10話 はじめての魔物がり 2
ラグナードとメルカニアは、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻しつつあったが、まだその瞳には不安が揺れていた。
マコテルノは仲間たちを安心させるように、穏やかな声で話し始める。
「魔物は人間や動物と違って、心も感情もない。言ってみれば、剣や斧が勝手に動いているだけなんだ。魔窟核が生み出した現象でしかない。ただの出来事だよ。さっと倒して、ご飯を食べよう」
その言葉が終わるやいなや、マコテルノは剣を抜き放ち、まるで風のような速さでゴブリンの集団へと駆け込んだ。
踏み込んだ足元から土が舞い上がり、鋭い剣閃が光る。マコテルノは次々とゴブリンを斬り倒していく。
「俺が一番乗りだっ!」
ラグナードが大声で叫び、勢いよくマコテルノの後を追って敵の集団に飛び込んだ。
すかさずメルカニアが叫ぶ。
「いいえ、私が一番乗りよ!」
彼女は後方から高威力の長距離魔法を放ち、ゴブリンの群れを一瞬で焼き払った。
フィーネとガルディアは少し距離をとりながら、二人の戦いぶりを見守っていた。
しばらく動けずにいたが、フィーネが決意したようにガルディアの手をそっと握った。
「大丈夫だよ、一緒に行こう」
フィーネはガルディアが臆病なところを持っていることを知っていて、誰にでも変わらぬやさしさで寄り添う。
その何気ない仕草が、ガルディアには胸の奥を熱くするほど強い力になった。
フィーネへの淡い恋心は、彼女のやさしい一言だけで計り知れない勇気に変わる。
残念ながら、内気なガルディアにはその想いを伝えるすべもなく、しかもフィーネはかなりの天然だった。
その淡い恋心が彼女に届く日は、まだまだ遠そうだ。
フィーネに手を握られた瞬間、ガルディアの顔から恐怖の色が消え、穏やかな笑顔が浮かぶ。
次の瞬間、彼は勢いよくゴブリンの群れへと跳び込んでいった。
巨大な体が嵐のように舞い、次々とゴブリンを蹴散らしていく。
その様子は、むしろゴブリンの方が気の毒になるほどだった。
結局、フィーネの出番はなかった。
ガルディアが圧倒的な力で敵を一掃したのだ。
瞬く間に、その場にいた数百体のゴブリンは塵となって消えていった。
だが倒している最中にも、醜悪なゴブリンたちは次々と湧き出してくる。
その狩場には、多くの初級冒険者たちが集まってきていた。
魔法と衝撃の爆音が響き渡り、別の狩場からも何事かと人々が駆けつけてくる。
彼らはマコテルノたち五人の人間離れした動きに、ただ呆然と口を開けて見入っていた。
何が起こっているのか、誰も理解できない。
「あいつら、見習い冒険者の装備だよな……?」
「ああ、間違いないはずだ。」
「これ、現実か?夢でも見てるのか?」
「ほっぺをつねったら痛かったぞ。夢じゃない。」
「魔法の範囲、広すぎないか?」
「動きが……まったく見えねえ……」
「ゴブリンがあっちこっちに吹き飛ばされてる!」
周囲はざわつき、「一体何者なんだ」と冒険者たちがささやき始めた。
マコテルノは周囲の様子に気づくと、そっとフィーネに声をかける。
「フィー、魔核を集めて」
すると、そこらに転がっていた魔核が、ガルディアの大きな袋に次々と収められていく。
「……あんなことできる魔法使い、いたか?」
「いや、俺の知る限りいないな。もしかしたら、最上位の冒険者なら……」
「でも俺たちじゃ、絶対無理だよな……」
マコテルノは静かに仲間を集め、穏やかな口調で言う。
「もう十分だ。これだけあれば、今日の食事代も宿代もまかなえるはずだよ」
「この場所は、次の人たちに譲ろう」
そう言って、マコテルノは歩き出す。そして周囲の冒険者たちにやさしい微笑みを向けて言葉を添えた。
「僕たちはもうここには来ないから、どうぞゆっくり狩ってください。ゴブリンも油断すると危ないから、みんな気をつけてね」
たしかに優しい言葉だったが、五人が放つ雰囲気はどこか異質だった。
あどけない少年の顔立ち――ただし、ひときわ大きなガルディアだけは別格。
五人が横一列に並ぶと、冒険者たちの間に緊張が走る。
巻き込まれて命を落とすかもしれない、そんな不安が誰の顔にも浮かんでいた。
ラグナードはマコテルノにツッコミたそうな視線を向けていた。
「魔物、弱すぎだろ……」と言いたげだったが、「まあいいか」と肩をすくめて、結局何も言わなかった。
五人は空腹をこらえつつギルドへ向かい、人混みを縫うように駆けていった。
ギルドに戻ると、まだ登録から二時間も経っていなかった。
受付の女性が、何か問題でも起きたのかと心配そうな表情で五人を迎える。
ガルディアは無言で大きな袋を抱え、ずしりと重そうにテーブルの上へと置いた。
「これ、換金してほしい」
職員が袋の中を覗き込んだ途端、目を丸くして声を上げた。
「……全部、ゴブリンの魔核ですか!?」
ゴブリンは弱い魔物だが、見習い冒険者になったばかりの十六歳たちがそう簡単に狩れる相手ではない。
他の職員たちもざわざわと集まってきた。まだ他の冒険者たちが戻るには早すぎる時間帯で、手持ち無沙汰だった職員たちも興味津々でのぞき込んでいる。
「ざっと見ても……千個はあるな。ちょっと確認させてくれ」
別の職員が魔法でカウントを始める。袋全体が淡い光に包まれ、やがて彼の声が響いた。
「千二百六十八個、あります!」
その数を聞き、興味深げに集まっていた職員たちの間にも、ざわめきが広がる。
ざわめきが広がる中、その場を静かにおさえるように、書類を手にした中年の男性職員が前へ出てきた。
どこか不思議そうな表情で五人を見つめる。
「君たち、さっき登録したばかりの見習い冒険者で間違いないか?」
ラグナードは自信満々に胸を張って答える。
「もちろん、俺たちだぜ!」
続いて、マコテルノが真剣なまなざしで訴えかける。
「僕たちはかなり強いです。一般冒険者として、どの狩場にも出入りできるようにしてもらえませんか?」
場の空気が一瞬凍りつく。
だが、中年男性はふっと口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。
「君たちがそれでいいなら、問題はない。これからも期待しているよ」
今の王都では、魔物の発生頻度が高まり、少しでも優秀な冒険者は大歓迎されていた。
新しい指輪が差し出される。
金色に輝く、美しい一般冒険者の証だ。
王都に到着してから、わずか二時間――
異例ともいえる速さで、五人は見習いランクから一般ランクの冒険者へと昇進した。
──しかし、それは誰にも予想できなかった冒険の序章にすぎなかった。
マコテルノの焦りは、既存の常識さえも次々と塗り替えていく。
魔王を倒し、この地球に訪れる破滅の未来を変えるために――。
* * *
【補足】
冒険者ギルドには大まかなランク分けが存在する。
簡単に死なれては困る、という理由から、最初に登録した者はすべて「見習い冒険者」として扱われる。
そして実績や依頼達成数に応じて、初級・中級・一般へと段階的に昇格していく。
一般冒険者になれば、狩場の制限はすべて解除され、どんな依頼にも自由に挑めるようになる――。
つまり、すべてが自己責任。そこから先は、自分の選択と能力が試されるのだ。それが、ギルドの運営方法であった。
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