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16話 新たな伝説

五聖は、王都ギルドの最上階――重厚な扉を抜けた先の、格式高い執務室に招かれていた。


磨き上げられた床、壁一面を埋め尽くす書棚。

そして主の机の前には、深紅のじゅうたんが静かに延びている。


執務机の向こうでは、ギルド総司令が姿勢よく腰掛けていた。

眼鏡越しの視線は鋭く、知性と威厳を兼ね備えた風貌が、室内の空気をぴんと引き締めている。


「五聖の諸君、急に呼び出してしまい申し訳ない。

だが、どうしても伝えねばならない緊急事態が発生した」


その低い声に、一同は思わず背筋を伸ばした。


「新たな魔窟が出現した。今、王都の既存の魔窟が膨張し続けていて、

その対応だけでも手一杯の状態だ。

正直、新しい場所に割ける有力な戦力が足りていない」


総司令は資料を机に広げ、真剣な表情で続ける。


「近年の研究で、発生直後の魔窟なら、最深部の“魔核”を破壊できれば、

そのまま収束させられると分かっている。

しかし現場は極めて危険だ。……それでも、君たちなら任せられる。

どうか――引き受けてくれないか。報酬は十分に用意する」


沈黙が落ちた。


五聖の一人、マコテルノは視線を落とし、ぼそりと呟く。


(やっぱり……新しい“入り口”ができたんだね)


ラグナードは小声で、隣のマコテルノにぼやいた。


(……これか、でも、これは、さすがに死ぬぞ)


メルカニアも同意するように、首を強く縦に振る。


(私たち、まだ二週間しか魔物と戦ってない。無理でしょう)


ガルディアは、この重厚な雰囲気とお偉いさんの圧にすっかり呑まれて、体をこわばらせていた。


(やばい、こんな空気、無理だ……)


フィーネも悩んでいる様子だった。

そして――


ガルディアは真っ赤な目をぎらりと光らせ、

真っ赤な髪の毛まで逆立てて、司令官を(とって喰わんばかり)に睨みつけていた。


(怖いけど、怖いけど、怖すぎてどうしたらいいんだ……)


実際は怯えているのだが、その表情は完全に喧嘩を売っているようにしか見えない。

相手に怯えているのに喧嘩を売る――本当に困った癖である。


この癖で何度かトラブルが起きたが、結局、相手がすぐに両手を上げて終わるだけだった。


ギルド総司令は、ガルディアの顔を見た瞬間、思わず椅子から逃げ出しかけたが、

何とか冷静を装って話を続けた。


「君たちに頼むのは本当に心苦しいが……王都は、極めてまずい状況に陥っているんだ」


マコテルノは、再び仲間たちへ視線を巡らせた。


その視線を受けて、フィーネが一歩進み出て、しっかりとした口調で切り出す。


「もし私たちが魔窟を止めた場合、どのくらいの報酬がいただけるのでしょう?」


総司令が提示した金額は、今回新調した装備をすべて返済しても余りあるほどだった。


今度は、フィーネが仲間全員をじっと見つめる。

その目には(やるしかないでしょ)と無言の圧力がこもっている。


ラグナードが肩をすくめ、苦笑いを浮かべてぼやく。


「結局、俺たちがやるしかねぇか」


ガルディアは、嫌そうに顔をゆがめたままだったが、

フィーネと目が合うと観念したように視線をそらした。


メルカニアも、肝が据わったのか、髪の毛をなでながら笑う。


「まあ、何とかなるでしょ。私の魔法で倒してみせる」


最後に、マコテルノがはっきりと口を開く。


「分かりました。僕たちが引き受けます」


重い静寂が訪れ、部屋の空気がさらに引き締まった。


五聖の決意を前に、ギルド総司令も深く頭を下げる。


ここから、彼らの新たな戦いが始まる。


* * *


五聖たちは、王都郊外にぽっかりと開いた新たな魔窟の入り口に立っていた。


入り口の前には、武装した兵士たちと、

王都から集められた百人を超す冒険者たちの姿がずらりと並んでいる。


兵士たちは魔窟の外で現れる魔物の討伐を、冒険者たちは魔窟内部の探索と殲滅を担う。


だが、総司令がわざわざ五聖に声をかけたのは、「この規模では、常人だけでは到底太刀打ちできない」

――その強い危機感があったからだった。


出発の時が来る。五聖と冒険者の一団が、魔窟の中へと足を踏み入れていった。


できたばかりの魔窟は、まるで一本の大きな穴のような構造だった。


浅い階層では目立った強敵も現れず、熟練の冒険者たちが次々と魔物を蹴散らしていく。


だが進むにつれ、空気はどんどん重くなり、息苦しい圧迫感が辺りを包み込んでいった。


やがて、一本道の先に巨大な広間が現れる。


その広間には、気配を完全に消して様子をうかがう“物たち”が潜んでいた。


(神のマコテルノもガルディアも、その存在には全く気づいていなかった。)


そして――広間の中心には、


漆黒に輝く、十メートルはあろうかという巨像が、仁王立ちしていた。


顔は怒りに歪み、全身から禍々しい気配が立ち昇る。


下半身は岩のように太く、全体の迫力は、まるで山が立ち塞がっているかのようだった。


「ツカミ・ケタノス魔獣……!? なんでここに……!」


冒険者たちが驚愕の声を上げる中、五聖はすでに動き出していた。


ラグナードは俊敏に距離を詰め、(鉄ビシ)【ドラゴンの牙で作られていて自動回収機能付き】を放ち、魔物の目を狙う。

メルカニアは属性を変えながら(魔法)を次々と撃ち込む。

フィーネは即座に仲間たちへ(加護の魔法)を施し、ガルディアは青龍の鱗や骨など希少な素材で作られた青黒い巨大な盾で、フィーネとメルカニアを守っていた。


そしてマコテルノは、一瞬の隙も逃さず、冷静に魔物の動きを観察していた。


だが――


五聖の攻撃はいずれも分厚い肉体に弾かれ、決定的な一撃とはならない。


「くそっ、効かねぇ!」


ラグナードが叫ぶと、ガルディアが突撃して盾ごと体当たりを仕掛けた。

巨像は腰を落としてガルディアを吹き飛ばそうとするが、ガルディアは踏みとどまった。


その隙を突いて、マコテルノが盾の陰から素早く飛び出し、魔物のすねへ鋭い一撃を叩き込む。

血飛沫が舞い上がる。


そこへ、メルカニアの(業火の魔法)が傷口に重ねて放たれる。

続いてラグナードが(鉄ビシ)を傷口めがけて高速で打ち続ける。


五聖は、各自が役割を果たしながらも、絶妙なタイミングで連携し合い、攻撃の手を緩めなかった。


その勢いに引き込まれるように、他の冒険者たちも一斉に攻撃に転じた。


「いけぇっ!」


怒号が響き渡る中、漆黒の巨像は絶叫とともに膝をつき、その場に崩れ落ちた。


五聖を中心とした勝利に、場の空気が一気に動き始める――。


勝利の余韻が場を包み、新たな伝説が、今また刻まれようとしていた。


だが、これはまだ単なる序章にすぎなかった。

さらに奥へと続く小さな穴が、ひっそりと隠れるように続いていた――。


※補足

ツカミ・ケタノスとは、神々の軍勢を率いる武威の象徴たるタケミカヅチ神が、戦乱の世に忍び寄る闇の源を知るため、自らの“邪”を形にした鬼である。

それを、傲慢の大魔王サタンが新たな魔獣として作り変えていた。

ツカミ・ケタノスは、作者の創作です。

おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を書いています。

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