2.スライムは王子様とお友達になった(上)
転生前、スライムは暗黒の森に住んでいた。暗黒の森は、王都とその隣の村の間にあるの。木漏れ日がきらきらして素敵な、とっても綺麗で明るい森なんだ。
王都の隣の村は、数百年に一回、勇者が生れてくるんだ。スライムも、最初はその村の近くで、仲間のスライムたちと一緒に暮らしていたよ。
暗黒の森の主である漆黒の竜、ダークドラゴンのじいさんは、「勇者なんて、そうそう現れるものではないぞ」なんて偉そうに教えてくれていた。
だけど、王都に住んでいる王様の息子が、勇者だったんだ。
この王様は、隣村の娘と恋に落ちて、身分の差を超えて結婚したらしいんだ。この娘が勇者の血筋とかいうものだったから、隣村ではなく王都に勇者が誕生したんだって。
スライムはよく知らなかったんだけど、勇者というのは最初にスライムをたくさん倒して『レベル上げ』をするらしいんだ。
スライムのお友達のスライムも、勇者にたくさん倒された。スライムだけじゃなく、ゴブリン、スケルトン、コボルトのお友達もみんな勇者に倒されていった。
「モンスターなんて、こういうものだよ」
なんて、お友達のみんなは言っていたけれど、スライムはとっても悲しかった。
「勇者とはお友達になれないの?」
スライムはお友達のみんなに訊いてみた。
お友達になったら、戦って倒されたりしなくなるんじゃないかと思ったんだ。
スライムは名案だと思ったんだけど、お友達のみんなから「お前、スライムに向いてないよ」と言われしまった。
「人間とは、『人間の言葉』がわからないとお友達にはなれないんだぞ」
お友達のみんなは、スライムを気の毒そうに見ていた。
スライムの言ったことは、だいぶおかしかったみたいだった。
それで、お友達の勧めもあって、スライムは暗黒の森に引っ越すことになったんだ。
スライムが暗黒の森に行くと、森の入口に強いモンスターたちが集まっていた。
みんながスライムのことを、お出迎えしてくれているんだと思ったよ。
スライムはうれしくなって、みんなの方に飛び跳ねていったの。
「よく来てくれた! 『旅立ちの村』の周辺のスライム!」
双剣のスケルトンがスライムに両手をふってくれていた。
スライムはいっぱいジャンプして挨拶した。
「勇者の匂いのする子供が、この森に捨てられているのだが、なにか知らないか?」
双剣のスケルトンに質問されたけど、スライムはなにも知らなかったので、身体をプルプル震わせた。
「おい、わかったぞ!」
スライムの後ろで、オスのダークエルフの声がした。
黒髪のダークエルフは、瞳の色と同じ枯草色のマントを脱ぎながらやって来て、みんなに王都での噂を教えてくれた。
勇者とその弟を産んだ平民の王妃様が亡くなって、元々の婚約者だった公爵令嬢が王妃様になった。その新しい王妃様によって、王都に残っていた勇者の弟である王子様が、この暗黒の森に捨てられたんだって。
「人間って怖いんだね」
スライムが言うと、強いモンスターたちが口々に「たしかに怖い」とか「ああ、恐ろしいな」と言った。
「まあ、心配するな。ここの入口には『気を付けろ! ここのモンスターは強いぞ!』という立て看板がある。冒険の終盤まで、勇者は立ち入ってこない」
『立て看板』と『冒険の終盤』がなにかわからなかったけど、勇者が来ないならちょっとは安心できる。
「第二王子なんだが、おむつが取れたばかりの三歳児だそうだ。なんでも、三歳とは思えないほど、ものすごく賢いらしい。普通に人間の食い物を与えれば食べるようだぞ」
ダークエルフが人間の子供の飼い方を教えてくれた。
人間の子供を飼うなんて、普通は魔王様クラスにならないとできない体験らしい。
「魔王様に献上しないのか?」
「勇者が現れたんだ。魔王様もお忙しいだろう」
「人間の育児は大変らしいぞ」
強いモンスターたちとみんなで相談して、この暗黒の森で子供を飼うことにした。