式典の幕開け
体育館に鳴り響く開会のベル。
ざわめきが静まり返る中、壇上に上がるのは、予想外の人物――エイジだった。
壇上のマイクの前で、一拍、深く息を吸い込む。
「突然ですが――式辞、変わってもらいました。
タクト君、ありがとう」
壇上の端、少し離れたところに座るタクトが小さくうなずく。
「はじめまして、新入生のエイジです」
声は落ち着いていて、でも確かに会場を包み込む力があった。
けれど、その声には、不思議な真っ直ぐさが宿っていた。
「俺は、気が付いたらお金がいくらでも手に入るバグをもってうまれてきました。何もかもお金で買えて、それが当たり前だと思ってた。そして誰もかれも、このバグを利用しようとしてきた。だからずっと人と距離をとって生活してたんだ。」
「バグをもって生まれてくるとやっぱりこんなもんなのかなって、どこか諦めたりもしてた。
だって、きっと他いるバグ持ちの子供もこんな風に何か問題がありながらも、それでも強く生活してるんだから。むしろ自分は恵まれてるし、豊かなんだから文句なんかいっちゃいけないと思ってたんだ。」
会場にピリッとした空気がながれる。
少し間を置く。
「……でも、気づいたんだ。俺、やっぱり――」
「友達が欲しい!友達と青春してみたいんだよ!!」
客席の生徒たちが、少しだけ息をのむ。
「……きっと、誰かにとっては当たり前の時間。でも、俺にはずっと手が届かなかった。
だからこそ、ここで生きてみたいんだ。お金じゃ買えない、“ふつう”の毎日を、バグとか関係なく、ここのみんなと楽しめたら。おれのバグは学生生活ではなんの役にも立たないバグかもしれない。それでも、俺自身としてここに存在することが、もし許されるなら。
これからみんなで精いっぱい毎日を生きたい」
エイジは、真剣に続けた。
「それは、いくらお金を出しても、誰かに頼んでも、手に入らない」
「俺は、この学園で――ちゃんと笑って、ちゃんとケンカして、ちゃんと青春してみたい」
そして、少しだけ照れたように笑って、最後の言葉を届ける。
「だって、その時間は――俺が今まで使ったどんな金より、ずっと価値あると思うから」
静まり返っていた会場に、最初の拍手が起きる。
一人、二人、そして一斉に。
体育館が拍手の波で包まれた。
壇上を降りたエイジのもとへ、マモルが駆け寄ってくる。
「エイジ君、すごかったよ!あんな式辞、はじめて聞いた!」
「ありがと。……って言っても、たぶん俺のこと、嫌ってる人もいるけどね」
エイジがちらりと後方を見ると、客席の一角、数人の生徒がじっとこちらを睨んでいた。
タクトのネクタイ色に合わせたリボンをつけた“非公式タクトファンクラブ”のような集団。
「……本当は、タクトのスピーチを楽しみにしてたんだろうな」
マモルは困ったように笑った。
「でもタクト君、全然気にしてなさそうだったけどね。むしろ……」
そのとき、タクトがゆっくりと歩いてきた。
「……“式辞”って、こんな感じだったっけ。なんか、記憶と違ってた」
ぽつりと呟いた言葉は、懐かしさとも、少しの戸惑いともつかない響きを持っていた。
「でも……嫌いじゃなかったよ。ああいうのも」
そう言って、タクトはエイジの肩を軽く叩いて、去っていく。
エイジは小さく笑った。
拍手の余韻がまだ、校舎の高い天井に響いていた。
そして最後、マモルがにこにこしながら寄ってくる。
「エイジ君、すごかったよ。ほんと、ちょっと感動した……!」
「ほんと? じゃあ、1億円分の価値、あったかな?」
「えっ? あ、うん! うん!!」
二人の笑い声が、静かに始まったばかりの学園生活の、あたたかな予感を連れていた。
こうして――エリート学園の入学式は、幕を開けた。
波乱の、でも確かに新しい風を連れて。
いかがでしたか?
今回はエイジの“初登校”――未知の場所へ踏み出す一歩の回でした。
エイジが心の中で感じていることが、少しでもみんなに伝わったらいいなと思っています。彼の思いが、これからどんどん色んな人に届いていくんだろうな、と思うとワクワクしますね。
名門・エリート学園は一見、落ち着いた伝統校。しかし、その内側には“バグ”という個性豊かな力を持つ生徒たちが集まっています。エイジにとっては、まさに“世界が変わる瞬間”。新たな出会いと、次々に広がる可能性。彼がどんな青春を歩んでいくのか、ますます楽しみです。
次回は、思わぬ事件が発生!
タクトのファンクラブによる“襲撃”が、エイジを待ち受けています!果たして、どうなってしまうのか!?
お楽しみに!