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秘密  作者: ゆりか
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混沌の休日

『非通知』の電話があった日から2週間が経った。里香の周りには、あれ以来何も異常がなかったので、両親の付き添いも止めてもらった。里香も初めは怖かったが、1週間が過ぎる頃には、大分恐怖も薄れてそのことについて考える時間が減っていった。加えて、高校受験も控えていたので勉強で忙しく、それどころじゃなくなってきたというのもあった。

土曜日の朝、里香は朝ごはんを食べて図書館へ出発した。駅で千佳子と合流し、電車に乗った。電車の中は空いていて、里香と千佳子は隣同士の席に座った。千佳子と雑談しているとき時、ふと前の座席を見てみると見知らぬ女性がずっとこちらを見ているのに気づいた。千佳子もその視線に気づき、里香に小声で話しかけた。

「ねぇ、あの人って里香の知り合い?」

里香は無言で首を振った。見知らぬ女性は里香たちのことをまだずっと見続けていていた。里香には、祖母くらいの年に当たるように見えた。しかし、母の美香の祖母と比べると、その女性はどこか寂しげに見えた。到着駅に着いたので、里香と千佳子は電車から降りると、その女性も同様に電車から降りた。2人は改札を通り、図書館へ向かったが、その女性は10メートルくらい離れて二人と同じ方向を歩き出した。千佳子も不審に思いだし、再び里香に囁いた。

「ねぇ、あの人ずっとついてくる……少し不気味じゃない?」

「うん……私、あの人になんでついてくるのか聞いてみる」

「ちょっと! やめなよ」

「大丈夫大丈夫」

里香はそう千佳子に言うと、周囲を一度確認した。周囲が『すぐに人が駆けつけてくれそうな場所』であることを確認して、里香は後ろを向いた。千佳子も説得を諦めて里香に続いた。そして、里香たちはその女性の方へ歩き出し、正面に立って質問した。

「あの……失礼ですが、私たちにどこかで会ったことありますか?」

その女性は最初驚いた表情を見せたが、次の瞬間笑顔を見せて答えた。

「里香さんよね? 私はあなたの『おばあちゃん』に当たる人よ」

里香は凄く驚いた。母方の祖母にはよく会うので、父方の祖母なのだろうが、父の大輔からは祖父母は交通事故で亡くなったと聞いていた。里香は半信半疑で聞いた。

「父からは祖父母は死んだと聞いています。失礼ですが、人違いじゃないですか?」

その女性は笑顔を崩さずに言った。

「いいえ。人違いじゃありませんよ。吉沢大輔の娘の里香さんでしょ?」

「……ちょっと、父に電話してもいいですか?」

「はい。どうぞ」

里香は大輔に電話した。大輔はすぐに電話に出て言った。

「もしもし。どうした?」

里香は会話が聞かれないように、その女性から少し離れて話した。

「……あのね、今私の『おばあちゃん』て言ってる人が目の前にいるんだけど」

「……」

大輔は少しの間沈黙し、里香に言った。

「その人と話させて貰えるか?」

「……うん」

里香はその女性に方に行き、尋ねた。

「あの、父があなたと『話したい』と言っているのですがいいですか?」

「はい。いいですよ」

その女性は優しい声で答え、里香から携帯を受け取り大輔と話し始めた。

「どうも。ご無沙汰しております。……私はただ、孫に会いにきただけですよ……あら、血がつながってなかったら『孫』とは呼ばないのかしら? じゃあ、あなたも里香さんの『父親』ではないんですね?」

その女性の話声を聞き、里香は凍りついた。千佳子も驚き、里香の方を心配そうに見つめた。

「……はい。分かりました」

大輔との会話が終わったのか、その女性はそう言い里香に携帯を返した。里香は戸惑いながらもその携帯を受け取り、大輔に尋ねた。

「……私の『父親』じゃないって本当のことなの?」

「……里香、よく聞きなさい。その話は後できちんと話すから、今はその女性から離れなさい。そして、千佳子ちゃんと一緒にまっすぐに家に帰ってきなさい」

「……わかった」

里香はそう答えて、携帯を切った。大輔が里香の質問に対して『NO』で返さなかったことに対して、里香はますます動揺した。しかし、今は大輔の言うとおり『この女性と離れなければ』と思った。

「あの、失礼ですが、これで失礼します」

里香はそう言って、立ち去ろうとしたが、その女性は静かに尋ねた。

「里香さん、お父さんのことについて『真実』を知りたくはないかしら?」

「それは……父に直接確かめます」

「あなたの『お父さん』が自分に都合の悪い『真実』を言うかしら?」

「父は嘘をつくような人ではありません」

「それは説得力がないわね。今まで、血のつながった父親じゃないことを秘密にしてきた男よ」

「それは……私が話を聞いて判断します」

その女性は力強い口調で言った。

「今日、里香さんが私の話を聞かないなら、私は一生あなたの前には姿を現さないし、『真実』も話しません。どうしますか?」

その言葉を聞き、里香は迷った。その女性の言っていることは確かに的を得ていたし、『一生姿を現さない』という言葉にその女性の強い気持ちを感じた。里香は30秒ほど考えた末その女性に言った。

「分かりました」

「ありがとう。じゃあ、すぐそこの喫茶店でお話ししましょうか」

その女性はニッコリと笑顔でお礼を言い、少し先にある喫茶店に向かって歩き出した。里香は、隣にいた千佳子に申し訳なさそうに言った。

「千佳子、ごめんね。今日は一緒に勉強できそうにないや」

「そんなこと全然いいけど、里香……大丈夫?」

千佳子は心配そうに尋ねた。里香は精一杯の笑顔で頷き、千佳子と別れた。里香はその女性の後へ続き、喫茶店の方へ歩き出した。その途中、里香はその女性に尋ねた。

「あの、名前を伺ってもいいですか?」

「私の名前は『坂口良子』といいます」

その女性は、里香の顔を見ずに答えた。そして、2人はその喫茶店に入り、席へ案内された。2人はそれぞれ店員に飲み物をオーダーし、店員がそれを持ってきた。

「失礼いたします。こちらが、ブレンドになります」

そう店員が言い、坂口良子にコーヒーを差し出した。

「こちらが、ミルクティーになります」

店員がミルクティーを里香に差し出した。里香はミルクティーにシュガーを3つ入れ、ミルクティーを一口に飲んだ。その姿を良子は懐かしそうに見つめて、里香に言った。

「……私の娘も、ミルクティーが好きだったのよ。そうやってシュガーをたくさん入れて。私は『シュガーを入れると体に悪いから止めなさい』と言ったのだけど……」

里香は黙ってミルクティーを置き、良子に言った。

「では、聞かせてください」

良子もコーヒーを一杯口にしてゆっくりと言った。

「……そうね。あれは19年も前になるかしら」


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