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2話 秘境の村 5歳

山あいにひっそりと根を下ろすその村は、深い森に包まれ、王都からの道も遠い。


ここでは、家を継げるのは長男だけ。他の子どもたちは十六になると村を離れるのが、いつしか当然となっていた。


マコテルノ――神来真古徒も、ガルディア、ラグナード、メルカニア、フィーネと共に「自分たちはいずれ外へ出ていく身だ」と受け入れて育った。それは、誰にも抗えぬ運命のように心の奥に沈んでいる。


ある夏の朝、木立の陰で五人が遊んでいたとき、不意にラグナードが問いかける。


「なぁ、みんな、大きくなったらどうする?」


フィーネは膝を抱え、小さな声で「むら、でたくない」とつぶやいた。


すると、マコテルノが空の向こうを見るように言う。


「ぼうけんしゃになろう。」


その響きに、みんなの目が一瞬きらりと光った。


「ぼうけんしゃって、なに?」


「……まものをたおす、おいしいもの、いっぱい食べられる。」


自分でもよく分からず口にしたその言葉が、なぜか皆の心をとらえた。


ラグナードは両手を高く掲げて、「よし!ぼく、がんばる!」と叫ぶ。


その後は、剣士ごっこや魔法の真似をしながら駆け回る。


「ラグ、わたしのほうが速い」とメルカニアが張り合い、ガルディアは「おまえのかべごっこ、つよすぎ」と笑われた。


遊び疲れて息を切らすころ、マコテルノがぽつりと提案する。


「どうくつ、さむいよ。みんなで行こう。」


村のはずれには、小さな入り口の洞窟があった。


村人たちは「神様の棲む場所」として敬い、誰も近づかなかった。


また、中に入ろうとすると恐怖で足がすくみ、入れなかった。


でも、マコテルノたちには不思議と心地よい場所に思えた。


五人は自然と洞窟へと向かう。


入り口でフィーネが「……ここ、気持ちいい。ふしぎ」とささやき、ガルディアは手を引かれながら「こわい……」とつぶやく。


メルカニアは明るく、「もう〜、男の子たち、へなちょこすぎ!はやく行くよっ!」と、二人の手を引いていく。


「お、おばけ出るなよな……」

ラグナードが冗談めかして言い、全員で奥へと進む。


洞窟の空気はひんやりとして湿っている。

足音が静寂に溶け、奥の壁にはほのかに光る模様と石。


何かに見守られているような、緊張と温もりが満ちていた。


奥の広間に着くと、それぞれが思い思いに“訓練”を始める。


ガルディアは壁にぶつかって「いたっ」と顔をしかめ、

ラグナードは全速力で駆け回る。


メルカニアは小枝を振って「えいっ!」と魔法の真似ごと。

フィーネは「治れ、治れ」と手を合わせて祈る。


最初は遊びだったが、次第にみんなの顔には本気の色が浮かぶ。


「今日はごっこじゃないぞ、本当に強くなるんだ!」とラグナードが宣言。


全員が真剣にうなずいた。


時には小さな衝突もある。

ラグナードがガルディアを突き飛ばして「いたい!やりすぎ!」と涙目になれば、


「ご、ごめん……でも強くならなきゃ!」とラグナードが慌てて謝る。

メルカニアが「へなちょこ」とからかい、フィーネがそっと手を差し伸べる。


マコテルノは木の枝を正眼に構え、ただ静かに立っていた。


その姿は幼いのに不思議な気迫をまとっていた。


「世界がこわれる。守らないといけない。ぼくの中になにかいる。」


まだ5歳のマコテルノは、それ以上のことはわからなかったが、胸の奥に力が湧くのを感じていた。


休憩の合間にラグナードがつぶやく。


「十六になったら、みんな村を出る。」


フィーネは「みんなでいこう」と明るく笑い、

メルカニアは「つよくなろう。あまいおかし」と肩を叩く。


洞窟の奥には、微かな光と、神様に見守られているような温もりがあった。


壁に浮かぶ模様や石の輝きが、これからの冒険への小さな兆しのようだった。


静かな洞窟、冷たい空気、遠くの水滴の音、寄り添う仲間の気配――

そのすべてが、彼らの成長を見守る舞台だった。


日が暮れ始め、五人は洞窟を後にする。


「また明日!」「みんなで村を出よう!」と声を掛け合いながら。


この洞窟には、確かに何かの力が宿っていた。


マコテルノはそれを無意識のうちに感じていた。

ここでみんなを強くしたい――そう思っていた。


彼らは、まだ五歳。


だが、もう普通の子どもではなかった。


――この洞窟こそが、五人の絆と勇気と力の原点となり、

やがて世界を揺るがす冒険の第一歩となるのだった。

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