悪役令嬢は転生先で前世の因縁と再会する
文章のデータを見つけたので上げます。
チェチリアが監獄から出されたという。
しかも自分の婚約者であった王子の手によるものだと。
公爵令嬢エミリーはそれを聞いて急いで馬車へ乗り込んだ。
ーやっぱり、私を裏切っていたんじゃない!
胸に怒りを燃やして。
エミリーは元々この世界の人間ではない。こことは別の世界で、ごく普通の家に産まれた娘だった。
その時代ではまだ普通なお見合い結婚をして、娘を産み…やがて老いて死んだ。
携帯機器が庶民の手に渡るようになり、前世のエミリーも仕事の関係で持つようになったのがきっかけ。仕事仲間に勧められネット小説を読み始め、ハマった。
その中の小説の中そのままの世界に転生したと産まれてすぐ気付いた。そして、自分はこの物語の悪役であり、やがて主人公達に倒される運命であること。
エミリーが特に好きであったのは悪役令嬢もの、というジャンルだった。
殺されたくなければジャンルを変えてしまえばいい、そう、悪役令嬢ものの主人公のように。
それはエミリーにとって救いとなったし、実際上手く行った。
悪役令嬢もののようにヒロインを断罪した。
男達を誘惑したヒロインは罪人となり、償いとして牢獄で罪人たちへ奉仕活動をすることとなった。
奉仕活動とは、つまり体を提供することだ。
罪人達専用の娼婦、いや娼婦の方がましかもしれない。人格すら無視される肉便器として終生凌辱され続ける筈だった。男好きの淫売にお似合いの末路。
そもそもこの世界では貴族以外に人格があるなんて考えられないけど。
それなのに。かつて自分の婚約者であった男が、なぜ。
唯一自分を裏切らなかった男が。
「エミリー様!まだダニエル様が帰っておりません!そちらに入るのは遠慮してください!」
「使用人は黙っていなさい、私はあの噂が本当か確かめないといけないのよ、私はあの人の婚約者だったんだから」
「ですが…!」
使用人を振り払って屋敷の奥に向かう。だが、妻の部屋にはチェチリアはいなかった。
ではどこにいるのか。その時、窓の向こうから声が聞こえた。チェチリアの声だ。
「お待ち下さい!」
迂回して急いで庭に出た。
そこにはチェチリアがいて。楽しそうに歌っている。
その歌を聞いて足が止まった。
それは、私が、前世の娘に歌っていた。有名な児童向けアニメの歌を、娘を主人公にしてアレンジしていた。そのままだった。
「やっぱり、あんたは淫売だったのね!姉さんと同じ!」
体に力が巡り、チェチリアの頬を打った。
「男を誘惑して!あんたは生まれついての淫売よ!あんたが自殺して、私がどれだけ責められたか…!今もあんたがそんなだから私は…!」
「いたい、やめて」
チェチリアが泣いているが知ったことでない。悪い子はしつけてやらなければいけないのだ。私は何度も何度も、前世のときと同じようにチェチリアの頬を打った。チェチリアは前世と同じように私を見つめる。前世と違うのはその瞳の光だ。なんて目障り。あなたみたいな悪魔が私にそんな目を向けるなんて。
「淫売!やっぱりあんたなんか産まなければよかった!あんたは悪魔よ!」
「私は悪魔じゃない!」
チェチリアが声を上げた。うるさい。
「どうしてお母さんは私をいつも悪者にするの!!私は淫売でも悪魔でもない!人間だよ!」
「口答えする気!?」
「あなたなんか母親じゃない!」
「は…」
そう言われて胸に鋭い痛みが走った。手を止めてしまい。チェチリアが地面にしゃがみ込む。
「チェチリア様!」
先程の使用人がチェチリアの傍に来る。
「大丈夫ですか?」
「ヘレン、わたし…なんで、いたい…いたいー!」
チェチリアが泣き始めた。その瞳は虚ろで、先程の瞳の光はない。
「エミリー様、これはダニエル様に報告させていただきますよ、こんな酷いことを…」
「その子、まさか…」
明らかに普通ではない
「エミリー様、お帰りください」
年老いた家令がやって来てそのまま帰らされた。
チェチリアは監獄での生活で気が狂ったのだと言う。罪人の子を孕み、そのたび罪人達に墮胎されていた。この5年それを繰り返され、口には出せないような事もされた。
だけどそんなの、普通のことじゃない。貴族でもないのに、たかが平民が、しかも女が罪を犯して安全なわけない。
なのに、なんで私がひどいみたいに言われるの。みんな一緒に面白がってたじゃない。
同じ貴族なのに。
なんでみんな、前世の時と同じ目で私を見るの。死んで生まれ変わって、すべて変わるはずだったのに。どうして、あの子はまた私の邪魔するの。私を加害者にするの。被害者は私なのに。
だから怒ってあげたのに。あの子は駄目な子だから。矯正してあげなくちゃって、嫌で嫌でしょうがなくて、もう母娘でもないのに。なのになんで。
なんで、私が会いに行った後に自殺なんてしたの?また、私を悪者にした。
ダニエルは、昔の事を思い出していた。チェチリアが投獄された後、エミリーに連れられチェチリアに会いに行った。
貴人に会うということで急遽身を整えさせられたと分かった。だが錯乱しているのかずっと歌を歌っている。どこか別の世界の歌に聞こえた。
それを聞いてエミリーの瞳は輝いた。
帰りの馬車で嬉しそうに私に話す。
「ダニエル様、あの子、前世の私の娘だったの。」
「…そうなのか」
エミリーから聞いていた。ここは物語の世界で、私はその王子。チェチリアと結ばれるはずだった。だけどそうしても幸せになれないから、自分が私を救ったのだと。
「あの子、やっぱり生まれつきふしだらだったんだわ、私、悪くなかったじゃない」
やっぱり私は不遇だった、この世界で本当の幸せを手に入れたのだ、と語る。
だけど、私の胸はずっとざわめいていた。
エミリーはすっかり私を信じて、私もエミリーの言葉を信じて。エミリーは自分の胸の内をさらけ出していく。
どんどん暑くなるエミリーと裏腹に、私の心はなんだか冷えていた。いつも通り、エミリーと同調しようとしても上手くいかない。
チェチリアは数多の男達を誘惑したし、人の恨みを買った。だけど、本当にそうなのかとずっとダニエルは疑問だった。
他の男と同じようにチェチリアはダニエルに媚びてきたけど、なんだか息苦しそうで。
「本当は私の事は好きでないでしょう、無理に笑わなくて構わない」
衝動的に言ってしまって、ああ失敗したと思った。またエミリーに否定される。エミリーの言うことはすべて正しい。エミリーの言うとおりにしなきゃ失敗してしまう。これまでの自分の人生を思い返して、不安になった。
エミリーの語る話の中の本来の私のように、振る舞わなくてはいけないのに。自信に溢れた姿にはなれなくて。
「…なんででしょう私、今すごく楽になれました」
どうして彼女の気持ちが分かったのか。それは、私がエミリーに対してずっとそうだったからだ。なぜ、実の血を分けた兄弟達より近しく感じたのか。
それは、私と彼女が同じだったからだ。
同じ人に支配され苦しんだ人間だからだと、チェチリアがエミリーの子であったと聞いてそれを確信した。
エミリーは私に母のように接しようとするくせに、その下に性欲があるのをずっと感じていたのだとようやく認識した。私と婚約などしたくないと言いながらこちらが距離を取れば怒る、優しく接しようとすれば無視をする。そのくせこちらを意識しているのを隠しきれていない。興味がないと言いながら無防備な様子を見せてこちらをちらちら伺うのも辛い。なぜ人の部屋でわざと薄着になったり足を見せてくるのか。
そのわりにこちらの不安を煽るような事を言って依存するように仕向けてくる。そういう思い通りに支配したいと言う気持ちがとても強い人だと言うことも。
チェチリアを助けたい、と思った。彼女の話を聞きたい。
だけど罪人への扱いの制度を変えさせ、どうにかチェチリアを助け出した時にはもう、チェチリアは理性のない赤子のようだった。それから屋敷で療養させ、体は健康になったが心は戻らないまま。堕胎を繰り返した事で肉体はかなり弱って、そこまで長く生きられない。
だけど彼女の事を思えば理性を失った方がきっと幸せなのだ。
私が物語の王子だというのなら、ただの少女ひとり助ける事も優しい言葉をかけることもできるはずなのに。何をすればいいのかも分からない。正解が分からない。
自分が出来損ないに感じていたから、エミリーの語る本当の私の姿の話を聞いて救われていた。それじゃいけなかったのに。
子供部屋にチェチリアを押し込んで、周りにおもちゃを沢山用意して、それでも彼女に起こった事は消せないし変えられない。
「やっぱり姉さんが悪いんだ」
エミリーは前世の姉を思った。自分と違ってふしだらな、男好きの姉を。美しく愛された姉は家族を捨てて、そのせいで私は親に責められたのに。貞淑に生きてるつもりなのに、なんでみんな姉ばかり好きになるのか。
姉さんが私に優しくして、自分は優しく公正なのだと思い込む材料にされるたび、屈辱を感じていた。姉さんの望む通り救われたら、私は周りが思う通りの姉に救われる哀れな妹だと自分で思ってしまう。それが嫌だった。
家に反発した姉さんとは逆に親の言うとおりお見合い結婚した。それなりに上手くやって、ああでも失敗だった。あの子を産んだから。
あの子は私じゃなくて姉さんに似ていた。私は美人ではないけど、パーツは姉に似ていた。それが余計に嫌だった。
姉に似て美しく産まれた娘を私は愛そうと思った。大人しく貞淑に。なのに上手くいかない。挙句の果てに売春して、自殺して。恥ばかり掻かせる。あんな風に死んだから私は悪者にされた。
そんなときにネット小説に出会って、その中の悪役令嬢に魅了された。どんなに周りに嫌われても誇り高く。私もそうなんだと思った。自分の誇りを捨てずにいたの。頑張ってきたの。
だから転生して、同じになれたと思ったのに。
チャンスだと思った。だって今の私は姉さんより明らかに美しい。家だって前世よりずっと大きくて立派で、誰だって今の私と姉さんなら私を愛するはずなのに。
やっぱりここは物語の中だから、悪役は不幸になるしかないんだ。だけど負けない。私は幸せになってみせる。
母に褒められた覚えはない、あるけど、褒められた気がしない。好きな物を選んでも、母のいいものに変えられて、笑うと不愉快そうにされる。私が泣けば自分の姉に似てきたと文句を言う。母の話す姉はふしだらな悪魔のような女だった。お金の使い道も全部管理されて、そんなだから友達も中々できない。お前が馬鹿だからうまくできないんだわ、自分じゃなくて父に似たのね、そう言われる。
だけど成長していくにつれて、自分は美しいのだと気付いた。男の人は優しくしてくれるし、好きだと言ってくれる。だけど体だけ。私の心はないものとして扱われる。
警察に保護されて、お母さんが迎えに来たとき、安心して泣いてしまった。表情のないお母さんが私に言う。
「だからお母さんの言うとおりにすればよかったのに」
私はどうすればよかったんだろう。
エミリーが会いに来た。それと同時に私は全て思い出していた。前世のこと。転生してからのこと。監獄に入れられた後のこと。
意識が混濁し、思考がまとまらない。
ああ、もう生きていたくない。
「兄上、ここにいたのか」
「ああ、オーガストか」
即位が決まって忙しい筈の弟が会いに来た。
人と上手く接せれない私と違い、他人を操るのに長けた弟は卒業後に王太子になった。
それと同時に私はエミリーの家とはあちらの意向で婚約解消し、エミリーはオーガストの婚約者候補となった。
結局エミリー以外の女性と婚約したが。
「この部屋は子供の玩具ばかりだな」
「女の子の玩具の事はよくわからなかったから、職人を呼んで色々作らせたんだ。」
エミリーはそうした遊びはあまりしなかったし。
「…本当に彼女とは恋人でもなんでもなかったんだな」
「その話か」
私がチェチリアを自分の屋敷に保護して、職人を呼んだということで囲っていたという噂があったらしい。
「チェチリアとは隠れんぼしたり、秘密基地を作ったりしたよ」
話しながら、多分それは私が子供の時にしたかったことだったんだと気付いた。エミリーに言われ、彼女の言うとおりにすることばかりでそうした気持ちを無視していた。
チェチリアと子供に戻って遊ぶことで自分を癒やしたかったのだ。
「まるで子供だな」
「そうなんだ、私は子供なんだよ」
だからチェチリアのことを助けられなかった。
自分の気持ちばかりで。
「チェチリアは少しは救われたのかな」
「…王家の男が下民の女一人に心を砕く余裕はないぞ、兄上は忘れた方がいい、我らにはもっと大切な仕事があるのだから」
オーガストはそう言うけど。
「やっぱり私はこの痛みを忘れたくないよ、オーガスト」
初めて私が自分で行動して得た物だから。
オーガストの即位後、貴族の文化は特に華やかだった。だがオーガストの死後、力をつけた民衆が革命を起こして多くの貴族が処刑された。
ダニエルもそれに巻き込まれ、王族であったので特に残酷に殺された。
エミリーは国外に逃げ出そうとしていたところを見つかり激高した市民達に殺された。
善人も悪人も関係なく。
「あれっ、もしかして私転生してる…?」
博物館の帰りにモヤモヤして覚えのない記憶が浮かんでくるのでようやくその結論に至った。
処刑された王子の肖像画を見て急に出てきたのだ。
どうやらここは前世プレイした乙女ゲームの世界のようだった。特にヒロインを虐めるキャラもいないし攻略対象も普通のキャラばかりで、話も基本ハッピーエンドで不幸になる人もいない。過激な内容に餓えていた十代の私は物足りなく感じたのを覚えている。確かそのゲームは王子が即位して平和に暮らす筈だったのだが。
「処刑されてしまったのか」
何を隠そう、私の家はこの国きっての富豪であり革命を裏で引いていた人間達の子孫だった。
「私の今の暮らしは彼らが亡くなったからなんだね…」
しかし申し訳なさは湧いてこなかった。このゲームをプレイした私と今の私は別人だし、その歴史があればこそ今の自由があるのだ。
だけどやっぱり記憶を思い出す前と後で思い入れは変わる。私はこの世界で私の信仰する宗教に則った祈りを捧げる。終わった物語に干渉はできない。残された者に出来るのは心痛めることだけである。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
これが 悪役令嬢の見た夢ー彼女のついた嘘 の前身です。正直このころの方が文章書けてる気もしています。もしよかったら読んで違いを比べてみてくださいね。




