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侵攻

 久しぶりのベッドの効果は予想以上のものだった。屋根があり、フカフカのベッドで寝ることができる。髪の毛に少し違和感があること以外は最高の条件が揃って、僕はかなり久しぶりに熟睡した。

 それは他のふたりも例外ではないようで、起きた頃には太陽はもう真上に登っていた。


 山菜集めをして稼いだ金は、宿代を差し引くと銀貨4枚。3人の1食分の食費は節約して銀貨1枚、、(シチューにパンだけのような質素なものだったが、やはり肉やキノコをただ焼いたものよりもはるかに美味かった。)

 つまり、残るのはたった1枚。


 僕らが欲しいと思っている諸々を買うには遠く及ばない。待っていてくれ、カバンに地図に服、、

 僕らの節約生活が始まった。


 毎日早起きをし、朝から山菜集めに励んだ。3人フル稼働での利益は、色々差し引いて雀の涙。

 しかしそんなことをずっとしているうちにだんだん慣れてきて、簡単な討伐依頼なんかも受けるようになった。


 狼や、人くらいでっかい虫やらの討伐、やっぱり山菜集めより効率がいい。ただ、1日に受ける量は制限している。あまり目立つ訳には行かないのだ。

 僕らの正体に気づかれたらもうこの街にはいられないだろう。


 そんな生活をしていると、次第と実績は上がっていくもので、気づけば銅のレベル称号?も手に入れた。

 つまりもっと稼げる依頼を受けられる。このキラキラしたバッジを受け取った時は、なんとも言えない達成感があった。


 それに乗じて依頼される敵は前より手強くなったが、その分報酬は破格だ。懐に余裕ができた僕らの食事は少し豪華になった。目立たないようにするのをすっかり忘れて、どんどん依頼を受けた。もっと上の称号が欲しくなったのだ。


 気がつけばもうここに来てから2ヶ月が経過している。すっかりこのギルドの常連だ。

 ここにも馴染んで、知り合いもかなり増えた。ダメだとわかっていたが、人に話しかけられるとつい嬉しくなってしまい、身の程知らずに僕たちは、友人と言えるような人達までできてしまった。


 見た目とは裏腹に、冒険者の人たちは親切な人が多かった。彼らがもし僕たちの正体を知ったら、どう思って何を言うんだろう、、、


 特にイサノは仲のいい女の子がいるらしく、毎日楽しそうにしている。よく考えれば、これが年相応というものなのだろう。すっかり僕らは人に馴染んでいた。いや、最近僕らは普通の人間のように自分たちを錯覚することさえあった。

 しかし、毎日夜寝る前に思い出す。


 僕らは勇者なのだと。


 自分たちの使命の事を思い出す。

 もうすぐ目標にしていた金も溜まる。そうしたら僕らはまた旅に出るのだ。本来の姿で、半魔人の勇者として、


 そんな時は大抵言い訳を考える。この街に留まる言い訳を。

 このままバレなければずっとここで生きていけるのではないか、そもそも、僕たちなんかには魔王を倒せるのか、、、それに、僕たちはこの街が好きだ。


 でも、そうはいかないということもわかっている。こんなこと刻印が許さないだろう。

 それにいつかなんの音沙汰もない僕たちを王国が探しに来るかもしれない。そうしたらここに迷惑がかかってしまう。

 それは分かっている、分かっているがしかし、惰性的にここに居続けてしまっている。


 心の奥底のどこかで憧れていた普通の人間としての生活を、なかなか手放せないでいた。


 そんなある日の真夜中、街中に甲高い鐘の音が響いた。あまりの騒音に、眠っていた僕らも飛び起きた。何事かと窓を覗くと、街中の人間が勢いよく家の外に走り去って行くのが見えた。

 それに吊られるように僕らも急いで外に飛び出し、彼らに着いて行った。


 町中の人が広場に集められていた。いつも門の前に立っていた兵士が中心の台に乗って、皆が集まるのを待っているようだった。

 周りの人達は不安や焦りに染まった顔をしている。しかし誰も喋るものはおらず、全員が唾を飲んで彼が喋るのを待っている。そのせいか、僕たちも声を出せなかった。


 周りを確認してしばらくしたあと、意を決したように兵士は口を開いた。


「夜分遅くに申し訳ない、、、単刀直入に言います。戦える人は武器を持ってもう一度ここに集まってください!そうでない人は、できるだけ城壁から離れた場所にある奥内に隠れてください!!」


 しばらくの静寂の後、どこからか何があったんだ!という怒号がどこかから飛んでくる。それが波のように広がり、あちこちから抗議の声が飛んできた。


 観念したように兵士は一言だけ言葉を発した。


「ゴブリンです。」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 タリアアナ前線、その名前に「前線」という言葉が着くことからわかるように、ここはかつて対ゴブリンの最前線の都市として、兵士が駐屯していた。

 数度あったゴブリンへの進行のための重要地点である。しかし、戦争は敗戦。結局ゴブリンをあの場所から退けることが出来なかった。


 奴らの側から攻めてくるという可能性を考慮し、それから数年間は迎撃部隊がこの街に留まって街を守っていた。


 しかし、ゴブリンに動きはなく、帝国や王国に真っ向から挑んでも勝ちはないということを理解し、守りに徹する形になっているようだった。

 そんな折、北の魔王軍の侵攻が激化し、帝国はこの街から兵士を撤退させ、北部戦線へと送り出した。


 絶妙なバランスで彼らとの関係は成り立っていたのだ。どちらかが何らかの干渉をしない限り、暗黙的にお互いはお互いに攻撃を仕掛けないというバランスができていた。


 ゴブリンの国で起きた殺戮、それに加えて、突然捕虜を奪い去って行った自分たちの国に潜伏していた人間。この2つを結びつけ、必然的に彼らは人間による攻撃が始まったと考えた。


 バランスが、壊れたのだ。

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