童話を書いてみた
私は童話というものをここに再構築してみようと思う。
あの有名な親指姫を題材にして。
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「突き指姫」
「はっ......はっ......はあっ」
「こっちだ、逃がすな!」
「おう、了解!」
下生えの草深い森に響くは人と人の声だ。栗鼠や野うさぎといった小動物は森の静けさを破るその声に驚き姿を隠す。だが彼らを森の奥へ追いやった人間達はそんな小さなことは知らないとばかりに走る。
追われる者と追う者、二つの存在。前者はただ一人、後者は六人。
「無理、逃げきれないっ......」
追われる者、則ちリィナード第一王女は見に纏った走りづらいドレスを忌ま忌ましそうに睨みながら、その裾を破り捨てた。細い生足が膝上まであらわになり、男なら思わず目を見張るであろう姿だ。そのまま立ち止まり荒れた呼吸を整える。
立ち止まったリィナードに兵士達が追いつく。この王女さえ捕らえれば彼らの勝利は確定的だ。だが無手のかよわい女一人を前にして小剣と革鎧だけの軽装とはいえ武装しているはずの六人の兵達の顔は緊張していた。
奇妙な図である。リィナードが魔法の使い手というわけでもない。ならば彼らは何を恐れているのか?
「おとなしく捕まっていただけませんかな。いかに貴女といえども六人もの相手に大立ち回りは中々にしんどいはずだ」
「断るわよ。それにね、自信ないわけじゃないもの」
リィナードの返事は冷徹だった。さきほどまで逃げていた慌ただしさはどこにもない。意志の強そうな青い瞳に肩までの短い赤い髪、普通の王女とも思えぬ格好だが体つきはごく普通の10代後半の女性のそれだ。それがどこにこれほど落ち着いた雰囲気を漂わせるのか。
「仕方ない、かかれっ!」
先程声をかけた兵士の号令が森の空気を引き裂いた。殺気だった兵達が無手のリィナードに殺到する。かわす余裕などどこにもない、六方同時からの特攻!
「はっ!!」
だが攻撃を受けたのは兵士の方だった。包囲されきる前に踏み込んだリィナードの一撃が革鎧に突き刺さる。ナイフでも隠し持っていたのか、いや違う。
なめし革を頑丈に重ねた革鎧。
そこに穴を穿ち、あまつさえ兵の胸に突き刺さっているのは金属ではない。
指。リィナード王女の右手の細い白い指だ。人差し指、中指、薬指の三本をぴたりと揃えたその白い指撃がありえない速度と威力で革鎧を突き破ったのだ、しかも鎧のみならずその下の人体までも。
返り血が舞うのとリィナードが次の標的に襲い掛かるのはどちらが速かったか。いきなりの攻撃にびびる兵士達に次々と王女の必殺の指撃が迫る。女の細腕の破壊力不足を何とか補うためリィナードが考えた指撃。それ則ち対象物との設置面積をぎりぎりまで減らすことにより、一点に破壊力を集約した必殺の無手の攻撃。しかも拳より指の長さ分だけリーチが稼げるという利点もある。
「よくもっ! よくもっ! 父様を、母様を、妹を、弟をっ!」
ザンッ! と鈍い音を立てながらまた一人兵士が倒れた。それを蹴り飛ばしながらリィナードは次の兵に叫びながらその必殺の指撃を振るう。もしその姿を見た者がいればこう言っただろう、"ドレスを着た美しい死に神"と。
「がはっ......!」
最後の一人が喉を指で潰され倒れた。リィナードはその青い目でその場に伏した兵士達の死体を一瞥し、背を向ける。その右手の指はあまりに細く、だがそれでいて峻厳な強さを放ったまま血に濡れていた。
これが後に大陸全土を巻き込むアスフェンタイン復讐大戦の主役が一人、リィナード・ディー・アスフェンタインの戦いの幕開けであった。
民衆が彼女を"突き指姫"と呼ぶのはもう少し後の話である。
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いやあ、なかなか頑張りましたよ!




