる。
(それにしても相手は一体何者なんだ、たった一機で僕達の部隊を半壊させるなんて……)
青年は信号を出していた場所へと近づいていくと、遠くの方で微かに見える三機のNFの機体『ギフツ』が立っていた。
そして機関銃を片手にひたすら『何か』を撃ち続けているのが見える。
兵士達は怯えながら『敵』を排除する為に戦い続けるが、その声は微かに震えていた。
「何だあの機体は!?」
「あれはBNの新型機体、まさかここに現れるなんて……!」
応戦する為に機関銃を撃ち続けるギフツ、青年から見れば何を撃っているのかはこの距離からでは確認できない為、更に出力を上げて仲間の元へと向かう。
その時には既にレーダーに映る味方機の数は三機から二機に減っていた。
「くそっ! 当たれよ! 当たれよおぉっ!!」
一機のギフツが追い詰められ、機関銃を乱れ撃ちしていく。
それでも『敵』には掠りもしない。一気に距離を縮められ、一本の剣が操縦席を貫く。
「ああああああッ!!」
貫かれた機体は爆発を起こし、その爆発の後で青年は漸く現地に到着する事が出来たが、レーダーに映し出されているNFの機体の印は自機を含め二つしか反応していなかった。
「そんな、あと一機しか残ってないなんて……」
目の前には負傷した一機のギフツが膝を曲げて座り込んでおり、青年はすぐさま撤退を呼びかける。
だがギフツは一向に動く気配を見せなかった、するとノイズ音ともに力の無い女性の声が聞こえてきた。
「私の機体ではもう無理です、私を置いて少尉は早く撤退してください!」
「仲間を見捨てるなんて僕には出来ない!」
「お願いします、アステル少尉、早く───!」
「待ってて、今すぐ助けるから!」
青年の機体が一歩前に足を踏み出すと、まるでそれが引き金だったかのように何処からともなく突風が吹き機体が揺らされる。
「は、早く逃げ───!」
それを最後に女性の声が聞こえなくなり、ノイズ音だけが青年の耳に入ってくる。
そして機体を揺るがした風は爆風へと変わり、レーダーに反応する仲間の最後の印が消えた。
「そんなっ、一体何が……」
辺りを包む煙が風に流されると、そこには先程まで立っていたはずのギフツが無残にも破壊されており、機体の残骸が辺りに散らばっていた。
目の前で仲間が殺された。何人も何人も……向かってくる敵はたった一機だけなのに。
すると青年の目の前にあるモニターの映像が変わり、もう一度ルフィスが映る。
「アステル少尉、第五機動隊は少尉を除いて全滅しました、お願いします直ちに撤退をしてください!」
「僕だけ撤退……僕だけ、生き残るのか……?」
「少尉!? 後ろにBN機の反応がっ!」
ルフィスの声に青年は機体を後ろに振り返らせる、そこにはBNの新型機体であろう機体が後方にある崖の上に立っていた。
その姿をメインカメラに捉え、機体の姿がはっきりと見て分かる。
崖上からすっと飛び降りてくるBNの機体。白銀の装甲を身に纏う騎士のような姿に、白色のマントが風で靡いている。
そして青い目を光らせるその機体は、まるで青年の様子を窺うかのように見つめたまま動かない。
「あの機体が、僕の部隊を……っ」
青年の心は怒りや驚きよりも恐怖の方が大きかった。
その場から逃げ出したい気持ちはたしかにある。
だが自分は軍人、死んでいった仲間の為にも戦わなければならない。
そんな感情を抱きつつ青年は目の前の機体を睨みつける。
「ルフィス、今から僕はあの新型と戦うから、戦闘データを記録して」
この状況でもなお戦うと言うとは思っていなかったらしい、ルフィスは驚いた表情で青年を見つめていた。
「な、何を言っているんですか!? 撤退命令が出ているんです! 命令違反になりますよ!」
「正直、今の僕の機体であの新型から逃げれそうもないからね、ここで戦うしかないよ」
それだけ告げると青年は通信のスイッチを切る。
(そうだ、僕は戦うんだ。相手はたった一機。 戦って、勝って、戻って、姉さんの元に、皆の元に帰るんだ……ッ!)
「少尉!……少尉? そんなっ……アステル少尉!」
青年がスイッチを切っている以上通信は出来ない、だからいくら応答を呼びかけても返事が無い事は分かっている。
それでもルフィスは目に涙を浮かべながら青年の名を呼び続けていた。
、
青年の乗るギフツ対敵の新型の機体。
互いは見つめ、睨みあい、両者隙を見せない。
だが青年の足は微かに震えていた。
必死に止めようとしても止まらない、それ所か汗が額だけでなく頬を伝いはじめる。
荒野には静かに風が吹き、機体の周りに砂塵が舞い上がっていく。
「僕はこんな所で、死ぬ気は無いッ!」
ギフツの右腕から小型のナイフが飛び出し、そのナイフを掴む。
ナイフを握り締めながらギフツは敵の新型に接近していく。
相手もそれと同時に二本の剣を構え、凄まじい速さで青年の機体に近づいてきた。
ギフツは相手が突き出した剣を何とか避けるものの、敵は二本の剣を使う為に簡単には近づけない。
小型ナイフでは歯が立たず、相手が振り下ろす剣を弾こうとするが逆に一撃で腕を破壊され、機体の持っていたナイフが手から吹き飛ばされてしまう。
これ以上、負傷した機体では相手の剣を避けるので精一杯だった、
青年は一旦距離を置こうとして後退するが、その動きに合わせてBNの機体は一気に近づいて来る。
「は、速い!」
機体の足を振り上げ、蹴りを繰り出そうとするものの、敵の機体は青年の動きを完全に先読みしており、瞬く間に剣で機体の足を切り捨てられる。
その衝撃で機体が大きく揺れ、青年は機内に頭を打ち付けてしまうものの必死に体勢を立て直そうと機体を動かそうとしたが、片足を失ったギフツはもはや動く事が出来なくなっていた。
それでも諦めまいと後部に付いてある機関銃に手を掛けようとした時、敵の左手に持っている剣がギフツの右腕を貫く。
右腕も機能停止となり、武器も取る事が出来ない。
頭から流れる一筋の血、とても暖かく、気持ち悪い感触。
「血……? ぼ、僕は……死ぬの……?」
戦場で戦う事で死の危険は身近に感じていると思っていたが、実際に死を迎えるとなると青年の気は激しく動揺してしまう。
「た、助けて……! 嫌だ! 嫌だぁっ!! こんな所で死にたくない!!
新型は右手に持っている剣をギフツの胸部に突き立てると、それをゆっくりと下ろしていく。
機体の胸部に穴を開け、ゆっくりと刺し込まれてくる剣先は徐々に胸部の装甲を貫き、そして青年の目の前に剣先が現れた。
「あああッ!? た、助けて! 姉さん、姉さん! 姉さ───」
ある音と共に、東部軍事基地のオペレート室にいたルフィスは両手で顔を覆った。
その音とは機体が破壊された時に出る警告音であり、モニターにはNF軍第五機動隊の最後の機体の印がレーダーから消えていた。
正式名MFE-ギフツ(New Face製)
全長-17m 機体色-茶 動力-光学電子磁鉱石
主に階級が少尉以下の軍人が搭乗する機体。
左右の腕に備えられている仕込みナイフが特徴。