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岩の上で

【近寄るな!】という声がその場に響き、途端に足が鉛のように重くなって動けなくなった。

 僕らは人間の命令には絶対に逆らうことができない。例え相手が一般人だって子供だって犯罪者だって変わらない。人間からの命令であれぼくらに刻まれた刻印は機能してしまうらしい。


 お互いに睨み合うみたいな構図になって、男も僕たちも動かない。改まって見ると、男はボロボロになった布の服を着ていて、皮の靴を履いている。


 格好からして、捕虜になった兵士というより、森の近くをうろついていた村人が拉致されたんだろう。


 動けないのは足だけで、それ以外は動かす事ができた。喋ることができたので、必死に弁明する。


 ち、違う、俺たちは魔族じゃない。聞いたことないか?勇者ってやつなんだ。


 みたいな感じで、アクナがとにかく人間の味方である事を事細かに説明した。しかし男は途中から話を聞いていないようで、声を遮った。


「き、聞いたことあるぞ、勇者、」


 ピンと来たというように男はこちらを指さした。


「お前ら、確か魔族の魔力回路を持ってる、は、半魔人、半魔人なんだろ!や、やっぱり魔人じゃないか!俺を騙してどうするつもりだったんだ!」


「いや、ちが━━━━━━」


「くるな!」


 男は手を前にして、1歩ずつ後ずさりをする。


「いいか、そのまま近寄るんじゃないぞ」


 しばらくそのままゆっくりと離れていって、かなり遠くなった所で振り向いて、草原をゴブリンの国とは反対側に走り去っていった。

 彼が見えなくなったところでようやく僕たちは動けるようになった。なんだか重りがいきなり取れたような万能感があった。


 ……それにしても忘れていた。あれが普通の人間の反応なんだ。


 しばらく僕ら以外の人に会っていなかったせいだろう。自分達が嫌われ者の半魔人であることをすっかり忘れていたのだ。


 とにかくこの髪色を何とかしない事にはどうにもならないだろう。これから人間の領土を北上する上でこの髪色は邪魔になる。途中途中の村や国に寄って、足りない物資を集めたいのだ。

 そして、この世界の人間の髪色は例外なく全て茶髪である。


 とりあえず、人間とまともに会話するためには、見た目を変えないといけない。

 と言っても、髪を染める方法なんて残念ながら持ち合わせていない。僕らが幻覚魔法とかを使えたら話が別だが、まだ誰も使えない。


「とりあえず、話しながら歩こうぜ」


 僕たちはアクナの提案に頷いて、ゆっくりと立ち上がった。まだゴブリンの国が遠くに見える距離だ。そこから反射的に目を逸らして、反対方向に1歩踏み出した。


 地平線が見えるほど広い草原だ。そこに10メートルはある巨大な岩がゴツゴツと点在している、どこを目標にするか決めていなかったから、無意識に近くの大きな岩へと足を進めていた。

 膝の少し上の辺りまでびっしりと伸びた草を掻き分けていった。僕たちの話し声と、草をかき分ける音だけが聞こえる。


「……そういえば、人間そっくりな茶色い毛の動物がいなかったっけ?」


「あーいたな。あのー熊みたいなやつだろ。」


「そうそう、そいつを使ってカツラでも作れないかな?」


 我ながら名案だ。それにあの熊はこれまでに何回か遭遇した。珍しいという訳ではないだろう。


「で、でも、森の中にはいたけど、、、ここにはいるの、かな?」


 辺りを見渡す。木が1本もない草原だ。確かに、あの森とは全然違った。ここにいないとなると、またあの森に戻らなくては行けない。

 となると、またあのゴブリンの国を通過しなくてはいけない。それだけはごめんだった。


「別の方法を考えよう、、、」


「そうだな、」


 気がつくと、岩の足元までたどり着いていた。ちょうど登れそうな感じに傾いていたので、ちょっとした好奇心で登ってみることにした。

 さっきまで草をかき分けていたので、何も障害がない岩の上は歩きやすかった。


 1つ、髪を染める方法がない訳でもないのだが、出来れば避けて通りたい方法があった。3人とも、何となくぱっとお思いついたが、すぐに選択肢から消した方法が、


「土だな、」


「そうだね、、」


 地面に大量にある土を集めて、水をかけてかき混ぜれば、泥、ならぬ茶色のペンキの出来上がりだ。

 それを頭から被って髪を茶色にしてやろうという馬鹿げた作戦である。


 …………それにしても、すごい景色だ。


 一足先に頂上について景色を眺めていたイサノの隣に座った。僕らが来たのに気づくと、振り返って笑顔になった。


「きれい、だね」


「うん」


 どこまでも続く草原は、人間たちとは裏腹に、その広大な懐に僕たち三人を歓迎しているように感じた。

 手を前に出すと、自分達がちっぽけに感じた。

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