虫
この広い草原には木がほとんど生えていない。
理由は、所々に突き刺さっている巨大な岩である。
地上に出てきている部分はほんの一部で、地下にはさらに大きな本体が埋まっている。それによって、地中深くまで根を張れないのだ。
この岩の正体は諸説あり、大昔に死んだ巨大な竜の骨という説や、火山の噴火によってできたなんて説もある。実際のところは分からない。
まあそんなことなんでもいい訳だが、
とにかく、この草原には背の高い植物が少ない。せいぜい腰の辺りまで伸びたものが最大だ。
だからかこの草原には、大きな生物がいない。草むらに身を隠せる小さい生物が生き残ったのだ。
イサノはぴょんぴょんと飛び跳ねる奇妙な生物を凝視していた。
うさぎのような形をしているが、うさぎとは似ても似つかない。
まず、体に毛が生えていない。肌が丸見えになっていた。だが、目の周りにだけ異様な量の毛がびっしりと生えていた。そしてその目は人の4倍くらい大きい。
極めつけはギーギーとやかましい鳴き声で叫び続けている。
なんとも奇妙だ。
そうして、そんな奇妙な生き物は毎度の如くイサノの餌食になる。石ころの時同様、目をキラキラとさせたイサノに、力加減が分からない子供に扱われるように鷲掴みされたそれは、キーキーと力なく声を上げている。
まるで鷲に捕まえられたうさぎって感じだな、、
哀れなうさぎの苦しみを他所に、僕とアクナは次の目的地を絞っていた。
と言っても、この地図の精度は相当適当で、実際ゴブリンの国についての記載がなかったり、あの崖も書いてすらいない。かろうじてわかるのはスタート地点とゴール、つまり魔王の場所。あとは大雑把な国の位置とか高い山とかだ。
ここから読み取れるのはせいぜい、、、僕らは北に進めばいいのだということくらいだ。
というか、そもそも徒歩なんて無茶な話だ……なんて今更か、、、
頭を回らせるとどうも卑屈になる。僕らのやってることの無謀さが浮き彫りになるからかもな、
とりあえず、遠くにうっすらと見える山を目指した。とりあえず、北だ。
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跳兎は世界でこの草原にだけにしか生息していない固有の動物だ。
木が1本もないという特異なこの場所では遮蔽物がない。つまり、目が良ければ良いほど遠くのものを相手より先に見つけられるということだ。だから目が大きく進化した。しかし、この場所にはびっしりと背の低い草が生い茂っている。大きい目には簡単に入り込んできてしまう。そのために目の周りには草から目を守るための毛が集中している。
特異な場所で進化した特異な生物である。
そして彼らは極めて臆病な性格で、少しのストレスで死んでしまうこともある。
……そんな事を知るはずもなかったイサノが案の定ストレスを与え続けた結果、その哀れなうさぎは泡を吹いて気を失ってしまった。
当のイサノはというと、かなり落ち込んでいた。自分的にはどうやら一緒に遊んでいたつもりだったそうだ。
まあ、うさぎからすると、巨大な生物に突然ホールドされて、弄り回されたんだ。生きた心地がしなかっただろう
「しょうがないな、もう今晩の夕食にするか、、こいつ」
必死にうさぎの看病をするイサノをよそに、アクナはそんなことを言い放った。
イサノはバッと振り返ると睨んでるのかジト目なのか分からない目でこっちを凝視してきた。
なんというか今まで小動物のように感じていたが、今は凶暴な猛獣に睨まれているような気分だ。
「アクナ、、バカ、もう回復してあげない、、、」
「わーごめんごめん!すいませんでした!」
「この子は、もう、友達だから」
彼女は笑顔でそう言った。
ある意味、あのうさぎはイサノに助けられたらしい。僕らは苦笑いをした。
次の日そのうさぎがすっかり元気になって、イサノが涙の別れをするまで僕らはそこにいた。
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草原で気をつけなくてはいけないことで、いちばん怖いのは虫だ。足元にどんな奴がいるのか分からないから、気づいたら刺されてて、気づいた頃には毒で体調が悪くなってるなんて事がしょっちゅうだ。
3時間に一回は誰かが体調を崩して、解毒しなくてはいけなくなる。気持ち悪いし苦しいし最悪だ。
いっその事、この草原ごと焼き払ってやろうかと考えたが、ちゃんと思いとどまった。
虫に刺されないように最近は、岩の上で睡眠をとっている。ゴツゴツして痛いが刺されるよりはマシだ。
こんな事だったら、巨大な生物でも相手してた方がよっぽど楽だな、虫が前の50倍くらい嫌いだ、、、




