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少女

 

 本当に話が通用しない人間に遭遇したのは生まれて初めてだった。まだヒリヒリと痛む頬が、機嫌を損ねては行けないと警鐘を鳴らしているようだ。


「……ご、ごめん、なさい。」


「じゃあ、続き話すね?」


「……はい、」


 女はわざとらしく溜め息をつく。それはなぜだか僕の不安を誘発した。


「この世界じゃない、異界の人間はね、とんでもない魔力量を秘めているってことがわかったの。まあ、それで異界から人間を呼び出すのに成功するまでは良かったんだけど。異界の人間には、魔法を使うのに必要な魔力回路がないんだよね。」


 異界?何の話だろう?早く帰らないとお母さんが心配するのに……帰ったら、お母さんに頭のことと今回のことを相談しよう、、


「そこで!私たちの魔力回路を移植することにしたんだ!でもまた問題があって、、、君たちの魔力量が膨大すぎて、私たちの魔力回路を使うと脳が爆発しちゃうんだよね。」


 ちゃんと話を聞いてみているものの、全く理解できていない。1番苦手な算数の授業の方がもっとわかったかもしれない。というか、なんで僕はいきなりあんな場所にいたんだろ……


「だから、本当に本当に気持ち悪いしおぞましいんだけど、魔人族の魔力回路を君たちに移植することにしたんだ!ちょっと移植の時に頭痛くなっちゃうのがデメリットなんだけど、まあ仕方ないよね。」


 というか、この人たちって誰なんだろう?病院のお医者さん?


「で、1番適応率の高い年齢の9歳の子供を異界から連れてきて、脳に魔力回路を刻み込んで、強ーい勇者になってもらおうって話なんだよね!……あー、ほんとに私偉い!気持ち悪い魔人の一部が入り込んでるやつの相手をしなきゃいけないのに、笑顔を忘れないなんて!!あ、あんまり私に近ずかないでね?臭くなりそう。」


 話が終わったのか、彼女はゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ、魔王討伐お願いね?」


「えっと……」


 どうしよう、全く話についていけてない。


「約束してくれるかな?」


 恐る恐るではあるが、またはたかれる覚悟で自分の言い分を口に出すことにした。なんだか、このまま流されてしまってはいけない気がする。


「で、でも、、、僕家に帰らないと……いけなくて、」


 しかし、絞り出された勇気の結晶(ことば)も虚しく、まだ状況を理解できていない僕に対して、彼女は無情に、冷たく言い放った。


「えっと、、何をいってるの?君、もう家に帰らなくていいんだよ?だって勇者になるんだから。ていうか、帰る方法なんてないし。」


「…………え?」


 帰れない?え?なんで?


「はあ、そんな事より早く、同意します。って言ってくれない?私も暇じゃないんだよね。」


 よく考えたら、いつかは家に帰れるなんて考えは楽観的だったのかもしれない。

 帰れないってどういうこと?なんで僕はこんな所に連れてこられた?もしかして、誘拐?テレビで見たことがある。子供を連れ去ってお金を要求するって。


「や、いや、いやだ!!帰りたいよ!お母さんにあいたいよ!」


 涙目になりながらうったえる。しかし、僕が大きな声を出して癇癪を起こしたって、必至な目でうったえたって、彼女は表情ひとつ変えないまま続ける。


「えーーー、そんな事言われてもねーー、わがまま言われると困るよーー、」


 え?え?本当に帰れないの?もうみんなに会えないの?え?


「あ、そうだ!じゃあさ、とりあえず同意します。ってだけ言ってくんない?そしたら、今日は一旦帰ってもいいから。でも、言ってくれなかったら、一生帰れなくなっちゃうかもなー。」


「ほ、ほんとに?」


「ほんとほんと!嘘じゃないよー」


 帰れる?やった!良かった!良かった!なんだ、びっくりした、もう一生みんなと会えないのかと思った。良かった、、、


「じゃ、じゃあ!えっと、【同意します。】」


「ありがと!!」


 女の人は振り返り、勢いよく扉を開けると大声で言った。


「じゃあ!始めちゃってーー!」


 ん?始める?


 そこから1秒も経たずに大きな声が扉の向こうから帰ってくる。


「条件従属魔法陣始動!!」


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「そうしてまた、僕はとんでもない激痛を味わうことになったんだよ。」


 目の前の少女は、困惑したような顔で、しかし何度も頷きながら僕の話を聞いていた。


 それにしても、本当に薄暗い部屋だ。だが、隅まで掃除が行きどどいているのがわかる。子供一人で本当によくやっていると感心する。


「えっと、ほんと、酷い話ですね。まだ半分信じれてないけど……」


「……うん。そうだろうね、、、」


 それを境にどちらも言葉を紡がず、しばらく気まずい沈黙がなれる。


 少女は気を使ったのか、勢いよく立ち上がりなにか探り出した。


「少し休憩にしましょう、お茶でも出しますよ。」


「……ああ、ありがとう」


 ずっと話していて少し喉が枯れていたので、ありがたい提案だった。


 狭い部屋に座布団2つ、ちゃぶ台が出ているだけの空間、キッチンらしき場所はあるが、ガスも水道も通っていないらしい。


 押し入れから簡易式のコンロを取り出すと、火をつけ、少女は黙って作業を続けている。やかんなんて久しぶりに見た。


 懐かしさに目を細め少し待っていると、目の前に湯のみがふたつ置かれる。


「どーぞ、」


 少女の動きはどこか僕の表情を伺っていて、恐る恐る。という感じがする。


「……ありがとう、、、、ところでさ、」


「な、なんでしょう。」


 怯えているな、無理もない。


 なんせ━━━━━━━━━━━━━━━


 僕は、この子の目の前で人を殺したんだから。。


「これお茶?お湯じゃなくて?」


「え?お茶とお湯って、同じものなんじゃないんですか?」


 …………何言ってんだ?


「えっと、本気で言ってんの?」


「す、すみません、、、私、お茶とか飲んだことなくて……ずっとお茶碗についだお湯がお茶なのかと思ってました。もしかして、違うんですか?」


「あー、、、まあいいや、ごめんごめん、でも、君ほんとに日本人?」


 少女は少し困った顔をすると、申し訳なさそうに答える。


「はい、一応、日本生まれ日本育ちの、純日本人です……」


「………………」


 窓の外を眺める。ここが本当に日本だって?何時ぞやの荒野を思い出す、そこら中から何かが腐った匂いがする。僕が知っているものとは違う、変わり果てた景色がそこには広がっていた。















 












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