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嫌悪

 しばらくの静寂と、男の自信に満ち溢れた声と、周りから僕たちに向けられる無数の目が、僕に焦りを与えるのと同時に、冷静な判断力を奪っていった。

 アクナも今回ばかりはうまい言い訳が一つも思い浮かばないようだ。

 しかし黙ってもいられない。この場で反論しないということは、自分たちが彼の言ったように半魔人の勇者であると認めるようなものである。


 かといって、僕らは何も言うことができなかった。


 だってそうだろう?


 実際僕らは勇者で、半魔人で、嫌われ者なんだから、


 この男が言っていることは、すべて正しいことなのだ。実際、僕らがこの街の人たちをだましていたのは紛れもない事実なのだから。

 そんなこともあり、その場の沈黙を破ったのは僕らでもその男もなかった。


「いやいやおかしいよ!イサノちゃんたちは私たちと一緒に戦ってくれたんだよ!?」


 声を張り上げたのはイサノの友人だった。

 それを皮切りに、周りの人々も同調し始める。


 そうだそうだ。


 いきなり来て何を言い出すんだ!


 何を根拠に、、


 そんな意見が飛び交った。

 どうやら彼らは僕たちのことをかばってくれている。それはある意味ではとても喜ばしいことではあったが、またある意味では、その事実によって胸が締め付けられるような気持にもなった。


 彼らは僕たちが半魔人なんかではなく、普通の人間であると信じて疑っていない。それはこれまで積み上げてきた時間とそれに伴う信頼のたまものだろう。


 そう、僕たちがついた嘘を完全に信じ切っているのだ。


 それは嘘だというのに、、、


 もちろんこの状況は男からすると非常に好ましくないようだった。


「なんだよ?俺の言ってることが信じられないってのか?!」


「ああそうだよ!あんたこそいったい何様なんだ!彼らは長くこの街にいる仲間なんだぞ?」


 そうだそうだ!よそ者が急に来て何を言っているんだ!

 ヤジが飛び交い、それに乗じて僕の不安も積み重なっていく。イサノもアクナも、下を向いて黙り込んでいる。もちろん僕だってそうだ。


 だがしかし、彼らはこんなにも僕たちのことをかばってくれている。僕たちのことを「仲間」と呼び、こんなにも肯定的な言葉を間接的にだが送ってくれている。


 こんな経験がほとんどなかった、いや、ほぼ皆無に等しかった僕らにとってその言葉の数々はあまりにも身に余るもので、自分たちの中で膨れ上がって、神格化されていった。彼らが僕たちに向けて言ってくれた「大切な仲間」という言葉にはとてつもない力があるような気がした。

 だから勘違いした。


 彼らならきっと僕たちの正体を知っても味方でいてくれる。

 今まで通りに接してくれる。



 実に愚かである。


 しかしそんな考えもすぐに消え失せた。


「イサノちゃんがそんな気持ちの悪い半魔人なわけないじゃん!!」


 非情にも、それは例のイサノの友達から発せられた言葉だった。

 思考が停止したようだった。


 街の人々は、それからどれだけ魔人を嫌悪しているか、どれだけ魔人が醜い存在か、そしてその魔力回路を持っている勇者、半魔人もそれと同じく醜悪な存在であるということを高らかに語った後、

 その上であの三人が勇者であるわけないと、そう口々に語っていた。


 彼らには完全に悪意はなかった。ただ僕らをかばっていた。


 しかし僕らは彼らが最も嫌っている半魔人であった。


 話を聞いているとき、全身から力が抜けたような感覚になった。簡単に言うと、、うん、ショックだった。ただその時は、この気持ちをただその一言であらわすのは不可能だと思った。ショック、ショックだったのは確かだが、そこにあったのは絶望ではなく、しかし悲しみでも怒りでもなかった。

 立っているのが精いっぱいだった。


 この世界の人たちは、どうやら本当に魔人が嫌いらしいということはわかった。


「おいおいおい!!あんたらは騙されてんだよ!けがれる前にこいつらを追い出すことをお勧めするぜ?」


 すると男は何か思いついたような顔をして、僕らを指さした。


「そこで動くなよ?」


 瞬間的に体が固まった。刻印のせいだ、、


 男はこっちに向かって手のひらを向けている。


「お前ら、髪の色が変わってると思ったら、それ染めてるんだろ?」


 周りの人たちが何をしようとしているんだと男を止めようとする。しかし男は止まらない。どころかすべて見破ったといわんばかりに、ニタニタと笑い出した。


「それ、泥かなんかだろ?染める道具なんてもってるわけないもんなあ!」

「おいおまえら!!!こいつらが本当に勇者だってことここで証明してやるよ!!!俺を嘘つき呼ばわりしたこと全員に謝罪してもらうからな!!!」


 男はウォーターボールと大声で叫んだ。


 大きな水の塊は動けない僕たちに簡単に当たった。


 そして、もう予想はついているだろうが、僕たちの頭の色はすっかり元に戻っていた。色が完全に落ちてしまった。

 

「みたかよ!こいつらの髪の色!!!魔人そのものだろうが!!」


 しばらく誰も言葉を発さなかった。



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