我慢
突然少女のお腹が大きめな音を立てたことで、話は中断された。当の彼女はというと、顔を真っ赤にして下を向いている。
「な、なにか食べましょうか!お兄さんもいります?」
「いや、僕はいいよ、」
なんか申し訳ないし、
「そ、そうですか、、、ちょっと待っててください。」
少女がちゃぶ台を横にずらすと、その下にあったくぼみをパカッとこじ開けた。
ここは床下収納になってたのか、
だが彼女はピタリと少しの間固まって考えたあと、なにか思いついたようにまた手を動かした。
小さな缶ずめをふたつ両手に抱えたまま床下収納をもとに戻し、ため息をつく。そして、大事そうに抱えているそれのうちの一つをこちらに差し出してくる。
「やっぱり、これ一個あげます。」
「……いや、悪いだろ。大事な食料なんだろ?」
渋る僕の目の前に無理やりその缶ずめを押し出し、少し大きめな声を出した。
「だからこそですよ!大事だから、あげます。」
なんでそんなにあげたがるんだよ、、、二人でそのまま押し問答をしばらく続けた末に、何故か全く譲らない彼女がとうとう観念して手をもとの位置に戻す。
「…………実はこれ、最後のふたつなんですよ、缶ずめ。」
「……最後?」
彼女は金属部分がキラキラと光る缶ずめをカツカツとぶつけていじりながら話を始めた。
「はい。私の命綱だった非常食も、このふたつでおしまいです。
………実は私、食料が尽きたら死のうと思ってたんですよ。食べ物を探して外に出ても、人か化け物に殺されるし、かと言ってここにいてもお腹がすいて死ぬだけです。この世界は子供一人じゃ生きていけないんですよ。」
なんて返したらいいか分からない僕をよそ目に、少女はテンポを変えることなく話し続けた。
「どの道、明日食料が尽きて死ぬ予定でした。だから、本当はこんなに楽しく過ごせたのは奇跡だったんです。
最後の最後でほんの3日間少しの間だったけど、お兄さんがここに来てくれたおかげで、面白いお話を沢山聞かせてくれたおかげで楽しかったです。」
改めて、少女は僕の目の前に缶ずめを差し出す。
「だから、私の残り二日の寿命の半分を、あなたにあげます。今の私にはそれくらいしか恩返しが思いつかなかったので、受け取って貰えませんか?」
「……」
何を考えているんだ、僕は、
自分から死ぬと言っているんだ。じゃあ願ったり叶ったりじゃないか、どの道殺すんだ。今更こんなこと考えたって、、、
しかし、心臓をチクチクと突き刺してくるこの感情は僕に叫び訴え続けている。。、
「…………貰うよ。」
「ありがとうございます。あーあ!ひとりでこっそり死ぬ予定だったのにな、、、私の秘密を聞いたんだから。お兄さんも今日一日中、最後に沢山お話を聞かせてくださいよ!」
そうだ。このままでいい。このままでいい、のに、僕は何を言おうとしている、、、
「いや、今日は、、。」
「……えー!聞かせてくださいよ!これで最後なんですよ?」
今日このまま話をして少女は明日死ぬ。それでいいはずなのに、
「今日は、、、一緒に、食べ物でも探しに行こう。美味しいキノコを知ってるんだ。」
「……え?」
この子を生かして、一体なんの利益があるんだ。もう僕は人間に期待するのをやめたんだ。やめたのに、少しの間一緒に過ごしたこの少女を、見殺しにすることが出来なかった。
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人が寄り付かない迷いの森、まだ人間領であるため魔族は現れないが、奥深くまで進んでいって戻ってくることは出来ないと言い伝えられてきた。
それは単に迷いやすい入り組んだ森だからか、それとも別の何かがあるのか、、、
とにかく、そんな場所には寄り付かないのが吉である。
だがそんなところに、三人の勇者が落ち葉の布団に身を包んで野宿をしていた。
その様子を石ころたちは不思議そうに眺めた。彼らには目が存在しないが、特殊な方法で周りの状況を把握することが出来る。
どの世代から始まったものかはわかならいが、彼らの親は産まれたての自分の子供に視覚魔法の魔法陣を刻む。だから少し魔力を込めれば目が無くても見ることが出来るのだ。
人間の一人が急にモゾモゾと動きだしたのを直ぐに察知して、石ころたちは一斉に逃げていった。
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「………もう朝か、、、」
眠い体に無理やり力を込めて起き上がり、他の二人にも声をかける。
どうやら見張り役も寝落ちしてしまったらしい。3人仲良く夢の中である。何も無くてよかった、
呼びかけにも答えずまだ寝続けている二人はそっとそのままにしておいて、ゆっくり立ち上がった。
今日はどうしよう?なんてことを考える日が訪れるなんて思ってもいなかった。何もかもが決められた生活の中で毎日同じことをして生きてきたのだ。
朝起きる時間くらいは自由にしてもいいんじゃないだろうか。
だからぐっすり眠っている二人を無理やり起こすことはせず、ただ何もせずにその場に座り込んだ、
強い朝日を木々が遮って、森の中はちょうどよく涼しい。少し湿っぽい土の匂いがなんだか心を落ち着かせて、近くの木に背をもたれるとまた眠ってしまいそうになった。
いや、我慢する必要は無いのか、
そのまま目を閉じると、またすぐに深い眠りがやってきて僕を包み込んだ。
その様子を、影から石ころたちはただ見守っていた。




