5.スライムは第二王子擁立派を壊滅させた(中)
私の心はどんどん死んでいき、今ではほとんど笑わなくなっていた。
私はいつの間にか、『怜悧な王太子』と呼ばれるようになった。
怜悧というのは、賢いという意味の言葉だ。
だが、怜悧などという言葉は、普段はあまり使われない。
怜悧を冷酷や冷徹などと混同している者が、一定数いるようだった。
「怜悧な王太子というだけあって、冷たそうなお方だこと」
などと、陰で言われているのを聞いたことがある。
まあ……、『レイリ』も『レイコク』も『レイテツ』もレイってつくもんな。似たようなものかなって思っちゃうよな……。うん、わかるよ。
なにも知らない者たちからは、心のままに動いている第二王子擁立派の者たちの方が、私などよりもずっとスライムの死にショックを受けていると思われていた。
こうして己の感情を抑えている私などよりも、ずっと……。
まあ、彼らは彼らで、たしかにひどいことになっているけどな……。
「ベルナール殿下を幸せにすることだけが、私にできる償いだ!」
が口癖になってしまった宰相は、もはや第二王子擁立過激派みたいになっていた。いつ自ら剣を握って王妃を殺しても、少しもおかしくないくらいの激しさだった。
宰相にできる『第二王子を幸せにする方法』は、どうやら私を国王に据えることであるようだった。
私の幸せは、この国の王になることではない気がするが……。
宰相には、他になにができるだろうか……。
特にない気がする……。
現状では、もはや私には、権力に取りつかれたようにも見える宰相を、どうしてやることもできなかった。
宰相の鬼気迫る勢いに押されて、あの王妃ですら、私が王太子となることを止められなかったくらいなのだからな。
宰相は前の騎士団長と一緒に王妃を説得したらしい。それは脅しと呼ぶようなものだったのではないかと思うが……。まあ、良いのではないだろうか。
第三王子より私の方が、良い王になりそうだしな。
第三王子は、王妃によって玉座に就けられる者だ。王妃は、五歳の子供を勇者として旅立たせたり、三歳の子供を森に捨てたりした。
即位した第三王子が、あの残虐な王妃の言葉に従って国を動かしたら、恐ろしいことになるだろう。
だが、まあ、人にはそれぞれ目指すものがあるからな……。
王妃のことを言っているのではない。
第三王子だ。あいつは王座に就くことなど、まったく望んでいない。
第三王子は、兄上も好んだ絵本『噛みつき宝箱と人間の相棒』を愛読していた。あの絵本には、なにかすごい魅力があるようだった。
第三王子は、絵本に登場する町が実在すると知ると、自分もそこで働くと宣言した。その遠方にある『人間とモンスターが一緒に暮らす町』に行って楽団に入ることが、第三王子の将来の夢となったのだ。
第三王子は帝王学よりも、歩きながら太鼓を叩く練習に熱心に取り組んでいた。その楽団はマーチングバンドとかいう、パレードをしながら演奏するものらしかった。
私が王太子の座に就いたことを、第三王子は宰相と同じくらい喜んだ。
国王になったら、楽団の太鼓係にはなれないもんな。
王妃がそんな第三王子を見て泣いていたので、私は少しだけ気が晴れた。