表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/25

3.スライムは我が友である(下)

 私はスライムを抱えて、暗黒の森の入口へと向かった。


 スライムにとっては、この森のモンスターたちは仲間だろう。


 私にとっても、彼らは大切な存在だった。今日まで生活を支えてくれたり、私が生きていると知られないようにしてくれていたのだからな。


 直接的な世話になっていないモンスターも、もちろん大勢いた。私は彼らにも感謝している。勇者の血脈に連なる私が、この森で共に生きることを許してくれたのだからな。


 この森に住む者たちの寛容さによって、私は今日まで生き延びられたのだ。


 勇者か……。兄上は元気に旅を続けているらしい。ダークエルフが王都で噂を聞いてきてくれた。


 思えば、兄上の旅立ちも、現王妃とその派閥による追放だったのではないだろうか。


 いくら勇者でも、五歳で旅立ったら、普通はすぐに死ぬだろう。


 だいたい、兄上のどのあたりが勇者だったのだろうか。


 私にはまるでわからない。


 兄上は、私から見ると平凡な子供だった。『噛みつき宝箱と人間の相棒』という絵本が大好きで、いつか自分もモンスターの相棒を見つけるなどと無邪気に語っていた。


 勇者というのは、モンスターを倒しまくって、最終的には魔王を討伐する者だ。


『モンスターを相棒にしたい』とは、方向性が真逆だと思うのだ。


 この世の中は、いろいろなことがいい加減すぎる。


 だいたい、この森だって、『暗黒の森』という名前ではおかしいだろう。木漏れ日が美しく、けっこう明るい森ではないか。


 モンスターの巣窟だから、暗黒の森などという名前にしたのだろうが……。物事の本質を表していない。改名するべきだと思う。


 住んでいるモンスターたちも、暗黒の要素など感じさせない。みんな気のいい者たちだ。


 私は彼らを守るため、上手く立ち回らなければならない。


 騎士団の姿が見えてきた。濃紺の騎士服に赤いマントを羽織っており、つばの広い濃紺の帽子の上で、大きな赤い羽根が揺れている。


 騎士たちは、礼装でやって来たようだ。


 まさか、彼らはこの私を迎えに来たのか……?


 礼装で暗黒の森に来るなど、他に理由があるだろうか。


 私は三歳までしか王族教育を受けていないが、年間行事と臨時行事ならば暗記している。暗黒の森に礼装で入る行事など、なかったと思うのだが……。


 この二年間で行事が増える可能だって、あるにはあるだろうが、あまり現実的とは思えない。


 モンスターの討伐をしに来た可能性はない。マントをヒラヒラさせ、飾りの羽根を揺らしながら、モンスターの討伐に行くなど、それこそ現実的ではない。


「止まれ!」


 先頭にいる二人の男のうち、騎士団長らしき派手な装いの男が命じた。鍛え抜かれた肉体を持つ、若くて顔も良い金髪の男だ。


 騎士団長の横に並んでいる副団長らしき茶色い髪の男が、太い腕を横に伸ばして後に続く騎士たちに合図を送った。


「第二王子殿下……!」


 騎士団長は私に気づき、馬を飛び降りて、私に向かってすごい勢いで駆けてきた。


 その時だった。


 私の腕に抱かれていたスライムが飛び出して、騎士団長に向かっていった。


 騎士団長は勢いがつきすぎていて、すぐには止まれなかった。


 スライムはスライムで、元気いっぱいに飛び跳ねていった。


「おい……!」


 そいつは新しいお友達ではないぞ!


 私が思ったことを、すべて口にするような暇さえなかった。


 騎士団長の磨かれた革のブーツの爪先に、スライムが着地した。





 ――チャリーン。





 一撃だった。


 鍛え抜かれた騎士団長の脚力だからな……。


 まあ、そうなるよな……。


 お前たち……、なにをやっているのだ……。


 私はふらふらと歩いていき、地面に落ちている一枚の銅貨を拾った。少し前まではスライムだった銅貨である。


「うおおおおおおお!」


 騎士団長が叫び声を上げ、その場でうずくまった。


 今度は副団長が馬から飛び降りて、騎士団長に駆け寄った。


「なんということを! 俺は! 俺は――!」


 騎士団長が叫んだ。


「どうしたんです!? なにがあったんです!? 騎士団長! 騎士団長!」


 副団長が必死で説明を求めていた。


 騎士団長は完全に冷静さを欠いていた。


 私もまた号泣しており、説明してやれる状況にはなかった。


「えっ、なに? どうしたんです? なにが起きたんです!? 俺はどうすれば!?」


 戸惑う副団長。


 騎士団長の叫び声を聞きつけたダークエルフがやって来て、私たちの様子を見て驚き、ダークドラゴンを呼びに行ってくれた。


 あいつときたら……、さっきもダークドラゴンを呼びに行ったと思ったのだが、どこでなにをしていたのだ……? 森の仲間たちは集められたのか……?


 ダークドラゴンが来て、私たちの様子を見て事態を理解し、副団長に説明してくれた。


 ダークドラゴンは、副団長や、一緒に来ていた宰相たちといろいろ話し合いをしていた。


 そして、彼らによる長い長い話し合いの末に、私は我が友だった銅貨を握りしめ、王都に戻ることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ