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奴隷

 湯のみに注がれたお湯を一気に口の中へ注ぎ込む。思っていたよりも熱く、少してこずりながらそれでも一口で飲み干した。


「君に色々と聞くのは後にして、とりあえず僕の話を終わらせよう。多分、全部説明しないと信じて貰えなさそうだし。」


「わ、わかりました、」


 自分の湯のみには手をつけず、少女はまっすぐこちらに向き直す。よくもまあ、こんな嘘みたいな話を真剣に聞けたものだ。


 それに、こんなに人と会話するのも久しぶりだ。自分が上手く喋れているのか不安になるが、少女が目を合わせて何度も頷きながら話を聞いてくれるからか、スムーズに言葉が出てくる。


「どこまで話したかな、ああ、そうそう。とにかく、その条件従属魔法陣ってのがまた痛くてね。背中に条件を満たさないと消えない大きな刻印が刻まれるんだよ。もう消えたんだけどね。」


「条件?」


「そう、条件。僕の場合は━━━━━━━━」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


「騙されちゃって馬鹿みたい、魔人の一部が体内に入って頭がおかしくなったんじゃないかしら。ん?ああ、痛いもんねこれ、奴隷専用の魔法だからね。背中に熱した鉄を当てられたみたいでしょ?」


 あの頭痛で痛みにある程度慣れたつもりでいたが、そんなことは無かった。今はただ、痛い。ということ以外考えられない。僕はベッドから落下し、床をのたうち回った。


「条件従属魔法陣ってね、対象者の同意が必要だったり、条件クリアすると消えちゃったりして色々めんどくさいんだけどねー、無条件だととんでもない魔力量が必要で人間には使えないんだよ。だから、騙されてくれて、ありがと!」


 騙す?何を言ってるんだ?はやく、はやく帰りたい。そうだ、帰ろう。約束してくれたんだった。帰してくれるって、、!


 痛みを必死にこらえ、力を振り絞って声を出す。


「か、、、かえ……かえる、家」


 弱々しく掠れた声だが、これが精一杯だった。


「………………」


 返事がない。聞こえなかったのだろうか?


「僕、、の家、に」


「………………」


 何やら作業をしている彼女は、一瞬チラッとこちらの方を見て、しかし、すぐに手元に目を戻した。


 それから、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も伝えた。訴え続けた━━━━━━━━━━━━━━━


 そのか細い訴えに、彼女は最後まで言葉を返すことはなかった。


 彼女が部屋を出ていったあとも夜眠ることが出来なかった。小さな窓から入ってくる月明かりを見て、ここがただの部屋なんかではなく、牢獄であるということを何となく理解した。


 その薄い月明かりは僕のことを冷静にした。そして、実感した。今自分が置かれている状況を、まだ9歳だ。まだ9歳だったんだ。小学3年生が巻き込まれていいことじゃないだろう?!


 僕は、自分の胸に重くのしかかる不安に耐えきれず、一人涙を流した。人生で、いちばん長い夜だった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 …………次の日、ほとんど眠ることが出来ていない。僕は、朝渡されたパンと水を食べることなく、ただ、それを見つめていた。


 時間を置いてまた扉の開く音が聞こえる。そして、もう聞きたくもない、あの耳障りな声も。


「あれ?食べないの?」


「…………」


 次会ったら、はっきりと伝えようと思っていた。約束を守ってもらうんだ。


「…………帰してください、」


 だが、彼女は首を傾げる。


「……えっと、何を?」


 さすがにここまで来ると、相手がとぼけているということも理解してきた。怒りも混じって、今度は言い逃れできないほど、はっきりと、張り上げる。


「約束です!僕を!家に!」


 僕の叫び声に、やっと彼女は思い出したように笑った。


「あーーー!そんな約束したねーー!忘れてたよ。ごめんごめん、」


「じゃ、じゃあ!」


「ごめんごめん、あれ、嘘!」


「……へ?」


 汗と共に反射的に声が出た。多分その時の僕の顔は傑作だっただろう。僕の純粋さが、完膚なきまでに裏切られた瞬間だった。


「うーーそ!ていうかさ、最初も言ったけど、帰る方法なんて存在しないんだって!もう諦めて!切り替えようよ!なんでそんなにわがまま言うのかな?割り切ろうよ!」


「なん、で?なんで!」


 多分、僕が昨日の夜にストレスで死ななかったのはこの約束があったからだ。約束を守って貰えると思ってまだ希望があったんだ。しかし、そんな希望もたった今叩き壊された。


 今は別の感情で死んでしまいそうである。生まれて初めて、殺意を覚えた。人に、


 許せない、、、許せない!!!!!!


 今までにない程の憎しみの塊が心を蝕み、壊し、思考すらも奪った。


 あとのことはどうでもいい、とりあえずこれ以上は我慢できない。こいつにどうにかして自分と同じ痛みを味あわせてやる、


 しかし、僕は無力だった。瞬間的に全身に広がる痛み。まただ、またこれだ。一体なんなんだ。


 その場にうずくまり、荒い呼吸で痛みに耐える。そんな僕を見下ろすのは、いつもの笑顔。


「えっと、もしかして私に攻撃しようとした?残念残念、従属魔法かかってるんだから私たちには逆らえないよー、全く、凶暴で怖いなー、ホントやめて欲しいよ!とりあえず、人間に攻撃するの禁止ね!あと、人間の命令は絶対ってこどてよろしく!」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


「というわけで、僕は人類の勇者、、、という名の、奴隷になったのだよ。」


 少女は、湯のみの中のお湯をちびちび飲みながら話を聞いていた。そして、久しぶりに声を発する。


「で、条件って結局なんだったんですか?」


 あー、、そうだった、ついつい、自分の不幸話に夢中になってしまっていた。申し訳ない。


「えっと、僕の解放条件は、、、まあ、簡単に言うと、魔王。魔王を殺すことだったんだ━━━━━━」

















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