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山に登る

 人は何故山に登るのか。いや、何もエドモンド・ヒラリーのような高尚なことは気にしていない。よく考えればだ、朝早く起きて電車にのり、バスに揺られ。登山口からは重いがっしりした登山靴を履いて、滑りやすい山道を歩く。しかも背中にはいろいろグッズを詰めたデイパックを背負い......だ。



 そう、何故人はわざわざ苦労してまで、しんどい思いをしてまで山に登るのだろうか。ただ無心に次の一歩を求めて足を動かし、徐々に変わり行く景色に目を細める。それは一つの答えだろう。雑念が消えていき、体が一つの思考と同一化する。



 あるいは都会では感じられない空気を味わうためだろうか。杉の巨木をやり過ごし、少し高い場所まで歩けば低木が生い茂る。緑が濃い、その緑が発する酸素が肺に染み込むのが分かるからか。アスファルトの上の熱は山の土肌にはなく、森閑とした空間は音を吸い込む。



 そうだな。間違いではない。間違いではないが......全てではない。



 多分、非日常を味わうためというのが近いだろうか。



 ただ自分の体力を頼りに山頂を目指し、そこから下界を見下ろすという。安全快適な生活だけでは得られないリアルがそこにあるからではないか。



 単なるハイキングレベルの山でも、それは都会を散歩するのとは明らかに違う。ましてやそれなりにしんどい登山ならば、それは一種のファンタジーだ。山道を行く内に、ねじくれた木の根をのぼり、岩に足をかける度に、体は自然へと帰る。空に近くなる度に、眼は青さを増した天を仰ぐ。



 だから--これが、私が山に登る理由だ。

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