笑み
「まこと、確認しておきたいんだけど、お前の元いた世界ってなんて言うんだ?」
3人を乗せるために待機していた馬車は、今国の城壁の外へと向かって揺れている。
何もかもが新鮮だ。何時ぶりだろうか、あの牢獄以外の場所は。家、人、木、街の真ん中を走る馬車の小さな窓から見える景色は、心を釘付けにした。
「僕の、元いた世界?」
真剣な目で僕の回答を待ち構えている。元いた世界って言ったって、、、地球以外にあるのだろうか?
「地球の、たしか日本って場所だったと思う。」
その回答に、アクナは難しそうな顔をして目を細めた。なにか引っかかったのだろうか、
「…………今のではっきりした。多分、俺たちは別々の世界から来てるんだ。」
「、え?」
「俺たち3人とも、違う世界から来てるんだよ。全く別の、よく考えたら、異界って言うのがひとつとは限らないしな。それに、俺たちの見た目も全然違うし、」
子供をひとつの世界から呼び寄せているとは限らないのか、たしかに、たくさんの子供がひとつの世界か消え続けたら不自然だしな、、、
「まあそんなわけで、ちょっと先に合流させられてた俺とイサノは先にこの話をしてたんだよ。な、イサノ」
「………………」
呼び掛けに返事がない。どころか、俯いたまま動こうとしない。
「イサノ?」
心配になり、2人して顔を覗き込んだ。
「ッッッ!」
イサノの顔からは完全に血の気が失せており、目は一点を向いたまま動かない。そして、短く荒い息をどうにか繰返しているようだった。
「おい!大丈夫?!」
二人で必死に呼びかけ続けると、ようやくイサノはゆっくりと口を開いた。
「……ご、ごめ……い、、いまは、話しかけないで、、、うぷッ」
目を見開き口を抑える姿に、ただ事ではないと感じ、声をかけ続ける。
「本当に大丈夫なのか?!何かの病気か?!」
「わか、、らない……でも、、、揺れる度に……うう、、、ぎもぢわるい」
…………揺れる度に、気持ち悪い、、、あーそうか確かに馬車は車よりも揺れるからな。
「……乗り物、弱いんだな。」
「うう、そう、、、かも」
か細い声が馬車の音にかき消される前に、かろうじて聞き取ることが出来た。しかし酔い止めの薬なんてものはここには無い。僕らにはどうすることも出来ない。
その時、ガタッと馬車が大きく揺れて、体が一瞬宙に浮いた。……案の定それは、イサノにとって致命的な一打になってしまった。
「…………………………」
僕とアクナは、顔を見合せて示しを合わせる。僕の顔は見えないが、きっと何かを察して諦めたような顔をしていたことだろう。しばらくした後決心して、彼女の方に向き直った。
ああ、もうダメだ。何とは言わないが口から出てくる寸前である。もう会話は不可能だろう。少し緑がかった瞳に、うるうると涙が溜まっていた。
「こうなったら、一か八かだ!効果があるか分からないけど回復魔法を使ってみよう、」
黙って頷くと、手を前にかざす。
もし、この策がダメだった場合、この密閉された馬車の中は地獄絵図と化すであろう。それだけは、なんとしてでも避けなくてはならない。
「頼む!効いてくれ!」
2人は、ほぼ同時に魔法を発動した。
「「ヒール!!」」
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「…………………………」
街の中を進んでいた馬車は、長い大通りを抜け、城門を抜け、もうすぐ国境に辿り着こうとしていた。
今はガタガタと音を立てながら家も少ない郊外を進んでいる。
「まさか、回復魔法が乗り物酔いにこんなに効果があったなんてな。」
今やすっかりと元気になったイサノは、バツが悪そうに大人しくしている。でもまあ地獄絵図を回避できただけで良かった。あのまま何もしなかったらどうなっていたことか、、
「ご、ごめん。回復は、私の役目なのに、、、」
「別にいいよ、回復魔法は自分には使えないし。」
魔法というのも万能ではなく、回復魔法は対象が自分だと使えなかったり、特に厄介なのは、魔力を使い果たすと死に至ることだ。
だからこまめに魔力を回復して温存する必要がある。
「というか、回復が役目ってことは得意なのか?回復魔法。」
僕は回復魔法がいちばん苦手だ、だから最低位の「ヒール」しか使うことが出来ない。
「う、うん、、わ、私は戦いは全然だめだけど……回復は、得意。一応最上位のエキゾヒールは使える、よ?」
驚いた。1番習得が難しい回復魔法の、しかも最上位魔法だなんて、、多分生きてさえいればどれだけ体が破損していても完全に回復させることができるだろう。
横を見ると、やっぱりアクナも驚ているようだった。
「すごいな!まじで得意なんだな」
興奮して言う二人を見て、焦ったようにイサノは手を前に振った。
「い、いやいや!つ、使えるって言っても、せ、せいぜい1日10回くらいだよ、」
それって十分じゃ、、、と言いかけたが、これ以上言っても彼女の謙遜がより大きくなるだけな気がしたので口を紡ぐ。
「……まあとにかく、怪我したらよろしくね」
笑って言う僕に、彼女も笑顔で返す
「ん、わかった。」
窓から少し溢れる光が、彼女の白い、うなじの辺りまで伸びた髪に反射して輝いた。
照らされた彼女の笑顔は、この世界にやってきてから今まで見てきたものの中で、いちばん綺麗だと思った、、、
「まことは、何が得意なんだ?」
「僕は、遠距離魔法かな、アクナは?」
いつの間にか、初めよりスラスラと会話ができるようになっていた。こうなるとイサノには悪いが、話題の元になった乗り物酔いにも感謝だ。
「俺は、近接魔法かな、魔法で剣とか出して戦うやつ。ってなると、遠距離と近距離と回復揃ってんじゃん」
「そうだね、結構、いいパーティーかも、」
3人で、この3人で魔王を倒す。思っていたより、楽しくなりそうな気がした。
全員で顔を見合せる。
「改めて、よろしくな。」
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「ところで、そろそろ回復魔法お願いできるかな……効き目がだんだんきれ、て」
三人は、何年かぶりに、本当の意味で笑った。
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「……いい仲間なんですね!」
「うん、ほんとにいい仲間だよ。」
少女は僕の目をチラチラ見ながら質問をする。
「あと、思ったんですけど、お兄さんってイサノさんのこと好きなんですか?」
予想していなかった角度の質問に、思わずお湯を吹きそうになったが、かろうじて耐えた。
「な、なんで?」
「だってお兄さん、イサノさんの話をしている時だけ妙に気持ち悪い笑みを浮かべていたので……」
気持ち悪い笑み、、、なんか気をつけよ。
……というか、どうだったのだろう。
…………僕が、イサノを好き、か
「……どうだったかな、もう、覚えてないや、、」




