光
正規の軍が撤退してから、辺境の地ということもあり、この街に残ったのは引退まじかの老兵ばかりであった。
街中からかき集めたとしても報告にあったゴブリン達の100分の1程度の人数しか集まらない。
かと言ってこの街を逃げることもできない。やつらは平原からやってきている。つまり逃げ道は国の裏の山を超えなくてはならないルートしかない。
森は奴らのテリトリーだ。すぐに追いつかれてしまうだろう。
だとしたら道はひとつだ。この街で迎え撃つしかない。壁も砦もある、山で戦うよりはマシだろう。
まあ、どっちにしろ絶望的状況なのは変わりない。
集められたのは少しばかりの兵士と、この街に住んでいる戦うことのできる全ての人間だ。
見渡すと、その全員の顔に生気がなかった。
全員が勝ち目がないと思っている。
……まあ、無いわけではない。ここにいる全員が知らないが、この街には勇者がいるのだ。
今回攻めてくるのは向こうの方だ。正面から戦ったら1万のゴブリンには敵わないが、今回は僕らは壁の上から一方的に遠距離魔法を飛ばせる。
しかも平原からやってくるのだから簡単に一掃できるはずだ。
しかしまあ、そうなると、僕らの力を誇示することになってしまう。
正体がバレるリスクが格段に上がる。しかしそう考えている時間もなく、はるか遠方に光がポツポツと現れた。松明の光だ。
「どうする?僕らだけでも逃げる?」
僕らだけがゴブリンを一掃できるのと同じように、僕らだけがここから逃げ切ることが可能だ。
「?!痛っ!」
前言撤回、そう言えば忘れてた。勇者は人間を目捨てることができない。
となると、力を抑えて、正体がバレない程度に目立たずやるしかない。その分多少被害は出てしまいそうだが、、
「………わ、たしは、戦いたい。ちゃんと」
「イサノ?」
「私、この街好きだから、誰も、死んで欲しくない。」
………そう言えば、忘れていた。僕らはこの街が好きだったな。
「そうと決まれば善は急げだな。」
「そうだね。」
僕は壁の上で弓を構えて待機している兵士の間をぬって前に立つと、人目をはばからず遠くの光目掛けて魔法を放った。
遠くで大きな光が見える。少しして爆発音が聞こえた。この一撃で数十体は殺せただろう。
間髪入れずに次の攻撃。次、また次と、魔法を飛ばす。
周りの人間は、その様子をただ固まって見ていた。
今回はあの時と違う。彼らを殺すことに抵抗はあまりない。もう覚悟は済ませたと言うのもあるが、今回は生々しさが違った。人を殺すとき、空爆を落とす時とナイフで刺し殺す時を比べると、空爆の方が一度に沢山の人を殺せるというのに、ナイフで殺した方が罪悪感が大きい。という話は有名だが、
どうやら本当のようだ。この前は、直接的な生々しさがあった。1人殺すごとに、実感が湧いていくようなものだった。しかし、今遠くから一度に何人も殺しているというのに、まるで殺しているという実感がなかった。
ただ、作業をしているという実感があった。
そうしているうちに、松明の光がほぼ消えていることに気づいた。
しかし、おかしい。僕はまだ数発しか撃っていないはずだ。たったそれだけであの量のゴブリンを殺し切れるとは思えない。
………そうか、暗闇に紛れて狙えなくしたのか、僕は今まで松明の光目掛けて魔法を放っていた。それに気づいたらしい。
今撃っても当たる確率は低い。無駄打ちして魔力を消費する訳には行かない。
なるほど頭がいいな。
奴らがゆっくり来ているのか全力で走って来ているのか分からない。かなり近くに来ないと目では見ることができないだろう。
でも残念、僕には索敵がある。魔力をかなり使うけど、敵の位置が分からないと対策のしようが、、、
━━━またやられた
「アクナ!山の方に向かって!裏から来てる!イサノも!」
「あ、ああ!わかった!」
「あなた達も!向かってください」
さっきまで呆気にとられたように固まったままだった人達も、なにか不気味なものでも見るような目で僕を見ていたが、ちゃんと指示に従って動き出した。
正面は僕一人で受けもとう。ため息のように小さく息を吐き出した。それと同時に、また魔法を放った。




