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6話 王都への旅立ち 2

森の奥深く、五人の若者たちは息を弾ませて走っていた。


ガルディアが力強い腕で木々をばっさばっさとなぎ倒し、まるで獣道のように一直線の道を切り拓いていく。

その背中を追うように、マコテルノ、ラグナード、メルカニア、そしてフィーネが迷いなく続いた。


木漏れ日がちらちらと揺れる森の中、五人の力強く地を蹴る足音だけが、森の静寂を切り裂いていく。

空から見下ろせば、王都へと続く一本の道が緑の海を真っ直ぐに貫いている。


この道はきっと、いつか近隣の人たちの生活を豊かにする道になるかもしれない――

そんな思いが、五人のどこかにふわりと浮かんでいた。


ガルディアがふいに立ち止まる。

目の前には、山の麓にそびえる断崖絶壁。行く手を「どん」と塞ぐように、巨大な壁がそびえていた。


ラグナードは崖を見上げ、

(これくらい、余裕で登れるな)

と心の奥で思いきり笑う。


みんなもその気になって身構えるが、マコテルノだけは崖をじっと見つめている。

(この壁を掘り進むのはどうかな……僕たちの力なら行ける気がする)


ラグナードは呆れたように振り返る。

(山の下に穴を掘って進むなんて、おかしいだろ!)


メルカニアも肩をすくめ、小さくため息をつく。

(まったくもう……)


そんな中、フィーネは隣のガルディアにやわらかい眼差しを送る。

(ガル君、大丈夫。私が回復するから、心配しないで)


フィーネは子どもの頃から、マコテルノを“神”だと感じていた。

その思いは今、確信に変わり、彼を深く信じていた。


ガルディアは目をきらりと輝かせ、胸をぐっと張る。

(僕に、任せて!)


するとラグナードとメルカニアも、それぞれマコテルノの視線を感じて、

(俺はどこを見ればいい? 崩れそうな場所はすぐ伝えよう)

(私は……ラグが指し示した場所を補強すればいいわね)

と意識を集中する。


ラグナードは拳をぎゅっと握りしめ、気合いを込める。

(よし、行くか。このトンネルは……“ラグナードの道”と名付けよう)


メルカニアは口元に悪戯っぽい笑みを浮かべる。

(ガルとフィーの“愛のトンネル”って呼ぶのも、面白そう)


ラグナードは楽しげに親指を立て、(グッドジョブ!)のサインを送る。


ガルディアの顔はみるみる真っ赤になる。

けれどフィーネは意味がよく分からず、きょとんとした表情のまま、

(ガル君は好きだし、みんなも好きだけどなあ……)

と心の中で小さく首をかしげている。


その直後、ガルディアが勢いよく崖に体当たりする。

右肩と左肩を交互に使い、野獣のごときスピードで岩盤を突破していく。


その背後には、直径二メートルほどのトンネルがまっすぐに伸びていく。


ラグナードは掘る方向を的確に示し、危険な箇所があればすぐメルカニアに合図を送る。

メルカニアは魔法でトンネルの壁を丁寧に補強し、フィーネは後方でみんなの体力をこまめに回復していく。


マコテルノは冷静なまなざしで仲間たちを見守る。

(やっぱり、みんなはすごい。これなら、魔王にも勝てるようになるかもしれない)

けれど、その強さもまた知っている。あの存在は、まだ遥か先の頂にいる――。


その光景は、常識を軽々と飛び越えるほどに奇妙だった。

だが、それでも確かに、新たな伝説の幕開けだった。

トンネルの入り口には、ラグナードの手によって

(“ガルとフィーの愛の道”――)

という、ふざけた名前がしっかりと刻まれていた。


霧の向こうにほのかな明るさが射す。

高台の頂がもうすぐそこだ――誰もがそのことを肌で感じていた。


やがて視界が開け、雲海と朝日、そして遥か遠くにそびえる王都の城壁までもが、はっきりと見えてくる。


旅の終盤が近づくにつれて、山の幸も獲物も減り、保存食の残りも尽きかけていた。

疲労が顔に色濃く浮かび上がるなか、マコテルノだけが不安げな表情で高台に立ち、城壁の向こうをじっと見つめていた。


ほかの四人はその場に崩れ落ち、泥と汗にまみれた顔をそよ風にさらし、

(ここまで来たんだ……)

胸いっぱいに朝の空気を吸い込む。


ガルディアは地面にぺたりと座り込む。

フィーネは、安堵と疲労の混じった涙をそっと流す。

(やっと……やっと着いたんだね……)


その想いが胸に響く。

メルカニアも涙をこらえ、心のなかで静かに続ける。

(これで、山での野宿生活ともおさらばね)


ラグナードは泥だらけのまま、大の字になって空を仰ぐ。

(……ここがゴールじゃない。だけど、今はちょっとだけ、休ませてくれ)


マコテルノは仲間一人ひとりの顔を見渡し、

(本当にありがとう。ここまで来られたのは、みんなが一緒にいてくれたからだ)


それぞれが腰を下ろし、ようやく一息つく。

だが、その短い休息のあいだにも、マコテルノの胸の奥には消えない不安が渦巻いていた。

(……早く着かないと、大変なことが起きそうなんだ)


その思いが伝わるのか、ラグナードが力なく笑う。

(お前の“やばい”ってやつ、どれだけヤバいんだよ……頼むから、勘弁してくれ……)


メルカニアもぐったりした顔で問いかける。

(マコテルノ、それって本当に私たちに関係あるの?)


マコテルノは困ったように眉を寄せつつも、きっぱりとした思いで返す。

(きっと関係あると思う)


すると、ガルディアのお腹がぐうっと大きな音を立てる。

その音が全員の耳に響き、

みんなの顔に自然と笑みが広がった。


東の空は朝焼けに染まり、森の緑は夜露に濡れてきらきらと輝いている。


汗と泥にまみれ、息を切らしながらも、五人の若者たちは王都の城壁を目指して再び駆け出していく。


その先にそびえる巨大な城壁は、これから始まる本当の冒険を迎え入れるように、朝日に照らされて堂々と立っていた。


──ここから、新たな物語が動き出す。


五人は誰ひとりとして傷つくことなく、秘境の村から王都までを一直線に進んできた。


その距離、二百キロ。わずか十日ほどで踏破していた。


空の遥か上から見下ろせば、王都までのまっすぐな新しい道ができていた。

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