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コメディー短編(異世界恋愛)

婚約破棄されたので、ソイツんちで魔剣を抜いたった

作者: 多田 笑
掲載日:2026/02/26

「マリーナ、君との婚約を破棄する!」


 煌びやかな舞踏会の真っ只中。

 侯爵家嫡男アーノルド様は、高らかに宣言なさいました。


 周囲の貴族たちはニヤニヤと笑い、わたくしを見ています。


 ――ああ、なるほど。


 この婚約破棄、周到に根回し済みですのね。


 わたくしは静かに扇を閉じ、優雅に微笑みました。


「理由を伺っても?」


「君は可愛げがない。私はもっと……守ってあげたくなる女性と結婚したい」


 隣には、目元を潤ませた子爵令嬢。


 なるほど。そちらが“守ってあげたい枠”。


「左様でございますか」


 わたくしは一礼いたしました。


「では、どうぞお幸せに」


 泣き崩れるでもなく、怒鳴るでもなく、あまりにも静かに退場するわたくしに、会場がざわつきます。


 ――ええ。泣きませんとも。


 その代わり──

 次の舞踏会で、少しばかり“余興”を。



 一週間後。


 舞踏会は、元婚約者アーノルド様の屋敷で開催されました。


 煌びやかな音楽。笑顔の貴族たち。新たに結ばれたカップルたちが甘い言葉を囁き合っております。


 その中央に、わたくしは現れました。


 漆黒のドレス。

 背には一本の剣。


 ざわ……と空気が凍ります。


「マリーナ……? その物騒なものは何だ」


 アーノルド様が青ざめます。


 わたくしは、にっこり。


「ご存じありませんでしたか? 我が家に代々伝わる魔剣――ザ・マーヴェリタス」


「ま、魔剣だと……!? まさか、それで我々を斬るつもりか……!」


「“斬る”? いえいえ」


 わたくしは首を傾げました。


「むしろ“Kill”したいところですが、そんな野蛮な真似はいたしませんわ」


「物騒すぎるだろう!?」


「ご安心を。この剣は、抜けば周囲の者が“真実しか言えなくなる”という、可愛らしい代物でございます」


「は?」


「では――」


 すらり。


 刃が月光を弾いた瞬間、空気がびり、と震えました。


「アーノルド様、愛しておりますわ!」


 そう叫んだ子爵令嬢が、


「――顔と地位しか見ておりませんけど!」


 会場、凍りつく。


「な……何を言っている!?」


「だって本音ですもの! 顔が良くなければ絶対お断りでしたわ!」


 ──あらあら、たいへん素直でいらっしゃる。


「あなたこそ、わたくしの顔が可愛いからでしょう!」


「当たり前だ! 会話は退屈だが顔は良い!」


 ぱりーん。


 どこかでグラスが割れました。


 それを皮切りに、地獄の舞踏会がスタートします。


「あなたのダンス、下手くそですわ!」


「お前の香水、匂いが強すぎる! 兵器かと思ったわ!」


「実は妹のほうが好みだった!」


「あなたの詩、全部つまらない!」


「結婚したら愛人囲うつもりだった!」


「私は今も浮気してますわ!」


 阿鼻叫喚。

 涙。怒号。狂瀾怒濤。

 リア充たちが大爆発。


 わたくしは、優雅に剣をクルクル回します。


「まあまあ。素敵な舞踏会になりましたわね」


「やめろォォォ!」


 アーノルド様が絶叫します。


「剣を納めろ! 舞踏会が滅茶苦茶だ!」


「滅茶苦茶?」


 わたくしは微笑みました。


「皆様、“正直”になっただけですわ」


 その瞬間。


 アーノルド様が叫びます。


「そもそも君が完璧すぎて怖かったのだ! 私より優秀で社交も完璧で……劣等感で胃が痛かった!」


 ……ほう。


「でしたら最初からそうおっしゃればよろしかったのに」


「言えるか! 男のプライドがある!」


「まあ」


「マリーナ! 剣を納めろ! 頼む!」


「かしこまりました」


 わたくしは剣を鞘に収めました。


 静寂。


 全員、はっと我に返ります。


「……今のは、何だったのだ?」


「わ、わたくし、何か失礼なことを……?」


「俺は愛人を囲うなどと言っていない! 言っていないはずだ!」


 青ざめる面々。


 わたくしは、にこり。


 そして──


 すらり。


 再び、抜きました。


「あなたのその髪型、滑稽ですわ」


「君のドレスは、流行遅れだ」


「あなたの笑い方、ブタみたいですわ」


「君こそ、笑い方が悪魔みたいだ」


「そのネックレス、似合ってませんわ」


「君の家の庭、狭過ぎる!」


 わたくしは、再び剣を鞘に収めました。


 静寂。


 全員、再び我に返ります。


「今のは……夢だったのかな?」


「そ、その髪型……こ、個性的ですわ」


「君の笑い方……て、天使のようだ」


「庭が狭いと手入れがしやすいよね……」


 すらり。


 またまた、抜きました。


「あなたの口、臭過ぎますわ」


「君こそ、足が臭いだろ」


 またまた罵倒が始まります。

 “舞踏会”ならぬ“罵倒会”。


「そんなに言うなら、婚約破棄だ!」


「もう、あなたとは婚約破棄よ!」


 やがて、ほとんどの婚約が破棄され、数組は殴り合いに発展。まさに、“武闘会”。


 三組はなぜか意気投合して“友情の契り”を結び、会場はカオスと化しました。


 満足です。


 わたくしは剣を鞘に納めました。


 静寂。


 誰もが息を呑み、視線を逸らします。


 わたくしは優雅にスカートを掴み、一礼いたしました。


「それでは皆様。本日は誠に“実りある”舞踏会でございましたわ」


 わたくしはくるりと踵を返しました。


「本音は、ときに残酷。でも、嘘よりは健全でしてよ」


 扉の前で、振り返ります。


「ごきげんよう、アーノルド様……。あ、そうそう……」


 一拍。


「あなたの口も、足も最高に臭かったですわ!!」


 とどめ。


「グヘッ……」


 バタン。


 身も心もボロボロになったアーノルド様は、その場に倒れ込みました。



 その後。


 舞踏会に参加した皆様の婚約は白紙に。

 アーノルド様は二度と舞踏会を開催しませんでした。


 そして、あの舞踏会は、“婚約破棄だらけの大舞踏会”として、後世に語り継がれます。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
強制的に本音を吐いてしまうということで、私が連想したのが京言葉の通訳でした 「ええ香水つこてますなぁすれ違うただけでお裾分けでうっとりですわぁ」 抜剣! 「安モンの香水プンプンさせよって近づいたら移…
効果がえげつない・・・まさに魔剣だね。
誰もが悪口ばかり抑えてた中でアーノルドさまの本音が清々しい(*´艸`*)
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