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4.スライムは生き返った(下)

 スライムは継母の実家である子爵家の領地にある、高級娼館の『深紅の薔薇園』に引き取られて、やっと落ち着いてものを考えられるようになった。


 娼館の店主である、いつも真っ赤なドレスを着ている太ったおばさんは、店の格式を落とさないために、子供や男は売らないと決めていた。


 あっ、いけない、ナイスバディな店主の姐さんだった! 太ったおばさんって呼ぶと、姐さんは落ち込んでひたすら金貨を数え始めちゃって、みんなが困っちゃうんだよ。


「アタシはね、すごく小さい頃から売られて大変だったからさ」


 と言って、姐さんはよくスライムの頭をなでてくれた。


「ミシェルはまだ、たったの五つだよ。なにも心配しないで遊んでな」


 姐さんはスライムに護衛をつけてくれて、スライムがお店に来る男たちに襲われないようにしてくれた。


 護衛は子供の頃、妹を売られてしまったらしかった。あちらこちらで傭兵をして、やっとお金を貯めて娼館に助けに行ったら、妹は病気で死んでしまっていたんだって……。


 護衛は黒髪に青い瞳をした、とっても素敵な男の人だった。姐さんはたぶん護衛が好きだけど、姐さんの方がちょっと年上だから、いつも遠慮している感じだった。


 姐さんはスライムに護衛と遊んでいるよう言ってくれた。


 スライムは護衛に剣を習うことにした。転生前、スライムが弱っちいスライムだったせいで、ベルナールを守れなかったから。


 そうしたら、護衛はスライムの髪を、男の子みたいに短く切りそろえてくれた。スライム用の護衛剣士の服も、注文してくれた。


 護衛がみんなにスライムのことを「こいつは俺の弟だ」と言ってくれたから、娼館に来る男の人たちは、スライムを田舎から出て来た護衛の弟だと思うようになった。


 護衛は木の棒を使って、剣の握り方から教えてくれたよ。


 スライムは木の棒を持ったまま、ずっと立っている練習から始めたんだ。


 ただ立っているだけで剣が上達するって楽でいいなと思いながら、スライムは転生前のことを考えた。


 ベルナールがくれた『命のメダル』は人間用だったから、スライムが使ったら死ななかった上に、人間に転生しちゃったんだと思った。


 ベルナールが『命のメダル』を持ち続けていたら、ベルナールが死なずに済んだのに……。どうしてちっぽけなスライムなんかに、あんなすごい物をくれたんだろう……。


 ベルナールはきっと、『命のメダル』をただのアクセサリーだと思っていたんだ。


 スライムはもっと大きくなったら、暗黒の森に行って、ベルナールのお墓を作るんだ。もうお墓があったら、お花を供えてあげるんだ。


 お友達のみんなも、だいぶやられているかもしれない。


 生き残っているお友達は、人間になったスライムともお友達になってくれるかな……?


 人間のスライムとは、お友達になってくれないかもしれない……。


 スライムは勝手にベルナールが死んだと思っているけれど、ベルナールは本当に死んじゃったのかな? あれから、どうなったんだろう……?


 暗黒の森にいた王子様がどうなったのか、誰かに教えてもらいたかった。


 だけど、スライムは余計なことを言うと叩かれたり、食事を抜かれるって知っていた。実家の館にいた頃、ずっとそうだったんだもの。


 身体が痛かったり、お腹が空いていると、働いたり、淑女になる勉強をしたりするのが辛かった。


 剣術の稽古をするのだって、きっと大変になっちゃうよ。


 ベルナールがすごく気になったけど、スライムはなにも言わないでずっと黙って耐えてきた。


 王都にいたら、ダークエルフがよく言っていた『噂話』というのを聞けたかな?


 王都の館から外に出してもらえなかっただろうから、きっと無理だよね。


 スライムが知っているのは、王太子が決められたらしいことくらいだった。


 王太子というのは、王様の跡継ぎらしい。


 きっと第三王子が王太子になったんだよ。


 ベルナールを森に捨てた王妃様が産んだ、第三王子。


「おい、集中しろ!」


 護衛が腕の角度を直してくれた。


 剣の稽古って、けっこう大変なんだね。


 ただ立っているだけじゃなかったんだ。


 ベルナールも剣の稽古をしてたけど、こんなに大変だったなんて知らなかったよ。




「ベルナール……」


 スライムは人間になってから、辛い時はいつも、ベルナールの姿を思い出していた。


 すごく綺麗な金色の髪に、青い瞳をした小さな男の子。




 スライムはいつの間にか、記憶の中のベルナールより、だいぶ年上になっていた。

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