閑話
目の前で外の寒さに震える少女を見て、僕はふと昔を思い出した。あまり思い出したくない感覚だ。
「お兄さん、どうしたんですか?なんか変な顔してますよ?」
「んー、昔を思い出してね、」
「へー、聞かせてくださいよ!」
「……そう言うと思ったよ、、、昔、ゴブリンの国に侵入したことがあるんだけど、」
ゴブリンですか?そうそう、あのゴブリンだよ
「そこで殺したゴブリンの家に潜伏することにしたんだ。まあでも、失念していたことがあってね、その家に住んでいるのが、一体とは限らなかったんだよ。
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「………………」
目の前で母親を殺された小さなゴブリンたちは、方を寄せ合い震えていた。
首から上が無い母の体を直視し、涙を流していた。
中でも体の大きな子供が、ほか2人を庇うように僕たちの前に立ち塞がっている。
その瞳には、恐怖と怒りが入り乱れていた。
僕たちは、、、
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…………家の中に転がる4体の死体から目を背け、僕たちは作戦会議を始めた。
室内だからか、外で動物を捌く時よりも濃い血の匂いがする。
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世界を救うためだ。仕方ない。
世界を救う?魔王を殺したら世界は平和になるのか?いや、本当に殺すべき物って他にあるんじゃないか?
本当の平和のために邪魔なものって……………………
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瞬間的に、僕の全神経に激痛が走った。呻き声を上げる暇もなく、僕は気絶した。
目が覚めた時、もう夜になってきていた。窓からは月の微かな光が覗いている。まるであの部屋のように。
「やっと起きたか、お前、一体どんなこと考えてたんだよ、、、刻印があんな激しく発動したの初めて見た。」
「まこと、、大丈夫?」
おかしい、何を考えていたか全く覚えていない。だけど妙に気持ち悪い。
「うん、大丈夫。ありがとう。」
血の匂いに釣られて振り返る、そこには5体のゴブリンの死体があった。
あれ、ひとつ増えてる?
僕の目線に気がついたのか、二人の顔が暗くなった。
「…………父親だよ、出かけてたんだ、さっき帰ってきた。」
「……そっか、」
なんという事だろう。彼は毎日こんな時間まで働き、家族を支えていたというのに、ある日突然、全てを失ったのだ。そう、人間によって。
彼は今日家に帰ってきた時、目の前に広がる妻と子供たちの死体を見て、その直後に自らも殺されたのだ。
きっとその瞬間、彼は世界で最も不幸な者だったであろう。
しかし、逃がすわけにも見逃す訳にも行かない。支障になりうる物は全て排除しなくてはいけない。
だって僕らは世界を救わなくてはいけないから。
森の中で自分たちを殺そうとしたゴブリンを殺した時は何も感じなかったくせに、彼らの生活を目の当たりにした途端に、手のひらを返したように僕は罪悪感に打ちひしがれている。
どうやら僕は、どこまでも楽観的で、考え無しだったようだ。
覚悟が足りていなかった。
だが、今それは済んだ。床に転がる死体が、僕の思考を塗り替えた様だった。
僕は遅すぎる心の準備を今終わらせた。
さっきまでの気持ち悪さは、どこかへ消えていた。
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