20話 決戦
五聖は、最深部にそびえる魔窟核の巨大な門の前に並んで立った。
マコテルノの漆黒の瞳が輝きを増す。(神命……開)と脳に強く命じる。
ガルディアが両手に力を込めて踏み出す(開ける)、と、鏡のように黒い石の扉が音もなくゆっくりと開いていく。
中からあふれるのは、これまでの魔獣の巣とは違う、どこか神聖な光だった。
フィーネは感じていた。(心地いい……あの洞窟と同じ匂いがする)
広大な空間は、村の秘境の洞窟を思わせるほど巨大だった。
そして、その中央には、マコテルノの予想通りツカミ・ケタノス鬼が一匹、青白い目でこちらを見つめている。
鬼はその場で、美しい所作でゆっくりと頭を下げた。
「ようこそ。私はツカミ・ケタノス鬼です。ここまで来られたあなた方に、敬意を払いましょう。」
マコテルノも静かに応じた。
「私はあなたを倒しに来ました。神命において、あなたを討つ。」
それは、神々の戦いが始まる前の礼儀だった。しかし、マコテルノは強い違和感を覚えていた。
相手は魔人――神ではない。それなのに、なぜ神の礼儀を持ち出すのか。
体の奥に宿る神の力が、鋭い警戒の響きを伝えてくる。
(みんな、最大警戒。僕の予想と違う。非常に危険だ。でも勝てる)
逃げ道も念のため探していたが、背後の扉はすでに固く閉ざされていた。
この部屋からは、もう逃げられない。
(神命……解)と強く念じるが、相手の強さを測る神命も弾かれた。
マコテルノの心臓の鼓動が早くなる。
(ガル、みんなを守る。フィ、最大防御バフ)
ガルディアは髪が剣山のように逆立ち、真っ赤な目の輝きが増す。
(なんだ、こいつは……かなり怖い)
鬼は愉快に笑っている。
「なるほど、さすがは神ですね。もう私の正体に気づかれましたか。――では、改めて名乗りましょう。
私は四魔王の一人、レヴィアタン。あなたたちでは勝てません。無駄な抵抗をしなければ、安らかな死を与えましょう。」(ああ~、大魔王サタン様、この者たちは美しい、強い。壊す喜びに感謝したします)
マコテルノの内側から、さらに強い警戒信号が響く。
(もう戦うしかない、やるしかない)
「いえ、僕たちがあなたを倒します。ご遠慮なくどうぞ。」
(強い、危険だ、やるしかない、絶対に倒す。倒せる)
ラグナードとメルカニアが一瞬で左右に散った。
それぞれの遠距離武器で、相手の弱点を探っている。
ラグナードは意識が研ぎ澄まされていた。
洞窟の空気、壁の冷たさ、仲間の気配――すべてを感覚で捉えている。
魔王は動かない。メルカニアが魔法を放つ気配を感じ取りながら、
目、頭、喉、みぞおち、横腹、背中、太もも、足首――狙うべき急所が次々と頭に浮かぶ。
体が軽く、心は落ち着いている。
「いける」という確信が、脳の奥に強く感じられていた。
メルカニアもまた高揚しながらも冷静だった。
仲間たちの行動が脳内にくっきりと浮かぶ。洞窟で何度も死にかけた失敗の記憶、今の敵の強さ――すべてを脳で感じ取れている。
ラグナードとの意識が直結している。お互いに限界を超えた連携が自然に取れていた。
そして、次に魔王が自分を狙いに来ることも、脳の奥底で強く予感していた。
しかし鬼は笑みを浮かべ、その攻撃をすべて体で受けている。
ガルディアは大きな盾を高速で回転させながら、真正面から鬼に突進していた。
ガルディアの脳には、危険の警報が鳴り続けている。
だが、その奥には確かな確信があった。
自分の動きが魔王の次の行動を誘発すること。
みんなで連携し、敵を誘い出しているという意識が、脳内で確信となっている。
マコテルノはフィーネを庇うように前に立ち、全体を見渡している。
マコテルノの神の器は(逃げろ、勝てない)と警報を鳴らし続けている。
しかし今は一人ではない。仲間とともに戦っている。
この相手なら勝てる――脳は冷静に分析していた。
戦闘が始まると、マコテルノの脳は神の器と重なり、神の使命に従うように神の力が使えた。
鬼の体が徐々に崩れ、本体の姿が現れ始める。
――フィーネは、マコテルノの後ろで安心しながら、皆に願いを届けていた。
フィーネの脳には迷いはなく、ただ祈るだけだった。
皆を早く、強く、堅く――自分の力を分け与えることだけを考えている。
ガルディアが大きな盾を回転させながら鬼に攻撃を加えるが、すでにそこにその姿はなかった。
そして、皆の心はひとつになる。(ここだ)と全員が感じ取っていた。
魔王はメルカニアに突撃する。その華奢な体とは思えない速さと力を見せつける。
だが、すでにそこにはマコテルノの盾があった。
ラグナードは足首と首に双剣で攻撃し、同時に鉄菱も足首に投げている。
メルカニアは、マコテルノが必ず止めてくれると信じ、超高密度の業火魔法弾を魔物の足に撃ち込む。
ガルディアもその足に、超高速で回転する盾の角を力強くたたきつけた。
マコテルノは敵の動きを縦で止めながら、(神命……切断)と脳で考え、神の剣で足首を切り裂く。
魔王の右足は破壊され、絶叫が洞窟に響き渡った。
だが、それだけだった。
レヴィアタンも彼らの動きを見抜いていた。実際に誘いに乗せたのは魔王の方だった。絶叫も演技であった。相手が一枚上手だった。




