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どういたしまして

「お願いがあります!」


 少女は突然大声を出した。それに驚きつつも、すぐに返事を返す。


「なんだ?」


「私を殺してください。」


 あまりに突拍子もなく少女は僕にそう言った。いや、頼み込んだと言った方が正しいかもしれない。

 少女の目は真剣そのものだったからだ。


 しかし、その表情は微動だにしていなかった。


「えっと、なんで?」


「いいじゃないですか!最初は殺すつもりだったんでしょ?」


「……最初はじゃない、今もだ。」


「じゃあはい、どうぞ!好きに殺しちゃってください。」


 そう言うと少女は両手を大きく広げてみせた。


 最近はずっとこの調子だ。あの家から連れ出して以来、毎日のようにしつこくこう頼んで来るのだ。


 しかし、そう言われても困る。僕は今、何故か彼女を殺すことを躊躇っている。


 どうも気が乗らない。


 と言うより、正直に言うと殺したくないと言うのが本音なのかもしれない。


 最初は今の地球の状況の説明と、ちょっとした道案内をさせるために生かしていただけだったのに、、情が湧いてしまったんだ。なんとも情けない。


 だが、そうと言ってもそれはまともな情などではない。これはおそらく、殺すことを前提に育てていた家畜に情が湧いてしまったのと同じような感覚だろう。


 そうに違いない。


「……今は殺さないよ」


「えーーー、じゃあいつ殺してくれるんですか!」


「……そもそも、なんでそんなに死にたいんだ?」


「………」


 急に黙るし、


「それなりの理由なら考えてやらんこともない。」


 少女はチラッと僕と目を合わせたあとに、大きなため息を着いた。


「うう、わかりましたよ、、、恥ずかしいですけど仕方ないです、、、」


 前々から思っていたことであるが、彼女は長い話をするのが苦手なようだ。特に説明じみた話は、


 当たり前だろう。僕が来るまでずっと1人だったんだ。喋る相手がいないと喋る力も衰える。僕も人の事を言える口ではないので良くわかる。

 何度か詰まったり文が拙かったりしたが、少女はゆっくりと僕に伝えた。彼女の声が震えていたのには気がついていないふりをすることにした。


 まあ、簡単にまとめてしまうと、


 毎日のように両親の夢を見るらしい。死んでしまった知り合いや、楽しかった過去を思い出しては、心が黒く染まっていくような気持ち悪い感覚に陥る。

 それは時々などではなく、常に、今こうしている間もずっとその感覚に襲われている。


 つまり、「苦しい。」だから死にたい。


 でも自分で死ぬのは怖いから殺してくれ。という内容だ。


 それを聞いて、僕は少し安心した。


 彼女は僕と同じだったからだ。


 その感覚は、もう一生消えることは無いだろう。


 しかし、どうだろう。僕は生きている。つまり、解決策があるということだ。それを助言する事もできる。

 ということだ。

 だから僕は心底安心した。


 どうやら僕はまだこの少女を殺さなくて済むらしい。


「……どうです?これで殺してくれます?」


 彼女は得意そうに僕にそう聞いてきた。しかし、残念、それは君が死ぬ理由にはなり得なかった。


「いや、殺さないかな?」


「ええ!なんでですかっ!」


「はは、実はだね、それには対処法があるんだよ。」


 予想外の返しだったのか、少女はポカンとして僕の次の言葉を待っている。


「知りたい?」


「えっと、、はい、」


 だろうね、


「そうだな、じゃあまず質問。人は走るとどうなると思う?」


 と、これもまた突拍子もない質問であるが、少女は真面目に答えた。


「え?、、えっと、疲れる?」


「そうだね、じゃあ、早いスピードでずっと走り続けたら?」


「……これ、なんの質問ですか?」


 不審な目でこちらを見てくる少女を、いいからいいからとなだめる。これは何を言っても無駄だと思ったのか、少女は小さな声で返答をした。


「……もっと疲れます。」


「うん。だよね、人って走ると疲れるんだよ、息が苦しくなって、頭の中はそれでいっぱいになる。」


 僕は少し笑った。


「そして、その間はほかのことを考えている余裕なんてない。そうだろ?」


「……はい、」


「ということはさ、さっきまで自分を支配していた苦しさを感じる余裕すら無くなってしまうって事なんだよ。」


 一呼吸置いて、少女はすぐに言い返した。


「でも、走るのをやめて息が整ったら、すぐまたあの苦しさが戻ってくるじゃないですか」


 だよな、それじゃあダメなんだ。それは僕もわかってる。止まってしまえば、あの日の絶望に追いつかれてしまう。


 だから、


「……じゃあ、止まらなければいい。」


「え?」


「走り続けるんだ。」


 それが一番大切だ。


「……さっきも言ったけど、人っていうのはね、全力で走ると、息の苦しさ以外はどうでも良くなってくるんだ。」


 少女は黙ってこちらを見ている。


「別に本当に走れって事じゃない。夢でも、目標でも、なんだっていいんだ。


 目標に向かってただひたすらに、今まででは考えられないくらいのスピードで走り続けるんだ。絶対に止まっちゃいけない。息が切れても気にする事はない。過去の「苦しさ」を置き去りにするくらいのスピードで、その目標に向かってひたすらに努力、走り続ける。」


「…………」


「まあ、さっきも言った通り、走ると息が切れて、苦しくなるよ。これはまた別の苦しさだ。でもね、知ってるかい?走っている時の苦しさっていうのは、存外心地いいものなんだよ。」


 「だから、君よりもかなり長く生きてる僕からできる助言は一つだけかな。」


 僕はまっすぐ前を見た。


「走り続けろ、」


 それだけ聞いて、彼女はクスッと笑った。


「かなりって、多分5歳くらいしか変わらないくせに」


「それはどうかな?君の思っているより僕は生きてるかもよ」


「私の事、いつか殺すって言ったくせに」


「……でも今じゃない」


 少女は笑いながら泣いていた。


「私を殺さなかった責任はちゃんととってくれるんですよね?」


「それは、、、できかねるな」


 まあいいです、と彼女はまた笑った。


「でも私、夢も目標もまだないんですけど、、」


「それくらいなら、一緒に探してもいい。」


「……ありがと」




「どういたしまして」










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