コートの話
私が会社に着ていくコートがある。黒いハーフコートだ。材質はよく知らない。カシミヤとポリエステルの混合だとは思う、さして興味は無い。何年前に購入したのかと数えてみたが、十年近く前だった。人生の冬の内、四分の一はこのコートで耐えてきたことになる。そう考えると長い間使っている。
いつ、どんなシチュエーションで買ったのだったか。確か、冬のクリアランスセールだったと思う。横浜駅に隣接するデパートで、店員に勧められたんだったか。値段は確か六万円に届くか、届かないかだった。当時二十代の後半の私にとっては、安くはなく、だがちょっと手を出せば届く――そんな値段だった。物がいいのは分かっていたし、シルエットが綺麗だったので結局買った。
冬が来るたびに、コート掛けにこのコートを出しては着た。膝までかかる丈はちょうど良く、適度に大人びたデザインだった。冬が終わる度に、クリーニングに出してしまいこむ。次の冬の為に、その繰り返しだった。
いつ買い換えようか。どうしようか。そう思いつつ、まだ着られると思い、買い換える機会を無くしてきたが――そろそろいい機会かもしれない。コートの内側には少しほつれも見え始めてきた。腕時計と擦れるためだろう、袖の内側にも少しほつれが見えてきた。ごまかせなくもないが、凡そ十年も着たならばそろそろ限界だろうか。
いつだってタイミングが重要なんだ。決断という行動に理由を求め、するかしないかを決めるには。




