海辺のバカンス
ホテルの部屋に届くのは波の音だ。
単調で眠くなるような。
夏休みとして共働きの奥さんと休暇を合わせてささやかな家族旅行を実現した私は伊豆のとあるホテルから海を見ている。
全室オーシャンビューが売りの綺麗なホテルのベランダから下を見ればプールで泳ぐ家族連れ。
視線を上げれば呆れるほどに透き通った空とどこまでも続く海が青と蒼のレイヤーを描いている。
時折そこに走る白いアクセントは名も知らない海鳥だった。
(潮の香りというのは落ち着くな)
微かに鼻をくすぐる海の証拠。もともと関西の海の近辺で育った私にはこの香りは馴染み深い。
つかの間のバカンス、一瞬のサイレンス、そして中庭に咲くflowers
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短時間にも関わらず熟睡したからか早々に目が覚める。
午前四時の浜辺を歩くと誰もいない。粒子の細かい白い砂の上を歩きながら海を見る。
伊豆の海はあまり遠浅ではないのか、それほど海水浴に向いた場所は多くはないらしい。それでも都会の海に比べると遥かに澄んだ水はただ見ているだけで心が落ち着く。
いつか読んだ本に「人は海に帰る」というフレーズがあったなと思いながら今日はどこへ行くんだっけと早朝の空を見上げた。
白いsand、黒いbird、海岸沿いに走るroad
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旅の最終日、ホテルをチェックアウトして下田へと移動する。
今日は少し波が荒い。
道が混んでいるね、と奥さんに言うと夏休みに入ったからでは?という返事。
なるほど、道理で。
首都圏近辺の伊豆は手頃な避暑地だ。訪れる人もそれなりに多い。
昼ご飯を食べた店では三島由紀夫のサインがあり驚かされた。
東京に比べれば格段に涼しい伊豆ともそろそろお別れだ。会社へのお土産を買い電車を待つ時間は旅への名残惜しさを噛み締める時間だ。
さよなら、sea side
ただいま、urban area
つかの間のバケーションはこれでおしまい。