それ
そう、走り続けることが大切だ。
一瞬でも過去の苦しさを思い出すことのないように。止まることなく、ひたすらに、、、
結果から言おう。
アクナはあの日死んだ。盗賊が居なくなるまで近くで数ヶ月滞在して、様子を見に行った。
沢山の死体が転がっていた。
見分けるのは簡単だった。
僕らの髪の色は確かに目立つ。皮肉にも、それのおかげで原型をほぼ留めていない「それ」が、アクナであるという事が理解できた。
しかし、実感は湧いてこなかった。頭でわかっていても、直感的にこれがアクナであるという事に納得できていないのだ。
代わりに、体の奥底から吐き気が湧き上がってきた。
今まで沢山の死体を見てきていたはずなのに、どうしてか、それは気持ち悪かった。
多分、その死体の正体を、僕たちが知っているからなのだろう。
元々どんな形をしていたか知っているからなのだろう。
これ以上「それ」を見ていることに耐えられなくなって、急いで目を逸らした。
段々と理性に直感が追いついてきて、そこに転がっているものがアクナであるという事に気が付き始めている自分にもまた気持ち悪さを感じた。
僕らがもし死ぬことを許されていたのなら、ここで命を絶ってしまっていただろう。あるいは、僕らが1人だったなら気が狂ってしまっていたに違いない。
しかし残念ながら、僕には自ら死ぬという選択肢は用意されておらず、隣にはイサノがいた。
刻印の呪いは、僕らに死ぬことを許さず、絶望の先に足を進めることを強要した。
少しして、また僕らは歩き始めた。
イサノがフラフラと力なく歩いている。彼女が1度転けてから、僕はずっとイサノを支えながら歩いている。
そうしていないと、またすぐ転んでしまうだろう。
しばらくそうしていると、歩く時は自分から僕につかまるようになった。とても強く、僕の服にしがみついていた。
僕らは細心の注意を払った。
人間にだけは見つかってはいけなかった。それが今回の事でよくわかった。
どれだけ時間がかかろうと、人間の国は迂回するようにした。あれから盗賊に出くわすことはなかった。
歩いていて気がつく。
今まで食料集めが簡単だったのは、目の良いアクナが常に周りを探していてくれたお陰だったこと、
今僕たちの荷物が重いのは、今まで1番力のあったアクナが自分からたくさんの荷物を請け負ってくれていたからだということ、
僕らに元気が無いのは、アクナが居ないからだと言うこと、
歩いていると、そういう事を考えてしまう。
考えると苦しくなる事なんて分かりきっているのに、
考えずにはいられなかった。
そんな生活を続けていると、自ずと対処法も身についていった。
過去を思い出して苦しくなってしまうのならば、、、
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「全力で走り続けるといい。目標に向かってね、」
僕の話に、少女は納得したようだった。
そして少し申し訳なさそうな、不安げな顔をしていた。
「えっと、思い出させてしまって、、、」
思い出す?
「ああ、いいんだよ、確かにあの時の記憶は僕にとって苦しいものだった。でもね、時間というのは偉大なもので、この苦しさを消してくれはしないが、和らげてはくれるものなんだよ。」
「そんなものですか?」
「うん。そんなもんだよ」
ホッとしたような顔をした少女を見て、僕も少し、ホッとした。




