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パスポート
パスポートって単語が好きだね
日常から切り離された旅に出る為の約束が詰まったその堅い表紙に指を走らせるんだ。赤い表紙の裏に記載された個人情報は海外へ飛び立つ為の呪文みたいなもんさ。
初めて手にした時にはドキドキしたもんだ。あれは確か21歳の時だったかい。少し自分が大人になったみたいで誇らしかったよ。
今はもう海外旅行なんか日常生活に忙殺された僕には縁がなくて。
非日常への鍵は使われないまま年数のみが経過していく。表紙の赤は少し色褪せてやしないかい。
代わりに自分の心の中にパスポートでも作ろうかと拉致もない考えが浮かぶのは仕事で遅くなり頭痛を抱えた夜だった。
またの名を逃避と呼ぶけど、それでも旅立ちと今だけは呼ばせてくれよ。
港を通過するその気持ちがあれば翼だって持てるだろう、ほら。




