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6.スライムは感動の再会をした

 娼館から騎士団の王都砦に連れていかれた時は、どうなることかと思った。スライムは貴族社会のことなんて、よくわからないんだもの。


「どんなことをしても良いから、王太子に取り入れ。そして、私を側近に、妹を妃とするよう進言するのだ。あの女に似たお前の美貌なら、あのスライム狂いも落とせるかもしれん」


 と、お父様はスライムに命令してきた。


 どうやらスライムがお仕えするのは、スライム狂いの王太子殿下らしかった。スライムが好きなら、スライムとちょっとは気が合うかなって思った。


 そのスライム大好きな王太子様が、ベルナールだったんだ!


 第三王子が王太子様になったのかと思っていたけど、違ったんだ!


 スライムはだいぶ大きくなったベルナールに会えて、とってもうれしくなった。


 スライムがご挨拶したら、ベルナールはスライムを自分のお部屋に入れてくれたよ。


「わあ、ベルナール、今はここに住んでいるんだね! わーい、ベルナールのお部屋だ!」


 スライムがお部屋を見まわして言うと、ベルナールは大きなため息をついた。


「スライム……、なにがどうなっているのだ……?」


 ベルナールはすごく疲れているように見えた。


 王太子様をしながら騎士団長様もやっているんだもの。それは忙しくて疲れちゃうよね。


「どうって、今お話した方がいい? ベルナールは疲れているんじゃない?」


「話してくれ」


「お父様が娼館に来て、王太子様の従騎士をしろって言うから、ここに来たの」


 スライムが教えると、ベルナールは目をギラギラさせてスライムを見た。なにか怒らせるようなことを言ったかな……?


「娼館とはどういうことだ!? ジゼロック侯爵はスライムを娼館で働かせていたのか!?」


「うん、今は筆頭護衛剣士をやっているの。師匠の護衛剣士が店主の姐さんとついに結婚したから、スライムが筆頭護衛剣士になったの」


 スライムは、どんな酔っ払いと剣を交えても負けないくらい強くなったんだよ。護衛より強いかもしれないくらい上達したんだ! ベルナールは褒めてくれるかな?


「意味がわからない……」


「えっとね、筆頭護衛剣士はね、娼館の娼婦を守るお仕事なの。スライムは護衛に剣を習って……」


「うん、知ってた……。大丈夫だ。お前はスライムだよ……」


 なんだろう……。人間の姿でも、ちゃんとスライムだってわかってもらえたのはうれしいけど……。あんまり褒められている感じも、すごく喜ばれているって感じもしない……。


 スライムはベルナールに会えて、こんなにうれしいのに……。


「もしかして、スライム、迷惑だった? 生き返ったらいけなかった?」


「そんなわけあるか! そうじゃない! なにがどうして、こうなっているのか、私にはわからないのだ……!」


 スライムが悲しくなって訊いたら、ベルナールの方がもっと悲しそうにした。


 やっぱりベルナールはあの『命のメダル』が、死んだ人を生き返らせるすごいメダルだって知らなかったんだ! だから、なんでスライムが人間として生き返ったのか、全然わからなかったんだ!


「ベルナールがくれた『命のメダル』が生き返らせてくれたの! 最初はスライム、人間の赤ちゃんだったの!」


 スライムはベルナールと再会するまでのことを、いっぱいお話してあげた。途中でベルナールの寝室に行って、二人でベッドに腰かけた。ずっと立っているのも疲れちゃうもんね。


「私が即位した後、ジゼロック侯爵と継母と妹には、必ずや報いを受けさせると約束しよう」


 ベルナールはお母様の話を聞くと、スライムの両手を握って、泣きながら約束してくれた。


 スライムが娼館に入れられたところでも泣いて、護衛に剣を習うところでは大笑いされた。


 筆頭護衛剣士になったところでは、いっぱい褒めてくれた!


 やっぱりベルナールはベルナールだった!


「よくわかった」


 と言ったベルナールは、急にひざまずいて、スライムの手をとった。スライムはびっくりした。だって、娼館では、娼婦に求婚するお客さんがやっているヤツだもの。


「スライムは娼婦じゃないからダメ! 姐さんと護衛が泣いちゃう!」


 スライムはベルナールの手をふり払って、ベルナールと距離を取った。娼婦がされているようなことは、スライムはしないようにって、姐さんと護衛が言っていたんだもの! スライムは自分で自分の身を守るんだ!


「お、おお……。そうなのか……。えらいぞ……」


 ベルナールが力なく褒めてくれた。ベルナールはスライムがちゃんと断れるか試したんだね! 姐さんと護衛と同じくらい、心配性なんだ!


 姐さんと護衛も、前はたまにスライムがちゃんと断れるか、試験をしてくれた。スライムはベルナールの試験にも、ちゃんと合格できたんだ! よかった!


「スライムはちゃんと断れるよ! 剣だけじゃなくて、体術も習って強いから、素手でも大丈夫! みーんな倒せる!」


 スライムは腕に力こぶを作って、ベルナールに見せてあげた。護衛や他の護衛剣士たちみたいな立派な力こぶじゃないけどね。


「スライム、すごいな……。よくがんばった!」


「うん、スライムは、転生前は弱っちいからベルナールを守れなかったけど、武術の稽古をいっぱいして、とっても強くなったんだよ!」


「いや……、ずっと守ってくれていたよ……」


 ベルナールは暗黒の森にいた頃より、ずっと大きくなって、もう大人なのに、あの頃よりずっといっぱい泣くようになっていた。


 スライムとまた会えたから、涙腺が緩くなっちゃっているのかな?


 ベルナールは首から下げていた袋から銅貨を出して、スライムに見せてくれた。元はスライムだった銅貨を、ずっと持っていてくれたんだ。


 スライムもベルナールを忘れたことなんてなかったけど、ベルナールもスライムを忘れたことなんてなかったんだって! うれしいなぁ!


 自分の死後の姿を見たモンスターなんて、きっとスライムだけだよ! 転生するってすごいよね!

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