冒険1
目的地であったであろう場所に着くやいなや、その場に僕たちをほっぽり出して馬車はそそくさとその場を後にした。
「………これからどうするか、」
勇者に対する対応は、これまでの待遇でも予想できるとおり、あまりいいものではなった。
ほんとに最低限という言葉が似合うだろう。いや、正直これじゃ足りない。
小さな銅貨6枚、これがどれだけの価値があるかは分からないが、あまりいいものでは無さそうだ。それに僕らみたいな半魔人にものを売ってくれる人なんているのだろうか。
あと地図?らしきもの、と今着てるのと同じほぼ真っ白な衣服1式、しかも全部おなじサイズ、、、ちょっと大きめだからイサノが着るにはブカブカだ。
これじゃあカレーうどんは絶対無理だな。懐かしい食べ物を想像したことによって、だんだん自分の空腹を実感してきた。
よく見ると今着ている服もかなりブカブカである。それが3セットあった。
あとは水の入った皮の水袋3つと、食料は、、、、自分で調達しろってことか?それらを頑丈なリュックひとつに詰めて渡された。
おおよそ魔王と戦うものとは思えないこの軽装備に思わずため息をこぼす。もしかしたら魔王を倒して来いって言う口実で追い出されただけなのでは?しかも3人が放り出されたのは、ひとけが一切ない森の中だ。
……ここからはほんとに未知の世界。何がいるかとか何に気をつけなきゃいけないとか、少しの知識は身につけさせられたが、実際にその場に立つと何が起こるか分からない。
「………とりあえず、今日食べるものがないと、、、」
「……そうだな。」
もうお腹が空き始めたというのに、今から調達しなくては行けない。全く、本当に魔王退治をさせる気があるのだろうか。
イサノもコクコクと頷いている。
どうやら、彼女が自分から口を開くのは稀なことらしい。僕としては色々話してみたいと思っていたのだが、本人が会話が苦手なのなら仕方が無い。
「じゃあ、何があるかわかんないしな、みんなで行こう。はぐれるなよ?」
といった具合で話が決まって、リュックを交代ごうたいに背負って、アクナを先頭に3人は森の中へと進んでゆく。森の中と言っても国境沿いのまだ浅いところだ。そこまで危険な物が出てくるとは思えないが、それでも慎重に進んだ。
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……歩けば歩くほど、森の中には不思議なことが沢山あった。蛇とようにひとりでに動く木のつるや、もはや植物と言っていいのか分からないが、不気味な音を立てる事で近ずいて来る生き物を威嚇する植物など、、
中でもイサノのお気に入りは、そこら辺に落ちている石ころに人間みたいな小さな足がついた生き物で、僕たちがちかずくと凄まじい勢いで逃げてゆく。
正直、その様子は奇妙で気持ち悪いのだが、イサノが言うには動きが面白くて可愛いらしい、、、
さっき1匹指でつまんで捕まえてきていて、自慢げにかざしてしたが、どうにしかして逃れようと、ものすごいスピードでバタバタと足を振り回すその石ころの様子に、僕とアクナは目を見合せて苦笑いをした。
「可哀想だから後でちゃんと逃がしてやれよ?」
「……ん、わかってる」
小さく笑いながら暴れる石ころを眺めている。何がそんなに彼女の琴線を刺激したのだろうか、、
━━━━━━━━━━━━━━━この石ころが実はこの世界では、Gと同じような存在であるということを、僕たちはまだ知らない。
「っていうか、なんも無いな、」
「そうだね、、、」
しばらく歩いているが、食べられそうなものとかは一切見つかっていない。なんか動物とかを仕留めたりするものだと思っていたのだが、人里が近いからか大きな動物は1匹も生息していなかった。
そもそも、食べられるものがあったとして僕たちに見分けられるのかどうか、
何も収穫がないままの進んでいるさなか、ツンツンと、イサノは二人の肩をつついて呼び止める。
そして他の二人はというと、彼女が手に持っているものを見て、戦慄した。
「こ、これ、食べれそう。じゃない?」
そう言って差し出されたのは紫と黄色を基調とした、おそらくキノコらしきものだった。誰が見てもそれは危険なものだとわかるであろう。自然界のもので黄色って、、、かなりまずくないか。
「だ、大丈夫かそれ?」
「どうだろ。でも、美味そう。じゃない?」
純粋な笑顔を向けられて一瞬たじろぐが、直ぐに思い直す。だってこれ食べちゃダメなやつだよな完全に。
というかイサノは本当に美味しそうだと思っているのか?そうだとしたらとんでもない感性だ、、、
それかもしかしたら彼女の元いた世界ではこういうキノコは普通に食べられいる物なのかもな……
しかし、何も食べ物かない状況だ。とりあえずなにか状況を変えなければ、、、クッ、こうなったら腹を括るしかないか、、、
「たしか、イサノは解毒魔法も使えたよな、、」
不思議そうに首を傾げて彼女は答える。
「うん、使える、よ?」
たかが猛毒による苦しみなんて、今まで味わってきた痛みに比べたらどうってことは無い。
「じゃあ……ぼ、僕が━━━━━━━━━━━━」
トン、と、肩に手を置かれた。振り返った先では、アクナが小さく笑って首を横に振っている。
いいのか?アクナ、、、
ああ、いいさ、、
僕たちは、そんなような事を目で訴えあった。
「……俺が毒味をしてみるよ。」
「とりあえず、焼いて食べてみようか、、、」
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結果として、そのキノコは本当になんにも害が無かった。どころか、とても美味しい。
割と探せば森の中のどこにでもあったものだったので、かなり長い間そのキノコは僕たちの主食となった。
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夜寝る時は魔法で火を起こして、交代で見張りをした。さすがに魔法で虫除けはしているが、やっぱり草のベッドは寝心地が悪い。
パチパチと燃える炎は度々小さな火の粉を飛ばした。ぼーと、それを目で追っていると、なんだか冷静になって思考がよく回る。
……それにしても、二人とすぐに打ち解けることが出来てよかった。長い間ちゃんとしたコミュニケーションを人と取っていなかったから正直不安だったのだ。
でも多分、こんなに簡単にお互いを信じ合えたのも、すぐに仲良くなることが出来たのも、五年間一度も笑わなかった三人が出会ってからよく笑うようになったのも、あの二人がこの世界でたった二人の、自分と同じ境遇の人間だからだろう。
自分と同じ痛みを味わった勇者だから、お互いの傷を舐め合うことが出来る。
逆に言うと僕たちが信じられるのは、もう、僕たちだけになっていた、




