18話 新たな伝説 3
まるで壁のように立ちふさがるツカミ・ケタノス魔獣五体を前にしても、五聖の判断は早かった。
秘境の村の洞窟での試練、何度も死んだ経験、そしてそこで生まれた絆――それらすべてが彼らの原動力となり、一気に開花していた。
五聖は会話を交わすこともなく、それぞれ(この距離なら分担でいける)(長引けば不利、最大火力で一気に――)(油断せず仕留める)(失敗すれば手痛い反撃が来る)と判断し、すでに戦いの態勢に入っていた。
左の2体をマコテルノが担当し、中央をメルカニアが、右側をガルディアとラグナードが相手にしていた。
マコテルノは(神の剣・神の盾……すべて自分の意志で扱う)(どんな敵にも対応できるよう、形を変えろ)と内心で指示し、構える。
(この武器は万能じゃない。技量がなければ使いこなせない――だが、問題はない)
フィーネは(マコテルノには効果がなくても、他の4人の火力は最大まで上げてあげる……お願い、みんなに力を)と願いを込めて補助魔法を付与する。
マコテルノは神の器のため、人の補助魔法は残念ながら効果がなかった。
メルカニアは(早く帰りたい)(“月光”――)と心中で詠唱し、一体を上下に真っ二つにした。(私の月光強い、これは最強かな)
マコテルノは(この魔獣は格下だ)(神命……封)と呟き、一体の動きを止める。(すぐに次――)ともう一体へと高く跳び上がり、(袈裟斬り、肉を断て、即座に、剣、長く――返し斬り)をイメージしていた。
そのイメージ通り魔獣は、体が横にずれるようにして二つに分かれた。
(残りは、神命、否――存在ごと消す。この魔獣なら、成立する)
ガルディアは(全力回転――盾を軸にして跳ぶ。核は心臓、そこを撃つ!)と超高速で回転し、巨大な盾で魔核を一撃で破壊した。(よかった、だれか危なくないかなと皆の心を読んだ)
ラグナードは(切れ味、最高!)(刺身みたいにいくぞ……!)と両手に長剣を持ち、まるで一流の料理人が刺身やネギを鮮やかに切り分けるような見事な手さばきで、魔獣を高速で切り裂く。(この剣よく切れるな、高いだけあるな)(フィーネの魔法、やっぱり効いてる。力が全然違う)
フィーネの火力アップにより、みんなの力は格段に上がっていた。
ラグナードが呆れたように言う。
「こいつら、弱すぎじゃね?」
仲間たちもみな、拍子抜けした表情を浮かべていた。
マコテルノが神の顔と神の声で言う。
「やはり装備の効果が高いと思う。今まで僕らは裸で戦っていたのだから。この装備があれば、この魔物は多分脅威じゃない。」
「タイグルサル・セルペンス・ヌエの時は、武器もないし、フィーの強化バフも使っていなかった。」
「皆の力を試したかったし、みんなもそうだっただろう?」
「今は僕も参加しているから、この魔窟なら大丈夫さ。」
みんなは(なるほど)と納得していたようだった。
彼らはまだ冒険者になって二週間も経っていない。
普通なら、まだまだ駆け出しもいいところだ。
装備の重要性はよくわかっていなかった。
そして、この戦いで確信を得たのか、次の入り口を指さした。
「次が最深部だと思う。たぶん同じタイプの強力な魔物が出てくるだけだから、すぐに終わるよ。」
実際、その通りだった。
ボス部屋に現れたのは、体長十五メートルを超える巨大な魔物。
足を踏み鳴らすたびに地面は揺れ、強烈な張り手や、不釣り合いなほどの俊敏さ、さらには魔法や自己強化の技まで駆使する――まさに強敵と言える存在だったが、五聖から見れば、動きは遅く、力も乏しく、知恵もない、ただのガラクタにしか映らなかった。
しかし、油断していたメルカニアは、敵の動きに翻弄され、右腕を失う大けがを負ってしまった。その後、ラグナードの猛撃により事なきを得ている。「ラグ、ごめん、ありがとう」の一言で彼はハイテンションになっていた。片腕だったが、フィーネとマコテルノの神命によって完璧に治療は終わっている。
結局、魔窟に入ってから半日足らずで最深部の魔核を破壊し、証拠としてその欠片をガルディアが担いで外へ持ち帰った。
他の冒険者たちには大きな怪我を負った者もいたが、誰一人命を落とすことはなかった。
冒険者たちは心配そうに魔窟の入り口を見守っていた。
そのそばでは、あの豪奢な装備の金髪の美丈夫がギルド関係者と相談しながら、どうすべきかと唸っている。(上司に叱られる)(死にたくない)
やがて、五聖たちが傷ひとつ負うことなく、魔窟から悠々と姿を現した。
その瞬間、冒険者たちの目は驚愕を通り越し、呆然としたまま彼らを見つめていた。
ラグナードが高らかに勝利宣言をする。
「俺たちの勝ちだ! 相手が弱すぎて拍子抜けしちまったぜ。これが証拠の魔窟核だ!」
そう言って、ガルディアが担いでいる魔窟核を堂々と指し示す。
周囲の冒険者たちは、何が起こったのか理解できず、ただ遠い目で五聖の背中を見送っていた。
そして今、マコテルノたちはギルドの最上階――重厚な応接室の巨大なテーブルの上に、魔窟核を「ドン」と置いていた。
眼鏡をかけたインテリ風の総司令は、あまりにも事態が急展開すぎて、しばし呆然としていた。本当にそれが新しい魔窟核なのか、と念を押すように問いかける。
マコテルノは抑揚のない静かな声で答えた。
「間違いありません。これは魔窟核です。ご心配なら、後ほど詳しく調べてください。」
そして、マコテルノはさらに大胆な提案を口にする。
「皆様のご協力があれば、王都の魔窟核は五聖で壊せます。王都の魔窟がなくなれば、地方の魔窟に戦力を回せます。この国の平和が取り戻せると思います……どうですか?」
インテリ眼鏡の総司令は、即答できずにしばし黙り込んだ。
「君たちの申し出は、慎重に検討させてもらう。ひとまず、報酬は手形で渡すが構わないか?」
フィーネが「それで構いません」とすぐに答えた。
こうして、王都の緊急事態はあっさりと収束したのだった。
今回の討伐で、マコテルノははっきりと感じた――
自分が想像していた以上に、仲間たちは強くなっている。
魔王を倒し、運命さえも変えることができる――と。
だが、マコテルノたちが全く気づかなかった“物たち”は、傲慢の王・サタンが仕掛けた監視装置だった。
それは、神どもから遣わされた者の力を分析するために、魔窟の中に巧妙に隠されていたのだ。
傲慢の王・サタンに、その存在を知られてしまったのだった。