あの日あの時の偶然
ゆっくり書いていく予定です
もう何も残っていない荒野、かつて人で溢れていたその場所は、文明の欠片1つすら塵となった。霧で覆われた荒地では5メートル先すら見えないが、もう生き物はその場に1匹だって存在しないだろうということだけは確かにわかる。
そんな荒野に、かすかに、しかし確かな足音がゆっくりと響く。
「ああ、ついに……」
膝をつき、青年は涙を流した。悲しみの涙ではない。歓喜、いってんの曇もない喜びだった。
青年、いや、勇者は、この世界に残った最後の一人の人間だった。
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-------えっと、なんて言ったかな、
確か…………小学生?だっけ、それの3年生の時のことだった。
家に帰っている途中、1人だったのが悪かったのか、人気のない近道を通ったのが悪かったのか、とにかく、僕は選ばれてしまったらしい。
選ばれた。と言っても、多分偶然だろう。きっと誰でもよかったのだ。
だが、
【 あの日あの時、僕はこの世界から誘拐された。】
天にも届く眩い光、それが悪魔の秘術だとも知らずに、足元で光るそれを見て、不意に綺麗だと思った。 しかし、それは僕の意思とも、神の意思にさえ背いた、、、人間の抵抗の光だった。
気づいた時僕は暗い部屋にいた。さっきまでの美しい光とは裏腹に、不安を掻き立てるような暗闇が目の前に一瞬にして広がる。ただのひとつの光すらその場にはなかった。
しかし、ついさっきまで明るい場所にいたのが一瞬にして周りが暗くなったからなのか、目がチカチカとして暗さを紛らわしてくれた。
ただひとつわかるのは、何も見えない暗闇の空間に、認識できる限り自分以外誰もいないということだけだ。
しかし次の瞬間、その暗闇に恐怖を覚える時間も与えず、今まで経験した事の無いとてつもない頭痛が僕のことを襲った。
「え?痛い!痛い痛い痛い!なんで!?痛い!、痛い!!!」
頭を抱えうずくまり、その場に倒れ込んだ。脳が引きちぎれるような痛みに、なりふり構わず涙を流し、泣き叫びながらあらゆるものに懇願した。
お母さん、お父さん、学校の先生、神様、
暗闇にうめき声だけが響く。だが、その声に反応する者は誰1人、動物でさえいなかった。
痛みはその年齢の子供が体験するにはあまりに有り余るもので、それが長く長く、永遠に続くかのように思えるほどに痛み続けた。
暗闇に反響する悲痛な叫びも時間が経つにつれ、段々とか細くなって行ったのが自分でもわかった。
……どれくらい経っただろうか?その問の答えがどれだけ長い時間だったとしても、僕は多分納得できないだろう。それだけ長く感じたんだ。
そして、もう涙も声も枯れた頃、嘘のように痛みが無くなったのだ。そのことに歓喜するような力はもう残されてはいなかったが……
そして、喜ぶべきことにもうひとつ、今の今までなんの反応も無かった暗闇からかすかに声が聞こえた。しかも人の声が、こんな光もない暗闇に一体何の用だと言うんだろう。
「やった!やったぞ!ついに成功だ!」
「異界の子供への魔力ゲートの移植が成功した!!これは前代未聞だぞ!」
「おい!早く記録しろ!!」
「えっと、第15××回目、魔力ゲート脳移植術式、初めて被検体を殺すことなく━━━━━━━」
………確かこんなようなことを言っていたな、これ以上は覚えていない。きっと、もうほぼ意識が残っていなかったのだろう。
思い返せば返すほど、胸糞悪い話だ。
少なくとも1500回以上、僕のように無理やり連れてこられた子供があれに耐えきれず脳が焼ききれたのだから、、、
まあ、僕も僕で人のこと言えた立場じゃないか。
……ごめんごめん、話がそれたね、
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そしてまた、僕は知らない場所で目を覚ますことになる。もう軽い所ではない、重度のトラウマだ。
目覚めた場所は暗闇ではなかったが、しかし僕の情緒は落ち着かなかった。
震えが止まらない。勝手に涙が出る。頭に手を当て、声と言えないような声を出す。深呼吸をするがどうやら意味が無い。怖い、またいつあの頭痛に襲われるのか分からない。
しばらくして落ち着いてくるまで、自分が今ベットの上にいて、誰かに話しかけられているということに気が付かなかった。
「━━━い!━━━い!━━━おーい!きいてる?てか、言語理解学習術式もちゃんと刻んだんだよな?」
「……あな、たは?」
「お、やっと返事した。無視すんじゃねえよ。」
「す、すいません……」
起き上がりながら、自分に向けられた高圧的な言葉に対し、反射的に謝罪の言葉が盛れた。
少し太った不健康そうな男が、白衣と似たような白い服に身を包み、だらしなく椅子に腰かけ、苛立った顔でこちらを睨んでいる。
石レンガの壁、ベッド、木製の椅子と、小さな窓、そして厳重そうな扉、それだけの薄暗い小さな部屋。そこにいるのは僕と妙に不機嫌な男だけだ。何も分からないまま、なんの説明もなく勝手に事が進んでいく、
なんだか、何も理解できないまま殺処分になる犬の気分がわかったような気がした。
「おーい!起きたぞ!」
男がそう叫ぶと、何やら遠くでドタバタと焦った足音が聞こえてきた。そして、重いからなのか、足音の勢いとは対照的にゆっくりと扉が開く。それに合わせて、男は部屋の外へ出て行った。
一瞬廊下が見えたが、そこもまた石の壁で何かがあるようには見えなかった。
入ってきたのは、、えっと、どんなだったかな、
あーそうだ。たしか眼鏡をかけて、さっきの男と同じような格好をしていた、ほかの表情が無いんじゃないかと思うほどずっとニタニタ笑っていた女だ。
それで警戒を解こうと思っていたのだろうか?
しかし2人は、ついさっきまで死にかけてパニックに陥っていた僕に配慮しようとするような様子は全くなく、彼らのペースで会話が続いていく。
まあ、そんなことは今はどうでもいいか、
ともかく彼女は空気も読まず隣に腰掛けると、かなり高いトーンで話しかけてきた。
「やあやあ!元気かい?」
「えっと……ここって━━━」
「元気そうでなによりだよ!」
「…あの━━━━━━」
「いきなりで悪いんだけどさ、君に頼みがあってね!」
「話を━━━━━」
「この世界にはね、魔人族っていうゴミカスどもがいるんだけどね、あいつらは全員傲慢で、バカで、キレ症で、頭のおかしい差別主義者なんだよ。」
「……えっと、、?」
「だからね!私達人間は、そいつらを根絶やしにするために正義の戦いをしてるんだ!」
「ま、まず僕の話を━━━━━━━」
「でもあいつらは、気持ちの悪いことに、私たちより体が強くて、しかも魔力量も多いんだよね、そこで君の出番なんだけど!君には━━━━━」
「ぼ、僕の話を聞いてください!!!」
や、やっと言えた……これでやっと話を聞いてもらえる。まずは家に帰る道を聞かないと、、、
ここどこなんだろ━━━━
パチン!!!!鈍く、かわいた音が部屋に響く。
「……え?え?」
痛い。なんで?叩かれた?え?
恐る恐る女の顔を見る。だが、そこにはまだ笑顔が張り付いていた。その表情のまま、女は大声で叫んだ。
「人が喋ってる途中でしょ!」




