『境界外の旅人達』〜平和に旅したいだけなのに世界が放っておいてくれない〜
第一章『世界に見つかった四人』
1.異世界へ向かう決意
第1話
『異世界に行こうぜ』
開始:
これは異世界に行く前のクロルクの話
「おい、聞いたか?」
クロルクとノサに誰かが話しかけてきた
「へぇ……カンナが?」
クロルクは玉座にもたれながら、興味半分に目を細めた。
目の前ではノサが珍しく身を乗り出している。
「いやマジでヤバかったんだって!!」
話しているのは情報収集役の男だった。
興奮した様子で両手を振る。
「戻ってきた瞬間、空間そのものが耐えきれなくてさ! “器”が変質したとかなんとか!」
「ふーん」
クロルクはそこまで驚いていない。
だがノサは違った。
「それってつまり、“別世界の法則”を経験したことで進化したってことだろ?」
「多分そうらしい!」
ノサはニヤリと笑う。
「面白そうじゃん」
クロルクは少しだけ視線を向けた。
「お前がか?」
「暇なんだよ最近」
ノサは椅子を後ろ向きにして座り、腕を乗せる。
「この世界の連中、弱すぎるし。戦争も飽きた。世界壊すのももう刺激がない」
「最低だなお前」
「お前にだけは言われたくねぇよ」
即答だった。
周囲の幹部達は黙っている。
この二人の会話に割って入れる者はいない。
ノサは続ける。
「でも異世界か……確かに興味あるな」
「何しに行くんだ?」
「んー?」
ノサは少し考え、
「遊び?」
と軽く言った。
その瞬間、近くにいた側近達の顔色が変わる。
“遊び”で世界を渡ろうとしている。
しかもノサだ。
嫌な予感しかしない。
クロルクはため息をついた。
「お前、絶対問題起こすだろ」
「起こさない起こさない」
「前もそう言って都市一つ消したよな?」
「あれ事故」
「事故で消える規模じゃない」
ノサはケラケラ笑う。
だが次第にその笑みが静かになっていく。
「……でもさ」
珍しく真面目な声だった。
「ちょっと気になるんだよ」
「何が?」
「自分より“上”がいる世界って、本当にあるのかなって」
空気が少しだけ変わった。
ノサは戦闘狂ではある。
だが同時に、“限界”を嫌う存在でもあった。
強くなりすぎた。
知りすぎた。
勝ちすぎた。
だからこそ未知を求めている。
クロルクは静かに笑う。
「いたらどうする?」
ノサは口角を上げた。
「そりゃ――」
その瞬間、黒い魔力が部屋を揺らす。
「全力でぶつかるだろ」
幹部達の背筋が凍る。
クロルクだけは楽しそうに目を細めた。
「……なら、お前も行ってみればいい」
「マジ?」
「ただし制限付きだ」
「えー」
「本気のお前を異世界に放ったら世界が可哀想だ」
「確かに」
否定しなかった。
「……まさか俺が行く羽目になるとはなぁ」
ノサは頭を掻きながら深いため息を吐いた。
「クソ。飛んだビンボーくじだぜ」
そう言いながらも、その顔は隠しきれていなかった。
口元は笑っている。
周囲の幹部達は引きつった表情で見ていた。
「絶対嬉しいだろお前……」
「別に?」
「目が完全に獲物見つけた時のそれなんだよ」
ノサは肩を回しながら立ち上がる。
その動きだけで周囲の空間が軋む。
制限を掛けられている今でさえ、存在圧が異常だった。
「いやでもさぁ」
ノサは窓の外を見た。
遥か先に広がる帝国。
無数の世界。
支配された領域。
全部、見慣れた景色。
「同じ景色ばっかって飽きるんだよ」
「贅沢な悩みだな」
クロルクは呆れたように言う。
ノサはニヤリと笑った。
「未知の世界、未知の強者、未知の法則」
「……」
「ワクワクしない方がおかしいだろ」
その声には子供のような期待が混じっていた。
破壊神のような存在でありながら、根本は“好奇心の塊”。
だから危険だった。
クロルクは帝の門の前に立つ。
巨大な扉。
空間と次元を無理やり接続する禁忌級の装置。
門の周囲には何重もの封印式が展開されていた。
「今回の制限は強めにしておく」
「信用ねぇなぁ」
「当然だ」
クロルクが指を鳴らす。
すると無数の鎖がノサの身体へ巻き付いた。
力の封印。
権能制御。
次元干渉制限。
存在出力抑制。
普通なら存在そのものが潰れる制御だった。
だがノサは平然としている。
「うわ、重っ」
「それでもまだ危険だ」
「褒め言葉?」
「違う」
クロルクは最後に一つ、小さな術式を刻む。
「……戻りの門だ」
「?」
「お前が帰還した瞬間、自動で制限を解除する」
ノサは少し感心した顔をした。
「へぇ、便利」
「あと暴走したら強制送還する」
「信用ねぇなほんと」
クロルクは淡々と言う。
「お前は加減を知らない」
「まぁ否定はしない」
ノサは門の前に立つ。
扉の向こうには無数の世界が渦巻いていた。
知らない空。
知らない文明。
知らない強者。
胸が高鳴る。
「……さて」
ノサは振り返らずに言った。
「行ってくるわ」
その瞬間、帝の門が開く。
轟音と共に時空間が歪み、世界の境界線が裂けた。
常人なら見ただけで発狂する光景。
だがノサは笑っていた。
「異世界、ねぇ――」
そして一歩踏み出す。
身体が光に呑まれ、意識が遠のいていく。
最後に聞こえたのは、クロルクの声だった。
「……壊すなよ」
ノサは薄く笑う。
「努力はする」
信用ゼロの返事だった。
次の瞬間――
ノサの姿は完全に消えた。
「……で、なんで俺まで巻き込まれてるんだよ」
帝の門の前。
ノサの隣で、青年は盛大に顔をしかめていた。
ノサはちらっと横を見る。
「ん? お前いたの?」
「いたわ!! 最初から!!」
「気配薄いから気づかなかった」
「理不尽すぎるだろ!!」
青年――レインは頭を抱えた。
本来ならただの付き添いだった。
門の調整係として呼ばれただけ。
それがいつの間にか、
『同行者:一名』
みたいな扱いになっていた。
「いや待て待て待て!!」
レインはクロルクを指差す。
「止めろよこの状況!!」
クロルクは静かに紅茶を飲んでいた。
「諦めろ」
「軽っ!?」
「ノサ一人だと危険だ」
「だからってなんで俺!?」
「お前、ツッコミ役できるだろ」
「理由が雑!!」
ノサは笑いながらレインの肩を組む。
「まぁいいじゃん」
「良くねぇよ!!」
「異世界だぞ?」
「だから怖ぇんだよ!!」
レインは完全に一般感覚寄りだった。
もちろん強い。
この場にいる時点で化け物側の存在ではある。
だが周囲が悪すぎる。
クロルク。
ノサ。
カンナ。
比較対象が終わっていた。
「俺、普通に平和に生きたいんだけど」
「その台詞、この世界で言う?」
「うるせぇ!」
ノサは楽しそうに笑う。
「安心しろって」
「何を!?」
「死にはしない」
「基準が怖い!!」
その時だった。
帝の門が脈動する。
ゴゴゴゴ――!!
空間そのものが捻じれ始めた。
クロルクが目を細める。
「時間だ」
「いや待っ――」
ノサはレインの首根っこを掴んだ。
「じゃ、行くぞ」
「嫌だああああああ!!」
そのまま二人は門へ引きずり込まれる。
視界が白く染まる。
重力感覚が消える。
次元の層を何枚も突き破る感覚。
レインは半泣きだった。
「うっ……気持ち悪……!!」
一方ノサは、
「すげぇなこれ」
めちゃくちゃ楽しんでいた。
そして最後にクロルクの声が響く。
「……レイン」
「な、なんだよ!?」
「苦労人役、頼んだ」
「ふざけんなああああ!!」
次の瞬間――
二人の姿は異世界へ消えた。




