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13話 五聖と呼ばれる若者たち

マコテルノたちは、王都に到着してから、ほんの十日ほどでその名を街中に轟かせる存在になっていた。


魔獣を討伐した後、彼らは上位冒険者ですら足を踏み入れるのをためらう魔窟に次々と現れ、洞窟ごとに魔物を殲滅していった。


その圧倒的な破壊力は、目撃した者たちの常識を揺るがせ、やがて街の人々に恐れと敬意を抱かせるほどだった。


彼らが通ったあとには一匹の魔物も残らない――そんな噂が、瞬く間に広がっていく。


さらに、“あの五人”がタイグルサル・セルペンス・ヌエといった強大な魔獣を討ち倒したという武勇伝まで重なり、


やがて人々は彼らを「五聖ごせい」と呼ぶようになった。


そんな中、マコテルノはひとり、得体の知れない危険が迫っているという焦燥に駆られていた。(間違いない、時間がない。今のうちに備えなければ……)


その不安を胸に、とにかく金を稼ぎ、仲間たちの装備を整えなければならないと判断する。(装備が命運を分ける。少しでも隙があれば、全員が死ぬ)


王都全体に危機が近づいていることを仲間にも伝えた上で、「急ごう」と声を掛け合い、


時間の許すかぎり魔物の討伐に明け暮れていた。


そのため、五人は村を出たときと同じ格好――田舎者丸出しの服装のままで、ずっと狩り続けていた。(早く装備を手に入れないと……)


そんな五人が、今まさに王都で一番大きな武器屋の重厚な扉をくぐる。


最初、店員たちはその風貌に怪訝そうな顔を向けてきた。


だが、「あれが五聖ごせいだ」と誰かがひそひそと囁いた瞬間、空気が一変する。


店員の態度も急に丁寧になった。


磨き上げられた剣や槍、精巧な杖や弓が所狭しと並ぶ店内。


ガラスケースの向こうで輝く武具を見て、誰もが胸を高鳴らせていた。


ラグナードは両手で重厚な大剣を持ち上げ、眩しそうな顔で叫ぶ。


「うお、見てくれよ! これ、絶対に折れねえぞ!」(これで魔獣相手でも負ける気がしねぇ)


メルカニアは、装飾のない細身の杖を手に取り、静かに試し振りをする。


「……うん、やっぱり音が澄んでる。こういうのがいいのよね」(魔力の流れも申し分ない。悪くない選択だわ)


フィーネは、繊細な刺繍のローブをそっと広げ、目を輝かせる。


「きれい……これ、着てみたいな」(みんなの前で着たら、どう思うかな……ちょっと恥ずかしいかも)


ガルディアは、ずっしりと重い大盾を片手で持ち上げ、思わず満面の笑みを浮かべていた。


(これなら、仲間を必ず守れる――そう思える)


そんな様子を見て、ラグナードが驚いたように声を上げる。


「おい、ガルディアが笑ってるぞ!?」


メルカニアも呆れたような、けれどどこか嬉しそうな表情で言う。


「いつもその顔なら、かっこいいのにね。フィーもそう思わない?」


フィーネは、きょとんとした顔でガルディアを見つめながら、(どちらの顔のガル君も好きだけど、怯えた顔の方がちょっと癒されるな)と思っていた。


ガルディアは照れくさそうに盾を胸に抱きしめ、ぼそりとつぶやく。


「……これ、すごくいい。重いけど、なんか落ち着く」(俺に本当に似合ってるのかな……)


マコテルノも自然と微笑んだ。


「似合ってるよ、ガルディア」(本当に、これで少しは気が楽になるだろうか)


そんな和やかなひとときが流れ、皆の表情がふっとやわらいだ。


マコテルノだけは、店内を隅々まで見て回っても、どこか浮かない顔をしていた。


(……やはり何かが足りない。この違和感は――何だ)


何かが違う――その違和感は、言葉にしなくても仲間たちに伝わってくる。


ふと立ち止まったマコテルノが、ぽつりと口を開く。


「あそこに行かないといけない」(急がなければ間に合わない。次の準備を――)


仲間たちは一瞬きょとんとしたものの、「またか」と苦笑いしつつも、彼のあとについて店を出ていった。


店員たちは、入店時とは打って変わって、あれこれと商品を勧めてきたが、


マコテルノは「ごめんなさい」と静かに断り、そのまま店を後にした。(ここじゃない、あの違和感は消えない。やはり直感を信じるべきだ)


五人は人通りの少ない裏路地を歩いていく。


小さな古びた看板がかかる、まるで骨董品屋のような武器店――


さっきまでの賑やかな表通りとは対照的な静けさが、その店を包んでいた。


フィーネが少し不安そうに、小さな声でつぶやく。


「本当に……ここでいいの?」(テルノが選んだ場所、きっと間違いない……でも、やっぱりちょっと怖い)


マコテルノは真剣な表情で、力強く頷いた。(迷いはない。この店で手に入れるべきだ)


中に入ると、店の奥から髭をたくわえた小柄なドワーフの老人が現れた。


「おいおい、ここはな、若造どもが冷やかしで来るような店じゃねえぞ。並んでる武器も、安物なんかひとつもないんだ」


その言葉に、フィーネが反射的に反発するような顔を見せるより早く、


ガルディアが金貨の詰まった袋をテーブルに置く。


「お金なら、ちゃんとあるから!」(みんなのために、絶対に妥協はしない)


しっかり者のフィーネが普段お金を管理しており、


今日この日のためにギルドに預けていた全財産を、ガルディアが大切に持ってきていたのだ。(フィーネが預けた金貨……絶対に無駄にはできない)


老人はじっと五人を見つめ、やがて目を細めて小さく頷く。


「なるほど、お前たちが噂の“五聖”か。まあ、見た目も悪くないし、武器の選び方にも筋が通ってるな」


ラグナードが自信満々に胸を張る。


「だろ? 俺たち、王都じゃちょっとした有名人だからな!」(これくらい当たり前だろ!)


メルカニアも、ほほえみを浮かべて自信ありげに続ける。


「テルノの直感は外れたことないから、私たちも信じてるの」(正直、あの子の選択だけは侮れないのよね)


マコテルノは黙ったまま店内を巡り、武器や防具を一つひとつ丁寧に手に取っていく。(見落としはないか……全員に必要なものは……)


しばらくして、迷いなく選んだ装備を仲間の前に並べた。


ドワーフの老人は、その手つきをじっと見つめ、静かに言葉を落とす。


「……ふしぎなもんだな。鑑定眼の才能なんて感じねえが、


こういう組み合わせを選ぶのは普通の若造じゃ無理だ。


……長く店をやってるが、お前みたいなのは初めて見るよ」


マコテルノは少し困ったような顔で答える。


「僕もよく分かってないんだ。ただ、なんとなく“これだ”って思っただけで……大丈夫かな?」(仲間を守るため、間違えたくない)


「まあ、それで問題はないだろうさ。でも、高いぞ?」


ドワーフの老人は、ずしりと重い金貨袋を手に取り、軽く振って重さを確かめた。


「残念だが、これじゃ足りねえな。だが今は付けでいい。


毎月返しにこい。お前たちなら、そのうちきっと払えるだろう。


王都が魔物にやられちまっちゃ、商売も成り立たんしな」


(この人も本気だ……“信じて託してくれた”ってことか)


店を後にした帰り道、フィーネは少しうつむき加減で歩いていた。


「……全部払い終わるまで、どれくらいかかるのかな。一年くらいは節約生活かも」(それでもいい、みんな無事なら)


皆も少しだけ表情が曇っていたが、手に入れた装備にはそれぞれ満足していた。


煌びやかな見た目ではなかったが、不思議と「これなら全力が出せる」と感じられる装備ばかりだった。(この手に馴染む……これなら、きっと守りきれる)


歩きながら、マコテルノが静かに仲間たちを見回し、小さくつぶやく。


「この装備なら、王都で何があっても大丈夫だと思う。間に合ってよかった」(備えは万全。絶対に後悔しない)


その言葉に、皆の顔が自然とほころんだ。


「俺たちが――私たちが、王都を守る」(絶対に、守り抜く)


――新たな装備と、新たな決意を胸に、五人の旅はさらに加速していくのだった。

おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を書いています。

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