婚約破棄されたので、ソイツんちで魔剣を抜いたった
「マリーナ、君との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ只中。
侯爵家嫡男アーノルド様は、高らかに宣言なさいました。
周囲の貴族たちはニヤニヤと笑い、わたくしを見ています。
――ああ、なるほど。
この婚約破棄、周到に根回し済みですのね。
わたくしは静かに扇を閉じ、優雅に微笑みました。
「理由を伺っても?」
「君は可愛げがない。私はもっと……守ってあげたくなる女性と結婚したい」
隣には、目元を潤ませた子爵令嬢。
なるほど。そちらが“守ってあげたい枠”。
「左様でございますか」
わたくしは一礼いたしました。
「では、どうぞお幸せに」
泣き崩れるでもなく、怒鳴るでもなく、あまりにも静かに退場するわたくしに、会場がざわつきます。
――ええ。泣きませんとも。
その代わり──
次の舞踏会で、少しばかり“余興”を。
◇
一週間後。
舞踏会は、元婚約者アーノルド様の屋敷で開催されました。
煌びやかな音楽。笑顔の貴族たち。新たに結ばれたカップルたちが甘い言葉を囁き合っております。
その中央に、わたくしは現れました。
漆黒のドレス。
背には一本の剣。
ざわ……と空気が凍ります。
「マリーナ……? その物騒なものは何だ」
アーノルド様が青ざめます。
わたくしは、にっこり。
「ご存じありませんでしたか? 我が家に代々伝わる魔剣――ザ・マーヴェリタス」
「ま、魔剣だと……!? まさか、それで我々を斬るつもりか……!」
「“斬る”? いえいえ」
わたくしは首を傾げました。
「むしろ“Kill”したいところですが、そんな野蛮な真似はいたしませんわ」
「物騒すぎるだろう!?」
「ご安心を。この剣は、抜けば周囲の者が“真実しか言えなくなる”という、可愛らしい代物でございます」
「は?」
「では――」
すらり。
刃が月光を弾いた瞬間、空気がびり、と震えました。
「アーノルド様、愛しておりますわ!」
そう叫んだ子爵令嬢が、
「――顔と地位しか見ておりませんけど!」
会場、凍りつく。
「な……何を言っている!?」
「だって本音ですもの! 顔が良くなければ絶対お断りでしたわ!」
──あらあら、たいへん素直でいらっしゃる。
「あなたこそ、わたくしの顔が可愛いからでしょう!」
「当たり前だ! 会話は退屈だが顔は良い!」
ぱりーん。
どこかでグラスが割れました。
それを皮切りに、地獄の舞踏会がスタートします。
「あなたのダンス、下手くそですわ!」
「お前の香水、匂いが強すぎる! 兵器かと思ったわ!」
「実は妹のほうが好みだった!」
「あなたの詩、全部つまらない!」
「結婚したら愛人囲うつもりだった!」
「私は今も浮気してますわ!」
阿鼻叫喚。
涙。怒号。狂瀾怒濤。
リア充たちが大爆発。
わたくしは、優雅に剣をクルクル回します。
「まあまあ。素敵な舞踏会になりましたわね」
「やめろォォォ!」
アーノルド様が絶叫します。
「剣を納めろ! 舞踏会が滅茶苦茶だ!」
「滅茶苦茶?」
わたくしは微笑みました。
「皆様、“正直”になっただけですわ」
その瞬間。
アーノルド様が叫びます。
「そもそも君が完璧すぎて怖かったのだ! 私より優秀で社交も完璧で……劣等感で胃が痛かった!」
……ほう。
「でしたら最初からそうおっしゃればよろしかったのに」
「言えるか! 男のプライドがある!」
「まあ」
「マリーナ! 剣を納めろ! 頼む!」
「かしこまりました」
わたくしは剣を鞘に収めました。
静寂。
全員、はっと我に返ります。
「……今のは、何だったのだ?」
「わ、わたくし、何か失礼なことを……?」
「俺は愛人を囲うなどと言っていない! 言っていないはずだ!」
青ざめる面々。
わたくしは、にこり。
そして──
すらり。
再び、抜きました。
「あなたのその髪型、滑稽ですわ」
「君のドレスは、流行遅れだ」
「あなたの笑い方、ブタみたいですわ」
「君こそ、笑い方が悪魔みたいだ」
「そのネックレス、似合ってませんわ」
「君の家の庭、狭過ぎる!」
わたくしは、再び剣を鞘に収めました。
静寂。
全員、再び我に返ります。
「今のは……夢だったのかな?」
「そ、その髪型……こ、個性的ですわ」
「君の笑い方……て、天使のようだ」
「庭が狭いと手入れがしやすいよね……」
すらり。
またまた、抜きました。
「あなたの口、臭過ぎますわ」
「君こそ、足が臭いだろ」
またまた罵倒が始まります。
“舞踏会”ならぬ“罵倒会”。
「そんなに言うなら、婚約破棄だ!」
「もう、あなたとは婚約破棄よ!」
やがて、ほとんどの婚約が破棄され、数組は殴り合いに発展。まさに、“武闘会”。
三組はなぜか意気投合して“友情の契り”を結び、会場はカオスと化しました。
満足です。
わたくしは剣を鞘に納めました。
静寂。
誰もが息を呑み、視線を逸らします。
わたくしは優雅にスカートを掴み、一礼いたしました。
「それでは皆様。本日は誠に“実りある”舞踏会でございましたわ」
わたくしはくるりと踵を返しました。
「本音は、ときに残酷。でも、嘘よりは健全でしてよ」
扉の前で、振り返ります。
「ごきげんよう、アーノルド様……。あ、そうそう……」
一拍。
「あなたの口も、足も最高に臭かったですわ!!」
とどめ。
「グヘッ……」
バタン。
身も心もボロボロになったアーノルド様は、その場に倒れ込みました。
◇
その後。
舞踏会に参加した皆様の婚約は白紙に。
アーノルド様は二度と舞踏会を開催しませんでした。
そして、あの舞踏会は、“婚約破棄だらけの大舞踏会”として、後世に語り継がれます。
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