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7.娼館がすべてをぶち壊す(上)

 私は内心で頭を抱えていた。まず、スライムがスライムすぎる……。


 人間に転生しているのも、女性なのも、侯爵令嬢になっていたのも、娼館の筆頭護衛剣士だったのも、私の従騎士になったのも、なにもかもが想定外すぎた。


 一つ一つ考えてみよう。問題は切り分けて考えなければな……。


 まあ、人間に生まれ変わってくれたのは良いだろう。会話ができるようになった。意志の疎通ができるのはうれしい。


 女性なのも、侯爵令嬢なのも、非常に良い。スライムにその気があれば、我が妃とすることができるからな。


 ただ、妃にするには、だいぶ教育が必要になるだろう。スライムに王太子妃など務まるのだろうか……? 挨拶がスライムの頃と同じで、ジャンプなのだぞ……。そのレベルから、王太子妃にするなど、私は何歳でスライムを娶れるのだろうか……。


 娼館で育ったから、こんなことになったのだ! 侯爵家で生れたのだったら、そのまま侯爵家で令嬢として育ててくれ……! そうしたら侯爵令嬢のレベルから、王太子妃レベルまで上げればよかったのだ! ジゼロック侯爵め……!


 娼館で娼婦とならずに、筆頭護衛剣士になったのは良かった。娼婦上がりでは、王太子妃にすることが、さらに困難だっただろうからな。


 スライムは、剣術ができるようだ。女性も騎士になれる制度でもあれば、スライムを女性騎士上がりの王太子妃にできたが……。


 女性騎士の採用は、私の即位後の課題にするとしよう。これから制度改革に取り組んでいては、いろいろ間に合わないだろう。


 私は自分が十年も二十年も、スライムを娶らないでいられるとは思えない。


 男として私の従騎士になったのは、どうしたら良いのだ!? 王族を欺くなど死罪だぞ!? ジゼロック侯爵が愚かすぎるせいで、スライムが死罪になりそうではないか!


 私はスライムを見た。スライムはにこにこと、平和な笑顔で私を見ている。私とまた会えたのが、本当にうれしいようだ。


「そういえば、ベルナールのお兄さんはどうしてるの? スライムはもう何年も勇者アルベール様のお話を聞いていないよ」


「兄上ならば、魔王城に着いたが、魔王が留守なので魔王城で待たせてもらっているらしい」


「エビルエビール様、お出かけしてるんだ! それじゃあ戦えないよね!」


 兄上も魔王が留守なら、一度帰国してほしいのだが……。まあ、魔王城に行くのも大変だっただろう。もう一度、同じ道のりを越えろというのも、酷な話なのかもしれない。


「お兄さんが元気なら良かったね! ベルナールはずっとお兄さんのこと、心配してたもんね!」


「ああ、良かった。魔王も出かけるんだな」


「うん、知らなかったよね! エビルエビール様、どこに行ったのかな? ずっと帰ってこないといいよね! そうしたら、ずっとお兄さん、無事だもんね!」


 スライムは人間になっても、単純でやさしい。


 私はスライムを妃にしたいと思った。


 そして、もう二度と離れない。


 だが……、まずスライムが本物のスライムだった頃には、性別がなかった。


 スライムはこの十五年ほど人間として生きてきたが、それで性別というものを理解できたのか、ちょっとわからない。


 娼館! 娼館がダメだ! 求婚して、婚約して、王太子妃としての教育を施し、妃にするという単純なルートを、娼館が完全にぶち壊している!


 なぜだ! 侯爵令嬢に生れたなら、そのまま育てば良かったではないか! なぜ娼館に送られて、剣の腕を磨いて、私の従騎士になどなってしまったのだ……!


 侯爵令嬢と王太子として舞踏会で再会したら、それで良かっただろう! スライムだとわかったら、その場ですぐに求婚しただろうよ!


「王太子様な上に、騎士団長様ってすごいよね! お部屋はけっこう質素だね! 騎士団の砦だから?」


「まあ、いろいろあってな……。砦だけあって、娼館よりは煌びやかではないかもしれないな」


 スライムは人間になっても、スライムだった頃と変わらず、無邪気でかわいいな……。


 ああ、私はどこから手をつけたら良いのだ……。


 まず、王太子様ではなくて、王太子殿下と呼ばないといけないのだが、王太子様の方がスライムっぽいから、そのままでいてほしい……。


 そもそも、この者をスライムとして、他の者たちに紹介するのか? そこからして問題だ。


『スライムが転生して人間になって、私に会いに来た』などと主張したら、私も前の騎士団長と一緒に王立病院に入れられてしまう未来しか見えない……。この騎士団長の執務室には、『人を狂わせる部屋』というホラーな噂が立つだろう。


「ベルナール、誰か来るよ!」


 スライムが寝台から立ち上がった。ちょっと待て! 誰かとは誰だなのだ!? 今度はなんなのだ!?

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