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月明かり

 崖の底のような場所に作られているこの国は、主に三本の大通りからなっていた。

 道はまっすぐ森の反対側に抜ける出口に繋がっていて、そのまわりに石造りの建物が密集して立てられていた。

 この作り上、この街に空からの光が入るのは、太陽が真上にやってくる正午くらいである。しかし、左右を崖に守られた土地を丸ごと使うことで、従来のものより強固な守りを得ることができている。

 それは、ほか全種族と敵対しているゴブリンにとって最優先事項であった。


 唯一誤算だったのは、その崖の谷間が、北の国から迷いの森に繋がる最短の道で、その崖を迂回するとなると、移動時間が年単位で増えてしまうことだ。

 そこに国を作ったことにより、他種族は容易に南北の移動ができなくなった。

 よって、ここがゴブリンの対人間の最前線となっていた。


 ここは様々な国からの攻撃を受けているが、今日までその壁が突破されたことが無い。

 守りに適した土地というのが1つと、後ろにある森の資源を独占できるというのが1つ、最後に、ゴブリンの人的資源の多さにあった。

 どれだけ攻めても、次の攻撃の時には完全に回復している。


 この森が大陸最大の森と言われている所以がこれだ。人が手を出せないままでいることによって、何十年もの間、迷いの森は自然が守り続けてられていたのだ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 魔王がいるのが最北、つまりずっと北に進まなくては行けない。


 僕たちがこの国にぶつかるのも必然だった。


 北側に抜けるには、この縦に長い国を奥まで突き抜けなくては行けない。

 その距離は、肉眼で見える距離よりも遠い、6キロくらいはありそうだ。


 見つからずに端まで走り抜けるのは無理だろう。そして、見つかったら勝てない、つまり、見つからないように、家を転々とするしかない。

 となると、その家主をどうするかだ。僕らは人間だ、、、いや、半魔人か、まあどっちにしろ、ゴブリンから歓迎はされないだろう。

 どころか殺されるかもしれない。


 となるとだ、

 

 殺される前に、僕たちが殺さなくてはいけない。


 1時間に1度使える潜伏スキルをフルで使ったとして、端に着くにはおそらく20回は必要だろう、


 つまり、この作戦をすると、約20家庭を虐殺する事になる。

 しかしそうする覚悟はできている。


 人類最大の敵である魔王を殺す旅だ。彼らには、人間のために死んでもらおう、必要経費だ。そもそもゴブリンは人間の敵じゃないか、そうだ世のため人のため、僕たちはいい事をしているのだ。


 なんでゴブリンなんかに気を使う必要がある?僕らがするべき事は決まっているじゃないか、


 なあ、そうだろう?


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


【人間のために生き、人間のために死になさい】


 僕らの刻印に刻み込まれたこの呪いは、人の思考をも操り、度々今回のような強制力をもつ。


 僕らが正気に戻る頃には、既に作戦は実行されていた。何人のゴブリンを殺したかは覚えていなかったが、その光景ははっきりと目に焼き付いている。


 命乞いをする者、逃げ惑った者、子供を守ろうとした母親、そしてその子供、恋人の盾になって立ち向かってきた者、その恋人、


 全部殺した。


 刻印に操られていたから仕方ない、なんて言うつもりは無い、

 実際僕たちがこの作戦を思いついたのは事実だ。


 潜伏魔法で大通りを北に向かって駆け抜け、効果が切れる直前に近くの家に飛び込む。そこにいたゴブリンを全員殺し、スキルが回復し次第それを繰り返す。


 お陰で、北の門は目と鼻の先だ。次の潜伏魔法にはこの国を脱出できるだろう。


 鉄のような血の匂いがすっかり鼻に馴染んで、しずらかった呼吸も今ではスムーズだ。

 窓から少し離れた場所に腰掛けて、思っていた以上に疲れが溜まっていた体を癒す。落ち着いてみると、

 自分たちの真っ白だった服が赤く染っていることに気づいた。

 服だけではない、手も顔も、赤い液体がこびりついている。


 気がつくと気持ち悪くなってきて、それはやはり他2人も同じようで、この家に貯蓄してあった水を全員で頭から被った。

 特に顔や手は、それが取れるまで擦った。血が取れてゆくにつれ、少し心も軽くなった。


「……そろそろ、最初の家の死体が発見されるかな。」


「そりゃあな、匂いで隣の家のやつが気づくだろ。」


 生物の死体から放たれる匂いは想像以上だった。比較的気温の低いこの場所のおかげで、腐敗に時間がかかっている。すぐに気づかれなかったのはそのおかげだ。


「…………さむい、」


 イサノがボソリと呟いた。夢中で水を被ったせいだ。服が濡れて、窓から風が入る度に寒い。


 三人で部屋の隅に丸くなって座り、全員で背中を合わせて体温を分け合った。そうしていると、とても心地がいい。僕は人がこんなにも暖かいのだと、その日初めて知った。

 流れてきた涙も、それと同じくらいに暖かかった。


 他の二人はどんな表情をしていたのだろうか、背中合わせに座っていたから確かめることは出来なかったけど、きっと僕と同じだろう。


「なあ、」


 静寂を破るのはいつだってアクナの役割だ。


「今回はみんな正気を失ってたけど、次からは絶対に何があってもこれだけは忘れないでくれ、」


「これって?」


 アクナの声は、ゆっくりで、いつもより聞き取りやすかった。まるで、聞き逃すのは許さないぞ。と僕たちに語りかけているようだった。


「……どんな時だって、どんな状況だって、俺は、俺が一番大切だと思ってて一番守りたいと思ってるのは、世界平和でも人間でもなくて、お前らだってことだ。」


 ……その言葉に返す言葉は初めから決まっている。


「……………僕もだよ、」


「わ、私も!」


「なら、いいんだ」


 ちょうど真上に上がった月明かりが、僕たちを照らした。

 自分の言ったことに今になって照れているアクナが大袈裟に欠伸をする。イサノの綺麗な髪が揺れる。僕は、もうすぐ隠れそうな月明かりを眺めた。



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